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日本ぐらし館 木の文化研究会 第3回シンポジウム「住まい手からみる木造住宅の未来」開催

〜京都の木造住宅建築から「住みごたえ」「住みこなし」を学ぶ〜




日本ぐらし館 木の文化研究会 第3回シンポジウム
「住まい手からみる木造住宅の未来」開催
〜京都の木造住宅建築から「住みごたえ」「住みこなし」を学ぶ〜


「日本ぐらし館 木の文化研究会」(委員長:高田光雄)が、全国の工務店ネットワーク「ジャーブネット」(主宰:株式会社アキュラホーム宮沢俊哉)共催、株式会社アキュラホーム(本社:東京都新宿区 社長:宮沢俊哉)協賛のもと、3月18日(火)に、今年で第3回目となるシンポジウム「住まい手からみる木造住宅の未来」を開催しました。

第3回目となる本シンポジウムは、当研究会の総括として、住まい手および住まい方に着目するとともに、大きく変容する社会環境下で変化する住まいへの価値観やニーズを考察し、これからの木造住宅のあり方について議論しました。

まず、京都大学大学院教授の高田光雄氏が、本年度の研究主題「住まい手からみる木造住宅の未来」について解説。「ヨーロッパは石の文化、日本は木の文化」などと言われるが、木の文化は決してそのような単純なものではなく、
また、日本の木造住宅が本当に住まい手にとって意味のある方向に向かっているのかは大いに疑問である。真の居住文化と向き合い、その現代的価値を引き出し、継承・発展させてこそ木の文化ではないのか、と問題提起しました。

続いて、京都府立大学大学院教授の檜谷美恵子氏は、「子育て期・高齢期のライフスタイルと住まい」をテーマに講演。社会環境の大きな変化のなかで、住まい手の生活とニーズがどう変わっているのかの調査をもとに、持続可能なケアのしくみづくりをキーワードとする、新しい集住文化の構築の方向性を提示しました。

また、高田光雄氏、檜谷美恵子氏が、それぞれ携わった事例を紹介し、パネリストである京都大学大学院教授の鉾井修一氏、京都大学大学院教授の林康裕氏、京都工芸繊維大学大学院准教授の矢ケ崎善太郎氏、木村工務店大工棟梁の木村忠紀氏、京都庭園研究所庭師の比地黒義男氏を交え、様々な観点からパネルディスカッションを行いました。

最後に、ジャーブネット主宰の宮沢俊哉が、「3回にわたるシンポジウムの集大成とも言うべき今回、住まい手にまつわる研究や異なる立場の方々の意見をうかがい、様々な価値観があることを改めて認識した。つくり手は『住み心地』の良いものを提供したいと考えるが、一方で、住まい手が参画する双方向のものであるとする『住みごたえ』、住まい手がライフスタイルに合わせて家を使いこなす『住みこなし』という考えや、閉じた「家族本位」から開かれた「接客本位」へ、という提言に触れるなど、大変勉強させていただきました。住まいづくりの本質とつくり手はどうあるべきなのかを追求し続け、理想の暮らしづくりを行っていきたい」と述べました。


「日本ぐらし館 木の文化研究会」は、日本の伝統と京町家の居住性、そこで育まれた暮らしの文化を現代の「住宅」へ継承フィードバックしていく為の産学連合の建築・文化研究を行なうため、2011年5月に発足しました。2012年に開催した第1回シンポジウムでは、地域ごとに異なる気候条件や地震特性に応じた家づくりについて議論を行い、翌2013年に開催した第2回シンポジウムでは、家と庭の関係性という視点から木造住宅のあり方を議論しました。


■講師・パネリスト
○主題解説・コーディネーター・事例紹介
高田 光雄(たかだ みつお)
京都大学大学院工学研究科建築学専攻・教授
日本ぐらし館 木の文化研究会
研究運営委員会 委員長

○基調講演・パネリスト・事例紹介
檜谷 美恵子(ひのきだに みえこ)
京都府立大学大学院生命環境科学研究科
環境科学専攻・教授
日本ぐらし館 木の文化研究会
研究運営委員会 委員

○パネリスト
鉾井 修一(ほこい しゅういち)
京都大学大学院工学研究科建築学専攻・教授

林 康裕(はやし やすひろ)
京都大学大学院工学研究科建築学専攻・教授

矢ケ崎 善太郎(やがさき ぜんたろう)
京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科
建築学部門・准教授

木村 忠紀(きむら ただのり)
株式会社木村工務店・大工棟梁

比地黒 義男(ひちぐろ よしお)
株式会社京都庭園研究所・庭師

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■主題解説「住まい手からみる木造住宅の未来」高田光雄氏(京都大学大学院・教授)
「住みこなし」による「住みごたえ」の創出
〜京町家が伝える居住文化から学ぶ現代の社会的環境のもとでの住まいのあり方〜
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緑に囲まれた国土のなかで「木の文化」を育んできた日本ですが、はたして現代の日本において定着・発展しているのでしょうか。かつての木造住宅とは異なる工法の一般化や木材自給率の低下などは、木の文化が衰退している象徴のようにもみえます。木造住宅は、本当に住まい手にとって意味のある方向に向かっているのでしょうか。真の居住文化と向き合いその現代的価値を引き出し、継承・発展させてこそ、木の文化ではないかという認識のもとに、「住まい手からみる木造住宅の未来」について問題提起をします。

京都の町家が伝える居住文化をベースに、現代の社会的環境のもとでの住まいのあり方を考えていきたいと思います。町家が伝える居住文化は、「自然」「まち」「ひと」とのつながりに整理できます。庭と建物が一体となる開放的なつくりであり、自然や季節を身近に感じることができます。また、通りを挟む家々が両側町を形成し、家と庭を連担させてまちなみと環境条件を整えるマネジメントルールが継承されてきました。さらに、町家では住まい手が各自で室礼(しつらい)をし、自分だけの住まいに仕上げていくそのプロセスこそが町家の住まい方といえます。住宅の非手段的価値を、わたくしは「住みごたえ」と以前より呼び続けてきましたが、それがどれだけあるか、というのが住まいの価値ではないでしょうか。また、生活を建物に合わせ、建物を生活に合わせる行為を「住みこなし」と呼んでいますが、「住みこなし」によって「住みごたえ」という価値が継続的に創出されると言えます。1.少子高齢化の進行、2.女性の社会参加、3.生活のグローバル化、4.家族関係の再編といった、現代の社会的環境の変化のもと、どのように住みやすい家をつくっていくか、というのは我々の大きな課題であります。1.2.については、外部のサービスを受ける機会が増加するなか、サービスの受けやすい開いた家にするとともに、プライバシーは確保するというニーズが高まりつつあります。3.4.については、伝統的住様式の崩壊するなか、京都では若い人が、新たな生活価値を発見し、再生活動に参加して、新たな住様式の創出をしています。生活の一部を共同化し、助け合う新しい生活様式をポジティブに考えると、これからの住まいが見えてくるのではないでしょうか。

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■基調講演「子育て期・高齢期のライフスタイルと住まい」檜谷美恵子氏(京都府立大学大学院・教授)
「住縁への関心」の高まり
〜家族負担の軽減、持続可能性を高める「家族本位」から「接客本位」、「閉じる」から「開く」へ〜
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かつては、郊外庭付き戸建てをという目標を共有していましたが、現在では住み替え・建て替え需要が減少し、同一世帯による居住は長期化しています。住まい手の長寿化、単身化などにともなう不安やニーズに応えるため登場したサービス付き高齢者住宅や、シニア向けマンションなどは、支払い能力によってサービスなどが制限されてしまいます。

一方で、子育て世帯の住まい方についての調査では、リビングで食事や就寝を行うなど、充分な居住面積を確保できない状況などが確認できます。また、居住地による就労女性への支援にニーズの違いがあり、親の支援が期待できないニュータウンの住人たちは「近隣ネットワークによる互助」を必要としています。

今後重要な「ケアの社会化」において、ニーズに適切なサービスを結びつける仲介者の存在や、ケア提供者の質の確保が、現在課題となっています。シェアハウスが若い人たちに注目されるなど、「住縁への関心」が、かつてない勢いで高まるなか、これらの住宅需要を受け止めていくことが必要ではないでしょうか。かつて、京都の町家では様々な集住の作法があり、快適な暮らしを実現していたという話がありますけれども、現代に生きる私たちは差し迫った問題に対応するためにも、集まって住むことで「持続可能なケアの仕組みをつくっていく」ことが非常に重要だろうと考えます。住宅をどんどん住み替えるという方向は限界がきています。そういうなかで、工夫して建て、工夫して「住みこなし」ていく。家族負担を軽減し、その持続可能性を高める。集住の作法やルールを再構築する。集まって住むということは、場合によっては所有権の自由なども制約されますが、そういう制約を受け止め、活かしながらより良い住まいを実現してく。そういう知恵が今強く求められているのではないでしょうか。「家族本位」から「接客本位」へ、「閉じる」から「開く」という方向に意識を持っていくことを通じ、家族をもう一度持続可能なものにしていくためにも、こういう方向性を考えてはと思っています。


■パネルディスカッション
最初に、高田光雄氏からは「平成の京町家 東山八坂通」、檜谷美恵子氏からは「下鴨の家」について、それぞれが手掛けた事例を紹介後、7名でパネルディスカッションが行われました。

鉾井:子供が成長して離れていき高齢化・小家族化した場合、木造住宅の2階を使わず1階で生活するようなパターンに変化すると思われます。建築環境工学の観点からいうと、両階とも適切な温度・湿度で暮らしていた状況から、冬に2階が低温になってくるという状況が非常に大きな変化としてあります。たいしたことがないように思われるかもしれませんが、結露や湿度の問題、知らぬ間にカビが生えたりと環境が徐々に変化していきます。最近の調査では、寒冷地などはそのような事例が多いです。必要なときに開けて、必要なときに閉じて制御するという考え方で、間仕切りなどの設計で制御できる空間をつくっておけば、空いた2階が問題になってくるという状況にも対応できる可能性があると考えております。居住者自身が制御して、頭を使って生活するというライフデザインというのは、重要だと思います。

林:私は、耐震構造、建築構造力学が専門ですけれども、木造住宅の未来を住まい手から見るうえでなにが大事かというと、個人的には「住む場所」「基本となる構造」が大事だと思っています。住む場所の状況やその場所にはどういう災害リスクがあるのかを、知ることが最も大事です。そして安全性を考えるうえで一番大事なのは、あえて「メンテナンス」だと考えます。少子高齢化・女性の社会進出などのため、メンテナンスがしづらい状況になってきていますが、健全な状態を維持することが構造にとって非常に重要なことです。長く住み続けて、安全な暮らしを担保していくためにはメンテナンスが欠かせません。そういう意味で、住宅を供給する側からは「メンテナンスフリー」が進んでいますが、私はどちらかというと反対です。「メンテナンスフリー」というのは住まい手を甘やかし続けて、住まいにはたらきかける機会を奪っていく可能性もあります。ですので「メンテナンスしやすい住宅」というのが大事ですね。メンテナンスをしやすい住宅を供給し、メンテナンスを通して住まい手が住宅や構造、安全のことを知り、住宅に対して深く関わっていくような仕組みを作っていくことが大事ではないかと考えています。構造材が見えるようになっているのが望ましく、床下が覗ける、畳が上げられるといった、住まい手がチェックできる仕組みがあることが基本として大事です。また信頼できる専門家に気軽に相談していただければと思います。ただ、場合によっては木造住宅の伝統構法が向かない地域もありますが、その区別がついていないというふうに思っています。

矢ケ崎:高田先生、檜谷先生のお話を拝聴して、町家から学ぶことが多いとあらためて感じました。改修などに立ち会った際、木造建築を維持していく際に大切なこととして「掃除と手入れ」とお伝えしています。大工さんが蓄積してきた知恵が、今の日本の木造建築を作ってくれているわけです。極端な例ですが世界最古の木造建築である法隆寺の建築も、決して建てたときの状態が今に伝わっているわけではありません。何度も何度も形が変わっていますし、材料も半分以上変わっているのです。それが世界最古の木造建築として皆に認めてもらえる。これが日本の木造建築の蓄積であり、文化です。そして知恵を育んできたのが、大工さんなのです。「いかに使い続けていくか」ということに対する、いろんな時代の大工さんの技や知恵が積層しているという点を、今こそ見直すべきではないかと思いました。町家の工事に携わる大工さんに「どんなことを念頭に入れてつくっているか?」をお聞きしますと、「何年か後に、いかに改修しやすいか、ということを考えている」と伺ったことがあります。建物と住まい手が相互作用しながら、永らえるというシステムが伝統的な建築にはあるのだと思います。檜谷先生が基調講演で「接客重視」ということをおっしゃいまして、住宅の歴史の流れを巻き戻すような見方であり驚いたのですが、私なりに考えて「公と私の境を紛らわす」ということではないかと思いました。

高田:「公と私の境を再編する」ということを、私は「境界線の相対化」と呼んでいるのですが、「境界というものを絶対的なものではなく、相対的なものだと考える」ことが、「開く」原理になっていくということをご指摘いただいたと思います。また、「手入れ」について歴史から学べることはありますか。

矢ケ崎:日本の建築は、増築・改築を繰り返してきたという特徴があります。たとえば国宝に指定されている茶室が三棟あるのですが、すべて移築されているのです。移してまで残そうという意識、移築するほどに由緒や価値を高めていくという不思議な文化が日本にはあると思います。利休が良い茶室とは埋め木の多いものであると言ったように、埋め木をしてまで使い続けられる建築が尊い、そこまでして使い続けられてきた建築こそが尊いのだ、という美意識や価値観を建築史から学ぶことができます。

木村:高田先生が最初に生活を建物に合わせる、建物を生活に合わせることを、「住みこなし」といわれたと思うのですが、現代人は部屋の使い方を全然知りません。それは、与えられた住宅をどう使うか、設計者の意図によって最初から部屋に名前をつけているからです。賢い消費者をつくることが、賢い建築屋を生み出すと私は考えています。維持管理については、施主を教育する必要があります。自分の家の傷みについては住んでいる方が一番わかっています。家を自分で診断するということをずっと続けていただきたい。そうしないと住み続けるということができなくなります。家は消費財ではありません。財産です。財産を次の世代に受け継いでいくために、自分の時代でできることは自分でやっておく。

高田:大工棟梁の立場から、どういうふうに自分の家を手入れすればいいのか、何かありますか。

木村:一番簡単なのは、たとえば、土間を下駄で歩いてください。コンクリートの下に空間があると、詰まっている部分とそうでない部分では音が全然違います。それ一つで、下水が漏れていて土が下がっているようなところがあった場合、その場所を推測できたりします。また、建具の建てつけや、土壁のちり切れに注意したり、雨漏り・樋の手入れなどをくまなくやっていただいたら、まず簡単に家は傷みません。家を一番痛めるのは「水」です。木造の家に関して、一番悪いのは、雨漏り、下水上水の漏れによる地盤の沈下です。なお、伝統構法と在来工法では、補強方法が多少違いますので、適正な方法で補強していただきたいと思います。

比地黒:家が命を守るところだとしたら、庭というのは心を癒すところです。京都の庭の1200年になる歴史を学びましたが、社会の環境の変化により、畳の部屋がフローリングに移行してきたように、庭のありかたも変わってきています。今までは「見せるための庭」だったのが、自分たちが参加し庭をつくることによって、風と光を感じる素晴らしさを味わってほしい。木は生き物なので、時間が経てばどんどん成長していきます。京都では手入れをすることを「透かし」と呼んでおり、光と影のバランスを考え、成長の度合いを見極めるため、枝の状態によって手入れの仕方がまったく違います。京都では様々な管理の方法をきちんと教えてくれます。京都の庭で木の風通しや、木の影を感じられるのは、そうした手入れの技術があるからなのです。

檜谷:高度成長期はマイホームを取得することが目標でしたが、取得後、マイホームでどのような暮らし方を展開するのか、具体的なイメージは見えていませんでした。時代が変わり、家族のあり方が変化するなか、どう住みこなしメンテナンスしていくのか。様々なニーズをどのように満たしていくのか、真剣に考えないといけない時代になってきました。過去には専業主婦任せだった時代もありますが、これからは男性も含めて「住まい手からみる木造住宅の未来」というテーマに皆さんが取り組んでほしいと思います。今日皆さんから、できるだけ住まい手自身が家のことをわかっていることが大切だというご指摘を頂戴しましたが、サービス化が社会的に進むなかで、お金を払ったとしても、かゆいところに手が届くようなサービスというのは少なく、次々と欲求が膨らむだけでなかなか満足できるものではない、ということに皆さんが気付いてきています。もっと違うかたちで生活の質を高めていく、住まいのあり方、住みごたえを感じられる住生活をどう実現していくかを考えることが、大きな課題ではないかと思います。

高田:生活の質を高めることについて、男性の役割なども含めて応答をしていただきましたが、「手入れ」とか「住まい手の役割」、「住みこなし」ということをこれからもっと深く考えていくなかで、「木の文化」、「居住文化」というものをより深く考えていくということが、これからの木造住宅には重要だとあらためて思いました。
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