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死刑執行に強く抗議する

死刑廃止への世界的潮流に逆行 

アムネスティ・インターナショナル日本は、本日、東京拘置所の熊谷徳久さんに死刑が執行されたことに対して強く抗議する。安倍政権は発足2カ月後の2月に3人の死刑執行を行い、その後も4月に2人、そして3回目となるこの度の執行で、6人の命を奪ったことになる。このペースでの死刑執行は、死刑廃止への世界的な潮流に逆行し大量処刑への道を開くもので、国連の条約諸機関からの度重なる勧告や国連総会決議を軽視していると言わざるを得ない。




奇しくも日本の首都、東京は、6日、2020年のオリンピック開催都市に決定し、その直後の死刑執行である。オリンピック憲章には「オリンピズムの目標は、人間の尊厳保持に重きを置く、平和的な社会を推進する」、「オリンピズムが求めるものは、よい手本となる教育的価値、社会的責任、普遍的・基本的・倫理的諸原則の尊重に基づいた生き方の創造」とある。オリンピック開催国はこのオリンピック憲章を遵守する義務があるが、人間の尊厳を奪う死刑執行は、憲章に違反しオリンピック精神に反するものと、とられかねない。

谷垣法務大臣は、4月26日の記者会見で、死刑執行については、「慎重に検討して判断をしている」とし、死刑囚を選んだ理由や執行間隔についても「個別の執行をどういうふうにしたか、答えは差し控えたい。間隔に特段の理由はない」と述べ、その判断基準を一切明らかにしていない。しかしながら、このような度重なる死刑執行において、法相がそれぞれの事件を慎重に精査する時間をかけているとは到底思えない。

国連は、長年にわたり、加盟国に対して死刑廃止に向けた取り組みを要請している。そして多くの国は、死刑廃止への取り組みを着実に進めてきた。日本は自由権規約を留保なく批准しているが、国連の自由権規約委員会は、2008年、「世論の動向にかかわりなく、締約国は死刑の廃止を考慮すべき」とした。

本年5月31日、国連の拷問禁止委員会は、日本審査の総括所見を発表した。同所見では、日本政府に対して「死刑を廃止する可能性を検討すること」と、前回(2007年)よりも一歩踏み込んだ、死刑制度廃止への取り組みを含む勧告がなされた。また、刑事司法制度や死刑確定者の拘禁状況に関し、代用監獄制度の廃止、不必要な秘密主義、長期にわたる独居拘禁の使用回避、弁護人による効果的援助の確保、死刑執行の合理的な事前通知など、死刑制度に関わるさまざまな改善点が指摘された。日本政府は、拷問等禁止条約等の批准国として、委員会から勧告された点について改善する義務を負っている。しかし、死刑廃止等に向けた努力を行うことなく、国際社会からの要請を一切無視し続けているのである。

世界では7 割に当たる140カ国が法律上または事実上死刑を廃止し、死刑制度の廃止への潮流は続いている。2012年の執行国数は21カ国で、日本はその内の1カ国として名を連ねた。昨年12月には、国連総会で全世界の死刑執行停止を求める総会決議が採択され、過去最多の111 カ国が賛成した。G8で死刑執行を行っているのは日本と米国だけであり、その米国でも、本年、メリーランド州が死刑制度を法律で廃止した18番目の州となり、昨年、死刑を執行したのは9つの州だけだった。

多数の国が死刑制度を廃止する中、日本は今なお、議論すら進めようとしていない。アムネスティは、一部の官僚が生と死を決定する絶対的権限を行使し、かつ秘密主義で制度を運用することがあってはならない、と考える。政府は市民に対して死刑制度を取り巻く情報を公表すべきであり、市民も実際の制度に関する情報を得る権利がある。政府がさまざまな情報を提供することで、市民は現在の闇に包まれた死刑制度の実情を知り、自ら死刑制度に関する議論に積極的に参画することが可能となり、社会全体として死刑に関する議論が活発になるであろう。

アムネスティは、あらゆる死刑に例外なく反対する。死刑は生きる権利の侵害であり、残虐で非人道的かつ品位を傷つける刑罰である。日本政府は、国際人権諸条約の締約国として、死刑にたよらない刑事司法制度を構築する国際的な義務を負っている。アムネスティは日本政府に対し、死刑廃止への第一歩として公式に死刑の執行停止措置を導入し、全社会的な議論を速やかに開始することを要請する。


2013年9月12日
アムネスティ・インターナショナル日本

【背景情報】
日本は、国際社会の責任ある一員として、死刑廃止に向かう世界の情勢も十分に考慮しなければならない。現在、全世界の7割に当たる140カ国が、法律上または事実上、死刑を廃止している。アジア太平洋地域においても41カ国のうち28カ国が、法律上または事実上、死刑を廃止している。東アジアでは、韓国が2008年に事実上の死刑廃止国となり、現在まで14年間、執行を停止している。さらに、昨年はモンゴルとベナンが、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」の第2選択議定書(いわゆる死刑廃止国際条約)に公式に加入した。死刑廃止へと進んだこれらの国々の多くで、世論の多数が死刑の存置を容認していたことを踏まえると、いかに死刑廃止に向けて人びとに働きかける政治的リーダーシップが重要であるかがわかる。

G8諸国で日本以外の死刑存置国は米国だけであるが、その米国では、現在、全50州のうち18州とコロンビア特別区が死刑を廃止しており、死刑廃止州の割合は3分の1 を超えている。2011年に実際に死刑を執行したのは13州、2012年は9州に減少している。一昨年11月22日にはオレゴン州知事が任期中の執行停止を表明。昨年4月25日には、コネチカット州で死刑が廃止された。メリーランド州でも死刑廃止法案が可決し、本年5月2日、知事の署名を経て18番目の死刑を廃止する州となった。

また昨年12月20日、国連総会で、2007年以降で4度目となる死刑執行停止決議が、前回より4カ国多い、過去最多の111カ国の賛成で可決された。決議は、廃止を視野に死刑の執行を停止することや、死刑を適用する罪名を減らすことなどを求めている。

死刑に特別な犯罪の抑止効果はない、ということも今日の世界的な共通認識となっている。死刑と殺人発生率の関係に関する研究が1988年に国連からの委託で実施され、最新の調査では「死刑が終身刑よりも大きな抑止力を持つことを科学的に裏付ける研究はない。抑止力仮説を積極的に支持する証拠は見つかっていない」との結論が出されている。

内閣府が行っている死刑世論調査は、回収率が低いうえに設問が誘導的で、「国民の8割以上は、死刑制度を容認している」との一般化には疑問がある。特に設問については、幅広い意見が反映されるようなものに変更することが求められる。内閣府のサブ・クエスチョン(追加質問)やその他の団体で行われたいくつかの調査では、明確に死刑制度を維持すべきと思っている人は5割前後という結果も出ている。

アムネスティは、死刑判決を受けた者が犯した罪について、これを過小評価したり、許したりしようとするものではない。しかし、被害者とその遺族の人権の保障は、死刑により加害者の命を奪うことによってではなく、国家が経済的、心理的な支援を通じ、苦しみを緩和するためのシステムを構築すること等によって、成し遂げられるべきであると考える。


※死刑執行抗議声明における「敬称」について
アムネスティ日本は、現在、ニュースリリースや公式声明などで使用する敬称を、原則として「さん」に統一しています。また、人権擁護団体として、人間はすべて平等であるという原則に基づいて活動しており、死刑確定者とその他の人々を差別しない、差別してはならない、という立場に立っています。そのため、死刑確定者や執行された人の敬称も原則として「さん」を使用しています。
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