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武田科学振興財団、2019年度「武田医学賞」受賞者を決定

公益財団法人 武田科学振興財団(理事長 飯澤 祐史、所在地 大阪市中央区)は、2019年度「武田医学賞」を下記の2氏に贈呈することを決定しました。
贈呈式を11月12日(火)午後6時よりオークラ東京 プレステージタワーにおいて開催し、受賞者には賞状、賞牌、楯ならびに1件につき副賞2,000万円を贈呈します。
「武田医学賞」は、医学界で顕著な業績を挙げ、医学ならびに医療に優れた貢献を果たされた研究者に贈呈されるものです。1954年に武田薬品工業株式会社の創業170周年記念事業の一つとして設けられ、1963年の当財団設立とともに財団事業として継承し、本年度で63回目を迎えます。「武田医学賞」の受賞者数は、本年度を含めて130名となります。

●影山 龍一郎 博士 (かげやま りょういちろう)
京都大学 教授 (62歳)
受賞テーマ:神経幹細胞の制御機構の解明と制御技術の開発

●岩井 一宏 博士 (いわい かずひろ)
京都大学 教授 (60歳)
受賞テーマ:直鎖状ユビキチン鎖の発見とその病態生理学研究


【影山 龍一郎 博士 略歴】
学歴・職歴
1982年 3月 京都大学医学部 卒業
1982年 4月 京都大学大学院医学研究科博士課程 入学
1986年 3月 同上修了 医学博士取得(京都大学)
1986年 4月 京都大学大学院医学研究科 研修員
1986年 6月 米国国立衛生研究所癌研究所 客員研究員
1989年 12月 京都大学医学部附属免疫研究施設 助手
1991年 12月 京都大学医学部附属免疫研究施設 助教授
1995年 4月 京都大学大学院医学研究科生体情報科学講座 助教授
1997年 12月 京都大学ウイルス研究所(現ウイルス・再生医科学研究所)教授
〜現在に至る

2002年 4月〜2004年 3月 奈良先端科学技術大学院大学 教授 併任
2006年 4月〜2010年 3月 京都大学ウイルス研究所 所長 併任
2013年 2月〜2019年 3月 京都大学物質―細胞統合システム拠点 副拠点長 併任

受賞歴
1994年 9月 日本生化学会奨励賞
2015年 4月 文部科学大臣表彰 科学技術賞研究部門
2016年 7月 時実利彦記念賞
2018年 3月 第49回内藤記念科学振興賞
2018年 11月 紫綬褒章

影山 龍一郎 博士 研究業績
受賞テーマ:神経幹細胞の制御機構の解明と制御技術の開発

研究業績:
影山 龍一郎博士は、哺乳動物の神経発生の分子機構、特に神経幹細胞の維持と分化機構を世界に先駆けて明らかにした。分化決定因子であるプロニューラル因子群やHes因子群を発見し、両者間の拮抗的作用によって神経幹細胞の増殖およびニューロンやグリア細胞の分化が制御されることを示した。また、神経幹細胞では複数の分化決定因子はお互いに拮抗し合いながら発現が振動すること、一方、分化時にはどれか1種類の分化決定因子が選ばれて持続発現することを発見した。さらに、光遺伝学的技術を使ってニューロン分化決定因子の発現を振動させると神経幹細胞の増殖を、持続させるとニューロン分化を活性化することを見出した。
したがって、分化決定因子の発現が振動すると神経幹細胞を維持し、持続すると分化を誘導することを明らかにした。このように、遺伝子機能における発現動態の重要性に関する原理を初めて明らかにするとともに、神経幹細胞の増殖と分化を制御する光遺伝学的技術を確立した。この技術を応用して成体脳に残っている休眠状態の神経幹細胞を活性化し、その増殖やニューロン分化の制御にも成功した。このように、将来の脳・神経再生に向けた基盤技術の開発に大きな成果をあげた。


【岩井 一宏 博士 略歴】
学歴・職歴
1985年 3月 京都大学医学部 卒業
1985年 6月 神戸市立中央市民病院 内科研修医
1987年 4月 京都大学大学院 医学研究科 入学
1992年 3月 同 修了 (京大博(医学))
1992年 10月 京都大学医学部 付設免疫研究施設免疫生物学助手
1993年 4月 米国国立保健研究所(NIH)研究員
1996年 3月 京都大学大学院医学研究科感染・免疫学助手
1997年 6月 京都大学大学院医学研究科感染・免疫学助教授
1999年 4月 京都大学大学院生命科学研究科認知情報学助教授
2001年 7月 大阪市立大学大学院医学研究科分子制御教授
2008年 4月 大阪大学大学院生命機能研究科代謝調節学・大学院医学系研究科医化学教授
2012年 4月 京都大学大学院医学研究科細胞機能制御学教授
2018年 10月 京都大学大学院医学研究科長・医学部長 (兼)

受賞歴
2015年 11月 日本医師会医学賞
2017年 11月 持田記念学術賞

岩井 一宏 博士 研究業績
受賞テーマ:直鎖状ユビキチン鎖の発見とその病態生理学研究

研究業績:
ユビキチン修飾系はタンパク質分解と密接に関連して研究が推進され、2004年にユビキチン依存性タンパク質分解系の発見者らにノーベル化学賞が授与されている。しかし、現在では分解のみならず、多様な様式でタンパク質の機能を制御する可逆的な翻訳後修飾系であることが知られている。ユビキチン修飾系はユビキチンが数珠状に連なったポリマーであるユビキチン鎖を結合することでタンパク質の機能を制御する。細胞内には様々なユビキチン鎖が存在しているが、出芽酵母などを用いた遺伝学的な解析などから、ユビキチン鎖はユビキチンの分子内に7個あるリジン残基のいずれかを介してのみ形成されると考えられていた。
しかし、岩井博士は生化学的な手法を用いて独力で非常にユニークなN末端のメチオニンを介する直鎖状ユビキチン鎖とその唯一の複合体型の生成酵素であるLUBAC(ルーバック)ユビキチンリガーゼを発見した。
岩井博士はまず直鎖状ユビキチン鎖とLUBACの生理的・病理的役割の解析の研究を推進し、LUBACによって生成される直鎖状ユビキチン鎖はシグナル伝達系として働き、免疫応答、炎症、がん化などに関与する転写因子であるNF-κBの活性化、細胞死抑制において中心的な役割を果たすことを明らかにした。
さらに、LUBACサブユニットの1つであるSHARPINを欠損した自然変異マウスは、LUBACが不安定化して減少することで自己炎症性疾患と免疫不全を併発することを示した。この発見はヒトにおいてLUBACの他の2つのサブユニットであるHOIL-1L、HOIPの変異が自己炎症性症候群様と免疫不全を示す先天性疾患の原因となることの発見に繋がった。加えて、LUBACの機能亢進によって惹起される直鎖状ユビキチン鎖の生成亢進が、頻度が高く、治療抵抗性の悪性リンパ腫である活性化B細胞型びまん性大細胞性Bリンパ腫(ABC DLBCL)の発症に関わり、LUBACリガーゼの機能を抑制することでABC DLBCL細胞株の増殖を抑制することを示した。
直鎖状ユビキチン鎖、LUBACユビキチンリガーゼ研究は想定外の発展を遂げ、炎症、発がん、感染などに関与することが明確となりつつある。このように、岩井博士の業績は我が国が世界に誇る真に独創的な研究成果の典型として高く評価できる。


【FAQ】
Q.武田医学賞は国際賞ですか
A.武田医学賞は日本人研究者を対象に贈呈しています。国際賞ではありません。

Q.武田医学賞の選考方法について
A.財団の理事・評議員等の推薦をもとに、選考委員会で審議・決定します。選考委員長は岸本 忠三 先生(元大阪大学 総長)にお願いしています。その他の選考委員については非公表としています。

Q.武田科学振興財団について
A.当財団は、科学技術の研究を助成振興し、我が国の科学技術および文化の向上発展に寄与することを目的とし、武田薬品工業株式会社からの寄附を基金として1963年に設立されました。
「武田医学賞」(褒賞事業)のほか、研究助成、奨学助成(外国人留学助成、医学部博士課程奨学助成、海外研究留学助成)、国際シンポジウム開催、杏雨書屋(きょうう しょおく、本草医書等の所蔵・管理等)に関する事業を行っています。
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