BS11 Research Memo(3):BS放送の利点を生かした低コスト構造により、高い収益性を実現
[19/05/22]
提供元:株式会社フィスコ
提供元:株式会社フィスコ
注目トピックス 日本株
■会社概要
2. 事業モデルと収益構造
(1) 収入の構造
現在、日本では21社の衛星基幹放送事業者が31のBS放送チャンネルを提供している。1事業者で複数のチャンネルを展開するケースもあるが、日本BS放送<9414>は「BS11」の1局・1チャンネル体制だ。BSのチャンネルには無料放送と有料放送があるが、同社は無料放送を行っている。同社のほかには民放キー局系列の5社とTwellV、Dlifeのみが無料放送を行っている。すなわち同社は、キー局系列に属さない独立系であることに加えて無料放送という2つの特徴を持ったBS放送局であると言える。
無料放送を行っている同社の収益構造は広告収入(スポンサー収入)が基本となっており、この点では地上波のテレビ局と同様だ。すなわち「広告枠」が同社の商品であるが、それらは、タイム枠、持込枠、通信販売枠などに細分化することができる。同社の売上高内訳の開示上は、タイム収入、スポット収入、その他に分類されている。2019年8月期第2四半期実績ではタイム収入が73.9%、スポット収入が22.9%、その他が3.2%となっている(個別業績の売上高構成比)。その他の収入はアニメ製作委員会への出資に伴う配当金や番組コンテンツ販売による収入などだ。
同社は創業以来、同社本体でBS放送という単独セグメントで事業を営んできていたが、2018年1月に児童書特化型の出版社である(株)理論社と(株)国土社の全株式を取得して連結子会社化した。これに伴い、2018年8月期第2四半期決算から連結決算へと移行した。連結子会社2社の合計売上高は約10億円弱と一定の規模があるため、BS放送事業の動向の正確かつ時系列的な把握のためには同社本体の個別業績を対象とするのが適切と考えられる。同社自身もまた情報開示においては個別業績を中心に分析を示している。
BS放送事業の収入源である広告枠の販売動向を左右するのは、認知度(視聴者によるBS各局及び番組についての認知度合い)で、両者には明確な相関関係が読み取れる。この理由は、広告主がより高い広告効果を求めて、認知度調査や前出のBS視聴世帯数調査などの結果を参考にしながら出稿先のBS局や番組を選定してくるためと考えられる。
同社の認知度は毎年着実に向上しており、キー局系列のBS放送5社にあと一歩に迫っている。そうした同社の認知度着実は、売上高の伸びとして業績にしっかりと反映されている。2016年8月期には売上高が10,212百万円と初の100億円の大台超えとなり、その後も増収基調を維持して2018年8月期は12,015百万円(個別業績売上高)に達した。この間、同社の売上高の成長率はBS放送業界全体の広告収入の伸び率を上回って推移してきた。
現在の同社は、先行するキー局系5社の売上高(150億円〜180億円のレンジ)まであと一歩に迫った状況にあるが、ここにきて事業環境の変化が同社の業績成長にも影響を及ぼしている。詳細は業績動向ならびに中長期の成長戦略の項で述べるが、個別売上高150億円の中期経営計画実現に向けて正念場を迎えているというのが今現在の同社の状況だ。
(2) 費用の構造
BS放送では放送衛星を通じて日本全国に電波を送ることができるため、1)全時間帯において全国約4,287万世帯(2018年度)で同時に同一の放送を視聴可能であること、2)地上波とはまったく異なるコスト構造により高効率の広告ビジネスが可能となっていること、の2つをBS放送の大きな特長として挙げることができる。
コスト構造の面ではBS放送と地上波放送とで大きな違いがある。地上波の放送局の場合は、各地に放送用電波塔を建設し中継基地等を経由する、いわゆるバケツリレーによって電波を届けることになる。したがって、地上波放送においてはネットワーク維持費が原価の中で大きな割合を占める。それに対してBS放送の場合は、放送衛星から直接全国の視聴世帯に電波を送るためネットワーク維持費は存在しない。一方で放送委託費や技術費などの放送関連費用が発生するが、地上波とBS放送とでは放送コストの面では相当の差があることになる。
BS局と地上波局のコスト構造の違いは、放送局の“商品”である広告枠の価格の差にストレートに反映されることになる。一般論として、広告単価がBS放送と地上波放送とでは10倍〜20倍の差があるとも言われている。しかし放送コストが低いため、広告単価がそれだけ低くてもBS放送局の利益率は地上波放送局のそれを上回っているとみられる。実際に、同社(個別業績)と上場しているキー局の地上波放送会社(もしくは地上波放送セグメント)の営業利益率を比較すると、同社の営業利益率は地上波放送各社の営業利益率を明確に上回っている※。
※季節要因の影響を除くため通期ベースでの比較を行い、当レポート作成時点で入手可能な各社の直近の決算期の数値(同社については2018年8月期、他社は2018年3月期)を用いた。
同社は2019年8月期において、中長期的成長のための布石として積極的に費用を投下する方針を表明している。そうした方針を反映して、2019年8月期第2四半期決算の営業利益率は16.1%に低下したが、それでも地上波各社の営業利益率を上回っている状況にある。
重要なことは、BS放送の広告単価が地上波放送と比べて10〜20分の1に固定されているわけではないということだ。同社は半年ごとに広告単価の改定交渉を行っているが、同社の広告媒体としての価値向上を反映して、広告単価は上昇基調にある。広告単価の引き上げは競合相手との価格差の縮小につながり広告獲得に不利ではないかと危惧する向きもあるだろうが、その懸念は不要だと弊社では考えている。同社が広告単価引き上げに成功しているのは、価格差よりも認知度上昇等による高い広告効果が評価されたことが主因であるためだ。別な言い方をすれば、他社比較による相対評価ではなく、同社の媒体価値という絶対評価によって広告単価が決定されているとみることができる。
費用に関して同社はもう1つの特長を有している。それは、コストコントロールが厳格に行われているということだ。同社の主要な費用費目は「番組関連費用」、「放送関連費用」、「広告関連費用」だ。このうち、放送関連費用はBS放送の特長から、極めて低位かつ安定的に推移している。また、番組関連費用と広告関連費用については、売上高に対する一定水準を目安として持つ形でコントロールされてきた。こうした厳格なコストコントロールが可能であることも、BS放送特有の低コスト構造に起因しているものと弊社ではみている。
同社の営業利益率は、コスト構造の違いから地上波放送局と比べて高いのは前述のとおりだが、過去にはキー局系列のBS放送局と比較しても高い状況にあった※。この大きな要因としては厳格なコストコトロールがまず挙げられるが、加えて、同社が独立系であるため番組編成において自由度が高く、その自由度の高さをスポンサー収入につなげていることも大きな一因として挙げられると弊社では考えている。
※季節要因の影響を除くため通期ベースでの比較を行い、当レポート作成時点で入手可能な各社の直近の決算期の数値(同社については2018年8月期、他社は2018年3月期)を用いた。前述のように、同社の2019年8月期第2四半期の営業利益率は戦略的・先行投資的な費用投下の結果16.1%に低下したが、キー局系列BS放送各社の実績よりも高い水準を維持している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)
<MH>
2. 事業モデルと収益構造
(1) 収入の構造
現在、日本では21社の衛星基幹放送事業者が31のBS放送チャンネルを提供している。1事業者で複数のチャンネルを展開するケースもあるが、日本BS放送<9414>は「BS11」の1局・1チャンネル体制だ。BSのチャンネルには無料放送と有料放送があるが、同社は無料放送を行っている。同社のほかには民放キー局系列の5社とTwellV、Dlifeのみが無料放送を行っている。すなわち同社は、キー局系列に属さない独立系であることに加えて無料放送という2つの特徴を持ったBS放送局であると言える。
無料放送を行っている同社の収益構造は広告収入(スポンサー収入)が基本となっており、この点では地上波のテレビ局と同様だ。すなわち「広告枠」が同社の商品であるが、それらは、タイム枠、持込枠、通信販売枠などに細分化することができる。同社の売上高内訳の開示上は、タイム収入、スポット収入、その他に分類されている。2019年8月期第2四半期実績ではタイム収入が73.9%、スポット収入が22.9%、その他が3.2%となっている(個別業績の売上高構成比)。その他の収入はアニメ製作委員会への出資に伴う配当金や番組コンテンツ販売による収入などだ。
同社は創業以来、同社本体でBS放送という単独セグメントで事業を営んできていたが、2018年1月に児童書特化型の出版社である(株)理論社と(株)国土社の全株式を取得して連結子会社化した。これに伴い、2018年8月期第2四半期決算から連結決算へと移行した。連結子会社2社の合計売上高は約10億円弱と一定の規模があるため、BS放送事業の動向の正確かつ時系列的な把握のためには同社本体の個別業績を対象とするのが適切と考えられる。同社自身もまた情報開示においては個別業績を中心に分析を示している。
BS放送事業の収入源である広告枠の販売動向を左右するのは、認知度(視聴者によるBS各局及び番組についての認知度合い)で、両者には明確な相関関係が読み取れる。この理由は、広告主がより高い広告効果を求めて、認知度調査や前出のBS視聴世帯数調査などの結果を参考にしながら出稿先のBS局や番組を選定してくるためと考えられる。
同社の認知度は毎年着実に向上しており、キー局系列のBS放送5社にあと一歩に迫っている。そうした同社の認知度着実は、売上高の伸びとして業績にしっかりと反映されている。2016年8月期には売上高が10,212百万円と初の100億円の大台超えとなり、その後も増収基調を維持して2018年8月期は12,015百万円(個別業績売上高)に達した。この間、同社の売上高の成長率はBS放送業界全体の広告収入の伸び率を上回って推移してきた。
現在の同社は、先行するキー局系5社の売上高(150億円〜180億円のレンジ)まであと一歩に迫った状況にあるが、ここにきて事業環境の変化が同社の業績成長にも影響を及ぼしている。詳細は業績動向ならびに中長期の成長戦略の項で述べるが、個別売上高150億円の中期経営計画実現に向けて正念場を迎えているというのが今現在の同社の状況だ。
(2) 費用の構造
BS放送では放送衛星を通じて日本全国に電波を送ることができるため、1)全時間帯において全国約4,287万世帯(2018年度)で同時に同一の放送を視聴可能であること、2)地上波とはまったく異なるコスト構造により高効率の広告ビジネスが可能となっていること、の2つをBS放送の大きな特長として挙げることができる。
コスト構造の面ではBS放送と地上波放送とで大きな違いがある。地上波の放送局の場合は、各地に放送用電波塔を建設し中継基地等を経由する、いわゆるバケツリレーによって電波を届けることになる。したがって、地上波放送においてはネットワーク維持費が原価の中で大きな割合を占める。それに対してBS放送の場合は、放送衛星から直接全国の視聴世帯に電波を送るためネットワーク維持費は存在しない。一方で放送委託費や技術費などの放送関連費用が発生するが、地上波とBS放送とでは放送コストの面では相当の差があることになる。
BS局と地上波局のコスト構造の違いは、放送局の“商品”である広告枠の価格の差にストレートに反映されることになる。一般論として、広告単価がBS放送と地上波放送とでは10倍〜20倍の差があるとも言われている。しかし放送コストが低いため、広告単価がそれだけ低くてもBS放送局の利益率は地上波放送局のそれを上回っているとみられる。実際に、同社(個別業績)と上場しているキー局の地上波放送会社(もしくは地上波放送セグメント)の営業利益率を比較すると、同社の営業利益率は地上波放送各社の営業利益率を明確に上回っている※。
※季節要因の影響を除くため通期ベースでの比較を行い、当レポート作成時点で入手可能な各社の直近の決算期の数値(同社については2018年8月期、他社は2018年3月期)を用いた。
同社は2019年8月期において、中長期的成長のための布石として積極的に費用を投下する方針を表明している。そうした方針を反映して、2019年8月期第2四半期決算の営業利益率は16.1%に低下したが、それでも地上波各社の営業利益率を上回っている状況にある。
重要なことは、BS放送の広告単価が地上波放送と比べて10〜20分の1に固定されているわけではないということだ。同社は半年ごとに広告単価の改定交渉を行っているが、同社の広告媒体としての価値向上を反映して、広告単価は上昇基調にある。広告単価の引き上げは競合相手との価格差の縮小につながり広告獲得に不利ではないかと危惧する向きもあるだろうが、その懸念は不要だと弊社では考えている。同社が広告単価引き上げに成功しているのは、価格差よりも認知度上昇等による高い広告効果が評価されたことが主因であるためだ。別な言い方をすれば、他社比較による相対評価ではなく、同社の媒体価値という絶対評価によって広告単価が決定されているとみることができる。
費用に関して同社はもう1つの特長を有している。それは、コストコントロールが厳格に行われているということだ。同社の主要な費用費目は「番組関連費用」、「放送関連費用」、「広告関連費用」だ。このうち、放送関連費用はBS放送の特長から、極めて低位かつ安定的に推移している。また、番組関連費用と広告関連費用については、売上高に対する一定水準を目安として持つ形でコントロールされてきた。こうした厳格なコストコントロールが可能であることも、BS放送特有の低コスト構造に起因しているものと弊社ではみている。
同社の営業利益率は、コスト構造の違いから地上波放送局と比べて高いのは前述のとおりだが、過去にはキー局系列のBS放送局と比較しても高い状況にあった※。この大きな要因としては厳格なコストコトロールがまず挙げられるが、加えて、同社が独立系であるため番組編成において自由度が高く、その自由度の高さをスポンサー収入につなげていることも大きな一因として挙げられると弊社では考えている。
※季節要因の影響を除くため通期ベースでの比較を行い、当レポート作成時点で入手可能な各社の直近の決算期の数値(同社については2018年8月期、他社は2018年3月期)を用いた。前述のように、同社の2019年8月期第2四半期の営業利益率は戦略的・先行投資的な費用投下の結果16.1%に低下したが、キー局系列BS放送各社の実績よりも高い水準を維持している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)
<MH>