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日本初の医師主導による薬剤溶出型ステントの大規模無作為化 臨床試験“J-DESsERT”症例登録完了のお知らせ

特定非営利活動法人 インターベンションのエビデンスを創る会 (AEEI, 本部:神奈川県横浜市、理事長 南都伸介(大阪大学大学院医学系研究科))は、2010年7月29日に、J-DESsERT (Japan-Drug Eluting Stents Evaluation; a Randomized Trial) - 日本における薬剤溶出型ステントの無作為化臨床試験 - の症例登録目標である3,500症例の登録を完了いたしましたのでお知らせします。

J-DESsERT
■日本で初めてインターベンション領域において、大規模無作為化臨床試験として計画され、経皮的冠動脈インターベンションが適用となる冠動脈疾患患者を対象とし、臨床使用可能な薬剤溶出型ステントであるTAXUS ステント(タクサス:パクリタキセル溶出型ステント)とCypher ステント(サイファー:シロリムス溶出型ステント)を使用した際の、短期的/長期的臨床評価を行なうことを目的としています。
■本試験は同時に、糖尿病や、定量的冠動脈造影法、血管内超音波法、光干渉断層法、血管内視鏡といった様々なサブグループを試験に組み込むことにより、これまで解明されていなかった諸問題に対するクリアな回答をもたらすことが期待されるデザインとなっています。
■今回は全国の参加128施設における登録により、プライマリエンドポイントの対象となる試験全体での目標である3,500症例の登録を達成いたしました。
■また、本試験は、虚血性心疾患の強力な危険因子の1つである糖尿病に注目して、目標症例数の約半数の1,706症例の登録を糖尿病の患者さんとするデザインとしていることが大きな特徴です。(糖尿病症例の登録については近日中に達成予定です)

今回の症例登録完了に際して、AEEI理事長でもあり、本試験の主任研究者でもある南都伸介(大阪大学大学院医学系研究科)は次のようにコメントしています。
「まずは日本初の大規模臨床試験において、第一のハードルであった症例登録を完了できたことを非常に嬉しく思います。特に本邦では医療機器領域における大規模な臨床試験を行うためのインフラストラクチャーが整備されておらず、本試験の立ち上げに先立ち、AEEIを設立するといった環境整備も同時進行で行う必要がありました。そういった意味でも単に一つの試験のマイルストーンを達成したのとは大きく意味合いが異なると考えています。現在もこうして確実に前進できていることは、運営委員会をはじめとする全国128施設を含む全ての関係者の協力によるものであると考えます」 また更には、「最新の薬剤溶出型ステントであるXience/Promusを用いた臨床試験として、先日論文発表されたSPIRIT IVに引き続き、今年5月にフランス・パリにて開催されたEURO PCRにおいてSPIRIT Vの結果が発表されました。いずれも糖尿病という因子が最新の薬剤溶出型ステントの成績に、何らかの影響を与えていることが強く示唆されていますが、残念ながら結論にまでは至っていません。 特にSPIRIT Vの糖尿病サブグループ解析では症例数が少ないために統計的有意差はないものの、12ヵ月のTLR(標的病変血行再建術)の成績においてPES(パクリタキセル溶出型ステント)の方が優れているといった結果( PES:3.8% vs. EES:8.6% )となっています。この状況の中で世界中から、糖尿病にも着目した3,500症例という大規模なJ-DESsERTの存在が注目され、1日も早い結果の発表を望む声が寄せられています。こうした世界中からの期待に応えるべく、これからは1日も早く試験結果を発表できるよう、日本ならではの質の高いデータを集積し、解析を行っていけるよう準備を進めていきたいと思います」と述べています。

本試験のプライマリエンドポイントの結果は2011年上期の発表を目指します。引き続き全症例では2年間、糖尿病群では3年間の長期にわたるフォローアップを実施し、結果を発表していく予定です。


[J-DESsERT実施の背景]
経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は1970年代から実施されてきました。PCIは侵襲の少ない冠動脈血行再建術として世界中に普及し、日本国内でも1980年代前半から各地で実施されてきました。当初のPCIは経皮的バルーン血管形成術と呼ばれ、血管内で小さな風船を膨らませることにより閉塞した血流の再建を図るものでした。しかし再閉塞等の大きな問題をかかえ、1990年代に入り、ベアメタルステントが開発され、治療成績は大幅に向上しました。しかし留置したステント内の再狭窄といった問題が依然として残り、そうした問題解決のために、ベアメタルステントに、ステント留置後の再狭窄の原因となる新生内膜を抑制する効果がある薬剤を塗布した薬剤溶出型ステントが開発されました。 薬剤溶出型ステントの登場により再狭窄は著しく減少し、PCI治療の標準的な治療として薬剤溶出型ステントが留置されるようになりました。
本試験を開始した当時、本邦において承認されている薬剤溶出型ステントとして、シロリムス溶出型ステントであるCypher(サイファー)ステント(2002年欧州、2003年米国、2004年日本にて販売開始)とパクリタキセル溶出型ステントであるTAXUS(タクサス)ステント(2003年欧州、2004年米国、2007年日本にて販売開始)の2つが存在していました。
CypherステントおよびTAXUSステントはそれぞれ固有の性能を有しており、その性能は、薬剤、薬剤放出を制御するポリマー、およびステントのデザインの組み合わせにより、規定されていると言われていますが、諸外国においてこれらの薬剤溶出型ステントの性能を直接比較する試験が多く実施されてきました。しかし試験の規模やデザイン、解析方法などが異なり、クリアな結果が得られていないという問題がありました。特に虚血性心疾患の強力なリスクファクターである糖尿病患者さんにおける治療成績についても諸説ありました。最新の結果ではTAXUSステントの方がCypherステントよりも優れているといった結果が発表されており、両薬剤溶出型ステントが本邦にて承認され臨床使用可能となったことを機会に、日本人を対象として、全症例における両ステントの同等性の確認および糖尿病群におけるTAXUSステントの優越性を示すこと目的として、データについて最も信頼のおける多施設共同無作為化臨床試験を実施することとしました。プライマリエンドポイントはグローバルスタンダードである虚血が原因の標的血管不良(TVF)としています。


[AEEIについて]
全身麻酔が必要な大規模な外科手術もなく、身体に傷口もほとんど残らないことから患者の負担は大変軽い低侵襲な治療であり、患者のQOL向上に貢献することができるインターベンションの領域においても、単に経験に基づく医療(Experienced-Based Medicine)のみならず、信頼性の高い情報に基づく医療(Evidence-Based Medicine:EBM)も重要であるとの認識が高まってきています。しかし本邦における根拠(エビデンス)となる客観的なデータが質、量ともに十分な状況にあるとは言えず、またEBMについて患者さんや医療従事者への認知度も十分に高いとは言えないのが現状です。また、海外諸国において、既に承認を得て臨床にて患者さんにメリットとなるような、多くの臨床の実績があるにも関わらず、日本では承認されておらず治療に使用することができない医薬品や医療機器が多く存在し、こうした状況を改善するためにも、正しく治療が評価できるような客観的なエビデンスを蓄積できるシステムや、それらのエビデンスを臨床へのフィードバックするような活動は、社会的意義が高く、期待も大きいと考えられました。こうした状況の中、医療に携わる者としての社会的責任から、これまで培った心血管疾患などのインターベンションに関する高度な専門知識を社会に還元すべく、エビデンス作りのシステム構築と、得られたエビデンスを多くの医療従事者に幅広く提供し、医療に応用してもらうことで個々の患者の健康福祉的利益はもちろんのこと、医療制度や社会的資源の構築に寄与したいと考え、設立したのが「特定非営利活動法人 インターベンションのエビデンスを創る会」です。

J-DESsERTホームページ: http://www.j-dessert.org/ 
AEEIホームページ: http://www.aeeijapan.org/index.html
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