ポール与那嶺 × 原田泳幸 特別対談『成長へのリーダーシップとは?』
[17/07/03]
提供元:PRTIMES
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グローバル企業で長年トップを務めた二人に聞く、IoT・トランプ時代を迎えた今、日本企業に必要なこと。
GCA株式会社(本社:千代田区 代表取締役:渡辺章博)は特別対談のセミナーを開催しました。IoT時代の到来、トランプ大統領の誕生によって、世界のルールが今まさに大きく変わろうとしています。異なるテクノロジー、異なるビジネスアセットの融合(オープンイノベーション)が企業成長に不可欠な時代に突入し、M&Aはさらに活発化していく傾向にあります。長年グローバルIT企業のトップを務めてきた二人― ポール与那嶺氏と原田泳幸氏は、いま何を考え、これからどう行動しようとしているか。対談を通じて語り合いました。
※本記事は、2017年5月にGCAの会員制クラブセミナーにて行われたセミナー内容を再構成しています
[画像1: https://prtimes.jp/i/18431/10/resize/d18431-10-933737-8.jpg ]
■はじめに 〜新たなチャレンジ〜
「シリコンバレーからアメリカを捉え直し、日系企業のためにチャレンジしたい」ポール与那嶺
2016年はテクノロジーの可能性が一気に膨らんだ1年でした。毎日のように、AIやIoT、フィンテックなどの最先端テクノロジーの話題が新聞をにぎわせましたが、社長、副社長の経営層レベルでも非常に課題認識していた現象は久しぶりだったと思います。テクノロジーを活用すれば、会社の変革、収益率の向上、またグローバル化につながっていくんではないかという期待が非常に高かったのだと思うんです。ただ実際には日本企業の取組みペースは非常に遅く、一方で、欧米やアジアではイノベーティブな環境を整えて突っ走っている企業がざらにあるというのが現状です。
日本でテクノロジーを活用する場合、規制問題や人事的な報酬制度の制限や、イノベーティブな環境がなかったりなど動きづらいファクターがいろいろとあります。その中では今後、海外での戦略的投資、海外企業との協業が必須になってくるのではと考えたんです。GCAに入れば、そこを長年お世話になっている日本企業のお客様のお役に立てるんではないかと思いました。それも日本からではなく、シリコンバレーからチャレンジしてみたい、と。60歳になってこういう考えを持つのはちょっと遅すぎるかもしれませんけど、もう一回再チャレンジしたいと思ったんです。
「日本企業はもっと成長する機会がある」原田泳幸
私はエンジニアリング、営業、マーケティングとIT産業に33年身を置き、その後外食産業、教育産業を経験しました。また一方で、44年グローバル企業で仕事をしてきました。そして20年間社長を務めてきました。マイクロプロセッサーもない時代からエンジニアとして経験していますが、テクノロジーの進歩の速さ、それに伴うビジネスモデルの変化、モノポリーから次のモノポリーへの変化の凄まじさをずっと見てきました。今後はもっと加速されていくんじゃないかって思うんです。
何か新しい刺激、新しい変化が起こるときは必ず苦しみもありますが、良いことも出てきます。そこに持っていきたいんですね。そういった、チェンジリーダーシップ、日本企業がもっと成長する機会が必ずあると思っています。GCAをはじめ企業の顧問として経営者の相談を聞くと、類似点が多いことに気付かされます。ならば社長が集う場を設けたらどうかと考え、この『GCAクラブ・オープンイノベーション・ラウンドテーブル』を立ち上げました。この年になると若い社長から学ぶことがあって、さらに私もいろんな知恵が出てきたり、エネルギーが出てきたりする点もあります。
■対談
2016年はテクノロジービッグバンの年
”失敗が許される環境”の整備が急務
経営者はもっと人材育成にコミットするべき
ビジネスプロデュース力の強化が必要
2016年はテクノロジービッグバンの年
与那嶺 2016年は印象に残る年でした。これを「2Ts」(2つのT)というキーワードに集約することができます。最初のTはテクノロジーのT、2つ目は改めて言うまでもなく、トランプのTです。原田さんはこのあたりの現状をどう見ていますか。
原田 私は、長年米国のグローバルカンパニーに勤めてきて、なぜいつも米国は自分のやり方を押し付けるのだろうと感じていました。でもそれは、米国が「Think U.S, Act Global」の国であり、アメリカはいつも世界一強い国でありたいと考えているからです。これはまさに米国のスピリットそのものです。カルチャーの違いといってしまえばそれまでですが、何故トランプ政権が誕生したのかといえば、そこにトランプ氏がぴったりはまったのだと思います。
もちろんこのアメリカの精神は悪い側面ばかりではありません。アメリカはいつでも新しい刺激や変化の発信源であり、テクノロジーにおいても、その進歩の速さとそれに伴うビジネスモデルを生み出すパワーは凄まじいものがあります。
アメリカは決してモノづくりの国ではありません。モノをつくるのではなくビジネスをプロデュースする国です。必要なテクノロジーが自社にないなら、他社とコラボレーションするなり、必要なものはM&Aで手に入れしっかりとPMIを行って自社のアセットに組み込むなりしてものにしていきます。このリーダーシップを、経営トップがしっかりと発揮している。トップが発想してトップがドライブする。そして世界中にイノベーションを起こしていく。今、世界を動かしているiPhoneを生み出したスティーブ・ジョブズはその典型です。こうしたイノベーティブなアイデアはほとんど米国で生まれています。
”失敗が許される環境”の整備が急務
与那嶺 日本のモノづくりの力というものは今さら言うまでもありません。おそらくグローバルナンバー1ではないでしょうか。ただ、以前こんなことがありました。とあるメーカーの技術者がiPodを手にして、「うちでもつくろうと思えば簡単にできますよ」と言うんです。でも私は果たしてそうだろうかと思いました。もちろんハードそのものはつくれると思います。ただ、さきほど原田さんがおっしゃったプロデュース力の面はどうでしょうか。
[画像2: https://prtimes.jp/i/18431/10/resize/d18431-10-246833-10.jpg ]
iPod はそれ単体で機能するものではなく、iTunesという仕組みで新しい音楽の楽しみ方を創出したところがイノベーティブなわけです。つまり音楽レーベルとタフな交渉を重ねて許可を得、利用者が簡単に楽曲を購入し楽しめる仕組みをつくり上げた。過去には存在しなかった革新的な構想を実現したわけです。
このような新しいビジネスモデルを生み出す能力は、今後ますます不可欠になっていくと思います。こうしたことが米国の企業にできて、なぜ日本の企業にできないのか。それは、米国企業にある失敗を恐れない環境が大きく影響していると思います。イノベーションを起こすといっても、背水の陣といった鬼気迫るものではなく、仕様の変更を前提としたアジャイルな開発手法(注)で柔軟に行い、経営トップも1度や2度の失敗なら気にしない。次はそこから学んでもっといいものつくろうという姿勢です。そういう風土があることが非常に重要だと思うのです。
ベンチャー企業の育成についても同様です。日本では、失敗が許されないというプレッシャーがあるためなかなかリスクを取ろうとしませんが、米国ではシティバンクや、大手百貨店のメイシーズなどが積極的にスタートアップ企業に投資を行い、ベンチャー企業をサポートする仕組みがあります。ベンチャー企業の若い経営者の中には、成功して多くの報酬を得ている人もいますし、オープンイノベーションといいますか、一緒に開発してイノベーションを起こすような、ベンチャー企業を育むエコシステム(生態系)が出来上がっている点が大きな違いです。
(注:2週間ほどの短い期間で開発とリリースを繰り返し、顧客を巻き込んでプロダクトの質を高めていく開発手法。リスクを最小限に抑えるメリットがある)
原田 似た話ですが、日本人がつくるプレゼンテーション資料には必ず「直面する課題」と書いてあります。ところが米国人はそのような表現はしません。「チャレンジすべきオポチュニティー(opportunity=機会)」と書かれている。課題ではなく、「成功のためのチャンス」と捉えているのです。この差は計り知れないですね。ただ、
[画像3: https://prtimes.jp/i/18431/10/resize/d18431-10-858095-11.jpg ]
私は日本企業のダメ出しをするためにここにいるのではありません。日本の企業、そして日本人は素晴らしい才能を持っています。現に最近の若者を見れば、スポーツ、アート、音楽など、さまざまな分野で世界的な活躍をしています。ただ、ビジネス界では、日系企業以外のグローバルカンパニーで日本人がCEOになった例を知りません。
私はもっと日本のリーダーシップが発揮できる機会があるはずだと思っています。アメリカ企業のトップのように、自ら発想して自ら強力にドライブしていく、そんな経営者を育てて日米のギャップを少しでも埋めることができたらと考えています。「GCAクラブ」のこのオープンイノベーション・ラウンドテーブルも、そんな思いがあって立ち上げたものです。そして異業種にもっと興味を持っていろんなコミュニケーション図るネットワークつくりをやってお互いのビジネスを語り合う、お互いを知る中で新たなビジネスが生まれるみたいなものを、まずは期待したいなと思っています。より多くの日本企業の経営者にこの場に集まっていただき、高め合っていけたらと考えています。
経営者はもっと人材育成にコミットするべき
与那嶺 日米の企業文化の違いに関していえば、人事、報酬体系にもそれは見い出せます。例えば報酬については、米国の企業では経営者をはじめ成果を出した人が高額な報酬を得ることが珍しくありませんが、日本企業では横並び的なところがあります。人事面でも、外資の企業ではタレントマネジメント、すなわち部下の採用や育成は、上司の重要な役割と定義されています。経営者であれば後継者育成が問われます。私が社長を務めた企業では、就任して1週間もしないうちに「あなたのベンチは誰だ」と聞かれました。「ベンチ」というのは後継者のことです。
原田 日本の人事制度、特に経営者のサクセッションプラン(後継者育成)には課題があると感じています。世界のマクドナルドの経営者が集まるミーティングでは、四半期ごとに後継者についてのレビューを丸1日かけて行っているほどです。さらに、サクセッションプランの立案は、役員の報酬のかなり大きなウエイトを占めており、重要な仕事です。経営を人材でつなぐというパイプラインづくりを重視しているのです。
ビジネスプロデュース力強化が必要
与那嶺 人材育成の話が出ましたが、日本企業がグローバルに競争力を発揮するためには、今後ますます人材が鍵になると思われます。政府も働き方改革を推進していますが、この点についてはいかがですか。
原田 私は安倍政権が発信している働き方改革のメッセージは正しいと思っています。ワークライフバランス、女性の進出などはどれも当然必要なことです。ただ、どれだけ安倍政権が真剣にそれを実行し、結果を出そうとしているかが問われていると思います。政治的なお題目というだけでは済まされません。その点、実行の仕組みづくりにおいて、まだ疑問がたくさんあります。
同時にこれに付随して「AI、フィンテック、IoTなどの活用でホワイトカラーの生産性を向上しよう」といった議論もありますが、生産性向上の目的は残業が減ることではありません。大切なのは、生産性の向上で生まれた余力を、顧客に提供する価値向上など、次の一手に振り向けていくことだと思います。
与那嶺 働き方改革を論じる際、ダイバーシティは大きなテーマになると思いますが、私が関わった有名なIT企業では、マネージャーの30%が女性です。これは日本企業では最高のレベルだと思います。努力しましょうといった掛け声ではなく、このKPIを達成できないと、管理する者の報酬が下がってしまう。結果がすべてなんです。そこまでの仕組みをつくらないと、確かに働き方の改革は実現しないでしょうね。
[画像4: https://prtimes.jp/i/18431/10/resize/d18431-10-889604-7.jpg ]
さて最後に、トランプ政権の誕生が日本企業の活動にどのような影響を与えるのか、日本企業はどう取り組むべきなのか、原田さんの意見を伺ってまとめにしたいと思います。トランプ大統領の今後の施策についてはなかなか読みづらいところがあります。そのため米国では今、企業のトップがトランプ政権との密なコミュニケーションを取りながら情報収集をしています。トランプ大統領が公約として掲げた雇用の創出のために、米国でのモノづくりが再び活性化する可能性もあると見ています。
原田 そうですね。ただし、モノづくりの品質という点では、日本やドイツが秀でていると思います。やはり米国はビジネスプロデュース、すなわちイノベーションのリーダーシップを執る方が競争力を発揮できるのではないでしょうか。ですから米国で製造業が復活するとしたら、それは日本企業の出番につながるのではないかと思います。
また、少し異なる視点として、トランプ政権の誕生によっていろいろな苦難が訪れるとしたら、それは日本にとってチャンスです。日本企業はこれまで、オイルショックやドルショックなど、さまざまな危機を乗り越えてきました。内部から変革するリーダーがなかなか出てこないところは課題ではありますが、外圧には強い。そこを乗り越えるときにもの凄く大きな力を発揮して成長してきました。そこに期待したいですね。
ただし、欧米企業と互角に戦うためにはスピードも肝心です。そのためには、これまでのような自前主義ではなくM&Aを活用した新規のビジネスに役立つアセットやタレントの獲得が必要ですし、そうして身に付けたものを生かすビジネスプロデュースの力をもっと蓄えていかなければいけないと考えています。
■登壇者について
ポール与那嶺(ぽーるよなみね)
2017年7月にGCA取締役会長に就任。元 KPMGコンサルティング 代表取締役会長 / 元 ホノルル市長特別顧問 / 元 日立コンサルティング 代表取締役社長 兼 CEO / 元 日本IBM 代表取締役社長執行役員
原田泳幸(はらだえいこう)
GCA顧問。ソニー社外取締役 / 元 アップルコンピュータ 代表取締役社長 兼 米国アップルコンピュータ社副社長 / 元 日本マクドナルドホールディングス会長兼代表取締役社長 / 元 ベネッセホールディングス会長 兼 代表取締役社長
■GCAクラブについて
法人向け有料会員制のGCAクラブは、M&A関連の知識、実務を広く共有していただく場の提供を目的として、2005年11月の設立以来、数多くの企業様にご愛顧いただいております。現在、メーカー、IT、小売、サービス等多種多様な業界のリーディング企業を中心に、多数ご入会いただいております。
新たなビジネス価値創造を目的として、2017年1月より原田泳幸氏を座長とする異業種交流会「オープンイノベーション」がスタートいたしました。
http://www.gcaglobal.co.jp/about-gca/gca-club/
■会社概要
社 名: GCA株式会社
所在地: 東京都千代田区丸の内1-11-1 パシフィックセンチュリープレイス丸の内
代表者: 代表取締役 渡辺章博
創 業: 2004年4月
URL: www.gcaglobal.co.jp
GCA株式会社(本社:千代田区 代表取締役:渡辺章博)は特別対談のセミナーを開催しました。IoT時代の到来、トランプ大統領の誕生によって、世界のルールが今まさに大きく変わろうとしています。異なるテクノロジー、異なるビジネスアセットの融合(オープンイノベーション)が企業成長に不可欠な時代に突入し、M&Aはさらに活発化していく傾向にあります。長年グローバルIT企業のトップを務めてきた二人― ポール与那嶺氏と原田泳幸氏は、いま何を考え、これからどう行動しようとしているか。対談を通じて語り合いました。
※本記事は、2017年5月にGCAの会員制クラブセミナーにて行われたセミナー内容を再構成しています
[画像1: https://prtimes.jp/i/18431/10/resize/d18431-10-933737-8.jpg ]
■はじめに 〜新たなチャレンジ〜
「シリコンバレーからアメリカを捉え直し、日系企業のためにチャレンジしたい」ポール与那嶺
2016年はテクノロジーの可能性が一気に膨らんだ1年でした。毎日のように、AIやIoT、フィンテックなどの最先端テクノロジーの話題が新聞をにぎわせましたが、社長、副社長の経営層レベルでも非常に課題認識していた現象は久しぶりだったと思います。テクノロジーを活用すれば、会社の変革、収益率の向上、またグローバル化につながっていくんではないかという期待が非常に高かったのだと思うんです。ただ実際には日本企業の取組みペースは非常に遅く、一方で、欧米やアジアではイノベーティブな環境を整えて突っ走っている企業がざらにあるというのが現状です。
日本でテクノロジーを活用する場合、規制問題や人事的な報酬制度の制限や、イノベーティブな環境がなかったりなど動きづらいファクターがいろいろとあります。その中では今後、海外での戦略的投資、海外企業との協業が必須になってくるのではと考えたんです。GCAに入れば、そこを長年お世話になっている日本企業のお客様のお役に立てるんではないかと思いました。それも日本からではなく、シリコンバレーからチャレンジしてみたい、と。60歳になってこういう考えを持つのはちょっと遅すぎるかもしれませんけど、もう一回再チャレンジしたいと思ったんです。
「日本企業はもっと成長する機会がある」原田泳幸
私はエンジニアリング、営業、マーケティングとIT産業に33年身を置き、その後外食産業、教育産業を経験しました。また一方で、44年グローバル企業で仕事をしてきました。そして20年間社長を務めてきました。マイクロプロセッサーもない時代からエンジニアとして経験していますが、テクノロジーの進歩の速さ、それに伴うビジネスモデルの変化、モノポリーから次のモノポリーへの変化の凄まじさをずっと見てきました。今後はもっと加速されていくんじゃないかって思うんです。
何か新しい刺激、新しい変化が起こるときは必ず苦しみもありますが、良いことも出てきます。そこに持っていきたいんですね。そういった、チェンジリーダーシップ、日本企業がもっと成長する機会が必ずあると思っています。GCAをはじめ企業の顧問として経営者の相談を聞くと、類似点が多いことに気付かされます。ならば社長が集う場を設けたらどうかと考え、この『GCAクラブ・オープンイノベーション・ラウンドテーブル』を立ち上げました。この年になると若い社長から学ぶことがあって、さらに私もいろんな知恵が出てきたり、エネルギーが出てきたりする点もあります。
■対談
2016年はテクノロジービッグバンの年
”失敗が許される環境”の整備が急務
経営者はもっと人材育成にコミットするべき
ビジネスプロデュース力の強化が必要
2016年はテクノロジービッグバンの年
与那嶺 2016年は印象に残る年でした。これを「2Ts」(2つのT)というキーワードに集約することができます。最初のTはテクノロジーのT、2つ目は改めて言うまでもなく、トランプのTです。原田さんはこのあたりの現状をどう見ていますか。
原田 私は、長年米国のグローバルカンパニーに勤めてきて、なぜいつも米国は自分のやり方を押し付けるのだろうと感じていました。でもそれは、米国が「Think U.S, Act Global」の国であり、アメリカはいつも世界一強い国でありたいと考えているからです。これはまさに米国のスピリットそのものです。カルチャーの違いといってしまえばそれまでですが、何故トランプ政権が誕生したのかといえば、そこにトランプ氏がぴったりはまったのだと思います。
もちろんこのアメリカの精神は悪い側面ばかりではありません。アメリカはいつでも新しい刺激や変化の発信源であり、テクノロジーにおいても、その進歩の速さとそれに伴うビジネスモデルを生み出すパワーは凄まじいものがあります。
アメリカは決してモノづくりの国ではありません。モノをつくるのではなくビジネスをプロデュースする国です。必要なテクノロジーが自社にないなら、他社とコラボレーションするなり、必要なものはM&Aで手に入れしっかりとPMIを行って自社のアセットに組み込むなりしてものにしていきます。このリーダーシップを、経営トップがしっかりと発揮している。トップが発想してトップがドライブする。そして世界中にイノベーションを起こしていく。今、世界を動かしているiPhoneを生み出したスティーブ・ジョブズはその典型です。こうしたイノベーティブなアイデアはほとんど米国で生まれています。
”失敗が許される環境”の整備が急務
与那嶺 日本のモノづくりの力というものは今さら言うまでもありません。おそらくグローバルナンバー1ではないでしょうか。ただ、以前こんなことがありました。とあるメーカーの技術者がiPodを手にして、「うちでもつくろうと思えば簡単にできますよ」と言うんです。でも私は果たしてそうだろうかと思いました。もちろんハードそのものはつくれると思います。ただ、さきほど原田さんがおっしゃったプロデュース力の面はどうでしょうか。
[画像2: https://prtimes.jp/i/18431/10/resize/d18431-10-246833-10.jpg ]
iPod はそれ単体で機能するものではなく、iTunesという仕組みで新しい音楽の楽しみ方を創出したところがイノベーティブなわけです。つまり音楽レーベルとタフな交渉を重ねて許可を得、利用者が簡単に楽曲を購入し楽しめる仕組みをつくり上げた。過去には存在しなかった革新的な構想を実現したわけです。
このような新しいビジネスモデルを生み出す能力は、今後ますます不可欠になっていくと思います。こうしたことが米国の企業にできて、なぜ日本の企業にできないのか。それは、米国企業にある失敗を恐れない環境が大きく影響していると思います。イノベーションを起こすといっても、背水の陣といった鬼気迫るものではなく、仕様の変更を前提としたアジャイルな開発手法(注)で柔軟に行い、経営トップも1度や2度の失敗なら気にしない。次はそこから学んでもっといいものつくろうという姿勢です。そういう風土があることが非常に重要だと思うのです。
ベンチャー企業の育成についても同様です。日本では、失敗が許されないというプレッシャーがあるためなかなかリスクを取ろうとしませんが、米国ではシティバンクや、大手百貨店のメイシーズなどが積極的にスタートアップ企業に投資を行い、ベンチャー企業をサポートする仕組みがあります。ベンチャー企業の若い経営者の中には、成功して多くの報酬を得ている人もいますし、オープンイノベーションといいますか、一緒に開発してイノベーションを起こすような、ベンチャー企業を育むエコシステム(生態系)が出来上がっている点が大きな違いです。
(注:2週間ほどの短い期間で開発とリリースを繰り返し、顧客を巻き込んでプロダクトの質を高めていく開発手法。リスクを最小限に抑えるメリットがある)
原田 似た話ですが、日本人がつくるプレゼンテーション資料には必ず「直面する課題」と書いてあります。ところが米国人はそのような表現はしません。「チャレンジすべきオポチュニティー(opportunity=機会)」と書かれている。課題ではなく、「成功のためのチャンス」と捉えているのです。この差は計り知れないですね。ただ、
[画像3: https://prtimes.jp/i/18431/10/resize/d18431-10-858095-11.jpg ]
私は日本企業のダメ出しをするためにここにいるのではありません。日本の企業、そして日本人は素晴らしい才能を持っています。現に最近の若者を見れば、スポーツ、アート、音楽など、さまざまな分野で世界的な活躍をしています。ただ、ビジネス界では、日系企業以外のグローバルカンパニーで日本人がCEOになった例を知りません。
私はもっと日本のリーダーシップが発揮できる機会があるはずだと思っています。アメリカ企業のトップのように、自ら発想して自ら強力にドライブしていく、そんな経営者を育てて日米のギャップを少しでも埋めることができたらと考えています。「GCAクラブ」のこのオープンイノベーション・ラウンドテーブルも、そんな思いがあって立ち上げたものです。そして異業種にもっと興味を持っていろんなコミュニケーション図るネットワークつくりをやってお互いのビジネスを語り合う、お互いを知る中で新たなビジネスが生まれるみたいなものを、まずは期待したいなと思っています。より多くの日本企業の経営者にこの場に集まっていただき、高め合っていけたらと考えています。
経営者はもっと人材育成にコミットするべき
与那嶺 日米の企業文化の違いに関していえば、人事、報酬体系にもそれは見い出せます。例えば報酬については、米国の企業では経営者をはじめ成果を出した人が高額な報酬を得ることが珍しくありませんが、日本企業では横並び的なところがあります。人事面でも、外資の企業ではタレントマネジメント、すなわち部下の採用や育成は、上司の重要な役割と定義されています。経営者であれば後継者育成が問われます。私が社長を務めた企業では、就任して1週間もしないうちに「あなたのベンチは誰だ」と聞かれました。「ベンチ」というのは後継者のことです。
原田 日本の人事制度、特に経営者のサクセッションプラン(後継者育成)には課題があると感じています。世界のマクドナルドの経営者が集まるミーティングでは、四半期ごとに後継者についてのレビューを丸1日かけて行っているほどです。さらに、サクセッションプランの立案は、役員の報酬のかなり大きなウエイトを占めており、重要な仕事です。経営を人材でつなぐというパイプラインづくりを重視しているのです。
ビジネスプロデュース力強化が必要
与那嶺 人材育成の話が出ましたが、日本企業がグローバルに競争力を発揮するためには、今後ますます人材が鍵になると思われます。政府も働き方改革を推進していますが、この点についてはいかがですか。
原田 私は安倍政権が発信している働き方改革のメッセージは正しいと思っています。ワークライフバランス、女性の進出などはどれも当然必要なことです。ただ、どれだけ安倍政権が真剣にそれを実行し、結果を出そうとしているかが問われていると思います。政治的なお題目というだけでは済まされません。その点、実行の仕組みづくりにおいて、まだ疑問がたくさんあります。
同時にこれに付随して「AI、フィンテック、IoTなどの活用でホワイトカラーの生産性を向上しよう」といった議論もありますが、生産性向上の目的は残業が減ることではありません。大切なのは、生産性の向上で生まれた余力を、顧客に提供する価値向上など、次の一手に振り向けていくことだと思います。
与那嶺 働き方改革を論じる際、ダイバーシティは大きなテーマになると思いますが、私が関わった有名なIT企業では、マネージャーの30%が女性です。これは日本企業では最高のレベルだと思います。努力しましょうといった掛け声ではなく、このKPIを達成できないと、管理する者の報酬が下がってしまう。結果がすべてなんです。そこまでの仕組みをつくらないと、確かに働き方の改革は実現しないでしょうね。
[画像4: https://prtimes.jp/i/18431/10/resize/d18431-10-889604-7.jpg ]
さて最後に、トランプ政権の誕生が日本企業の活動にどのような影響を与えるのか、日本企業はどう取り組むべきなのか、原田さんの意見を伺ってまとめにしたいと思います。トランプ大統領の今後の施策についてはなかなか読みづらいところがあります。そのため米国では今、企業のトップがトランプ政権との密なコミュニケーションを取りながら情報収集をしています。トランプ大統領が公約として掲げた雇用の創出のために、米国でのモノづくりが再び活性化する可能性もあると見ています。
原田 そうですね。ただし、モノづくりの品質という点では、日本やドイツが秀でていると思います。やはり米国はビジネスプロデュース、すなわちイノベーションのリーダーシップを執る方が競争力を発揮できるのではないでしょうか。ですから米国で製造業が復活するとしたら、それは日本企業の出番につながるのではないかと思います。
また、少し異なる視点として、トランプ政権の誕生によっていろいろな苦難が訪れるとしたら、それは日本にとってチャンスです。日本企業はこれまで、オイルショックやドルショックなど、さまざまな危機を乗り越えてきました。内部から変革するリーダーがなかなか出てこないところは課題ではありますが、外圧には強い。そこを乗り越えるときにもの凄く大きな力を発揮して成長してきました。そこに期待したいですね。
ただし、欧米企業と互角に戦うためにはスピードも肝心です。そのためには、これまでのような自前主義ではなくM&Aを活用した新規のビジネスに役立つアセットやタレントの獲得が必要ですし、そうして身に付けたものを生かすビジネスプロデュースの力をもっと蓄えていかなければいけないと考えています。
■登壇者について
ポール与那嶺(ぽーるよなみね)
2017年7月にGCA取締役会長に就任。元 KPMGコンサルティング 代表取締役会長 / 元 ホノルル市長特別顧問 / 元 日立コンサルティング 代表取締役社長 兼 CEO / 元 日本IBM 代表取締役社長執行役員
原田泳幸(はらだえいこう)
GCA顧問。ソニー社外取締役 / 元 アップルコンピュータ 代表取締役社長 兼 米国アップルコンピュータ社副社長 / 元 日本マクドナルドホールディングス会長兼代表取締役社長 / 元 ベネッセホールディングス会長 兼 代表取締役社長
■GCAクラブについて
法人向け有料会員制のGCAクラブは、M&A関連の知識、実務を広く共有していただく場の提供を目的として、2005年11月の設立以来、数多くの企業様にご愛顧いただいております。現在、メーカー、IT、小売、サービス等多種多様な業界のリーディング企業を中心に、多数ご入会いただいております。
新たなビジネス価値創造を目的として、2017年1月より原田泳幸氏を座長とする異業種交流会「オープンイノベーション」がスタートいたしました。
http://www.gcaglobal.co.jp/about-gca/gca-club/
■会社概要
社 名: GCA株式会社
所在地: 東京都千代田区丸の内1-11-1 パシフィックセンチュリープレイス丸の内
代表者: 代表取締役 渡辺章博
創 業: 2004年4月
URL: www.gcaglobal.co.jp