ナノカーボン閉構造体による固体潤滑表面システムの創出
[08/09/02]
提供元:PRTIMES
提供元:PRTIMES
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
東京工業大学大学院理工学研究科
ナノメートルサイズのボールベアリング球形の微粒子カーボンオニオン(注1)の生成法を確立し
固体潤滑材としての優れた特性を持つことを明らかにした
(注1)直径5〜10ナノメートル程度の炭素原子のみで構成される球状でナノカーボン閉構造体(炭素原子の直径:0.2nm)。同種のナノカーボン閉構造体であるフラ―レンは球状の中空構造であるが、カーボンオニオン球の内部にも炭素原子が詰まっており、球状構造体の最外層にダングリングボンド(未結合手)が無く、分子間結合力が極めて小さいのが特徴。
【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、東京工業大学の准教授 平田 敦氏は、ナノメートルサイズのボールベアリングとして機能する球形の微粒子カーボンオニオンの生成法を確立し、固体潤滑剤として、大気中・真空中を問わず、常温から数百℃の高温まで幅広い環境で優れた潤滑特性を持つことを明らかにしました。
宇宙・航空機器、半導体製造装置等の真空環境下ではグリースを始めとする揮発性の潤滑油(液体潤滑剤)が使えないことから、従来、黒鉛グラファイトや二硫化モリブデン等の固体潤滑剤が使われてきましたが、それぞれ潤滑性能や材料の入手性(希少金属の使用)の面で課題がありました。
本研究で開発したカーボンオニオン固体潤滑剤は、カーボンブラック等安価かつ材料の入手性の観点からも問題の無い材料を原料としており、これら従来品の課題を解決するとともに、性能的にも従来品以上の潤滑特性を示しました。
本技術は航空宇宙機器や半導体製造装置だけでなく、食品・医薬搬送機器等、流体潤滑が不適当な他の分野へも応用されるとともに、一般の機械においても潤滑油を使わない“オイルフリー”技術の実現へ寄与するものと期待されます。
1.研究成果概要
潤滑剤というと機械自動車のエンジンオイルに代表されるように、液体の潤滑剤を用いるのが普通です。しかし、宇宙・航空機器、半導体関連製造装置などで液体潤滑剤が使えない場合では、固体潤滑剤が求められます。また、オイルによる液体潤滑は、廃油の処理など環境面でも大きな問題を抱えています。カーボンオニオンは、黒鉛(グラファイト)がタマネギのように層になって重なった直径5〜10ナノメートルの球状の微粒子で、球殻構造をしているため大気中・真空中に関わらず極めて低い摩擦係数を示します。液体潤滑の摩擦係数約0.001に対して、私たちが作ったカーボンオニオンは約0.02と一桁劣りますが、現在、半導体関連製造装置の気相合成反応容器内でのウエハ搬送装置に用いられている歯車等で使われている黒鉛グラファイト等の固体潤滑剤の約0.1と比較すると大変優れていることがわかります。
本研究では、ダイヤモンド微粒子やカーボンブラック(工業的に生産される炭素の微粒子)からカーボンオニオンを安定的に生産する方法を確立し、空気中や真空中で温度等の条件を変えて実験を行い、カーボンオニオンの潤滑材としての優れた特性を明らかにしました。
2.競合技術への強み
(1)過酷環境対応:常温〜数百℃の高温環境下の真空中でも、固体潤滑材として摩擦係数0.02〜0.03という優れた潤滑特性を示します。
(2)一般の機械の潤滑材としても有望:オイルによる液体潤滑が困難で、圧力や温度の変化が激しい環境下で使用される機械システムの潤滑材として期待されます。
(3)環境に優しい:従来から広く利用されている固体潤滑材の二硫化モリブデン、二硫化タングステンは、環境に有害とされる硫黄の化合物ですが、カーボンオニオンの構成元素は無害な炭素です。
(4)レアメタルの使用を低減:二硫化モリブデン、二硫化タングステンはレアメタルとされるモリブデン、タングステンを含みます。カーボンオニオンを用いれば、これらの使用を低減できます。
3.今後の展望
基盤的な要素技術の確立を目指した研究としては、本研究の初期の最終目標をほぼ全て達成しました。本技術を幅広く産業界に受け入れてもらうには、安定した潤滑層を形成するための表面加工技術の開発が重要です。今後は実際の固体潤滑剤の使用環境下において摩擦係数0.01(達成値は0.02)の実現を追求していきます。また、どこにカーボンオニオンの固体潤滑を応用するか、具体的なアプリケーションの提案を行わなければなりません。こうした応用研究を行うことにより、どのような周辺技術の開発が必要か明らかになります。長期的には、環境への負荷が大きいオイルによる液体潤滑を、炭素を材料とした固体潤滑に置き換える−すなわち、オイルフリー社会の実現をゴールに掲げて研究を推進していきたいと思います。
東京工業大学大学院理工学研究科
ナノメートルサイズのボールベアリング球形の微粒子カーボンオニオン(注1)の生成法を確立し
固体潤滑材としての優れた特性を持つことを明らかにした
(注1)直径5〜10ナノメートル程度の炭素原子のみで構成される球状でナノカーボン閉構造体(炭素原子の直径:0.2nm)。同種のナノカーボン閉構造体であるフラ―レンは球状の中空構造であるが、カーボンオニオン球の内部にも炭素原子が詰まっており、球状構造体の最外層にダングリングボンド(未結合手)が無く、分子間結合力が極めて小さいのが特徴。
【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、東京工業大学の准教授 平田 敦氏は、ナノメートルサイズのボールベアリングとして機能する球形の微粒子カーボンオニオンの生成法を確立し、固体潤滑剤として、大気中・真空中を問わず、常温から数百℃の高温まで幅広い環境で優れた潤滑特性を持つことを明らかにしました。
宇宙・航空機器、半導体製造装置等の真空環境下ではグリースを始めとする揮発性の潤滑油(液体潤滑剤)が使えないことから、従来、黒鉛グラファイトや二硫化モリブデン等の固体潤滑剤が使われてきましたが、それぞれ潤滑性能や材料の入手性(希少金属の使用)の面で課題がありました。
本研究で開発したカーボンオニオン固体潤滑剤は、カーボンブラック等安価かつ材料の入手性の観点からも問題の無い材料を原料としており、これら従来品の課題を解決するとともに、性能的にも従来品以上の潤滑特性を示しました。
本技術は航空宇宙機器や半導体製造装置だけでなく、食品・医薬搬送機器等、流体潤滑が不適当な他の分野へも応用されるとともに、一般の機械においても潤滑油を使わない“オイルフリー”技術の実現へ寄与するものと期待されます。
1.研究成果概要
潤滑剤というと機械自動車のエンジンオイルに代表されるように、液体の潤滑剤を用いるのが普通です。しかし、宇宙・航空機器、半導体関連製造装置などで液体潤滑剤が使えない場合では、固体潤滑剤が求められます。また、オイルによる液体潤滑は、廃油の処理など環境面でも大きな問題を抱えています。カーボンオニオンは、黒鉛(グラファイト)がタマネギのように層になって重なった直径5〜10ナノメートルの球状の微粒子で、球殻構造をしているため大気中・真空中に関わらず極めて低い摩擦係数を示します。液体潤滑の摩擦係数約0.001に対して、私たちが作ったカーボンオニオンは約0.02と一桁劣りますが、現在、半導体関連製造装置の気相合成反応容器内でのウエハ搬送装置に用いられている歯車等で使われている黒鉛グラファイト等の固体潤滑剤の約0.1と比較すると大変優れていることがわかります。
本研究では、ダイヤモンド微粒子やカーボンブラック(工業的に生産される炭素の微粒子)からカーボンオニオンを安定的に生産する方法を確立し、空気中や真空中で温度等の条件を変えて実験を行い、カーボンオニオンの潤滑材としての優れた特性を明らかにしました。
2.競合技術への強み
(1)過酷環境対応:常温〜数百℃の高温環境下の真空中でも、固体潤滑材として摩擦係数0.02〜0.03という優れた潤滑特性を示します。
(2)一般の機械の潤滑材としても有望:オイルによる液体潤滑が困難で、圧力や温度の変化が激しい環境下で使用される機械システムの潤滑材として期待されます。
(3)環境に優しい:従来から広く利用されている固体潤滑材の二硫化モリブデン、二硫化タングステンは、環境に有害とされる硫黄の化合物ですが、カーボンオニオンの構成元素は無害な炭素です。
(4)レアメタルの使用を低減:二硫化モリブデン、二硫化タングステンはレアメタルとされるモリブデン、タングステンを含みます。カーボンオニオンを用いれば、これらの使用を低減できます。
3.今後の展望
基盤的な要素技術の確立を目指した研究としては、本研究の初期の最終目標をほぼ全て達成しました。本技術を幅広く産業界に受け入れてもらうには、安定した潤滑層を形成するための表面加工技術の開発が重要です。今後は実際の固体潤滑剤の使用環境下において摩擦係数0.01(達成値は0.02)の実現を追求していきます。また、どこにカーボンオニオンの固体潤滑を応用するか、具体的なアプリケーションの提案を行わなければなりません。こうした応用研究を行うことにより、どのような周辺技術の開発が必要か明らかになります。長期的には、環境への負荷が大きいオイルによる液体潤滑を、炭素を材料とした固体潤滑に置き換える−すなわち、オイルフリー社会の実現をゴールに掲げて研究を推進していきたいと思います。