Jトラスト Research Memo(5):アジア金融事業を中心に発展を目指す成長戦略に変更なし
[20/09/08]
提供元:株式会社フィスコ
提供元:株式会社フィスコ
注目トピックス 日本株
■Jトラスト<8508>の中長期の成長戦略
IFRS転換が遅れたことに加え、韓国及びモンゴル金融事業では負ののれんの処理や当局の規制強化の影響、東南アジア金融事業では不良債権処理の影響、投資事業ではGL関連損失処理の影響などから、結果として前中期経営計画(2016年3月期〜2018年3月期)は予定どおりには進まなかった。現在、新たな中期経営計画の発表はなく、足元では新型コロナウイルス感染症拡大の影響が不透明な部分はあるが、会社として投資家に中期的な利益目標を示すことは非常に重要であると弊社では考える。
2019年3月期には、東南アジア金融事業、投資事業の損失に伴い大幅な営業損失計上を余儀なくされたが、不良債権を前倒しで一括処理したことで、今後の不安材料はなくなった。この結果、2019年12月期からは、本格的な業績回復を目指す第一歩を踏み出した。今後も主力の金融3事業が中心となり、グループ全体の収益拡大を図るとするビジネスモデルに変更はない。
それに伴い同社グループでは、金融主要3事業の今後の成長戦略として、以下のように計画している。
まず、日本金融事業では、引き続き信用保証商品の拡充と債権回収事業の強化により、安定的な利益を稼ぐ計画だ。子会社の日本保証では、金融機関の審査基準が厳格化していることなどから、当面はアパートローンの保証残高は大幅な増加を期待しにくい環境にある。また、近年、注力してきた海外不動産担保ローンの保証も、新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延に伴い現状は残高の伸びが緩やかなものとなっている。代わって、新たな保証商品としてインターネットを介して不特定多数の人々から少額ずつ資金を調達するクラウドファンディング商品の保証に注力している。SAMURAI&J PARTNERS株式会社グループとの業務提携に加えて、2020年6月には寄付型クラウドファンディング大手の(株)CAMPFIREと新たに融資型クラウドファンディングにおいて保証業務提携を実施し、「世田谷区土地活用ファンド」を同年7月に発売して、全枠を完売している。今後もCAMPFIREのブランド力を活用し、魅力的な新ファンドの開発を推進する計画だ。また、パルティール債権回収では、2020年12月期も金融機関とのネットワークを生かし順調な買取実績で推移しているが、今後も信販系大手カード会社等からの債権買取を推進する計画である。
韓国及びモンゴル金融事業でも、貯蓄銀行業に対する規制強化の影響を抑えつつ、債権回収事業とも合わせて、引き続き現在のビジネスモデルを維持し、グループの連結業績を支える安定的な利益を確保する。韓国金融事業3社では、良質なアセットを長期的に構築してきたことで、平均金利は低下傾向ながら、90日以上延滞率についても長期的に逓減している。同社グループの傘下で経営再建を進めてきたJT親愛貯蓄銀行が、初めて配当を実施したことは、再生を象徴する出来事と言えるだろう。
一方、現状は損失計上を続けている東南アジア金融事業については、インドネシアでは事業継続のための土台整備を2019年12月期までに完了したことで、今後は優良なアセットの積み上げと債権回収の推進を図る。また、新たに加わったカンボジアでは、顧客層を徐々に広げてアセット増加を図る方針だ。これらの施策によって、東南アジア金融事業も2021年12月期からは黒字化し、今後はグループ全体の成長を加速する原動力となる期待が大きい。ただ、当面は新型コロナウイルス感染症拡大の影響を注視する必要があるだろう。
実際、インドネシアでは、新型コロナウイルス感染症拡大の影響から、実質GDP成長率は、これまでの5%台から2020年は2.6%に急落する見通しである。このような厳しい経済環境のなか、JTOでは中小商店を対象にした事業者向けのローン(限度額7万円〜17万5千円程度、金利45%〜60%、期間最長1年)について、スマートフォンアプリを利用して申込フローを簡潔化し、融資までスピーディーな実行を実現するファイナンスサービスを試験的に開始した。運用が順調に進むようであれば、今後も拡大を検討している。インドネシアは東南アジア最大の人口を有しており、金融業の市場として大きな発展性を秘めていると言えるだろう。
加えて2019年12月期より同社グループに加わったJTRBは、カンボジア商業銀行42行中10位の資産規模(2018年12月末当時)を持ち、資産内容の良い優良銀行で、安定的に年間30億円超の営業利益を計上しており、グループへの利益貢献が期待される。JTRBでは、従来は超優良顧客のみを対象としていたが、今後は大企業から中堅企業まで、また個人は住宅ローンを中心に顧客層の拡大を図る方針である。2020年5月には、JTRBはカンボジアの大手資金移動業者であるWingとの連携により、Wingのスマートフォンアプリの簡単な操作により銀行預金口座を保有していないWingの利用者にも預金金利のメリットが取れるマイクロ普通預金の提供を開始した。金融インフラが十分に行き渡っていないカンボジアにおいて、金融サービスの裾野拡大への貢献が期待される。
このように、同社グループでは、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い経済環境が急変するなか、江口新社長のもと、今後は各国の情勢、事業構造、収益性などを総合的に判断し、グループ全体の事業ポートフォリオ最適化を検討することで、事業の集中と選択を進める方針である。2020年8月の不動産事業の外部譲渡も、その一例と言えるだろう。ただ、日本金融事業、韓国及びモンゴル金融事業で安定的な利益を稼ぎ、成長可能性が大きい東南アジア金融事業を原動力に、持続的な成長を目指すという、グループの長期ビジョンに変更はない。同社では、将来的には、さらにラオスやミャンマーなどへの進出も考えていると見られる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)
<YM>
IFRS転換が遅れたことに加え、韓国及びモンゴル金融事業では負ののれんの処理や当局の規制強化の影響、東南アジア金融事業では不良債権処理の影響、投資事業ではGL関連損失処理の影響などから、結果として前中期経営計画(2016年3月期〜2018年3月期)は予定どおりには進まなかった。現在、新たな中期経営計画の発表はなく、足元では新型コロナウイルス感染症拡大の影響が不透明な部分はあるが、会社として投資家に中期的な利益目標を示すことは非常に重要であると弊社では考える。
2019年3月期には、東南アジア金融事業、投資事業の損失に伴い大幅な営業損失計上を余儀なくされたが、不良債権を前倒しで一括処理したことで、今後の不安材料はなくなった。この結果、2019年12月期からは、本格的な業績回復を目指す第一歩を踏み出した。今後も主力の金融3事業が中心となり、グループ全体の収益拡大を図るとするビジネスモデルに変更はない。
それに伴い同社グループでは、金融主要3事業の今後の成長戦略として、以下のように計画している。
まず、日本金融事業では、引き続き信用保証商品の拡充と債権回収事業の強化により、安定的な利益を稼ぐ計画だ。子会社の日本保証では、金融機関の審査基準が厳格化していることなどから、当面はアパートローンの保証残高は大幅な増加を期待しにくい環境にある。また、近年、注力してきた海外不動産担保ローンの保証も、新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延に伴い現状は残高の伸びが緩やかなものとなっている。代わって、新たな保証商品としてインターネットを介して不特定多数の人々から少額ずつ資金を調達するクラウドファンディング商品の保証に注力している。SAMURAI&J PARTNERS株式会社グループとの業務提携に加えて、2020年6月には寄付型クラウドファンディング大手の(株)CAMPFIREと新たに融資型クラウドファンディングにおいて保証業務提携を実施し、「世田谷区土地活用ファンド」を同年7月に発売して、全枠を完売している。今後もCAMPFIREのブランド力を活用し、魅力的な新ファンドの開発を推進する計画だ。また、パルティール債権回収では、2020年12月期も金融機関とのネットワークを生かし順調な買取実績で推移しているが、今後も信販系大手カード会社等からの債権買取を推進する計画である。
韓国及びモンゴル金融事業でも、貯蓄銀行業に対する規制強化の影響を抑えつつ、債権回収事業とも合わせて、引き続き現在のビジネスモデルを維持し、グループの連結業績を支える安定的な利益を確保する。韓国金融事業3社では、良質なアセットを長期的に構築してきたことで、平均金利は低下傾向ながら、90日以上延滞率についても長期的に逓減している。同社グループの傘下で経営再建を進めてきたJT親愛貯蓄銀行が、初めて配当を実施したことは、再生を象徴する出来事と言えるだろう。
一方、現状は損失計上を続けている東南アジア金融事業については、インドネシアでは事業継続のための土台整備を2019年12月期までに完了したことで、今後は優良なアセットの積み上げと債権回収の推進を図る。また、新たに加わったカンボジアでは、顧客層を徐々に広げてアセット増加を図る方針だ。これらの施策によって、東南アジア金融事業も2021年12月期からは黒字化し、今後はグループ全体の成長を加速する原動力となる期待が大きい。ただ、当面は新型コロナウイルス感染症拡大の影響を注視する必要があるだろう。
実際、インドネシアでは、新型コロナウイルス感染症拡大の影響から、実質GDP成長率は、これまでの5%台から2020年は2.6%に急落する見通しである。このような厳しい経済環境のなか、JTOでは中小商店を対象にした事業者向けのローン(限度額7万円〜17万5千円程度、金利45%〜60%、期間最長1年)について、スマートフォンアプリを利用して申込フローを簡潔化し、融資までスピーディーな実行を実現するファイナンスサービスを試験的に開始した。運用が順調に進むようであれば、今後も拡大を検討している。インドネシアは東南アジア最大の人口を有しており、金融業の市場として大きな発展性を秘めていると言えるだろう。
加えて2019年12月期より同社グループに加わったJTRBは、カンボジア商業銀行42行中10位の資産規模(2018年12月末当時)を持ち、資産内容の良い優良銀行で、安定的に年間30億円超の営業利益を計上しており、グループへの利益貢献が期待される。JTRBでは、従来は超優良顧客のみを対象としていたが、今後は大企業から中堅企業まで、また個人は住宅ローンを中心に顧客層の拡大を図る方針である。2020年5月には、JTRBはカンボジアの大手資金移動業者であるWingとの連携により、Wingのスマートフォンアプリの簡単な操作により銀行預金口座を保有していないWingの利用者にも預金金利のメリットが取れるマイクロ普通預金の提供を開始した。金融インフラが十分に行き渡っていないカンボジアにおいて、金融サービスの裾野拡大への貢献が期待される。
このように、同社グループでは、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い経済環境が急変するなか、江口新社長のもと、今後は各国の情勢、事業構造、収益性などを総合的に判断し、グループ全体の事業ポートフォリオ最適化を検討することで、事業の集中と選択を進める方針である。2020年8月の不動産事業の外部譲渡も、その一例と言えるだろう。ただ、日本金融事業、韓国及びモンゴル金融事業で安定的な利益を稼ぎ、成長可能性が大きい東南アジア金融事業を原動力に、持続的な成長を目指すという、グループの長期ビジョンに変更はない。同社では、将来的には、さらにラオスやミャンマーなどへの進出も考えていると見られる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)
<YM>