光ファイバの高速振動を検出する技術を開発
[23/05/31]
提供元:PRTIMES
提供元:PRTIMES
140kHzの高速振動を世界で初めて検出 通信の信頼性を向上させる技術として今後の活用に期待
明治大学 総合数理学部 笠史郎教授は、光ファイバで起きる140kHzの高速な振動を検出することに、世界で初めて成功しました(※1)。その結果、実際に通信で利用されている光ファイバで起きている高速な振動の原因究明の可能性が示されました。
本研究成果は、科研費(JP19K04431)の研究成果を発展させたものです。
明治大学から特許出願し、既に特許として成立しています(特許6887901号、登録日:2021年5月21日)。
通信に支障をきたす光ファイバの高速振動
通信に使用されている光ファイバは、光ケーブルとして、道路や鉄道線路沿い、架空、地中、橋梁などのさまざまな環境に敷設されており、通信サービスが提供されています。光ケーブルは、このような環境に敷設されているため、列車や自動車の通行や、強風、地震などの自然現象の影響により、光ケーブル自体が振動することがあります。光ファイバ通信方式で古くから使われている強度変調・直接検波方式(光の強度を情報信号に応じて変化させる方式)では、光ケーブルが振動しても大きな問題は発生しませんでした。しかしながら、2010年頃から世界中で実用化されているデジタルコヒーレント光ファイバ通信方式(光の位相を利用してより高速な情報を伝送できる方式)においては、光の位相が光ケーブルの振動の影響を受けるため、通信に支障が生じる事態が稀に発生することが、学会で報告されています(※2)。このような振動は、最高で10kHz程度の周波数を有することが知られています(※3)。高速な振動が発生しても、通信の安定性を確保することは極めて重要です。
従来の振動検出技術の限界
[画像: https://prtimes.jp/i/119558/13/resize/d119558-13-08555f23696624914907-0.png ]
通信の安定性を確保するためには、高速な振動の発生箇所を特定し、発生箇所における振動の発生状況を詳細に把握することが必要です。これまで、世界中の研究者が高速な振動検出可能な技術について、研究を行ってきました。光ファイバ上の振動検出技術としては、後方散乱光測定技術(OTDR)があります。OTDRでは、一定周期で発生させた光パルスを光ファイバに入力し、光ファイバ内で散乱されて入射端に戻ってくる光(後方散乱光)を検出する方法です(図1)。振動が光ファイバ中で起きている場合、振動箇所においては後方散乱光の位相が変化するため、入射端で振動発生個所の特定が可能です。しかしながら、OTDRでは一定周期のパルス光を用いているため、パルスの繰り返し周期に相当する周波数以上の高速な振動を連続的に測定することは原理的に困難であり、通信用の光ケーブル長(通常は数十km)に適用可能な商用技術では、数百Hz〜数kHz程度の振動までしか正確には測定できませんでした。
笠教授が提案した新たな振動検出技術
今回、笠教授が提案した振動検出技術では、コヒーレントヘテロダイン検波技術(光の波としての性質を用いた光検出方法)を用い、また同技術で使用する信号光と局部発振光を同期して周波数掃引することにより、連続光を用いて、後方散乱光測定が可能となりました。笠教授は、この方法を用いることにより、振動発生箇所における振動の状況を連続的に測定可能であることを示しました。そして、実際に起きる可能性がある10kHzを遥かに超える140kHzの振動を光ファイバに発生させて、後方散乱光を測定した結果、振動が発生している箇所における振動状況を連続的に測定することに、世界で初めて成功しました。
提案方法は、世界中で実用化されている、デジタルコヒーレント光通信方式が用いられている光ケーブルにおいて、通信の信頼性を向上させる技術として、今後の活用が期待されます。
論文情報
本研究成果は、米国IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)が発行する学術論文誌であるIEEE Photonics Technology Letters の5月1日号に掲載されました。
Shiro Ryu, “Continuous time-domain measurement method of Rayleigh backscattered light with coherent detection, IEEE Photonics Technology Letters, Vol. 35, No. 9, pp. 497-500, May 2023. (DOI: 10.1109/LPT.2023.3260877)
※1 従来の光ファイバの振動検出技術においては、光ファイバ長が長くなればなるほど、高速な振動検出は困難になります。今回の研究開発では、40km長の光ファイバにおける140kHzの振動の検出に成功しています。一方、従来技術を用いて同様な振動検出をした場合に検出可能な理論上の最高周波数は、光パルスの40kmファイバの往復時間(0.4ms)の逆数である2.5kHzの1/2(標本化定理による)として計算され、1.25kHzとなります。即ち、140kHzの振動は、この値の100倍以上の値であり、このような高速振動の検出は従来技術では不可能でした。
※2 P. M. Krummrich, E.-D. Schmidt, W. Weiershausen, and A. Rlattheus, “Field trial results on statistics of fast polarization changes in long haul WDM transmission systems,” OFC2005, paper OThT6, 2005.
※3 P.M. Krummrich and K. Kotten, “Extremely fast (microsecond timescale) polarization changes in high speed long haul WDM transmission systems, “OFC2004, paper FI3, 2004.
明治大学 総合数理学部 笠史郎教授は、光ファイバで起きる140kHzの高速な振動を検出することに、世界で初めて成功しました(※1)。その結果、実際に通信で利用されている光ファイバで起きている高速な振動の原因究明の可能性が示されました。
本研究成果は、科研費(JP19K04431)の研究成果を発展させたものです。
明治大学から特許出願し、既に特許として成立しています(特許6887901号、登録日:2021年5月21日)。
通信に支障をきたす光ファイバの高速振動
通信に使用されている光ファイバは、光ケーブルとして、道路や鉄道線路沿い、架空、地中、橋梁などのさまざまな環境に敷設されており、通信サービスが提供されています。光ケーブルは、このような環境に敷設されているため、列車や自動車の通行や、強風、地震などの自然現象の影響により、光ケーブル自体が振動することがあります。光ファイバ通信方式で古くから使われている強度変調・直接検波方式(光の強度を情報信号に応じて変化させる方式)では、光ケーブルが振動しても大きな問題は発生しませんでした。しかしながら、2010年頃から世界中で実用化されているデジタルコヒーレント光ファイバ通信方式(光の位相を利用してより高速な情報を伝送できる方式)においては、光の位相が光ケーブルの振動の影響を受けるため、通信に支障が生じる事態が稀に発生することが、学会で報告されています(※2)。このような振動は、最高で10kHz程度の周波数を有することが知られています(※3)。高速な振動が発生しても、通信の安定性を確保することは極めて重要です。
従来の振動検出技術の限界
[画像: https://prtimes.jp/i/119558/13/resize/d119558-13-08555f23696624914907-0.png ]
通信の安定性を確保するためには、高速な振動の発生箇所を特定し、発生箇所における振動の発生状況を詳細に把握することが必要です。これまで、世界中の研究者が高速な振動検出可能な技術について、研究を行ってきました。光ファイバ上の振動検出技術としては、後方散乱光測定技術(OTDR)があります。OTDRでは、一定周期で発生させた光パルスを光ファイバに入力し、光ファイバ内で散乱されて入射端に戻ってくる光(後方散乱光)を検出する方法です(図1)。振動が光ファイバ中で起きている場合、振動箇所においては後方散乱光の位相が変化するため、入射端で振動発生個所の特定が可能です。しかしながら、OTDRでは一定周期のパルス光を用いているため、パルスの繰り返し周期に相当する周波数以上の高速な振動を連続的に測定することは原理的に困難であり、通信用の光ケーブル長(通常は数十km)に適用可能な商用技術では、数百Hz〜数kHz程度の振動までしか正確には測定できませんでした。
笠教授が提案した新たな振動検出技術
今回、笠教授が提案した振動検出技術では、コヒーレントヘテロダイン検波技術(光の波としての性質を用いた光検出方法)を用い、また同技術で使用する信号光と局部発振光を同期して周波数掃引することにより、連続光を用いて、後方散乱光測定が可能となりました。笠教授は、この方法を用いることにより、振動発生箇所における振動の状況を連続的に測定可能であることを示しました。そして、実際に起きる可能性がある10kHzを遥かに超える140kHzの振動を光ファイバに発生させて、後方散乱光を測定した結果、振動が発生している箇所における振動状況を連続的に測定することに、世界で初めて成功しました。
提案方法は、世界中で実用化されている、デジタルコヒーレント光通信方式が用いられている光ケーブルにおいて、通信の信頼性を向上させる技術として、今後の活用が期待されます。
論文情報
本研究成果は、米国IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)が発行する学術論文誌であるIEEE Photonics Technology Letters の5月1日号に掲載されました。
Shiro Ryu, “Continuous time-domain measurement method of Rayleigh backscattered light with coherent detection, IEEE Photonics Technology Letters, Vol. 35, No. 9, pp. 497-500, May 2023. (DOI: 10.1109/LPT.2023.3260877)
※1 従来の光ファイバの振動検出技術においては、光ファイバ長が長くなればなるほど、高速な振動検出は困難になります。今回の研究開発では、40km長の光ファイバにおける140kHzの振動の検出に成功しています。一方、従来技術を用いて同様な振動検出をした場合に検出可能な理論上の最高周波数は、光パルスの40kmファイバの往復時間(0.4ms)の逆数である2.5kHzの1/2(標本化定理による)として計算され、1.25kHzとなります。即ち、140kHzの振動は、この値の100倍以上の値であり、このような高速振動の検出は従来技術では不可能でした。
※2 P. M. Krummrich, E.-D. Schmidt, W. Weiershausen, and A. Rlattheus, “Field trial results on statistics of fast polarization changes in long haul WDM transmission systems,” OFC2005, paper OThT6, 2005.
※3 P.M. Krummrich and K. Kotten, “Extremely fast (microsecond timescale) polarization changes in high speed long haul WDM transmission systems, “OFC2004, paper FI3, 2004.