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プラズマジェットを用いたアモルファスSi膜の結晶化技術を開発〜【産技助成Vol.52】

独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
広島大学大学院先端物質科学研究科



薄膜トランジスタ(TFT)の製造工程に不可欠なアモルファスSi (注1)の結晶化を
出力が安定していて低コストのアーク放電による熱プラズマジェットで実現。
従来のエキシマレーザーによるコストを1/10に大幅低減。
さらに正確なアモルファスSiの結晶化に不可欠な
ミリ秒単位の時間分解能をもつ非接触温度測定技術を確立。



【新規発表事項】 
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、広島大学大学院先端物質科学研究科の准教授、東清一郎氏は、薄膜トランジスタ(TFT)の製造工程に不可欠なアモルファスSiの結晶化を出力が安定していて低コストのアーク放電による熱プラズマジェットで実現しました。
これまで液晶や有機ELの表示素子に不可欠なTFTの作製は、アモルファスSiにエキシマレーザーを照射して、熱処理で結晶化する技術が主流になっていますが、エキシマレーザーは出力が不安定で、装置の価格もランニングコストも高額なため、新たな高性能かつ低コストな加工法が求められていました。プラズマジェットによる本結晶化技術はこれらの問題を同時解決する有力な新技術です。
本技術により、今後需要の拡大が予想される、大型テレビや携帯情報端末等の液晶や有機EL表示素子の製造に不可欠なTFTの作製を低コストで、しかも高精度、短時間で実現できます。熱プラズマジェット照射によるミリ秒超急速熱処理における基板温度を測定するために開発した非接触温度測定技術は、集積回路の製造工程での加工温度モニタリングヘの応用も期待されています。

(注1)アモルファスSi とは、シリコン原子が三次元的に一定の規則性をもたないで結合したもの。結晶シリコンに比べて不安定だが、 未結合手(ダングリングボンド)に水素を結合させて安定化した状態で工業材料として利用する。


1.研究成果概要
1)熱プラズマジェット照射によって、熱処理時間2-3ms、最高到違温度900-1800Kの範囲で加熱・冷却し、その速度を精密に制御する技術を確立しました。
2)アモルファスSi膜は1100K程度の温度から固相結晶化(SPC:Solid Phase Crystallization)を開始し、融点を超えると溶融して、冷却の過程で再結晶化する二段階相変化過程を経て結晶化することを明らかにしました。
3)レーザーを用いたミリ秒時間の分解能をもつ非接触温度測定技術を確立しました。この測定技術は、精密な温度制御による正確なアモルファスSiの結晶化を実現するコア技術で、半導体素子の製造に必要とされるSiウエハ(基板)の加工中の処理表面の温度測定にも適用できます。
4)熱プラズマジェットの照射によるアモルファスSiの相変化メカニズムを明らかにし、結晶化した多結晶Si膜中の欠陥密度を、5×1016cm-3以下に低咸するプロセス技術を確立しました。
5)熱プラズマジェット照射による高効率不純物ドーピング技術を確立しました。熱プラズマジェット結晶化およびドーピングにより、電界効果移動度75cm2/Vs、閾値電圧2.9Vの高性能TFTの作製に成功しました。


2.競合技術への強み
(1)装置の簡素化:本体の直径は10cm程度で、4mmのノズルからプラズマジェットを噴射する(サイズは試作段階のため小型)ため、簡単な構造になります。
(2)大出力⇒高速加工:数ミリ秒でアモルファスSi膜が結晶化するので、秒速1mほどの速さで加工できます。
(3)装置およびランニングコストの低下:大気圧下での結晶化が可能で、エキシマレーザーのような真空装置が不要。またエキシマレーザーのようにレーザー発振に用いられているハロゲンガスによる装置の腐食がないのでメンテナンスコストを低減できます。
(4)低欠陥化:エキシマレーザーによる結晶化Si膜と比較すると、結晶粒径が小さいにもかかわらず、膜中ダングリングボンド(注2)密度は、1/10程度と極めて低欠陥の加工ができます。

(注2)ダングリングボンド(dangling bond)とは、結晶表面や結晶中の欠陥付近で原子が共有結合の相手を失って、結合に関与しない電子(不対電子)による未結合手のことをいう。ダングリングボンド上の電子は電気的に活性なため、半導体結晶中の電子の移動度等、物性に大きな影響を与える欠陥となる。


3.今後の展望
「線状のプラズマ源をつくる」を目標に、加工速度(スループット)および処理の均一性向上といった大量生産における課題解決のため、連携企業とともに取組んでいきます。またプラズマジェットを用いたアモルファスSiの結晶化技術は、まだ装置化(製品化)されていませんが、本年度中に試作機を作製してデモ実験をスタートさせ、2010年あたりを目処に商品化を実現できればと思っています。半導体産業にかかわる研究者は、非常に高い水準の信頼度を求めるため、新しい技術の導入よりも評価の定まった既存の技術に頼る傾向が強くあります。よって装置の製品化、半導体製造現場に導入しうるだけの十分な信頼性の確保に向けて努力していきます。

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