従来と比べ、溶込み深さ5倍の超高効率アーク溶接法を開発【産技助成Vol.75】
[08/11/25]
提供元:PRTIMES
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独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
大阪大学接合科学研究所
従来の溶接装置をそのまま用い、TIG溶接(注1)の溶込み深さをこれまでの5倍に
自動車等の大型部品や化学プラント、高圧容器や配管への適用等により
製造効率化に飛躍的な効果
【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、大阪大学接合科学研究所の准教授、藤井 英俊氏は、溶込み深さ5倍の超高効率アーク溶接法の開発をしました。
本技術は、従来のヘリウム(He)シールドガス(注2)に微量の酸素ガス(O2)を添加したシールドガスを用いることにより、溶融池内のマランゴニー対流(注3)を内向き(溶接によって生じる溶融池の端ではなく中央に)に変化させ、深さ方向に従来の5倍の溶込みを実現します。二重シールドトーチ(注4)を使用することにより、通常TIG溶接では用いることができないO2などの酸化性ガスを含むシールドガスを用いてもタングステン電極の消耗が少なく、トーチの耐久性が高い、画期的なTIG溶接技術です。
Heシールドガス中に添加した酸素量によって、溶融池中のマランゴニー対流の向きを変化させることにより、より厚い材料にも1回で溶接を施すことが可能となります。従来2mm程度の溶込み深さが限界であったTIG溶接が、レーザー溶接に迫る10mm程度の溶込み深さが得られる条件に最適化できます。従来装置をそのまま用いることができ、単にシールドガスを変更するだけで使用可能です。
(注1)TIG溶接:タングステン・イナートガスによる溶接法
(注2)アーク溶接で溶融している金属に大気が接すると、大量の酸素および窒素が金属の中に溶け込んでしまう。これを防ぐため、アークおよび溶融池と空気を遮断するための用いられるガス。
(注3)液滴周辺部で温度が低いため表面張力が大きくなり、中央部の液の表面を引っ張るために対流が生じる現象。
(注4)シールドトーチとは、タングステン電極の周辺にシールドガスを流すトーチのことを言い、本研究のシールドトーチでは電極の内側にヘリウムガス、外側にヘリウム酸素ガスを流す、二重シールドトーチである。
1.研究成果概要
TIG溶接は最も主要な溶接プロセスとして、あらゆる産業において幅広く利用されている適用範囲の極めて大きい溶接方法です。しかしながら、溶込みが浅い、溶着量(注5)が小さい、溶接速度が遅いなど、総合的に溶接能率が低いことが他の溶接と比べて課題となっていました。もしこの能率を著しく改善することができれば、この溶接法の適用範囲は原子力や化学プラント、高圧容器への適用や配管のシーム溶接、自動車産業等に拡がるものと考えられます。 そこで本研究では、シールドガスにO2を添加することにより、溶融池内の対流の方向を従来と逆向き(内向き)とし、従来の溶接装置をそのまま用いて、溶込み深さを従来の5倍に増大させる技術を確立しました。これにより大型装置の溶接に必要な1パスで10mm程度の溶接を可能としました。
(注5)溶接に使われる母材が溶けて固まる量。
2.競合技術への強み
1.溶込み深さ:1回の溶接操作である、1パスで従来の5倍、10mm程度の溶込み深さを実現。
2.電極の消耗:O2を含むシールドガスを用いても、二重シールドトーチを用いることにより電極の消耗が抑えられ、溶込み深さの深いTIG溶接を実現。
3.材料の欠陥:マランゴニー対流の原理を用いた深溶込み溶接であるため、材料の欠陥の発生が
少なく、高品質を実現。
4.低コスト:アーク溶接法の従来装置を改良して利用することにより、レーザービーム溶接に比 較して低コストを実現。
3.今後の展望
1パスで10mm程度の深い溶け込み形状の得られる本TIG溶接法は、従来の溶接装置を用いることができ、単にシールドガスを変更するだけで使用可能です。また本研究で開発したガスは、連携企業から販売中です。従来からの高品質な溶接を維持しつつ、従来の5倍の溶け込み深さが得られるため、今後、原子力や化学プラント、高圧容器への適用や配管のシーム溶接、自動車産業等の幅広い分野での適用を検討しています。
4.参考
成果プレスダイジェスト:大阪大学准教授 藤井 英俊氏
大阪大学接合科学研究所
従来の溶接装置をそのまま用い、TIG溶接(注1)の溶込み深さをこれまでの5倍に
自動車等の大型部品や化学プラント、高圧容器や配管への適用等により
製造効率化に飛躍的な効果
【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、大阪大学接合科学研究所の准教授、藤井 英俊氏は、溶込み深さ5倍の超高効率アーク溶接法の開発をしました。
本技術は、従来のヘリウム(He)シールドガス(注2)に微量の酸素ガス(O2)を添加したシールドガスを用いることにより、溶融池内のマランゴニー対流(注3)を内向き(溶接によって生じる溶融池の端ではなく中央に)に変化させ、深さ方向に従来の5倍の溶込みを実現します。二重シールドトーチ(注4)を使用することにより、通常TIG溶接では用いることができないO2などの酸化性ガスを含むシールドガスを用いてもタングステン電極の消耗が少なく、トーチの耐久性が高い、画期的なTIG溶接技術です。
Heシールドガス中に添加した酸素量によって、溶融池中のマランゴニー対流の向きを変化させることにより、より厚い材料にも1回で溶接を施すことが可能となります。従来2mm程度の溶込み深さが限界であったTIG溶接が、レーザー溶接に迫る10mm程度の溶込み深さが得られる条件に最適化できます。従来装置をそのまま用いることができ、単にシールドガスを変更するだけで使用可能です。
(注1)TIG溶接:タングステン・イナートガスによる溶接法
(注2)アーク溶接で溶融している金属に大気が接すると、大量の酸素および窒素が金属の中に溶け込んでしまう。これを防ぐため、アークおよび溶融池と空気を遮断するための用いられるガス。
(注3)液滴周辺部で温度が低いため表面張力が大きくなり、中央部の液の表面を引っ張るために対流が生じる現象。
(注4)シールドトーチとは、タングステン電極の周辺にシールドガスを流すトーチのことを言い、本研究のシールドトーチでは電極の内側にヘリウムガス、外側にヘリウム酸素ガスを流す、二重シールドトーチである。
1.研究成果概要
TIG溶接は最も主要な溶接プロセスとして、あらゆる産業において幅広く利用されている適用範囲の極めて大きい溶接方法です。しかしながら、溶込みが浅い、溶着量(注5)が小さい、溶接速度が遅いなど、総合的に溶接能率が低いことが他の溶接と比べて課題となっていました。もしこの能率を著しく改善することができれば、この溶接法の適用範囲は原子力や化学プラント、高圧容器への適用や配管のシーム溶接、自動車産業等に拡がるものと考えられます。 そこで本研究では、シールドガスにO2を添加することにより、溶融池内の対流の方向を従来と逆向き(内向き)とし、従来の溶接装置をそのまま用いて、溶込み深さを従来の5倍に増大させる技術を確立しました。これにより大型装置の溶接に必要な1パスで10mm程度の溶接を可能としました。
(注5)溶接に使われる母材が溶けて固まる量。
2.競合技術への強み
1.溶込み深さ:1回の溶接操作である、1パスで従来の5倍、10mm程度の溶込み深さを実現。
2.電極の消耗:O2を含むシールドガスを用いても、二重シールドトーチを用いることにより電極の消耗が抑えられ、溶込み深さの深いTIG溶接を実現。
3.材料の欠陥:マランゴニー対流の原理を用いた深溶込み溶接であるため、材料の欠陥の発生が
少なく、高品質を実現。
4.低コスト:アーク溶接法の従来装置を改良して利用することにより、レーザービーム溶接に比 較して低コストを実現。
3.今後の展望
1パスで10mm程度の深い溶け込み形状の得られる本TIG溶接法は、従来の溶接装置を用いることができ、単にシールドガスを変更するだけで使用可能です。また本研究で開発したガスは、連携企業から販売中です。従来からの高品質な溶接を維持しつつ、従来の5倍の溶け込み深さが得られるため、今後、原子力や化学プラント、高圧容器への適用や配管のシーム溶接、自動車産業等の幅広い分野での適用を検討しています。
4.参考
成果プレスダイジェスト:大阪大学准教授 藤井 英俊氏