インド:ファイザー社の特許申請に異議申し立て――肺炎球菌ワクチンの独占を懸念
[16/03/15]
提供元:PRTIMES
提供元:PRTIMES
米国製薬会社ファイザー社が、インド政府に対し13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)の特許を申請したことを受け、国境なき医師団(MSF)は3月11日、「特許異議申し立て」をインド政府に対して行った。途上国や人道援助団体が廉価版の利用をできるようにし、致命的な肺炎からさらに数百万人の子どもを守ることが目的だ。インドで医療団体によって、ワクチン(バイオシミラー)の特許に対して異議申し立てがなされたのは今回が初めてとなる。
[画像1: http://prtimes.jp/i/4782/322/resize/d4782-322-775337-1.jpg ]
ワクチンの価格はこの15年で68倍に
肺炎は子どもの死亡原因の主因であり、毎年100万人近くの子どもの命を奪っているが、その多くはワクチンで防ぐことができる。しかし製造しているのはファイザー社とグラクソ・スミスクライン社の2社のみで、ファイザー社がPCV13(プレベナー13(R)として販売)に設定した価格は、多くの途上国と人道援助団体にとって手が届かない。そのため、現在では子ども1人あたりの接種費用は2001年比で68倍に増加。MSFはその状況を報告書『THE RIGHT SHOT――より安価で適合性の高いワクチンを』にまとめた。肺炎球菌ワクチンは最貧国における子ども1人あたりの予防接種費用のうち半分近くを占めている。
MSFの必須医薬品キャンペーンのエグゼクティブ・ディレクターであるマニカ・バラセガラム医師は「肺炎球菌ワクチンは世界のワクチン分野におけるベストセラーで、昨年だけでもこの製品によるファイザー社の売上高は60億米ドル(約6833億円)に達しました。一方、数百万人の子供が肺炎罹患リスクに直面している多くの途上国にとって、この製品は購入不可能です。どの国の子どもたちも、肺炎という命取りの病気から間違いなく守られるためには、他社が市場に参入して、ファイザー社が設定しているよりもはるかに低い価格でこのワクチンを供給することが不可欠です」と話す。
WHO年次総会でも価格適正化に向けた決議を採択
すでにインドのワクチン製造会社1社が、子ども1人あたり6米ドル(約683円)(3回接種分合計)で、公衆衛生プログラムやMSFのような人道援助団体向けに肺炎球菌ワクチンを供給できると表明した。これは現在設定されている世界共通の最低価格(子ども1人あたり10米ドル(約1139円)の半値に近い。しかもこの価格は、Gavi-ワクチン同盟からの資金援助を通じて途上国の中でも限られた国にだけ適用される。
2015年のWHO(世界保健機関)の年次総会では、193ヵ国の加盟国全てがワクチン価格の適正化と透明性向上を求める、画期的な決議を採択した。「昨年、50ヵ国以上がワクチンの高値に反対を表明し、新ワクチン導入にともなう困難についても声を上げました。この中にはインドネシア、ヨルダン、チュニジアも名を連ねています。全ての国がこのワクチンを購入できるようになる必要があります、もうこれ以上待てません」とマニカ・バラセガラム医師は話す。
[画像2: http://prtimes.jp/i/4782/322/resize/d4782-322-331872-2.jpg ]
特許に値しないことが明らかに
特許付与前の反対は一般市民による審査の形をとる。市民はインド特許庁に対し、技術的根拠を提出。インド特許法において、特許付与に値しないと思われる薬剤やワクチンに関する審査請求範囲を提示することになっている。現在インドで反対されているものと同等の特許がすでに欧州特許庁によって取り消され、韓国でも異議申し立てが出されている。ファイザー社の特許申請は、13の連鎖球菌肺炎血清型を1つの担体に結合させる方法に関するものだ。
「特許付与前の反対によって、特許付与に向けたファイザー社の動きは、インドの法制度において特許を受けるには値しないということが明らかになっています。今回の申請は、ファイザー社にとって今後何年にもわたって自社の市場独占を確保する手段の1つにすぎないのです」とMSF必須医薬品キャンペーンの南アジア地域ディレクターを務めるリーナ・メンガニーは話す。「インド政府は製薬会社の要求を拒否すべきです。製薬会社の背後には、米国を始めとした外国の外圧戦略があり、インド政府に対し、特許付与基準の変更を迫ることで、ジェネリック薬による競争を制限しようとしています。肺炎球菌ワクチンに関するファイザー社の不当な特許申請が却下され、このワクチンの廉価版製造への門戸が開かれるべきです」
35秒に1人の子どもが命を奪われている肺炎
MSFは、活動に使用するワクチンの価格引下げに向け、ファイザー社と数年越しの交渉を行ったが不首尾に終った。現在、MSFはインド政府に対する特許申請に異議を申し立てることで、肺炎球菌ワクチン製造を予定しているメーカーが、廉価版発売にあたって主要な特許障壁に直面しないですむように図っている。
「肺炎で35秒に1人の子どもが命を落としています。あまりに多くの子どもが肺炎で命を落とす様を目撃した医師として、私たちは全ての国がこのワクチンを買えるようになるまで、引き下がるつもりはありません」とバラセガラム医師は話す。
肺炎に関するMSFの活動
3月第2週、MSFの必須医薬品キャンペーンは「特許異議申し立てデータベース」のアップグレード版を公開。途上国の市民社会と患者グループを対象としたインターネット経由の資料検索システムによって、保証されていない医薬特許への異議申し立てに対する法律や専門的な情報の共有が可能となる。このオンライン検索データベースには現在までに100件以上の主要な医薬品関連の特許異議申し立てに関する技術文書を掲載。今回改良版コラボレーション・ツールとより簡便な検索を可能にしている。詳細はpatentoppositions.orgから。
MSFは毎年、数百万人に予防接種を実施。はしか、髄膜炎、黄熱病やコレラを始めとした病気の流行対応のほか、母子保健医療活動を行っている場所での定期予防接種を通じて行っている。2014年だけで、390万回のワクチンと免疫製剤を提供した。MSFは過去に、肺炎予防用にPCVをこの購入し緊急援助活動で使用している。MSFはPCVを始めとしたワクチンの利用を拡大しており、特に定期予防接種活動の改善に注力するほか、人道危機の状況下で使用されるワクチンのパッケージを拡大している。また中央アフリカ共和国、エチオピア、南スーダン、ウガンダなどで、緊急事態に巻き込まれた子どもを対象としたPCV予防接種も実施している。
2015年、MSFはワクチンの価格に関する世界規模のキャンペーン「A FAIR SHOT(「適正価格の予防接種」の意)」を開始。ファイザー社とグラクソ・スミスクライン社に対して、肺炎球菌ワクチンの価格を全3回接種で子ども1人あたり5米ドル(569円)に引き下げるよう求めている。詳細はafairshot.orgから。
[画像1: http://prtimes.jp/i/4782/322/resize/d4782-322-775337-1.jpg ]
ワクチンの価格はこの15年で68倍に
肺炎は子どもの死亡原因の主因であり、毎年100万人近くの子どもの命を奪っているが、その多くはワクチンで防ぐことができる。しかし製造しているのはファイザー社とグラクソ・スミスクライン社の2社のみで、ファイザー社がPCV13(プレベナー13(R)として販売)に設定した価格は、多くの途上国と人道援助団体にとって手が届かない。そのため、現在では子ども1人あたりの接種費用は2001年比で68倍に増加。MSFはその状況を報告書『THE RIGHT SHOT――より安価で適合性の高いワクチンを』にまとめた。肺炎球菌ワクチンは最貧国における子ども1人あたりの予防接種費用のうち半分近くを占めている。
MSFの必須医薬品キャンペーンのエグゼクティブ・ディレクターであるマニカ・バラセガラム医師は「肺炎球菌ワクチンは世界のワクチン分野におけるベストセラーで、昨年だけでもこの製品によるファイザー社の売上高は60億米ドル(約6833億円)に達しました。一方、数百万人の子供が肺炎罹患リスクに直面している多くの途上国にとって、この製品は購入不可能です。どの国の子どもたちも、肺炎という命取りの病気から間違いなく守られるためには、他社が市場に参入して、ファイザー社が設定しているよりもはるかに低い価格でこのワクチンを供給することが不可欠です」と話す。
WHO年次総会でも価格適正化に向けた決議を採択
すでにインドのワクチン製造会社1社が、子ども1人あたり6米ドル(約683円)(3回接種分合計)で、公衆衛生プログラムやMSFのような人道援助団体向けに肺炎球菌ワクチンを供給できると表明した。これは現在設定されている世界共通の最低価格(子ども1人あたり10米ドル(約1139円)の半値に近い。しかもこの価格は、Gavi-ワクチン同盟からの資金援助を通じて途上国の中でも限られた国にだけ適用される。
2015年のWHO(世界保健機関)の年次総会では、193ヵ国の加盟国全てがワクチン価格の適正化と透明性向上を求める、画期的な決議を採択した。「昨年、50ヵ国以上がワクチンの高値に反対を表明し、新ワクチン導入にともなう困難についても声を上げました。この中にはインドネシア、ヨルダン、チュニジアも名を連ねています。全ての国がこのワクチンを購入できるようになる必要があります、もうこれ以上待てません」とマニカ・バラセガラム医師は話す。
[画像2: http://prtimes.jp/i/4782/322/resize/d4782-322-331872-2.jpg ]
特許に値しないことが明らかに
特許付与前の反対は一般市民による審査の形をとる。市民はインド特許庁に対し、技術的根拠を提出。インド特許法において、特許付与に値しないと思われる薬剤やワクチンに関する審査請求範囲を提示することになっている。現在インドで反対されているものと同等の特許がすでに欧州特許庁によって取り消され、韓国でも異議申し立てが出されている。ファイザー社の特許申請は、13の連鎖球菌肺炎血清型を1つの担体に結合させる方法に関するものだ。
「特許付与前の反対によって、特許付与に向けたファイザー社の動きは、インドの法制度において特許を受けるには値しないということが明らかになっています。今回の申請は、ファイザー社にとって今後何年にもわたって自社の市場独占を確保する手段の1つにすぎないのです」とMSF必須医薬品キャンペーンの南アジア地域ディレクターを務めるリーナ・メンガニーは話す。「インド政府は製薬会社の要求を拒否すべきです。製薬会社の背後には、米国を始めとした外国の外圧戦略があり、インド政府に対し、特許付与基準の変更を迫ることで、ジェネリック薬による競争を制限しようとしています。肺炎球菌ワクチンに関するファイザー社の不当な特許申請が却下され、このワクチンの廉価版製造への門戸が開かれるべきです」
35秒に1人の子どもが命を奪われている肺炎
MSFは、活動に使用するワクチンの価格引下げに向け、ファイザー社と数年越しの交渉を行ったが不首尾に終った。現在、MSFはインド政府に対する特許申請に異議を申し立てることで、肺炎球菌ワクチン製造を予定しているメーカーが、廉価版発売にあたって主要な特許障壁に直面しないですむように図っている。
「肺炎で35秒に1人の子どもが命を落としています。あまりに多くの子どもが肺炎で命を落とす様を目撃した医師として、私たちは全ての国がこのワクチンを買えるようになるまで、引き下がるつもりはありません」とバラセガラム医師は話す。
肺炎に関するMSFの活動
3月第2週、MSFの必須医薬品キャンペーンは「特許異議申し立てデータベース」のアップグレード版を公開。途上国の市民社会と患者グループを対象としたインターネット経由の資料検索システムによって、保証されていない医薬特許への異議申し立てに対する法律や専門的な情報の共有が可能となる。このオンライン検索データベースには現在までに100件以上の主要な医薬品関連の特許異議申し立てに関する技術文書を掲載。今回改良版コラボレーション・ツールとより簡便な検索を可能にしている。詳細はpatentoppositions.orgから。
MSFは毎年、数百万人に予防接種を実施。はしか、髄膜炎、黄熱病やコレラを始めとした病気の流行対応のほか、母子保健医療活動を行っている場所での定期予防接種を通じて行っている。2014年だけで、390万回のワクチンと免疫製剤を提供した。MSFは過去に、肺炎予防用にPCVをこの購入し緊急援助活動で使用している。MSFはPCVを始めとしたワクチンの利用を拡大しており、特に定期予防接種活動の改善に注力するほか、人道危機の状況下で使用されるワクチンのパッケージを拡大している。また中央アフリカ共和国、エチオピア、南スーダン、ウガンダなどで、緊急事態に巻き込まれた子どもを対象としたPCV予防接種も実施している。
2015年、MSFはワクチンの価格に関する世界規模のキャンペーン「A FAIR SHOT(「適正価格の予防接種」の意)」を開始。ファイザー社とグラクソ・スミスクライン社に対して、肺炎球菌ワクチンの価格を全3回接種で子ども1人あたり5米ドル(569円)に引き下げるよう求めている。詳細はafairshot.orgから。