日本の脆弱な航空機および艦艇の地上防護態勢【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】
[20/08/31]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 経済総合
8月25日、河野防衛大臣は定例記者会見において、「航空自衛隊(以下「空自」という)は、戦闘機用防空壕の「掩体」または、「バンカー」が不足しているため、敵からの攻撃に対して脆弱である」と述べた。「『空自15分全滅説』という指摘があるが、防衛省としてこの指摘をどう受け止めているのか」という記者からの質問に対しては、「指摘の内容は、まだ把握していない。なるべく脆弱性は対応する必要がある」と回答している。
報道によれば、地上に駐機してある航空機は、ミサイル、手りゅう弾、ドローンなどによる攻撃に非常に脆弱で、いとも簡単に破壊することができるという。例えば、1941年には第2次世界大戦の独ソ戦において、ドイツ空軍の奇襲攻撃によりソ連空軍機2,000機が地上で撃破された。1967年の第3次中東戦争では、エジプト空軍機450機がイスラエル空軍に地上で破壊されたという事例もある。いくら最新鋭で高性能、高額な戦闘機を導入しても、航空基地の防護態勢が整っていなければ、一瞬にして航空機が破壊されてしまう。同様に空自AWACS(早期警戒管制機)、輸送機、空中給油機、海上自衛隊(以下「海自」という)の哨戒機の防護も重要である。
空自の掩体壕は、三沢基地で2個飛行隊40機分、千歳基地及び小松基地において1個飛行隊20機分が確保されているだけで、その他の7つの基地では全くの未整備である。一方、中国大陸に対峙した台湾空軍、韓国空軍及び在韓アメリカ軍戦闘機は、ほぼ完全に掩体運用を行っている。航空機運用においては、滑走路の防護も重要である。格納庫や掩体壕のみならず、滑走路に大きな被害を受けると航空機の運用ができなくなってしまう。ドイツ、スウェーデン、オーストリアなどの欧州諸国やアジアにおいても韓国、北朝鮮、台湾、中国などは、高速道路の代替飛行場運用を実施している。飛行場が被害を受けた際に、予め指定されている高速道路の区間を滑走路として使用し、道路脇にはエプロンエリアも併設して、機材の蓄積や複数機に対する柔軟な支援ができる態勢を整えている。空自は、北海道において計根別飛行場と八雲飛行場を代替飛行場に指定しているが、全国規模での代替飛行場の運用態勢になっていない。
海自艦艇部隊も港湾に停泊している際には、2つの脅威に晒されている。1つは停泊地周辺からのテロ攻撃である。横須賀、呉、佐世保など主要な艦艇基地は民有地に隣接しており、周辺の高台などから、艦艇の出入港・停泊など港湾内の状況を容易に観察することができる。携行式ミサイルやドローンでの攻撃に対して防護態勢が全く整っていない。港湾フェンスの大型化や内部の非可視化措置をとらなければ、最新鋭のイージス艦であっても出港前に被害を受ける可能性がある。
我が国では1995年のオウム真理教による「地下鉄サリン事件」、連合赤軍による「あさま山荘事件」など、宗教団体、過激派による大規模なテロ事件しか発生していないため、緊張感に欠けた対応になってしまっている。公安警察や公安調査庁からの情報により、警戒態勢を強化し、必要であれば緊急出港により危険な港湾から避退するなどの応急対応を取る必要があろう。
2つ目の脅威は、敵対国からのミサイル攻撃である。空自は、1年365日防空態勢を固め、ミサイル発射の兆候など情報収集等にも全力を挙げている。発射地点にもよるが10分以内に弾着することを考えると、完璧なミサイルディフェンスシステムの構築、迅速なミサイル発射の兆候や情報の入手が、基地防護に重要になってくる。一部の報道によると、「日米両政府は、2020年代半ばまでに日米で低軌道の小型偵察衛星を1,000機超展開し、中露、北朝鮮の新型ミサイルを探知・追尾し、迎撃する構想がある」とのことであり、日米の緊密な連携と実効性のある態勢構築を期待したい。
我が国では、第二次世界大戦中66隻あった戦艦、空母、巡洋艦のうち8隻を空襲により喪失した歴史がある。令和元年度防衛白書の「第3部わが国防衛の現状と課題、第1章第1節主要作戦における自衛隊の能力」では、直接侵略の様相として航空戦力による侵攻の可能性を高く見積もっており、そのための早期警戒、要撃要領に重点が置かれた防衛構想になっている。防衛正面の体制や装備の取得、維持のために必要な発想であるが、テロやゲリラ戦といった非正規戦での基地攻撃に対する防護も決して怠ってはならない。
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報道によれば、地上に駐機してある航空機は、ミサイル、手りゅう弾、ドローンなどによる攻撃に非常に脆弱で、いとも簡単に破壊することができるという。例えば、1941年には第2次世界大戦の独ソ戦において、ドイツ空軍の奇襲攻撃によりソ連空軍機2,000機が地上で撃破された。1967年の第3次中東戦争では、エジプト空軍機450機がイスラエル空軍に地上で破壊されたという事例もある。いくら最新鋭で高性能、高額な戦闘機を導入しても、航空基地の防護態勢が整っていなければ、一瞬にして航空機が破壊されてしまう。同様に空自AWACS(早期警戒管制機)、輸送機、空中給油機、海上自衛隊(以下「海自」という)の哨戒機の防護も重要である。
空自の掩体壕は、三沢基地で2個飛行隊40機分、千歳基地及び小松基地において1個飛行隊20機分が確保されているだけで、その他の7つの基地では全くの未整備である。一方、中国大陸に対峙した台湾空軍、韓国空軍及び在韓アメリカ軍戦闘機は、ほぼ完全に掩体運用を行っている。航空機運用においては、滑走路の防護も重要である。格納庫や掩体壕のみならず、滑走路に大きな被害を受けると航空機の運用ができなくなってしまう。ドイツ、スウェーデン、オーストリアなどの欧州諸国やアジアにおいても韓国、北朝鮮、台湾、中国などは、高速道路の代替飛行場運用を実施している。飛行場が被害を受けた際に、予め指定されている高速道路の区間を滑走路として使用し、道路脇にはエプロンエリアも併設して、機材の蓄積や複数機に対する柔軟な支援ができる態勢を整えている。空自は、北海道において計根別飛行場と八雲飛行場を代替飛行場に指定しているが、全国規模での代替飛行場の運用態勢になっていない。
海自艦艇部隊も港湾に停泊している際には、2つの脅威に晒されている。1つは停泊地周辺からのテロ攻撃である。横須賀、呉、佐世保など主要な艦艇基地は民有地に隣接しており、周辺の高台などから、艦艇の出入港・停泊など港湾内の状況を容易に観察することができる。携行式ミサイルやドローンでの攻撃に対して防護態勢が全く整っていない。港湾フェンスの大型化や内部の非可視化措置をとらなければ、最新鋭のイージス艦であっても出港前に被害を受ける可能性がある。
我が国では1995年のオウム真理教による「地下鉄サリン事件」、連合赤軍による「あさま山荘事件」など、宗教団体、過激派による大規模なテロ事件しか発生していないため、緊張感に欠けた対応になってしまっている。公安警察や公安調査庁からの情報により、警戒態勢を強化し、必要であれば緊急出港により危険な港湾から避退するなどの応急対応を取る必要があろう。
2つ目の脅威は、敵対国からのミサイル攻撃である。空自は、1年365日防空態勢を固め、ミサイル発射の兆候など情報収集等にも全力を挙げている。発射地点にもよるが10分以内に弾着することを考えると、完璧なミサイルディフェンスシステムの構築、迅速なミサイル発射の兆候や情報の入手が、基地防護に重要になってくる。一部の報道によると、「日米両政府は、2020年代半ばまでに日米で低軌道の小型偵察衛星を1,000機超展開し、中露、北朝鮮の新型ミサイルを探知・追尾し、迎撃する構想がある」とのことであり、日米の緊密な連携と実効性のある態勢構築を期待したい。
我が国では、第二次世界大戦中66隻あった戦艦、空母、巡洋艦のうち8隻を空襲により喪失した歴史がある。令和元年度防衛白書の「第3部わが国防衛の現状と課題、第1章第1節主要作戦における自衛隊の能力」では、直接侵略の様相として航空戦力による侵攻の可能性を高く見積もっており、そのための早期警戒、要撃要領に重点が置かれた防衛構想になっている。防衛正面の体制や装備の取得、維持のために必要な発想であるが、テロやゲリラ戦といった非正規戦での基地攻撃に対する防護も決して怠ってはならない。
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