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サイネックス Research Memo(7):『わが街事典』は再版需要により成長が継続

注目トピックス 日本株
■中長期の成長戦略

2. 出版事業の成長戦略
(1) 『わが街事典』の成長戦略
『わが街事典』事業はサイネックス<2376>の出版事業セグメントに属しており、同社の中核事業だ。『わが街事典』(出版物の名称としては「○○市便利帳」等となることも多い)は自治体ごとに制作され、製本された上で当該自治体の全世帯に無料配布される地域行政情報誌だ。内容は当該自治体についての歴史や文化などの知識やレジャー・イベント情報などから、最も重要な行政情報(各種制度や手続き・窓口の案内など)や防災情報、医療機関情報、交通機関の情報などが網羅されたものとなっている。近年ではジャンル別の行政情報誌の発行も増えている。

『わが街事典』の発行事業は、同社と当該自治体の官民協働事業であり、発行は同社と自治体の共同発行という体裁となる。地方創生プラットフォーム構想において公共の領域に位置付けられているのはここに由来する。自治体にとっては資金負担がないゼロ予算事業であり、行政情報の提供などで協力する。一方、同社は『わが街事典』の広告スペースを各種事業者に販売し、その広告収入が同社の収入となる。同社の業務は、『わが街事典』の企画・制作・広告枠の販売及び各戸への配本ということになる。当該地域の事業者を広告主とすることで、自治体、住民、事業者の3者を“三方よし”の関係でつなぐことになる。同社は “三方よし”実現を徹底的に追求し、地方再生のプラットフォームの役割を果たしている。

『わが街事典』の発行実績は2017年9月末時点で734自治体に上っている。日本の市町村(東京23区を含む)数は1,741(2017年10月現在)すべてが協働事業の対象となるが、広告主となる事業者数などがボトルネックとなるため、弊社では市区部と一定規模の人口を有する町村を合わせた900〜1,000自治体が現実的なターゲットと推測している。この見方は従来から変わっていない。

全体のパイが900〜1,000自治体の中で、既に750近い自治体と実績を積み重ねてきているが、今後の成長余地は依然として大きいと弊社では考えている。理由は更新需要、すなわち再版需要があるためだ。更新サイクルは自治体によっても異なるが3年〜5年が一般的だ。過去の蓄積から年間150〜250件もの更新需要が期待できる状況にある。2017年3月期の年間発行自治体数が183だったことに照らすとその大きさを実感できるだろう。また、近年では『わが街事典』をジャンル別・テーマ別に切り分けた形の行政情報誌の発行も増えている。『子育て便利帳』、『ゴミ便利帳』のようなものだ。これらは更新サイクルもより短いと考えられ、同社の収益には追い風と弊社では考えている。さらには、後述するように、都道府県をターゲットとする取り組みも動き出しており、『わが街事典』を中核とする紙媒体事業の成長性はまだ十分高いと弊社では考えている。

事業セグメント情報から判断して出版事業が同社の収益源であることは疑いなく、その中でも『わが街事典』が利益面で大きな貢献をしているものと弊社では推測している。『わが街事典』事業の収益性については、今後も現状のレベルが維持でき、改善の余地すらあると弊社では考えている。収益性を維持可能と考える大きな理由は、真正面からぶつかる有力な事業者が存在していないことだ。地域・エリアごとには類似事業を行っている事業者は存在しているが、事業モデル(例えば「自治体負担ゼロ」であること)が同社とは少し異なるケースも多いもようだ。また、同社は全国に50超の営業拠点を展開して地域密着型営業に努めているため、“地元性”の観点でも地元企業に引けを取ることもないもようだ。

収益性の改善については、習熟度向上と工場稼働率がポイントになると考えている。習熟度というのは、広告主の獲得のスピード向上や、編集・制作期間の短縮化などだ。1版当たりの生産効率の向上は収益性改善に直結すると期待される。工場については、同社は三重県松阪市に一貫製作工場を擁している。CTP(computer to plate、コンピューターでの原稿作成から直で印刷原版を作ること。工期短縮、経費節減に寄与)やUV印刷機(紫外線LEDを活用した速乾システムを採用した印刷機。リードタイム短縮に貢献)などの最新機器が導入されている。『わが街事典』は自治体との共同作業であるため、制作・出版のスケジュールが自治体側の事情により制約を受けることが多い。現状はこれを『テレパル50』を活用して平準化しているが、上記の習熟度向上による生産効率アップにより『わが街事典』で工場稼働率を高位に維持できればやはり収益性アップにつながると弊社では考えている。

(2) 『テレパル50』の成長戦略
『テレパル50』は一般家庭に無料配布する50音別電話帳だ。収益モデルは『わが街事典』と同じく広告収入モデルだ。『わが街事典』との最大の違いは『テレパル50』は同社が独自に企画・制作・発行をしているという点だ。電話番号としての行政情報も載っていることから、地方創生プラットフォーム構想においては、健康増進ヘルスケア事業と並んで「公共と地方経済の両方にまたがる領域」に位置付けられている。

『テレパル50』自体の成長性について、弊社では横ばい圏の事業とみているが、一方で広告主である事業者のニーズは現在でもしっかりとあるため縮小していく事業でもない。『テレパル50』の同社にとっての最大の価値は、他の成長事業を支える点にあるというのが弊社の理解だ。最も典型的な例は『わが街事典』の変動を『テレパル50』で埋めて工場稼働率を一定にキープしていることが挙げられる。これは『テレパル50』が同社独自の事業だから可能なことだ。同社は年間1,000万部のペースで『テレパル50』を制作・発行しているが、他の出版物との兼ね合い次第では緩衝材としての役割を果たすことも可能だ。

もう1つの価値は『テレパル50』制作の過程で蓄積してきた広告主である事業者とのリレーションシップだ。そうした事業者は地域経済そのものであり、同社が他の事業を行っていく中でも当然にビジネス関係が生じることになる。『テレパル50』が潜在的に有している価値は非常に大きく、同社の成長戦略を支えるコア事業として今後も重要性は変わらないと弊社では考えている。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)



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