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アーキテクツS Research Memo(8):IT技術を競争力の源泉とする「攻めのIT経営」

注目トピックス 日本株
■経営戦略

(2) 2016年3月期の営業施策

成約率向上のために必要なことは、ボリュームゾーンの価格帯の顧客を満足させる提案を可能にすることだ。地方の建設会社や工務店おける戸建て住宅の建設コストに占める主要な項目は建材費と労務費になる。建設業界の人手不足の状況から、必然的に建材の仕入コストの削減が解決策となる。

○コスト競争力の向上 ? 本部一括仕入れと最新積算システムの融合でコスト競争力を強化
建材仕入コストの大幅な削減は、同社が建材の一次代理店となることで実現する。ある大手住宅設備・建材メーカーにとっては、30数年ぶりの一次代理店の新規獲得になる。メーカーとしては、少子高齢化と人口減少で国内市場の縮小が見込まれるなか、成長ポテンシャルの高い同社と取引することにやぶさかでない。業界では前例ができれば、多くのメーカーが追随することになる。同社の仕入れ価格は、上代の約半分になる。個々の建設会社や工務店が自前で仕入れるのでは、望むべくもない水準である。同社が一般的な卸売のマージンを乗せても、加盟建設会社への仕入コストの削減効果は大きい。

アーキテクツ・スタジオ・ジャパン<6085>のねらいは、坪80万円まで高騰してしまった建築コストを坪60万円まで引き下げることだ。ボリュームゾーンの顧客の大半は、延べ床面積が約40坪の建屋を希望している。建設コストが坪60万円に下がれば、住宅単価は2,500万円に収まり、金額で見送っていた顧客を呼び戻すことができる。

同社の「PACKAGE 2015」で取り扱う住宅設備機器及び建材は、建築家が許容する品目に限定している。カバーするものの主体は、値段が張る住宅設備機器やコスト削減効果の大きい床材、内装材、外装材、屋根材などの建材である。ボリュームゾーンの住宅で扱える素材は限定されるものの、建築家ごとにデザイン・コンセプトが異なるうえ、顧客(施主)の希望を具現化することから、一品的な注文住宅を提案できる余地は十分ある。建築家にとって顧客に設計が気に入ってもらえても、最後の積算で予算オーバーのコストクラッシュが発生し、失注するリスクが抑えられる。

加盟建設会社が顧客と商談を進めるうえで負担となっているのが、見積もり・積算業務の繰り返しである。同社が提供する積算ソフトウェア「COSNAVI」の利用により、積算に要した時間は従来の手計算による2〜3週間から1〜2時間に短縮された。さらに、今回の「PACKAGE 2015」と「COSNAVI template」を融合させたシステムでは、積算時間が1〜2分に縮まり、大幅なスピードアップになる。本部では、加盟店による新システムの利用を促すため、大規模な研修を行う予定だ。

顧客にとっては、予算の許す範囲で自分の希望を具現化できる。まず、「PACKAGE 2015」に用意された「和テイスト」「カジュアル」など15のパターンから好みのものを選び、それをベースに設計することになる。それらのパターンで建てられた住宅の過去の積算情報がデータベース化されており、間取りや大きさなどを入力すると、新システムは顧客の目の前で直ちに積算作業を終了する。「PACKAGE 2015」に登録されている住宅設備や建材を選べば、“お得価格”の見積もりになり、予算内に収まるかどうかのシミュレーションが速やかにできる。

所要時間が極めて短いため、建設会社は顧客とパソコンの画面を見ながら、建築コストの積算作業を繰り返し行える。積算は、使用する部材の単価と数量から構成されるため、見積もりの見える化が実現でき、顧客からの信頼を得やすくなる。最後の建築家との打ち合わせでコストクラッシュによる契約不成立を回避できることになるため、工事会社だけでなく建築家にとってもありがたい。

従来のシステムでは、建設会社が行う積算作業の中で顧客との間で既決と未決の区別があいまいだった。新システムは、項目別に明確化されるため、建築家と施主間の打合せがよりスムーズにできることになる。ASJが新たに整備したプラットホームを積極的に活かして、ヒットを飛ばす建築家が出現する可能性がある。

○提案力の強化 ? 2名の建築家からの同時提案により成約率をアップ
コストクラッシュの他に成約率を抑制する要因として、プランの選択肢が限定されてしまうことが挙げられる。顧客(会員)は、プランニングコースでは、通常1名の建築家を選び、プラン提案を受ける。建築家との相性の問題やプランに納得がいかなければ、建築家の変更ができるが、実際には新たに1から始めるよりも、他社に流れてしまうケースが多い。

同社は、2014年6月から「何名かの建築家のプランを比較して決めたい」というこだわりのニーズに対応する新しいサービス「プロポーザルコース」を始めた。新サービスは、建築予算3,000万円以上に限定され、1回に3名の建築家のプランをコンペにかける。1回につき10万円(税別)の料金がかかる。このサービスを踏まえ、2015年4月から、同時に2名の建築家を指名し、提案を比較検討し、1名を選ぶ「プランニングコースDUAL」をスタートした。料金は無料だ。1人の建築家が複数のプランを用意することがあるため、2名の建築家から比較検討できる2つ以上の提案を受けることになる。これによる顧客満足度が高まり、成約に結び付く確率が上がると期待している。

同社の専門スタッフは、プランニングコースDUALでは会員の記入した「家づくりシート」「ご予算計画書」「現地情報」「スケジュール」などをベースに、計画に合う建築家を推薦する。また、顧客が、指名した建築家のプランとコストを講評する際も参加する。従来、同社の専門スタッフは、イベントのサポート役にとどまっていたが、今後は、専門知識を活かして会員へのコーチング的な役割を高める。DUALの機能がスムーズに展開され、顧客満足度が向上し、成約率が上がるよう関与を強める。同社は、収益源が建築家や加盟建設会社などの協業者の事業活動に依存しており、住宅市場が悪化したときの業績管理が難しかった。しかし、DUALのようにコミットメントを高めることで、業績予想の達成確度を向上させる。

○収益源の多様化 ? 積算ソフトウェア「COSNAVI」の外販
同社は、優位性の高いソフトウェアの外販を検討している。自社開発の積算ソフトウェア「COSNAVI」は、市場での評価が高く、加盟建設会社以外からの利用希望が多い。現在、クラウド上での利用と課金システムを検討している。積算の集計時や見積書PDFのプリントアウト時に課金するようなビジネスモデルを想定している。

加盟工事会社にとっては、本部の一括仕入れの機能を活用できるため、積算ソフトウェアの外部利用が進んでも、コスト面での優位性は保てる。

○収益源の多様化 ? 安定収益源の多様化
同社は、加盟建設会社から月額10万円の加盟料を徴収している。本部の活動として、宣伝広告やASJアカデミーの会員向けに月刊情報誌を無料で配布している。加盟建設会社は、積算ソフトウェアの利用や研修も受けられる。本部として、完成保証制度も整備している。同様の月額固定収入を生むビジネスモデルを、住宅設備機器及び建材メーカーに対して行うことを計画している。メーカーが渇望しているものは、消費の最前線で生まれる情報になる。メーカーは、メーカー出荷や卸売の販売情報を入手できても、消費者が自社製品を他社のどの製品と比較し、採用・不採用としたのか、どのような価格帯やデザインの住宅に採用されることが多いかなどの情報の入手は困難だ。同社のITシステムであれば、COSNAVI上で出てくる情報を収集し、提供することが可能だ。メーカー20社が、同社の情報提供サービスへの参加の意向を示している。このような継続的な収入が固定費をカバーするようになれば、収益性の安定が増すことになろう。

○メディアミックス ? リアルとバーチャルで会員数を増加
ASJアカデミーのWeb会員が増加している。2015年4月単月の入会者は約100名。5月は120名に達する勢いだ。プランニングコースに進む場合は、同社がWeb入会者を地元の加盟工事会社に紹介する形になる。イベントなどで加盟建設会社が受け付けた人を含め、同社スタッフがすべての入会者に電話を入れるフォローアップ体制を採っている。

加盟工事会社が主催するイベントの集客をサポートするため、日本経済新聞に全15段の広告を年6回打つことを予定している。Webのモニタリングも強化する。リアルとバーチャルのメディアミックスにより、イベントに参加し、会員と建築家が出会えるようにする。

○本部機能の拡充 ? 「攻めのIT経営」による競争優位性
上場メリットとして、信用力の向上を享受し、それを一括仕入に帰結させた。知名度も向上し、採用面でも好影響が出ている。いままでは、人的リソースの制限から、サポート的役割が大きく、自社の業績が建築家や加盟建設会社の活動に左右されていた。2015年3月期は、市場全体の需要の落ち込みや建材費高騰の中、同社ビジネスモデルの弱い部分が露呈した。2016年3月期以降は、成約率向上のために積極的にコミットメントを高め、コーチング的な役割を増やす。全体のバリューチェーンの中で弱い部分があれば、同社が乗り出して解決するなど、業績拡大のため本機能を拡充している。同社プラットホームのコア・コンピタンスは先進的な積算システムであり、IT利活用が競争優位性や新サービスを生み出す源泉となっている。同社はそれを武器に「攻めのIT経営」を行っている。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 瀬川 健)



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