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世界唯一の爆発しない水素ガス吸入機の開発

水素ガス発生機の爆発防止

慶應義塾大学環境情報学部の武藤佳恭教授はMiZ株式会社(神奈川県鎌倉市、佐藤文武社長)との共同研究において、爆発の危険性がある水素が従来から提唱されてきたJIS規格「4%以上で爆発する」と言われていることにおいてあらためて検証し、実際には実測10%以下であれば爆発しないことをつきとめました。さらに、この実験結果をもとに、一般家庭でも安全に使用可能な水素(発生)吸入機を開発しました。今回の発表では他で実際に市販されている水素(発生)吸入機(14社)の発生水素濃度も測定し、それらが一般使用において爆発の危険性があることも提示し警告しています。この研究内容は、2019年 9月23日午前9時(日本時間9月23日午後4時)、オランダを拠点する医療ガスに関する国際科学専門誌「Medical Gas Research」メディカル・ガス・リサーチ誌のオンライン版にて発表されました。




報道関係各位
2019年9月26日
慶應義塾大学 環境情報学部 教授 武藤佳恭
MiZ株式会社 代表取締役 佐藤文武

背景
1969年にヒトにおける水素(H2)ガスの産生と排出が報告されて以来、水素ガスは毒性のないガス状分子と認識され、最近では、水素は予防的および治療的抗酸化剤として多く利用されている。水素医学研究において、国内で最初の発端となる2005年、東大とMiZ株式会社の研究グループが、電気分解によって生成された中性の高濃度水素水の飲用が酸化剤によって誘発されたラットの酸化ストレスを効果的に減少させることを報告している。そのことから水素は、酸化ストレス誘発性の様々な疾患や障害の治療に有効であることが提案され、病院や家庭での使用のために様々な水素ガス吸入機が市場で入手可能となった。しかし、水素ガスは無臭で引火性および爆発性があり非常に危険であり、またわずかな静電気によっても引火する。そこで我々研究グループは可燃性と爆発性の観点から、種々の濃度での水素ガスの安全性を調べた。さらに市場に出ている水素ガス吸入機の水素濃度を測定し使用時の安全性を検証した。

H2 ガス濃度は爆発にどのように影響するか?
種々の H2 濃度に基づく爆発をテストするために、最初の実験では大陽日酸社(東京)の純粋な H2 ガスである G2 ボンベを使用した。 H2 濃度は、新コスモス電機社(大阪)の XP-3140 を使って測定した。H2 ガスと空気との混合濃度を調べるために、著者らは 5 段階のH2 濃度、すなわち 4%、10%、15%、20%、および 100%の環境下でそれぞれ燃焼性と爆発性をテストした。 4%および 10%の H2 濃度の条件下では、爆発または引火性が見られなかった。15%および 100%の H2 濃度の条件下では、小さな音のある小さな爆発が認められたが、これはユーザーに重大な損害は与えない。しかし、20%のH2 濃度下では、大きな爆発(デトネーション)が認められ、これはユーザーに深刻なダメージを与える可能性がある。この H2 濃度実験の結果から、H2 濃度は10%未満でなければならないことが分かった。なお、この研究を始める前の2015 年 12 月 5 日に著者らはグーグルスカラー(注1)と PubMed (注2)で、検索式(「水素ガス」および「爆発」または「デトネーション」および「濃度」)を使って文献検索を行った。さらに、著者らは 2019 年 8 月 5 日に同様の検索を行った。この検索により、多くの文献は H2 ガスと空気の混合における H2 ガスの爆発濃度は 4〜75%であると記載していた。しかし、一部の文献では、H2 ガスは空気または酸素との混合において、10%以下のH2 ガス濃度では爆発しないことを報告していた。従って、本研究結果は後者の文献により支持された。

H2 ガス吸入機の H2 濃度の測定
新コスモス電機社の XP-3140を使用して、市販されている H2 ガス吸入機(15 製品)の H2濃度を測定した。 H2 濃度の測定には、MHG-2000α の場合は n=5、他の 14 製品の場合はn=1 の装置を使用した。また、各製品カタログでH2 濃度の測定結果が正しいことを確認した。表 1 は、H2 濃度の測定結果を示す。 H2 ガスの濃度が 10%を超えると爆発性があり、危険であることを注目すべきである。ユーザーを保護するため、危険な爆発を避けるためのH2 ガス吸入機の消費者に対する安全規制が直ちに必要である。

静電気により発火する H2 ガス
我々は、静電気発火の危険性を検討しなければならない。「H2 ガス爆発の危険、および防止対策(1989)」(独立行政法人産業技術総合研究所・化学技術研究所・ガス安全課)によると、H2 ガスの最小発火エネルギーは 0.02 mJ であることが報告されている。Mizuki Yamakuma(国立労働安全衛生研究所)による H2 の静電感度によると、ヒトが 1.0 kV の帯電電位を持った場合の人体の静電荷は 0.05 mJ に相当する。ヒトが 90 pF のコンデンサであると仮定すると、1.0 kV(0.05 mJ)から 2.5 kV(0.28 mJ)の帯電電位は、私達にはまったく感知できない。言い換えれば、私達の認識なしに静電気が H2 ガスに容易に着火する可能性が高い。0.02mJ の点火エネルギーが病院や家庭で簡単に生じる。実際、我々は、H2 ライフ、ラブリエリュクスおよびハイドロリッチの 3 製品を使用して、ライターの炎または静電気を H2 ガス吸入機の出口に近づけることで、爆発が発生するかどうかを調べた。その結果、これら 3 つの製品で大きな爆発(デトネーション)が認められた(データ未掲載)。

H2 ガス濃度の制御
H2 ガスと空気の混合の場合、H2 ガス濃度の爆発下限は 4%以下であることがよく知られているが、我々は最近、実験と文献調査によって爆発限界が 10%以下であることを示した。安全な H2 ガス供給システム(MHG-2000α)を図 1 に示すように、H2 ガスを空気と混合することによって吸入ガスを調製した。ここで、H2 ガスは水の電気分解によって 140 mL / 分で生成され、そして濃度は爆発限界の下で H2 ガスと空気の混合物として、約 6.0〜7.0%に制御した(10%以下)。なお、この H2 ガス供給系は、電解槽内の原水、隔膜および電極板から構成される。水面上の送風機、陰極ガス、希釈空気の相互作用に基づいて、電極プレートと陰極から直接 H2 ガスが発生する。従って、電解中の陰極付近の H2 ガスの濃度は常に爆発の下限である 10%以下に維持される。MHG-2000α は、電流と希釈ガス量から計算された H2 ガス濃度を示す新しい注目すべき機能体系を持っている。H2 ガス濃度が 10%以上になった場合、安全のために水の電気分解はすぐに中止される。

通常の条件では、H2 ガスは 10%以下の濃度では爆発しない。 H2 は無味や無臭の無色ガスであるので、水素ガス吸入機によって生成されるH2 ガスの実際の濃度は分からない。従って、H2 ガス吸入機を使用すると爆発の危険がある。スイソニアのような 1 つの吸入機では、H2 ガスの発生をまったく確認できなかった。スイソニア(H2 ガスを生成しない)と MHG-2000α を除くほとんどの H2 ガス吸入機は爆発の危険がある。現時点で、H2 ガス吸入機の適切な製造および/または使用を規制する法律はない。人命に関わる重大な事故を防ぐためには、H2 ガス吸入機の危険性を十分に認識する必要がある。私たちの知る限りでは、これは市場における水素ガス吸入機の爆発の危険性を示す最初の論文である。今回の試験結果は、安全な H2 ガス吸入機の情報提供として役立つ。

表 1 市販されている水素(H2)ガス吸入機(製品)

[画像1: https://prtimes.jp/i/47753/4/resize/d47753-4-715440-0.jpg ]


補足資料

図 1 水素ガス(H2)吸入のための装置(MHG-2000α)。水素ガスは水の電気分解で生成され、しかも吸入ガスは H2 ガスと空気の混合により調整される。そして、濃度は H2 ガスと空気の混合の場合の爆発限界以下に制御される。

[画像2: https://prtimes.jp/i/47753/4/resize/d47753-4-609945-1.jpg ]



用語解説
グーグルスカラー:ウェブ検索サイトのGoogleの提供する検索サービスの一つ。主に学術用途での検索を対象としており、論文、学術誌、出版物の全文やメタデータにアクセスできる。
PubMed: 生命科学や生物医学に関する参考文献や要約を掲載するMEDLINEなどへの無料検索エンジンである。 アメリカ国立衛生研究所のアメリカ国立医学図書館が情報検索Entrezシステムの一部としてデータベースを運用している。

原著論文: Ryosuke Kurokawa#, Shin-ichi Hirano#, Yusuke Ichikawa, Yoshiyasu Takefuji*. Preventing explosions of hydrogen gas inhalers. Medical Gas Research, 9 (3):160-162, 2019.
http://www.medgasres.com/temp/MedGasRes93160-7501859_205018.pdf

水素ガス吸入機の爆発防止
黒川 亮介 1#、平野 伸一 1#、市川 祐介 1、松尾 剛 1、武藤 佳恭 2*
1 神奈川県鎌倉市、MiZ 株式会社
2 神奈川県藤沢市、慶應義塾大学、環境情報学部
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