新規ユニバーサルインフルエンザワクチン候補製剤の作用メカニズムを解明
[23/06/29]
提供元:PRTIMES
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国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(大阪府茨木市、理事長:中村 祐輔、以下「NIBIOHN」)および住友ファーマ株式会社(本社:大阪府大阪市、代表取締役社長:野村 博、以下「住友ファーマ」)は、国立感染症研究所(東京都新宿区、所長:脇田 隆字)との共同研究グループで幅広いインフルエンザウイルスに対する予防効果を持つ「ユニバーサルインフルエンザワクチン」の開発に取り組んでいます。今般、同グループでTLR7アジュバント「DSP-0546LP」を添加して作製した新規の「ユニバーサルインフルエンザワクチン」候補製剤について、?種類の異なるインフルエンザへの強い予防効果(交差防御活性)があることを確認し、?その作用メカニズムを解明するとともに、?TLR7アジュバント「DSP-0546LP」添加の重要性を初めて示しましたので、お知らせします。
本研究成果は、2023年6月15日付の国際学術雑誌『Vaccine』オンライン版に掲載されました。
1.背景
従来のインフルエンザワクチンは、ウイルスの変異により効力を失うため、毎年流行すると予測された変異株にあわせてワクチンを製造・接種する必要があり、また、新型インフルエンザに対応することは困難です。そのため、季節性インフルエンザに対して幅広く持続的な効果を持ち、パンデミックに発展する可能性のある新型インフルエンザにも対応できる「ユニバーサルインフルエンザワクチン」の実用化が求められています。
2. 研究成果
(研究が明らかにしようとする内容)
本研究グループは、幅広いインフルエンザウイルスに対する効果が期待される膜融合型ヘマグルチニンを抗原とし、アジュバントとしてDSP-0546LPを添加したワクチン候補製剤(以下「DSP-0546LP添加製剤」)の研究開発を進めています。本研究では、このDSP-0546LP添加製剤について、インフルエンザ感染マウスモデルを用いた交差防御活性および詳細な作用メカニズム(図1)を解析しました。
(研究で明らかになったこと)
マウスに膜融合型ヘマグルチニン抗原を接種した際の免疫応答を評価した結果、以下のことが明らかとなりました。
i)DSP-0546LP添加製剤は非添加製剤と比較して、交差反応性抗体を強く誘導する。
ii)DSP-0546LP添加によって、Th1型免疫反応(すなわち抗原特異的なIFN-γ産生ならびに
IgG2c抗体の産生)を強く誘導する。
iii)DSP-0546LPはワクチン株と種類の異なるインフルエンザウイルスに対する抗体依存性細
胞障害(ADCC)活性を強める。
iv)DSP-0546LP添加製剤によって誘導される抗体には異なる型のインフルエンザウイルスに
対する有意な中和活性は認められない。
続いて、マウスを用いて、ワクチン株と種類の異なるインフルエンザウイルスへの感染試験を行い、DSP-0546LP添加製剤が種類の異なるインフルエンザウイルスにも予防効果(交差防御効果)を有するか検討しました。試験の結果、膜融合型ヘマグルチニン抗原のみのワクチン製剤は十分な感染防御作用を認めませんでしたが、DSP-0546LP添加製剤は優れた感染防御活性を示しました。
(上記研究が意味すること)
これらの結果から、「DSP-0546LPアジュバント」は機能性抗体の誘導において重要な役割を担っていることが明らかになりました。また、我々が開発を進めている新規「ユニバーサルインフルエンザワクチン」候補製剤の強い交差防御効果は、異なる種類のインフルエンザウイルスに対する中和抗体の産生誘導によってではなく、Th1型免疫反応の誘導を介した抗体依存性細胞障害(ADCC)活性によることが示唆されました。
3.今後の展開
本研究の成果は、 DSP-0546LP添加製剤のコンセプト(図2)を証明する重要な非臨床研究結果であり、「ユニバーサルインフルエンザワクチン」の実用化に向けて大きな一歩となりました。早期実用化のために、引き続き研究開発を進めます。
4.研究体制と支援について
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)および新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業の支援を受けて実施されました。NIBIOHNおよび住友ファーマは、AMEDのCiCLEに係る研究開発課題「万能インフルエンザワクチンの研究開発」において共同研究を実施しています。
5.用語説明
膜融合型ヘマグルチニン抗原:通常のヘマグルチニン抗原を構造変化させることで、幅広いインフルエンザウイルスに共通する隠れた抗原領域を露出させた改変型ヘマグルチニン抗原です。この抗原を免疫系ヒト化マウスに接種すると、抗原性の異なる複数のインフルエンザウイルスを防御可能なヒト交差抗体が誘導されることが明らかになっています。
交差防御効果:抗体産生を引き起こした抗原と近縁ではあるが以前に遭遇したことのない抗原を認識し、感染を防御する効果のこと。
TLR7アジュバント「DSP-0546LP」:ウイルス由来のRNAを感知して自然免疫応答を引き起こすToll様受容体の一つであるTLR7を特異的に活性化させる物質を含む製剤です。アジュバントとして抗原に添加することによって免疫応答の量、質および持続性を高める免疫増強作用を有します。
Th1型免疫反応:Type 1 helper T lymphocyte(Th1)はTリンパ球のサブタイプの一つです。主にインターフェロン-γ等を分泌し、抗体の量と質を決定する重要な役割を担います。
抗体依存性細胞障害(ADCC):NK細胞、マクロファージ等のエフェクター細胞の表面に存在するFc受容体に、ウイルスのたんぱく質に結合している抗体のFc領域が結合することによって抗体依存的に誘導される細胞障害活性のことで、獲得免疫後の細胞性免疫機構の一つです。ワクチンの使用においても、抗原を排除するために重要な作用メカニズムの一つと考えられています。
医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)について
産学官連携により、我が国の力を結集し、医療現場ニーズに的確に対応する研究開発の実施や創薬等の実用化の加速化等が抜本的に革新される基盤(人材を含む)の形成、医療研究開発分野でのオープンイノベーション・ベンチャー育成が強力に促進される環境の創出を推進することを目的とする国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の事業です。
NIBIOHNと住友ファーマの共同研究「万能インフルエンザワクチンの研究開発」(代表機関:住友ファーマ)は、2019年にCiCLEの第4回公募の研究開発課題に採択されました。
6.発表雑誌
掲載誌名:Vaccine
論文タイトル:Post-fusion influenza vaccine adjuvanted with SA-2 confers heterologous protection via Th1-polarized, non-neutralizing antibody responses
著者・所属:
西山 紋惠a, b, 安達 悠a, 登内 奎介a, c, 森山 彩野a, Lin Suna, 青木 正光d, 浅沼 秀樹e, 白倉 雅之e, 福島 晃久d, 山本 拓也b, f, g, 高橋 宜聖a
a 国立感染症研究所 治療薬・ワクチン開発研究センター
b 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 難病・免疫ゲノム研究センター
c 早稲田大学大学院先進理工学研究科
d 住友ファーマ株式会社
e 国立感染症研究所 インフルエンザ・呼吸器系ウイルス研究センター
f 大阪大学大学院薬学研究科 免疫老化制御学
g 大阪大学大学院医学系研究科 免疫・感染制御学
DOI:https://doi.org/10.1016/j.vaccine.2023.06.019
(ご参考)
図1.DSP-0546LPアジュバントの作用機序仮説(出典:住友化学, 2022, 26 (2022)より抜粋)
図2. DSP-0546LP添加製剤の作用機序仮説
[画像1: https://prtimes.jp/i/118477/9/resize/d118477-9-fb157c3108796ebb010f-0.png ]
[画像2: https://prtimes.jp/i/118477/9/resize/d118477-9-187862098e1cfd50287f-1.png ]
本研究成果は、2023年6月15日付の国際学術雑誌『Vaccine』オンライン版に掲載されました。
1.背景
従来のインフルエンザワクチンは、ウイルスの変異により効力を失うため、毎年流行すると予測された変異株にあわせてワクチンを製造・接種する必要があり、また、新型インフルエンザに対応することは困難です。そのため、季節性インフルエンザに対して幅広く持続的な効果を持ち、パンデミックに発展する可能性のある新型インフルエンザにも対応できる「ユニバーサルインフルエンザワクチン」の実用化が求められています。
2. 研究成果
(研究が明らかにしようとする内容)
本研究グループは、幅広いインフルエンザウイルスに対する効果が期待される膜融合型ヘマグルチニンを抗原とし、アジュバントとしてDSP-0546LPを添加したワクチン候補製剤(以下「DSP-0546LP添加製剤」)の研究開発を進めています。本研究では、このDSP-0546LP添加製剤について、インフルエンザ感染マウスモデルを用いた交差防御活性および詳細な作用メカニズム(図1)を解析しました。
(研究で明らかになったこと)
マウスに膜融合型ヘマグルチニン抗原を接種した際の免疫応答を評価した結果、以下のことが明らかとなりました。
i)DSP-0546LP添加製剤は非添加製剤と比較して、交差反応性抗体を強く誘導する。
ii)DSP-0546LP添加によって、Th1型免疫反応(すなわち抗原特異的なIFN-γ産生ならびに
IgG2c抗体の産生)を強く誘導する。
iii)DSP-0546LPはワクチン株と種類の異なるインフルエンザウイルスに対する抗体依存性細
胞障害(ADCC)活性を強める。
iv)DSP-0546LP添加製剤によって誘導される抗体には異なる型のインフルエンザウイルスに
対する有意な中和活性は認められない。
続いて、マウスを用いて、ワクチン株と種類の異なるインフルエンザウイルスへの感染試験を行い、DSP-0546LP添加製剤が種類の異なるインフルエンザウイルスにも予防効果(交差防御効果)を有するか検討しました。試験の結果、膜融合型ヘマグルチニン抗原のみのワクチン製剤は十分な感染防御作用を認めませんでしたが、DSP-0546LP添加製剤は優れた感染防御活性を示しました。
(上記研究が意味すること)
これらの結果から、「DSP-0546LPアジュバント」は機能性抗体の誘導において重要な役割を担っていることが明らかになりました。また、我々が開発を進めている新規「ユニバーサルインフルエンザワクチン」候補製剤の強い交差防御効果は、異なる種類のインフルエンザウイルスに対する中和抗体の産生誘導によってではなく、Th1型免疫反応の誘導を介した抗体依存性細胞障害(ADCC)活性によることが示唆されました。
3.今後の展開
本研究の成果は、 DSP-0546LP添加製剤のコンセプト(図2)を証明する重要な非臨床研究結果であり、「ユニバーサルインフルエンザワクチン」の実用化に向けて大きな一歩となりました。早期実用化のために、引き続き研究開発を進めます。
4.研究体制と支援について
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)および新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業の支援を受けて実施されました。NIBIOHNおよび住友ファーマは、AMEDのCiCLEに係る研究開発課題「万能インフルエンザワクチンの研究開発」において共同研究を実施しています。
5.用語説明
膜融合型ヘマグルチニン抗原:通常のヘマグルチニン抗原を構造変化させることで、幅広いインフルエンザウイルスに共通する隠れた抗原領域を露出させた改変型ヘマグルチニン抗原です。この抗原を免疫系ヒト化マウスに接種すると、抗原性の異なる複数のインフルエンザウイルスを防御可能なヒト交差抗体が誘導されることが明らかになっています。
交差防御効果:抗体産生を引き起こした抗原と近縁ではあるが以前に遭遇したことのない抗原を認識し、感染を防御する効果のこと。
TLR7アジュバント「DSP-0546LP」:ウイルス由来のRNAを感知して自然免疫応答を引き起こすToll様受容体の一つであるTLR7を特異的に活性化させる物質を含む製剤です。アジュバントとして抗原に添加することによって免疫応答の量、質および持続性を高める免疫増強作用を有します。
Th1型免疫反応:Type 1 helper T lymphocyte(Th1)はTリンパ球のサブタイプの一つです。主にインターフェロン-γ等を分泌し、抗体の量と質を決定する重要な役割を担います。
抗体依存性細胞障害(ADCC):NK細胞、マクロファージ等のエフェクター細胞の表面に存在するFc受容体に、ウイルスのたんぱく質に結合している抗体のFc領域が結合することによって抗体依存的に誘導される細胞障害活性のことで、獲得免疫後の細胞性免疫機構の一つです。ワクチンの使用においても、抗原を排除するために重要な作用メカニズムの一つと考えられています。
医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)について
産学官連携により、我が国の力を結集し、医療現場ニーズに的確に対応する研究開発の実施や創薬等の実用化の加速化等が抜本的に革新される基盤(人材を含む)の形成、医療研究開発分野でのオープンイノベーション・ベンチャー育成が強力に促進される環境の創出を推進することを目的とする国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の事業です。
NIBIOHNと住友ファーマの共同研究「万能インフルエンザワクチンの研究開発」(代表機関:住友ファーマ)は、2019年にCiCLEの第4回公募の研究開発課題に採択されました。
6.発表雑誌
掲載誌名:Vaccine
論文タイトル:Post-fusion influenza vaccine adjuvanted with SA-2 confers heterologous protection via Th1-polarized, non-neutralizing antibody responses
著者・所属:
西山 紋惠a, b, 安達 悠a, 登内 奎介a, c, 森山 彩野a, Lin Suna, 青木 正光d, 浅沼 秀樹e, 白倉 雅之e, 福島 晃久d, 山本 拓也b, f, g, 高橋 宜聖a
a 国立感染症研究所 治療薬・ワクチン開発研究センター
b 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 難病・免疫ゲノム研究センター
c 早稲田大学大学院先進理工学研究科
d 住友ファーマ株式会社
e 国立感染症研究所 インフルエンザ・呼吸器系ウイルス研究センター
f 大阪大学大学院薬学研究科 免疫老化制御学
g 大阪大学大学院医学系研究科 免疫・感染制御学
DOI:https://doi.org/10.1016/j.vaccine.2023.06.019
(ご参考)
図1.DSP-0546LPアジュバントの作用機序仮説(出典:住友化学, 2022, 26 (2022)より抜粋)
図2. DSP-0546LP添加製剤の作用機序仮説
[画像1: https://prtimes.jp/i/118477/9/resize/d118477-9-fb157c3108796ebb010f-0.png ]
[画像2: https://prtimes.jp/i/118477/9/resize/d118477-9-187862098e1cfd50287f-1.png ]