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「電力自由化に関する調査」レポート

2016/3/25

トレンド総研

認知率96%、直前に迫る「電力自由化」を徹底調査!!
本当に得になるの? 海外では大幅な値上がりも…
政策アナリスト・石川氏に聞く、今後の課題や展望

生活者の意識・実態に関する調査を行うトレンド総研(東京都渋谷区、URL:http://www.trendsoken.com/)では、今回、2016年4月にスタートする「電力自由化」について調べました。
2016年に入り、各メディアで取り扱われる機会が急激に増えた「電力自由化」。4月から開始される新サービスのテレビCMも増え、その認知度とともに、市場の期待感も着実に高まっていると言えるでしょう。
その関心度の高さは、「Googleトレンド」(URL:https://www.google.co.jp/trends/)における検索ボリュームの変化からも明らかです。2016年3月14日時点で過去1年間の『電力自由化』の検索ボリュームの推移を調べたところ、2015年12月から、その数値が急速に上昇し始めたことが分かります。2015年11月の平均スコアが9.5だったのに対して、12月の平均スコアは1.58倍の15.0。さらに、2016年1月には検索ボリュームのピークを迎え、以降、高い数値で推移しています。検索ボリュームは、そのワードについて知りたいという人々の意識の高さを表していると言えるでしょう。改めて、「電力自由化」への関心の高まりを確認できました。

しかし、その一方で、電力自由化に対して懐疑的な見方があることも事実です。電気料金を安くすることは難しいのではないかという声も聞きます。また、サービスが多様化すれば、比較するべきポイントも増えます。そうなれば、自身の家庭に合ったサービスを選ぶことは簡単ではありません。現状では、手間をかけて選んだサービスがどれだけお得なものになるのか分からず、判断を先延ばしにしている人も多いようです。
また、安定供給に対して懸念する声もあります。これまでの制度では、家庭などにおいては電力会社を選ぶことはできないものの、定められた体系的なルールの下、国の認可を受けた価格での電力供給が保証されています。電力自由化により、電力を購入する企業やサービスを選べるようになりますが、地域や条件により選べるサービスが限定されたり、自身が利用しているサービスが突然打ち切られたりする可能性もあります。十分にルールを理解していないため、契約した事業者が倒産した場合に、電気が届かないような状況が起きることがないかという漠然とした不安を感じる人もいるようです。
そこで、トレンド総研では、はじめに「電力自由化に関するアンケート調査」を実施しました。電力自由化への認知や理解、新サービスの利用意向について調べました。その結果、本調査において明らかになったのは、電力自由化のデメリットに関する情報の少なさです。そこで、電力市場など幅広い社会問題に精通する、NPO法人 社会保障経済研究所の石川 和男氏に取材を依頼。電力自由化の実情や今後の課題についてお話をうかがいました。


■ 1. 男女500名を対象に、電力自由化に関するアンケート調査を実施

はじめに、20代〜50代の男女500名を対象に「電力自由化に関するアンケート調査」を実施しました。本調査では、「電力自由化」の認知度の高さとともに、その制度や起こり得るデメリットへの理解度の低さが浮き彫りになりました。

[調査概要]
調査名:電力自由化に関するアンケート調査
調査対象:20歳〜59歳の男女500名  ※性別・年代別に均等割付
調査期間:2016年2月24日(水)〜2016年3月1日(火)
調査方法:インターネット調査
調査実施機関 : 楽天リサーチ株式会社

◆ 認知率96%! 着実に浸透する「電力自由化」の現状の課題とは!?

はじめに、「電力自由化」の認知率を明らかにするため、「“電力自由化”という言葉を見たり、聞いたりしたことはありますか?」とたずねました。その結果、「ある」と回答した人は全体の96%にのぼります。20代では85%と若干低かったものの、それ以外の世代では、認知率はいずれも98%以上。「電力自由化」というワード自体は、すでに広く浸透していることが分かります。
このように認知率が96%であった「電力自由化」というワードですが、その認知率を高めるために大きな役割を果たしているのは、新たに提供を開始する会社です。これらの会社のCMにより、電力自由化について知ったという人も少なくないはずです。
そこで、「電力自由化により開始されるサービス」についても聞いてみました。まず、電力自由化により開始されるサービスに対して、「興味・関心がある」という人は65%で、半数を大きく上回ります。一方で、「利用を検討したいサービスがある」という人は24%にとどまります。さらに、「既に申し込んだサービスがある」という人は6%。電力自由化の認知率や興味・関心がある人の割合を考えると、いずれも決して高いとは言えない結果でしょう。興味や関心はあっても、実際の利用には二の足を踏んでいるというのが現状のようです。

◆ 「選べるサービスが多すぎる」、「海外の電気料金の値上がり事例」、… 浮かび上がる、電力自由化への不安

電力自由化により開始されるサービスに対して、このように利用を躊躇させている原因は何なのでしょうか。それを探るために、まず、「電力自由化」というワードの認知層に対して、「電力自由化への不安はありますか?」と聞くと、37%が「ある」と回答しました。3人に1人以上と、間もなくスタートする電力自由化に対して不安に感じている人は少なくありません。
続いて、その不安に感じていることを自由回答形式で具体的に聞いてみると、世代を問わず多くの人からあげられたのは、「どのサービスが一番得になるのか、分からない」(東京都・35歳女性)といった回答でした。様々なサービスが増え、期待も高まる一方で、サービスの多様化が判断を悩ましているというケースも多いということが分かります。また、中には「失敗したイギリスと同じような状況が起きそう。(奈良県・68歳男性)」、「電力消費量が多いほど得をするというのは、いかがなものかと思う。(大阪府・65歳男性)」というように、電力自由化に詳しい一部の人たちからは、電力自由化の構造的な課題に対して懸念する声も見られました。

◆ 課題となるリスクへの理解… 88%が「電力自由化のデメリットについても、もっと報道されるべき」

イギリスの事例のように、電力自由化を行っても、必ずしも電気料金は安くなるとは限りません。また、大部分の原子力発電所が稼働を停止し、火力発電に9割近く依存する今の日本では、燃料価格の変動によるリスクも大きいです。化石燃料の価格が急上昇するようなことがあれば、そのコストは電気料金に上乗せされ、家計を圧迫する可能性もあります。
そこで、「電力自由化により、電気料金が上がる可能性があることを知っていますか?」とたずねたところ、「全く知らなかった」という人は40%にものぼりました。電力自由化により、選べるサービスは増えます。もちろん、自身の家庭に適したサービスを選べば、電気代を安く抑えられるケースもあるでしょう。しかし、様々な新サービスが登場し、その広告が展開されている今は、電気料金を安く抑えられるケースばかりがフォーカスされる傾向にあります。その結果、4割もの人が「電気代が高くなる可能性について全く想定していなかった」と回答した今回の調査結果のように、“電力自由化=電気代ダウン”という一面的なメリットにのみ注目が集まっているというのが現状でしょう。
また、こうした価格に関する話題ばかりでなく、電力自由化のデメリットについては、全般的に非常に理解が低いようです。以下の2点を伝えた上で、いくつかの質問を行いました。

――――――――――――――――――――――――――――――
[電力自由化によるデメリットの一例]

(1)電力供給の不安定化
これまで電力を供給してきた大手電力会社は、供給の安定性を保つために技術の向上を図り、ノウハウを蓄積してきました。その結果、人為的なミスや事故による大規模な停電が、日本で起こることはほとんどありません。しかし、電力自由化後は、発電能力が十分でない企業が、市場参入する可能性もあります。また、市場競争の激化とともに目先の利益が最優先され、発電コストが安い火力発電への依存度がさらに高まり、電力供給が不安定化することも想定されます。

(2)電気料金が上がる可能性
イギリスやドイツなどでそうであったように、日本でも、電力自由化の後に電気料金が上昇することも想定されます。また、市場の原理により、今後、電気料金が大きく変動することも想定されます。特に、原油価格が高騰する場合は、これまで以上に電気料金への影響は大きくなり、その影響はよりダイレクトに家計を直撃するでしょう。
――――――――――――――――――――――――――――――

その結果、55%もの人が「電力自由化のデメリットをこれまで知らなかった」と回答。「デメリットについて知って、電力自由化への不安が高まった」という人が73%にものぼります。これまで、電力自由化のデメリットについて考える機会が少なかったことがうかがえます。こうした傾向には、メディアの報道による影響も少なくないようです。実際に、「電力自由化のデメリットについても、メディアでもっときちんと報道されるべきだと思う」という人も88%にものぼります。
電力自由化は、新たな選択肢を得られるチャンスとともに、受け入れなければならない様々なリスクも内包します。その両者をしっかり理解した上でなければ、消費者が最適なサービスを選ぶことはできません。きちんと情報が得られているという安心感がなければ、電力自由化により開始されるサービスに対する懸念が払拭されることはないでしょう。自由化を間近に控えるタイミングではありますが、改めて多様な情報発信の必要性が浮き彫りになりました。


■ 2. 政策アナリストの石川 和男氏に聞く、電力自由化の今後の展望  

今回のアンケート調査では、電力自由化の高い認知率とともに、その一面的な理解への課題が明らかになりました。新サービスが次々と登場するこのタイミングは、どうしてもその華々しい一面にばかり注目が集まります。しかし、こうした構造変化において、メリットしかないということはありません。常にリスクやデメリットもともないます。そこで、電力自由化の実情や、その課題についてお話をうかがうために、政策アナリストで、NPO法人 社会保障経済研究所の代表を務める石川 和男氏に取材を依頼しました。

◆ 電力自由化のメリットは限定的!? 電力自由化で得をする人と、得をしない人の違いを解説      Q. 電力自由化により、電気料金は本当にお得になるのでしょうか?       
「電力自由化」について議論するのであれば、まずは、その意味を正確に捉えなければなりません。今話題になっている「電力自由化」というのは、「電力の小売全面自由化」を指します。電力市場において、発電部門は1995年にすでに自由化されていますし、“小売部門”の内、企業向けについては、2000年以降、順次自由化が進められてきました。2016年4月のタイミングで新たに自由化されるのは、家庭向けのみです。電力量ベースでは市場全体の4割程度にとどまります。
こうした中で、顧客を囲い込むために各社が力を入れるのは、通信費やガス代と電気代を抱き合わせたセット販売のサービスです。各社、“お得感”を出すために様々な工夫を重ねていますが、その一方で、電力使用量が少ない家庭では、こうしたセット販売のサービスを利用できないというケースも少なくありません。つまり、電力の販売業者が、電力使用量の多い一部の顧客を選択するという状況が起きているのです。それは、一般に言われる「消費者が電力を選ぶ時代」と逆の状況だと言えるでしょう。そのため、電力の販売業者が求める顧客、すなわち、電力使用量の多い人にとっては“お得なこと”は増えるかもしれません。しかし、それ以外の人、電力をあまり使わない人、低所得層の人にとってのメリットは限定的だと思われます。

◆ 全面自由化は“電力の安定供給”が大前提… ポイントとなるのは“S+3E”の視点
Q. 電力自由化におけるリスクや課題についてお聞かせください。

電力自由化により、電気料金の決定は市場原理に委ねられます。その狙いは大きく2つ。1つは、夏のピーク時などに電気料金を高くすることで需要を抑制し、省エネルギーを促すこと。そして、もう1つは、供給に必要なコストを電気料金へ転嫁することを保証する総括原価方式を廃止することです。これにより、電力供給におけるコストの効率化が図れると考えられています。しかし、電力は生活を支えるインフラです。電力自由化によりコスト面の効率化を図ることも重要ですが、その前提として、安定供給を保証する仕組みがなければなりません。
ところが、電力の小売全面自由化を迎えるに当たり、価格やサービス内容などの「経済効率性」ばかりに注目が集まっているのが現状です。資源に乏しい日本においてエネルギー問題について考えるには、「S+3E」の視点が欠かせません。すなわち、「安全性(Safety)」を前提として、「安定供給(Energy Security)」を確保し、「経済効率性(Economic Efficiency)」や「環境への適合(Environment)」を図ることが重要です。
しかし、東日本大震災以降、原子力発電所が稼働を停止し、電力供給の9割近くを火力発電所に依存しているのが現状です。その中には、高経年のプラントも多く含まれます。また、エネルギー自給率は6%まで低下しており、火力発電に必要となる原油の8割、LNGの3割を政情が不安定な中東地域から輸入しています。さらには、電力価格の変動リスクについても考えなければなりません。現在は低い価格で推移している原油価格ですが、燃料価格が急騰したリーマンショック後のように、いつまた急激な値上がりが起きてもおかしくないと言えるでしょう。このように、電力の安定供給に対する懸念は尽きません。
繰り返しになりますが、2016年4月から自由化されるのは電力の小売部門です。新たに参入する小売事業者への全面開放であり、発電事業への参入を促進するものではありません。電力を供給する発電所は、今までとほとんど変わらないでしょう。こうした中で、私たちが電気料金の値下げや様々なサービスの恩恵を享受し続けるためには、特定の電源に過度に依存せず、原子力や再エネを組み合わせた「S+3E」の観点でバランスのとれた電源構成の下で、電力自由化における競争が進むことを期待したいと思います。

石川 和男(いしかわ かずお)
−NPO法人 社会保障経済研究所代表・政策アナリスト−

1965年生まれ。1989年東京大学工学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。
石炭、電力・都市ガスなどエネルギー政策、LPガス・高圧ガス・石油コンビナートなど産業保安政策、
産業金融、割賦販売・消費者信用、中小企業、行政改革など各般の政策に従事し、2007年退官。
2008年、内閣官房企画官。
規制改革会議委員、専修大学客員教授、政策研究大学院大学客員教授、東京財団上席研究員などを歴任。
現在は、NPO法人 社会保障経済研究所代表、霞が関政策総研主宰を務める。

特定非営利活動法人社会保障経済研究所 HP
URL:http://iigssp.org/index.html
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