生活科学部食物栄養科学科 西村公雄特別任用教授が令和5年度日本食品科学工学会学会賞を受賞
[23/08/28]
提供元:PRTIMES
提供元:PRTIMES
同志社女子大学(所在地:京都府京田辺市・京都市 学長:小崎眞)生活科学部食物栄養科学科 西村公雄特別任用教授が、掲題の賞を受賞しました。
この賞は、日本食品科学工学会並びに国内外の関連学会において、食品工学の学術的な発展に特別な貢献のある業績をあげた者に、日本食品科学工学会が表彰するもので、受賞の対象となった研究テーマは「加工工程での食品タンパク質の品質改良並びにその機能改変」です。
[画像: https://prtimes.jp/i/120207/31/resize/d120207-31-8002643199c7e60a35b1-0.jpg ]
■研究業績概要
本学会賞の内容は、以下の三つのパートから構成される。
1.タンパク質ゲル状食品に対するビタミンC(AsA)の品質改良機構
(活性酸素が、かまぼこの品質を改良する)
パンやかまぼこの原料にビタミンCを添加すると品質改良が生じることが知られている。パンにおける改良機構は、すでに提唱されていたが、かまぼこでも同様の機構で生じるものとされ、研究が進んでいなかった。受賞者は、この点に焦点を当て研究を進めたところ、ビタミンCから発生する酸素ラジカルの一種が、品質改良効果をもたらすことを見いだした。機構は、以下の通りである。
(1) ビタミンC が遷移金属を還元するとその遷移金属が酸化される際に、(2)O2をスーパーオキサイドアニオンラジカル(O2(-))に一電子還元する。(3)このO2(-)が筋肉たんぱく質の一種であるミオシン上のSH基の水素ラジカル(H・)を引き抜きチイルラジカル(S・)が生成すると(4)ラジカル酸化によりミオシン間でSS結合ができあがることで構造が緻密となり品質改良がもたらされる。
2.真空調理法を用いて調製した鶏のクリーム煮の品質改善 -ランダムセントロイド最適化(RCO)法(※)を用いて-
(加熱中に肉より溶出してくるタンパク質が、商品価値を大いに損なわせる)
真空調理法は、真空包装を用いて湯浴中で加熱する加工方法で、真空包装により熱伝導を妨げる空気の影響がなくなり、加熱温度を100℃以下と低く設定できることが特徴である。このことで、中身の損失減少や肉類が柔らかく仕上がるなど、味やテクスチャ-に大きな影響が現れる。この加熱法を用いて鶏のクリーム煮を調製したところソース部に激しい分離を認めた。これは商品価値を大いに損なうものである。そこで、最適化の一手法であるランダムセントロイド最適化(RCO)法を用いて、ソース部の分離が生じない加工条件の検索を行った。また、分離をもたらす原因につき検討した。その結果、加熱中に鶏肉から溶け出てくる水溶性の筋形質タンパク質が形作る構造体にホワイトソースの成分(カゼインミセルや油滴)が、保持されることで分離が生じることを示差熱分析や電顕観察を用いて突き止めた。
3.糖化による鶏筋原線維タンパク質並びに大豆11Sグロブリンの機能改変
(糖化したタンパク質は、減塩練り製品や抗酸化能を持つ乳化剤になりうる)
メイラード反応を用いてマルトース修飾鶏筋原線維タンパク質を調製した。その結果、この標品は、グロブリン系のタンパク質(塩水に溶けるタンパク質)でありながら、1.低イオン強度溶液への溶解性、2.抗酸化能、3.熱安定性の向上などの機能改変を獲得していた。種々の糖を用いて同様の検討を行った結果、グルコースおよびマルトース修飾鶏筋原線維タンパク質は、形成した加熱ゲルも抗酸化能を保持していた。以上の結果は、これらの糖化タンパク質を練り製品の原料として用いた場合、調製時に筋原線維タンパク質を溶かし出すために多量の塩を必要とせず、かつ、加熱ゲルが抗酸化能を保持することから、酸化防止剤の添加量も減らせうる製品開発の可能性が示唆された。
一方、タンパク質を大豆11Sグロブリンに代えてグルコースを用い、RCO法により最も抗酸化能を示す糖化タンパク質を調製したところ、安定な乳化能も獲得していた。抗酸化能を持つ乳化剤としての使用(0.57mg/mL濃度で)を探ったが、強く油の酸化を抑えることはなかった。だが、抗酸化剤として2.9mg/mL濃度となるように用いた際には、5日間に渡り有意に油の酸化を抑えた 。これは、このグルコース修飾大豆11Sグロブリンが天然物由来の抗酸化剤として、使用可能であることを示していた。
(※)ランダムセントロイド最適化(RCO)法
ケモメトリックスにおける最適化法の1手法で、複数の因子の最適値を同時にかつできるだけ少ない実験回数で求めることを目的に開発された手法。
■西村公雄特任教授 受賞コメント
今まで、食品学の分野で仰ぎ見て参りました先生方が、授賞されてきた賞ですので、私ごときがいただいて良いのだろうかとの思いも正直あります。ですが、こつこつと積み重ねてきた業績が、このような形で認められたことは大変嬉しく、部長職として大学経営に携わった多忙な時期も研究者としての矜持を失わなくて良かったと思います。これもひとえに、研究を進めるにあたりご教授・ご協力いただきました先生方や、本講座の歴代の助手・大学院生・ゼミ生の尽力によるものと心から感謝いたしております。
■西村公雄特任教授プロフィール
兵庫県尼崎市出身。
1978年 神戸大学農学部農芸化学科卒業。
1983年 京都大学大学院農学研究科博士後期課程農芸化学専攻単位取得満期退学、同年 京都大学教養部非常勤講師、同年 山口女子大学家政学部食物栄養学科助手、同年 京都大学農学博士取得。
1989年 高知女子大学家政学部食物栄養学科助教授。
1994年 本学家政学部食物学科助教授。
1998年 本学生活科学部食物栄養科学科教授。
2021年より本学 特別任用教授、現在に至る
1992〜1993年 カナダ ブリティッシュ・コロンビア州立大学 農学部食品科学科 Shuryo Nakai 教授の研究室に留学
■教員が語る同志社女子大学の学び dwcla TALK 西村公雄特任教授
https://www.dwc.doshisha.ac.jp/talk/food/detail02/
■同志社女子大学ひとつぶラジオ 西村公雄特任教授
「パッケージから知る食品加工の世界」
https://hitotsubu.dwcla.jp/program/p04/
■メディア関連の方へ
取材をご希望の方は、お手数ですが、下記お問い合わせ先までご連絡をお願いいたします。
この賞は、日本食品科学工学会並びに国内外の関連学会において、食品工学の学術的な発展に特別な貢献のある業績をあげた者に、日本食品科学工学会が表彰するもので、受賞の対象となった研究テーマは「加工工程での食品タンパク質の品質改良並びにその機能改変」です。
[画像: https://prtimes.jp/i/120207/31/resize/d120207-31-8002643199c7e60a35b1-0.jpg ]
■研究業績概要
本学会賞の内容は、以下の三つのパートから構成される。
1.タンパク質ゲル状食品に対するビタミンC(AsA)の品質改良機構
(活性酸素が、かまぼこの品質を改良する)
パンやかまぼこの原料にビタミンCを添加すると品質改良が生じることが知られている。パンにおける改良機構は、すでに提唱されていたが、かまぼこでも同様の機構で生じるものとされ、研究が進んでいなかった。受賞者は、この点に焦点を当て研究を進めたところ、ビタミンCから発生する酸素ラジカルの一種が、品質改良効果をもたらすことを見いだした。機構は、以下の通りである。
(1) ビタミンC が遷移金属を還元するとその遷移金属が酸化される際に、(2)O2をスーパーオキサイドアニオンラジカル(O2(-))に一電子還元する。(3)このO2(-)が筋肉たんぱく質の一種であるミオシン上のSH基の水素ラジカル(H・)を引き抜きチイルラジカル(S・)が生成すると(4)ラジカル酸化によりミオシン間でSS結合ができあがることで構造が緻密となり品質改良がもたらされる。
2.真空調理法を用いて調製した鶏のクリーム煮の品質改善 -ランダムセントロイド最適化(RCO)法(※)を用いて-
(加熱中に肉より溶出してくるタンパク質が、商品価値を大いに損なわせる)
真空調理法は、真空包装を用いて湯浴中で加熱する加工方法で、真空包装により熱伝導を妨げる空気の影響がなくなり、加熱温度を100℃以下と低く設定できることが特徴である。このことで、中身の損失減少や肉類が柔らかく仕上がるなど、味やテクスチャ-に大きな影響が現れる。この加熱法を用いて鶏のクリーム煮を調製したところソース部に激しい分離を認めた。これは商品価値を大いに損なうものである。そこで、最適化の一手法であるランダムセントロイド最適化(RCO)法を用いて、ソース部の分離が生じない加工条件の検索を行った。また、分離をもたらす原因につき検討した。その結果、加熱中に鶏肉から溶け出てくる水溶性の筋形質タンパク質が形作る構造体にホワイトソースの成分(カゼインミセルや油滴)が、保持されることで分離が生じることを示差熱分析や電顕観察を用いて突き止めた。
3.糖化による鶏筋原線維タンパク質並びに大豆11Sグロブリンの機能改変
(糖化したタンパク質は、減塩練り製品や抗酸化能を持つ乳化剤になりうる)
メイラード反応を用いてマルトース修飾鶏筋原線維タンパク質を調製した。その結果、この標品は、グロブリン系のタンパク質(塩水に溶けるタンパク質)でありながら、1.低イオン強度溶液への溶解性、2.抗酸化能、3.熱安定性の向上などの機能改変を獲得していた。種々の糖を用いて同様の検討を行った結果、グルコースおよびマルトース修飾鶏筋原線維タンパク質は、形成した加熱ゲルも抗酸化能を保持していた。以上の結果は、これらの糖化タンパク質を練り製品の原料として用いた場合、調製時に筋原線維タンパク質を溶かし出すために多量の塩を必要とせず、かつ、加熱ゲルが抗酸化能を保持することから、酸化防止剤の添加量も減らせうる製品開発の可能性が示唆された。
一方、タンパク質を大豆11Sグロブリンに代えてグルコースを用い、RCO法により最も抗酸化能を示す糖化タンパク質を調製したところ、安定な乳化能も獲得していた。抗酸化能を持つ乳化剤としての使用(0.57mg/mL濃度で)を探ったが、強く油の酸化を抑えることはなかった。だが、抗酸化剤として2.9mg/mL濃度となるように用いた際には、5日間に渡り有意に油の酸化を抑えた 。これは、このグルコース修飾大豆11Sグロブリンが天然物由来の抗酸化剤として、使用可能であることを示していた。
(※)ランダムセントロイド最適化(RCO)法
ケモメトリックスにおける最適化法の1手法で、複数の因子の最適値を同時にかつできるだけ少ない実験回数で求めることを目的に開発された手法。
■西村公雄特任教授 受賞コメント
今まで、食品学の分野で仰ぎ見て参りました先生方が、授賞されてきた賞ですので、私ごときがいただいて良いのだろうかとの思いも正直あります。ですが、こつこつと積み重ねてきた業績が、このような形で認められたことは大変嬉しく、部長職として大学経営に携わった多忙な時期も研究者としての矜持を失わなくて良かったと思います。これもひとえに、研究を進めるにあたりご教授・ご協力いただきました先生方や、本講座の歴代の助手・大学院生・ゼミ生の尽力によるものと心から感謝いたしております。
■西村公雄特任教授プロフィール
兵庫県尼崎市出身。
1978年 神戸大学農学部農芸化学科卒業。
1983年 京都大学大学院農学研究科博士後期課程農芸化学専攻単位取得満期退学、同年 京都大学教養部非常勤講師、同年 山口女子大学家政学部食物栄養学科助手、同年 京都大学農学博士取得。
1989年 高知女子大学家政学部食物栄養学科助教授。
1994年 本学家政学部食物学科助教授。
1998年 本学生活科学部食物栄養科学科教授。
2021年より本学 特別任用教授、現在に至る
1992〜1993年 カナダ ブリティッシュ・コロンビア州立大学 農学部食品科学科 Shuryo Nakai 教授の研究室に留学
■教員が語る同志社女子大学の学び dwcla TALK 西村公雄特任教授
https://www.dwc.doshisha.ac.jp/talk/food/detail02/
■同志社女子大学ひとつぶラジオ 西村公雄特任教授
「パッケージから知る食品加工の世界」
https://hitotsubu.dwcla.jp/program/p04/
■メディア関連の方へ
取材をご希望の方は、お手数ですが、下記お問い合わせ先までご連絡をお願いいたします。