BPO放送倫理検証委員会、NHK総合テレビ『クローズアップ現代』“出家詐欺“報道に関する意見を公表。「重大な放送倫理違反があった」と判断
[15/11/06]
提供元:PRTIMES
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放送倫理・番組向上機構[BPO]の放送倫理検証委員会(川端和治委員長)は、審議していたNHK総合テレビ『クローズアップ現代』“出家詐欺”報道事案について、「重大な放送倫理違反があった」とする意見(委員会決定23号)をまとめ、2015年11月6日、記者会見を行い、公表いたしました。
■ 概要
NHK総合テレビ『クローズアップ現代』(2014年5月14日放送)と、その基になった『かんさい熱視線』(同年4月25日放送 関西ローカル)は、寺院で「得度」の儀式を受けると戸籍の名を変更できることを悪用した"出家詐欺"が広がっていると紹介。番組で「ブローカー」とされた人物が、演技指導によるやらせ取材だったと告発したのに対して、NHKは「過剰な演出」などはあったが「事実のねつ造につながるいわゆるやらせは行っていない」との報告書を公表していた。
委員会は、NHK関係者のみならず、番組で紹介された「ブローカー」「多重債務者」に対しても聴き取り調査を行った。その結果、2つの番組は「情報提供者に依存した安易な取材」や「報道番組で許容される範囲を逸脱した表現」により、著しく正確性に欠ける情報を伝えたとして、「重大な放送倫理違反があった」と判断した。
その一方で、総務省が、放送法を根拠に2009年以来となる番組内容を理由とした行政指導(文書での厳重注意)を行ったことに対しては、放送法が保障する「自律」を侵害する行為で「極めて遺憾である」と指摘した。
■ 委員会の判断〜重大な放送倫理違反があった
放送の自主自律を確保するために、NHKが自ら定めた「放送ガイドライン」(以下、ガイドラインという)では、「2 放送の基本的な姿勢」の冒頭の「1.正確」で、次のように規定している。
●NHKのニュースや番組は正確でなければならない。
正確であるためには事実を正しく把握することが欠かせない。
しかし、何が真実であるかを確かめることは容易ではなく、取材や制作のあらゆる段階で真実に迫ろうとする姿勢が求められている。
●ニュースや番組において簡潔でわかりやすい表現や言い回しは必要だが、わかりやすさのために、正確さを欠いてはならない。
●番組のねらいを強調するあまり事実をわい曲してはならない。
ところが、審議の対象とした2つの番組の相談場面は、ブローカーの活動実態をはじめとして、事実とは著しく乖離した情報を数多く伝え、正確性に欠けており、上記の規定にことごとく反していると言わざるを得ない。
記者は、相談場面を構成する事実を正しく把握していなかっただけでなく、取材や制作のあらゆる段階で真実に迫ろうとする姿勢に欠けていた。
相談場面は、旧知の2人のやりとりを「隠し撮り」ふうに取材しているが、これは番組のねらいを強調するあまり事実をわい曲したものだった。
さらに、ガイドライン「4 取材・制作の基本ルール」の「2.取材先との関係」には、次のようにある。
●取材相手との関係においては、常に放送倫理や公平・公正な放送を意識し、節度ある距離を保たなければならない。
今回の相談場面の取材に関する記者の対応は、裏付け取材などもせずに懇意の取材先の情報に依存し、しかも相談場面の撮影の段取りもすべて情報源の取材先に委ねてしまった点で、取材先との節度ある距離を保てず取材者としての自律性を失っており、この規定に反している。
加えて、ガイドライン「4 取材・制作の基本ルール」の「1.企画・制作」の冒頭には次のようにある。
●番組の提案にあたっては、(中略)提案の内容について担当者の間で議論を尽くし、制作にあたっては共通の認識を持つことが大切である。
この一文には、番組制作にあたって、現場での議論と共通認識がおろそかとなることに自戒を促す意味が込められている。今回の制作過程では、スタッフ間で率直な対話を欠き、相互に健全なチェック機能が働かなかった点でこの規定に反していると言えよう。
以上のことから、委員会は、審議の対象とした2つの番組にはいずれも重大な放送倫理違反があったと判断する。
■ おわりに
戦後70年の夏、多くの人々が憲法と民主主義について深く考え、放送もまた、自らのありようを考えさせられる多くの経験をした。
6月には、自民党に所属する国会議員らの会合で、マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなるのが一番、自分の経験からマスコミにはスポンサーにならないことが一番こたえることが分かった、などという趣旨の発言が相次いだ。メディアをコントロールしようという意図を公然と述べる議員が多数いることも、放送が経済的圧力に容易に屈すると思われていることも衝撃であった。今回の『クロ現』を対象に行われた総務大臣の厳重注意や、自民党情報通信戦略調査会による事情聴取もまた、このような時代の雰囲気のなかで放送の自律性を考えるきっかけとするべき出来事だったと言えよう。
2015年4月28日、総務大臣はNHKに対し、『クロ現』について文書による厳重注意をした。番組内容を問題として行われた総務省の文書での厳重注意は2009年以来であり、総務大臣名では2007年以来である。NHKが調査報告書を公表した当日、わずか数時間後に出された点でも異例であった。
総務大臣は、厳重注意の理由は「事実に基づかない報道や自らの番組基準に抵触する放送が行われ」たことであり、厳重注意の根拠は、放送法の「報道は事実をまげないですること。」(第4条第1項3号)と「放送事業者は、放送番組の種別及び放送の対象とする者に応じて放送番組の編集の基準を定め、これに従つて放送番組の編集をしなければならない。」(第5条第1項)との規定だとする。
しかし、これらの条項は、放送事業者が自らを律するための「倫理規範」であり、総務大臣が個々の放送番組の内容に介入する根拠ではない。
放送による表現の自由は憲法第21条によって保障され、放送法は、さらに「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。」(第1条2号)という原則を定めている。
しばしば誤解されるところであるが、ここに言う「放送の不偏不党」「真実」や「自律」は、放送事業者や番組制作者に課せられた「義務」ではない。これらの原則を守るよう求められているのは、政府などの公権力である。放送は電波を使用し、電波の公平且つ能率的な利用を確保するためには政府による調整が避けられない。そのため、電波法は政府に放送免許付与権限や監督権限を与えているが、これらの権限は、ともすれば放送の内容に対する政府の干渉のために濫用されかねない。そこで、放送法第1条2号は、その時々の政府がその政治的な立場から放送に介入することを防ぐために「放送の不偏不党」を保障し、また、時の政府などが「真実」を曲げるよう圧力をかけるのを封じるために「真実」を保障し、さらに、政府などによる放送内容への規制や干渉を排除するための「自律」を保障しているのである。これは、放送法第1条2号が、これらの手段を「保障することによつて」、「放送による表現の自由を確保すること」という目的を達成するとしていることからも明らかである。
「放送による表現の自由を確保する」ための「自律」が放送事業者に保障されているのであるから、放送法第4条第1項各号も、政府が放送内容について干渉する根拠となる法規範ではなく、あくまで放送事業者が自律的に番組内容を編集する際のあるべき基準、すなわち「倫理規範」なのである。逆に、これらの規定が番組内容を制限する法規範だとすると、それは表現内容を理由にする法規制であり、あまりにも広汎で漠然とした規定で表現の自由を制限するものとして、憲法第21条違反のそしりを免れないことになろう。放送法第5条もまた、放送局が自律的に番組基準を定め、これを自律的に遵守すべきことを明らかにしたものなのである。
したがって、政府がこれらの放送法の規定に依拠して個別番組の内容に介入することは許されない。とりわけ、放送事業者自らが、放送内容の誤りを発見して、自主的にその原因を調査し、再発防止策を検討して、問題を是正しようとしているにもかかわらず、その自律的な行動の過程に行政指導という手段により政府が介入することは、放送法が保障する「自律」を侵害する行為そのものとも言えよう。
もっとも、放送が他からの命令や指導によってでなく自由と自律の下で番組の質を維持し向上させるには、不断の自己検証と努力に加えて、放送局の独善に陥らないための仕組みが必要であろう。そのためにこそ、BPO(放送倫理・番組向上機構)がある。当委員会は、2007年に設置されて以来、番組内容に問題か゛あると判断した場合には、勧告・見解や意見を公表して放送局と放送界全体に改善を促してきたが、これを受けて各放送局は社内議論を深め、正確な放送と放送倫理の向上のための施策を定めるという循環が生まれてきている。政府もまた、このような放送の自由と自律の仕組みと実績を尊重し、2009年6月以降は、番組内容を理由にした行政指導は行わなかった。今回、このような歴史的経緯が尊重されず、総務大臣による厳重注意が行われたことは極めて遺憾である。
また、その後、自民党情報通信戦略調査会がNHKの経営幹部を呼び、『クロ現』の番組について非公開の場で説明させるという事態も生じた。しかし、放送法は、放送番組編成の自由を明確にし「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。」(第3条)と定めている。ここにいう「法律に定める権限」が自民党にないことは自明であり、自民党が、放送局を呼び説明を求める根拠として放送法の規定をあげていることは、法の解釈を誤ったものと言うほかない。今回の事態は、放送の自由とこれを支える自律に対する政権党による圧力そのものであるから、厳しく非難されるべきである。
当委員会は、この機会に、政府およびその関係者に対し、放送の自由と自律を守りつつ放送番組の適正を図るために、番組内容に関しては国や政治家が干渉するのではなく、放送事業者の自己規律やBPOを通じた自主的な検証に委ねる本来の姿に立ち戻るよう強く求めるものである。
また、放送に携わる者自身が干渉や圧力に対する毅然とした姿勢と矜持を堅持できなければ、放送の自由も自律も侵食され、やがては失われる。これは歴史の教訓でもある。放送に携わる者は、そのことを常に意識して行動すべきであることをあらためて指摘しておきたい。
■委員会決定の全文はこちら
http://www.bpo.gr.jp/?p=8322&meta_key=2015
<参考資料>
「放送倫理検証委員会」運営規則
http://www.bpo.gr.jp/?page_id=903
■放送倫理・番組向上機構 概要
名称:放送倫理・番組向上機構[BPO]
放送事業の公共性と社会的影響の重大性を踏まえて、正確な放送と放送倫理の高揚に寄与することを
目的とした非営利・非政府の団体。言論・表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的人権を擁護するため、
放送への苦情や放送倫理上の問題に対応する独立した第三者機関で、民放連およびNHKによって設置され、
以下の三委員会から構成される。
委員会: 放送倫理検証委員会
放送と人権等権利に関する委員会(放送人権委員会)
放送と青少年に関する委員会(青少年委員会)
住所 : 東京都千代田区紀尾井町1-1 千代田放送会館
理事長: 濱田 純一
URL : http://www.bpo.r.jp/
■ 概要
NHK総合テレビ『クローズアップ現代』(2014年5月14日放送)と、その基になった『かんさい熱視線』(同年4月25日放送 関西ローカル)は、寺院で「得度」の儀式を受けると戸籍の名を変更できることを悪用した"出家詐欺"が広がっていると紹介。番組で「ブローカー」とされた人物が、演技指導によるやらせ取材だったと告発したのに対して、NHKは「過剰な演出」などはあったが「事実のねつ造につながるいわゆるやらせは行っていない」との報告書を公表していた。
委員会は、NHK関係者のみならず、番組で紹介された「ブローカー」「多重債務者」に対しても聴き取り調査を行った。その結果、2つの番組は「情報提供者に依存した安易な取材」や「報道番組で許容される範囲を逸脱した表現」により、著しく正確性に欠ける情報を伝えたとして、「重大な放送倫理違反があった」と判断した。
その一方で、総務省が、放送法を根拠に2009年以来となる番組内容を理由とした行政指導(文書での厳重注意)を行ったことに対しては、放送法が保障する「自律」を侵害する行為で「極めて遺憾である」と指摘した。
■ 委員会の判断〜重大な放送倫理違反があった
放送の自主自律を確保するために、NHKが自ら定めた「放送ガイドライン」(以下、ガイドラインという)では、「2 放送の基本的な姿勢」の冒頭の「1.正確」で、次のように規定している。
●NHKのニュースや番組は正確でなければならない。
正確であるためには事実を正しく把握することが欠かせない。
しかし、何が真実であるかを確かめることは容易ではなく、取材や制作のあらゆる段階で真実に迫ろうとする姿勢が求められている。
●ニュースや番組において簡潔でわかりやすい表現や言い回しは必要だが、わかりやすさのために、正確さを欠いてはならない。
●番組のねらいを強調するあまり事実をわい曲してはならない。
ところが、審議の対象とした2つの番組の相談場面は、ブローカーの活動実態をはじめとして、事実とは著しく乖離した情報を数多く伝え、正確性に欠けており、上記の規定にことごとく反していると言わざるを得ない。
記者は、相談場面を構成する事実を正しく把握していなかっただけでなく、取材や制作のあらゆる段階で真実に迫ろうとする姿勢に欠けていた。
相談場面は、旧知の2人のやりとりを「隠し撮り」ふうに取材しているが、これは番組のねらいを強調するあまり事実をわい曲したものだった。
さらに、ガイドライン「4 取材・制作の基本ルール」の「2.取材先との関係」には、次のようにある。
●取材相手との関係においては、常に放送倫理や公平・公正な放送を意識し、節度ある距離を保たなければならない。
今回の相談場面の取材に関する記者の対応は、裏付け取材などもせずに懇意の取材先の情報に依存し、しかも相談場面の撮影の段取りもすべて情報源の取材先に委ねてしまった点で、取材先との節度ある距離を保てず取材者としての自律性を失っており、この規定に反している。
加えて、ガイドライン「4 取材・制作の基本ルール」の「1.企画・制作」の冒頭には次のようにある。
●番組の提案にあたっては、(中略)提案の内容について担当者の間で議論を尽くし、制作にあたっては共通の認識を持つことが大切である。
この一文には、番組制作にあたって、現場での議論と共通認識がおろそかとなることに自戒を促す意味が込められている。今回の制作過程では、スタッフ間で率直な対話を欠き、相互に健全なチェック機能が働かなかった点でこの規定に反していると言えよう。
以上のことから、委員会は、審議の対象とした2つの番組にはいずれも重大な放送倫理違反があったと判断する。
■ おわりに
戦後70年の夏、多くの人々が憲法と民主主義について深く考え、放送もまた、自らのありようを考えさせられる多くの経験をした。
6月には、自民党に所属する国会議員らの会合で、マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなるのが一番、自分の経験からマスコミにはスポンサーにならないことが一番こたえることが分かった、などという趣旨の発言が相次いだ。メディアをコントロールしようという意図を公然と述べる議員が多数いることも、放送が経済的圧力に容易に屈すると思われていることも衝撃であった。今回の『クロ現』を対象に行われた総務大臣の厳重注意や、自民党情報通信戦略調査会による事情聴取もまた、このような時代の雰囲気のなかで放送の自律性を考えるきっかけとするべき出来事だったと言えよう。
2015年4月28日、総務大臣はNHKに対し、『クロ現』について文書による厳重注意をした。番組内容を問題として行われた総務省の文書での厳重注意は2009年以来であり、総務大臣名では2007年以来である。NHKが調査報告書を公表した当日、わずか数時間後に出された点でも異例であった。
総務大臣は、厳重注意の理由は「事実に基づかない報道や自らの番組基準に抵触する放送が行われ」たことであり、厳重注意の根拠は、放送法の「報道は事実をまげないですること。」(第4条第1項3号)と「放送事業者は、放送番組の種別及び放送の対象とする者に応じて放送番組の編集の基準を定め、これに従つて放送番組の編集をしなければならない。」(第5条第1項)との規定だとする。
しかし、これらの条項は、放送事業者が自らを律するための「倫理規範」であり、総務大臣が個々の放送番組の内容に介入する根拠ではない。
放送による表現の自由は憲法第21条によって保障され、放送法は、さらに「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。」(第1条2号)という原則を定めている。
しばしば誤解されるところであるが、ここに言う「放送の不偏不党」「真実」や「自律」は、放送事業者や番組制作者に課せられた「義務」ではない。これらの原則を守るよう求められているのは、政府などの公権力である。放送は電波を使用し、電波の公平且つ能率的な利用を確保するためには政府による調整が避けられない。そのため、電波法は政府に放送免許付与権限や監督権限を与えているが、これらの権限は、ともすれば放送の内容に対する政府の干渉のために濫用されかねない。そこで、放送法第1条2号は、その時々の政府がその政治的な立場から放送に介入することを防ぐために「放送の不偏不党」を保障し、また、時の政府などが「真実」を曲げるよう圧力をかけるのを封じるために「真実」を保障し、さらに、政府などによる放送内容への規制や干渉を排除するための「自律」を保障しているのである。これは、放送法第1条2号が、これらの手段を「保障することによつて」、「放送による表現の自由を確保すること」という目的を達成するとしていることからも明らかである。
「放送による表現の自由を確保する」ための「自律」が放送事業者に保障されているのであるから、放送法第4条第1項各号も、政府が放送内容について干渉する根拠となる法規範ではなく、あくまで放送事業者が自律的に番組内容を編集する際のあるべき基準、すなわち「倫理規範」なのである。逆に、これらの規定が番組内容を制限する法規範だとすると、それは表現内容を理由にする法規制であり、あまりにも広汎で漠然とした規定で表現の自由を制限するものとして、憲法第21条違反のそしりを免れないことになろう。放送法第5条もまた、放送局が自律的に番組基準を定め、これを自律的に遵守すべきことを明らかにしたものなのである。
したがって、政府がこれらの放送法の規定に依拠して個別番組の内容に介入することは許されない。とりわけ、放送事業者自らが、放送内容の誤りを発見して、自主的にその原因を調査し、再発防止策を検討して、問題を是正しようとしているにもかかわらず、その自律的な行動の過程に行政指導という手段により政府が介入することは、放送法が保障する「自律」を侵害する行為そのものとも言えよう。
もっとも、放送が他からの命令や指導によってでなく自由と自律の下で番組の質を維持し向上させるには、不断の自己検証と努力に加えて、放送局の独善に陥らないための仕組みが必要であろう。そのためにこそ、BPO(放送倫理・番組向上機構)がある。当委員会は、2007年に設置されて以来、番組内容に問題か゛あると判断した場合には、勧告・見解や意見を公表して放送局と放送界全体に改善を促してきたが、これを受けて各放送局は社内議論を深め、正確な放送と放送倫理の向上のための施策を定めるという循環が生まれてきている。政府もまた、このような放送の自由と自律の仕組みと実績を尊重し、2009年6月以降は、番組内容を理由にした行政指導は行わなかった。今回、このような歴史的経緯が尊重されず、総務大臣による厳重注意が行われたことは極めて遺憾である。
また、その後、自民党情報通信戦略調査会がNHKの経営幹部を呼び、『クロ現』の番組について非公開の場で説明させるという事態も生じた。しかし、放送法は、放送番組編成の自由を明確にし「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。」(第3条)と定めている。ここにいう「法律に定める権限」が自民党にないことは自明であり、自民党が、放送局を呼び説明を求める根拠として放送法の規定をあげていることは、法の解釈を誤ったものと言うほかない。今回の事態は、放送の自由とこれを支える自律に対する政権党による圧力そのものであるから、厳しく非難されるべきである。
当委員会は、この機会に、政府およびその関係者に対し、放送の自由と自律を守りつつ放送番組の適正を図るために、番組内容に関しては国や政治家が干渉するのではなく、放送事業者の自己規律やBPOを通じた自主的な検証に委ねる本来の姿に立ち戻るよう強く求めるものである。
また、放送に携わる者自身が干渉や圧力に対する毅然とした姿勢と矜持を堅持できなければ、放送の自由も自律も侵食され、やがては失われる。これは歴史の教訓でもある。放送に携わる者は、そのことを常に意識して行動すべきであることをあらためて指摘しておきたい。
■委員会決定の全文はこちら
http://www.bpo.gr.jp/?p=8322&meta_key=2015
<参考資料>
「放送倫理検証委員会」運営規則
http://www.bpo.gr.jp/?page_id=903
■放送倫理・番組向上機構 概要
名称:放送倫理・番組向上機構[BPO]
放送事業の公共性と社会的影響の重大性を踏まえて、正確な放送と放送倫理の高揚に寄与することを
目的とした非営利・非政府の団体。言論・表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的人権を擁護するため、
放送への苦情や放送倫理上の問題に対応する独立した第三者機関で、民放連およびNHKによって設置され、
以下の三委員会から構成される。
委員会: 放送倫理検証委員会
放送と人権等権利に関する委員会(放送人権委員会)
放送と青少年に関する委員会(青少年委員会)
住所 : 東京都千代田区紀尾井町1-1 千代田放送会館
理事長: 濱田 純一
URL : http://www.bpo.r.jp/