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いちご Research Memo(7):“徹底したキャッシュ・フロー経営”と“強固な収益基盤・財務基盤”

注目トピックス 日本株
■いちご<2337>の中長期の成長戦略

1. 新型コロナウイルスの不動産市場への影響予想
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、不動産市場にも影響が出ているが、物件種類、賃貸・売買によって影響度が異なる。また短期的な影響と中長期的な影響を分けて考える必要があり、特に中長期的な影響に関しては不確実性が高くなる。オフィスに関しては、短期的に大きな影響はないものの、テレワークなどの進展により都心の高級物件の価値が相対的に下がることが懸念される。ちなみに同社の保有物件に関しては、都心のオフィス物件のなかでも相対的に割安なため、増床や転入の動きも出てきている。レジデンスに関しては、新型コロナウイルスの短期的・直接的な影響は大きくないと予測する。一方で、ホテル、一部の商業施設では、オペレーターの業績悪化の影響が変動家賃部分や固定家賃の減賃などに影響すると見込まれる。影響が短期で収束するのか長期化するのか、国や自治体の給付・助成がどの程度行われるかなど不透明な点も多い。ロジスティクス(物流センターなど)やクリーンエネルギー施設に関しては、影響はないと考えられる。

2. 徹底的なキャッシュ・フロー経営
同社は、キャッシュ・フローの創出にこだわった経営に定評がある。「エコノミック営業キャッシュ・フロー」というKPI(重要経営指標)を従来から公開し向上を図ってきた点はその一例である。「エコノミック営業キャッシュ・フロー」は決算短信の表紙に記載のとおり、営業活動によるキャッシュ・フローから販売用不動産及び販売用発電設備の増減額(仕入・売却)の影響を除く営業活動によるキャッシュ・フロー(税引後)である。2020年2月期の値は、29,492百万円(前期は25,522百万円)であり、当期純利益の3.6倍に相当する。

新型コロナウイルスの影響で不動産業界を取り巻く環境が急変するなかで、同社は更なるキャッシュ創出策を打っている。心築事業に関わる不動産(従来は販売用不動産)を固定資産化し、減価償却の税効果によりキャッシュを創出するというものだ。一般に販売用不動産は、早期に販売されるべきものであり、会計処理上、減価償却を行わない。これを固定資産化すると、現金支出のない減価償却費を計上することができ、税効果が発生する(キャッシュが創出できる)。固定資産比率は2018年2月期に15.2%だったが、2019年2月期に30.1%、2020年2月期には84.4%に向上している。市場環境が悪化しているなかでは、売り急がず、じっくり保有しつつキャッシュ創出力を最大化するという戦略を徹底する。

3. 強固な収益基盤・財務基盤(リーマンショック時と現在の対比)
同社は、景気循環による市況悪化がいつかは起こることを前提に、従来から収益基盤及び財務基盤を強化してきた。これは、リーマンショック時に受けた大きなダメージを糧にしたものだ。

「ストック収益固定費カバー率」は、収益モデルの堅実さを反映する指標であり、不況時にリスクの大きいフロー収益(売買益に依存しないで黒字を確保できる余裕を示す。リーマンショック時の2009年2月期に75%だったのに対し、2020年2月期は234%と3.1倍に増加しており、賃貸収入のみでも大幅な黒字が確保できることを示す。

「加重平均借入期間」は、全有利子負債の平均借入期間であり、リーマンショック時の2009年2月期に2.8年だったのに対し、2020年2月期は10.3年と3.7倍に長期化しており、長期資金でまかなわれているために財務の安全性が向上したことがわかる。

「3年以内返済予定借入割合」は、全有利子負債のなかで3年以内に返済予定の借入金の割合である。リーマンショック時の2009年2月期に93%だったのに対し、2020年2月期は14%と79ポイント低下しており、仮に景気後退が数年長引いたとしても、同社にとっては大きなリスクにならないことを示す。

「加重平均借入金利」はコーポレート有利子負債の平均借入金利である。リーマンショック時の2009年2月期に2.22%だったのに対し、2020年2月期は0.91%と59%低下した。無担保化の割合が25.6%であることや10年以上無担保コミットメントラインが200億円あることなどを含めて、金融機関からの厚い信頼がリスク低減につながっていることがわかる。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田秀夫)



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