世界遺産「軍艦島」の建築群を維持する研究を発表〜日本最古の鉄筋コンクリート構造物の崩壊を食い止める補修材料・工法を提案〜
[15/07/15]
提供元:@Press
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日本建築学会の研究チームが長崎県長崎市の軍艦島(端島)における鉄筋コンクリート造(RC造)建築物の補修について2011年から現地調査を行いながら取り組んできた研究を、芝浦工業大学(東京都江東区/学長 村上雅人)工学部建築学科 濱崎仁准教授が発表しました。※
7月5日、軍艦島の一部が「明治日本の産業革命遺産」としてユネスコ世界文化遺産に登録されましたが、同島に現存する日本最古といわれるRC造集合住宅を含めた建築群は、長い年月に渡って人の手が入らず塩害や風雨にさらされる厳しい環境下に置かれたため、著しく劣化しています。鉄筋やコンクリートの老朽化による建築物の崩壊は刻々と進んでいますが、このように損傷が進んだ歴史的RC造建築物の保存は世界的にも例がなく、非常に困難な課題となっています。濱崎准教授は以上を解決するべく、歴史的価値を損なわずに経年の変化を抑えるコンクリート建築物補修工法として、『亜硝酸リチウム』を用いて鉄筋の腐食を治療する有効性を検討しました。
※ 7月14日、JCIコンクリート工学年次大会2015(主催:公益社団法人 日本コンクリート工学会)にて、濱崎准教授が論文「亜硝酸リチウム含浸による経年構造物の補修工法に関する屋外暴露試験」を発表しました。
■歴史的建造物を保存する難しさと補修仕様
歴史的建造物の保存・修復には「オーセンティシティ(真正性)の確保」という大前提があり、以下の要件が課されています。
(1)当時と同じ材料・工法を用いること
(2)外観をできるだけ変えないこと
(3)外観が変わる場合にあってはオリジナルと明確に区別ができ可逆性を損なわない(元に戻せること)
このうち、軍艦島の建築物群保存においては物理的に(1)が不可能なため、(2)並びに(3)の要件を満たす必要があります。
■「コンクリート崩壊の主因=鉄筋の腐食」を抑制
― 濱崎准教授の研究について ―
コンクリートに含まれるセメントは高アルカリ性であるため、鉄筋が酸素や塩分に触れることによる酸化(=錆びること)を抑制しています。しかし、年月を経てコンクリートの中性化や塩化物の浸透が進むと鉄筋の腐食が進行し、鉄筋が錆びて膨張することでコンクリートの剥離や剥落が生じます。
このため濱崎准教授らは、コンクリート崩壊の根本原因を治療する「鉄筋の腐食抑制」に主眼を置いてさまざまな補修材料・工法を施した試験体を作製し、現地で暴露実験を行いました。そこでこれらの試験体について鉄筋の腐食抑制効果や補修材料の浸透状況などを評価して、高経年、厳しい島内環境および内在する塩分量に対応できる、工法や材料の要件など適切な補修方法を提案しています。
以上の実験結果から、当時の打放しコンクリート同様の外観の色や形状を変えずに鉄筋の腐食を食い止めることができる防錆剤“亜硝酸リチウム(LiNO2)”のコンクリートへの含浸および注入工法に着目し、軍艦島のRC造建築物における補修工法として、その有効性や必要量等を確認しました。
■今後の展望
本研究は現在、軍艦島で崩壊寸前の建築物を維持し後世に残すのに有力な補修方法の1つとして検討が進められています。ここでの効果が実証されれば、今後増えゆくことが予想される歴史的なRC造建築物の保存・修復だけでなく、一般の近代建築物や社会インフラ全体の長寿命化にも役立つことが期待されています。
■軍艦島調査の経緯
2011年に長崎市より日本建築学会に対して、長崎市端島(軍艦島)のコンクリート構造物群について、劣化・損傷状況の評価や将来予測、補修方法の提案に関する調査が委託されました。これを受けて同学会では「軍艦島コンクリート構造物劣化調査ワーキンググループ(WG)」を設置し、劣化外力、劣化状況、構造性能、補修方法等検討のための調査などを実施。濱崎准教授は当初から同WGのメンバーとして軍艦島の補修分野の調査と研究に携わってきました。本研究はその一環として行われたもので、長崎市からの特別な許可を得て実施しています。
■研究者プロフィール
濱崎仁(はまさき ひとし)准教授
[所属]
2014年〜 芝浦工業大学 工学部 建築学科 准教授
同 大学院理工学研究科 修士課程建設工学専攻
同 大学院理工学研究科 博士課程地域環境システム専攻
[専門分野]
建築材料(コンクリート工学)、建築施工、建物診断、補修・改修
[研究テーマ]
・コンクリートの耐久性評価・診断
・コンクリート構造物の非破壊試験
・コンクリート構造物の補修・改修技術
[授業科目]
構造材料と工法、仕上げ材料と構法、建築施工計画、建築材料施工実験
[教育研究活動]
建築に使われる材料やその施工方法を対象として、より強く、美しく、長持ちする建物を造るための研究をしています。また、既存の建物を長く活用していくための建物診断技術や補修・改修技術に関する国内外の建物調査・分析を行い、ストック化社会の実現に向けた研究を行っています。
[略歴]
1970年10月 長崎県生まれ
出身大学:九州大学 工学部 建築学科
最終学歴:九州大学 大学院 人間環境学研究科空間システム専攻 博士(工学)
職歴:1996年〜2001年 建設省建築研究所 研究員
2001年〜2014年 独立行政法人建築研究所 主任研究員
[所属学会]
日本建築学会、日本コンクリート工学会、日本建築仕上学会、日本非破壊検査協会、日本火災学会
学校法人 芝浦工業大学: http://www.shibaura-it.ac.jp/
7月5日、軍艦島の一部が「明治日本の産業革命遺産」としてユネスコ世界文化遺産に登録されましたが、同島に現存する日本最古といわれるRC造集合住宅を含めた建築群は、長い年月に渡って人の手が入らず塩害や風雨にさらされる厳しい環境下に置かれたため、著しく劣化しています。鉄筋やコンクリートの老朽化による建築物の崩壊は刻々と進んでいますが、このように損傷が進んだ歴史的RC造建築物の保存は世界的にも例がなく、非常に困難な課題となっています。濱崎准教授は以上を解決するべく、歴史的価値を損なわずに経年の変化を抑えるコンクリート建築物補修工法として、『亜硝酸リチウム』を用いて鉄筋の腐食を治療する有効性を検討しました。
※ 7月14日、JCIコンクリート工学年次大会2015(主催:公益社団法人 日本コンクリート工学会)にて、濱崎准教授が論文「亜硝酸リチウム含浸による経年構造物の補修工法に関する屋外暴露試験」を発表しました。
■歴史的建造物を保存する難しさと補修仕様
歴史的建造物の保存・修復には「オーセンティシティ(真正性)の確保」という大前提があり、以下の要件が課されています。
(1)当時と同じ材料・工法を用いること
(2)外観をできるだけ変えないこと
(3)外観が変わる場合にあってはオリジナルと明確に区別ができ可逆性を損なわない(元に戻せること)
このうち、軍艦島の建築物群保存においては物理的に(1)が不可能なため、(2)並びに(3)の要件を満たす必要があります。
■「コンクリート崩壊の主因=鉄筋の腐食」を抑制
― 濱崎准教授の研究について ―
コンクリートに含まれるセメントは高アルカリ性であるため、鉄筋が酸素や塩分に触れることによる酸化(=錆びること)を抑制しています。しかし、年月を経てコンクリートの中性化や塩化物の浸透が進むと鉄筋の腐食が進行し、鉄筋が錆びて膨張することでコンクリートの剥離や剥落が生じます。
このため濱崎准教授らは、コンクリート崩壊の根本原因を治療する「鉄筋の腐食抑制」に主眼を置いてさまざまな補修材料・工法を施した試験体を作製し、現地で暴露実験を行いました。そこでこれらの試験体について鉄筋の腐食抑制効果や補修材料の浸透状況などを評価して、高経年、厳しい島内環境および内在する塩分量に対応できる、工法や材料の要件など適切な補修方法を提案しています。
以上の実験結果から、当時の打放しコンクリート同様の外観の色や形状を変えずに鉄筋の腐食を食い止めることができる防錆剤“亜硝酸リチウム(LiNO2)”のコンクリートへの含浸および注入工法に着目し、軍艦島のRC造建築物における補修工法として、その有効性や必要量等を確認しました。
■今後の展望
本研究は現在、軍艦島で崩壊寸前の建築物を維持し後世に残すのに有力な補修方法の1つとして検討が進められています。ここでの効果が実証されれば、今後増えゆくことが予想される歴史的なRC造建築物の保存・修復だけでなく、一般の近代建築物や社会インフラ全体の長寿命化にも役立つことが期待されています。
■軍艦島調査の経緯
2011年に長崎市より日本建築学会に対して、長崎市端島(軍艦島)のコンクリート構造物群について、劣化・損傷状況の評価や将来予測、補修方法の提案に関する調査が委託されました。これを受けて同学会では「軍艦島コンクリート構造物劣化調査ワーキンググループ(WG)」を設置し、劣化外力、劣化状況、構造性能、補修方法等検討のための調査などを実施。濱崎准教授は当初から同WGのメンバーとして軍艦島の補修分野の調査と研究に携わってきました。本研究はその一環として行われたもので、長崎市からの特別な許可を得て実施しています。
■研究者プロフィール
濱崎仁(はまさき ひとし)准教授
[所属]
2014年〜 芝浦工業大学 工学部 建築学科 准教授
同 大学院理工学研究科 修士課程建設工学専攻
同 大学院理工学研究科 博士課程地域環境システム専攻
[専門分野]
建築材料(コンクリート工学)、建築施工、建物診断、補修・改修
[研究テーマ]
・コンクリートの耐久性評価・診断
・コンクリート構造物の非破壊試験
・コンクリート構造物の補修・改修技術
[授業科目]
構造材料と工法、仕上げ材料と構法、建築施工計画、建築材料施工実験
[教育研究活動]
建築に使われる材料やその施工方法を対象として、より強く、美しく、長持ちする建物を造るための研究をしています。また、既存の建物を長く活用していくための建物診断技術や補修・改修技術に関する国内外の建物調査・分析を行い、ストック化社会の実現に向けた研究を行っています。
[略歴]
1970年10月 長崎県生まれ
出身大学:九州大学 工学部 建築学科
最終学歴:九州大学 大学院 人間環境学研究科空間システム専攻 博士(工学)
職歴:1996年〜2001年 建設省建築研究所 研究員
2001年〜2014年 独立行政法人建築研究所 主任研究員
[所属学会]
日本建築学会、日本コンクリート工学会、日本建築仕上学会、日本非破壊検査協会、日本火災学会
学校法人 芝浦工業大学: http://www.shibaura-it.ac.jp/