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プロバイオティクス飲料の継続摂取が日本人2型糖尿病患者にもたらす効果

〜腸管バリア機能強化による慢性炎症の抑制の可能性〜

順天堂大学大学院医学研究科・代謝内分泌内科学の金澤昭雄 准教授、佐藤淳子 准教授、綿田裕孝 教授、プロバイオティクス研究講座の山城雄一郎 特任教授らの研究グループは、 株式会社ヤクルト本社(社長 根岸孝成)との共同研究の成果として、プロバイオティクス*1飲料の継続摂取が日本人2型糖尿病患者の腸内フローラを変化させ、慢性炎症の原因となる腸内細菌の血液中への移行を抑制することを明らかにしました。これらの結果は、糖尿病の発症メカニズムや病態の理解、新薬の開発に道を開く可能性を示しました。本研究は英科学雑誌「Scientific Report」の電子版(9月21日付)に公開されました。




【本研究成果のポイント】
日本人2型糖尿病患者におけるプロバイオティクス飲料の継続摂取により、
・摂取群では便中の総ラクトバチルス属菌が増加し、腸内の善玉菌も増加した。
・摂取群では血中の細菌数が減り、血中への腸内細菌の移行を抑制することができた。
・腸管バリア機能を強化することで慢性炎症を抑制する可能性を提示した。

【背景】
ヒトの腸内には100兆個を超える腸内細菌が棲みついており、複雑な生態系を形成し腸内フローラと呼ばれています。腸内フローラは私たちの健康な体づくりや病気の予防などに大きく関与しており、腸内フローラの乱れは健康に悪影響を及ぼすことが示されています。なかでも、日本人2型糖尿病患者では、腸内フローラのバランスが乱れていること、さらに腸内フローラの乱れから腸管バリア機能*2が低下することにより腸内細菌が血流中へ移行しやすいバクテリアルトランスロケーション(BT: Bacterial Translocation)*3が起こっていることを研究グループは明らかにしてきました(注1)。
(注1): 順天堂大学ニュースリリース(平成26年6月4日)「日本人2型糖尿病患者における「腸内フローラの乱れ」を発見〜腸内細菌が血流中へ゛移行する″ことが明らかに〜

2型糖尿病では、病態の一つであるインスリンが作用する臓器の慢性炎症が問題となっており、これには腸内フローラの乱れや腸内から血液中に移行した腸内細菌がリスクとなります。そのため、腸内フローラを適切に維持し、血液中への細菌の移行を抑えることが慢性炎症の予防には必要です。プロバイオティクス飲料は腸内フローラのバランスを整えることがわかっているため、本研究では、プロバイオティクス飲料の継続摂取が日本人2型糖尿病患者の腸内フローラならびに腸内細菌の血流中への移行に及ぼす効果とその影響について解析を行いました。

【内容】
食事・運動療法もしくは、薬物療法で加療中の2型糖尿病患者70名を対象とし(年齢30〜79歳、HbA1c 6%以上8%未満)、プロバイオティクス飲料(400億個のラクトバチルス カゼイ シロタ株含有、低カロリータイプ)を継続摂取する群と非摂取群とに無作為に分け、16週間の経過観察を行いました(図1)。
[画像1: https://prtimes.jp/i/21495/38/resize/d21495-38-272117-0.jpg ]

両群とも摂取前、摂取8週間後、16週間後に糞便中と血中の腸内フローラ解析を行いました。フローラ解析にはヤクルトが開発した腸内フローラ自動解析システム(Yakult Intestinal Flora-Scan: YIF-SCAN(R))を用いました。さらに、炎症性サイトカインである腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、インターロイキン-6(IL-6)および炎症の指標である高感度C反応性タンパク等も解析し、70名中、各群34名が試験を終了しました。
試験終了時の16週後において、摂取群では便中総ラクトバチルス属菌、特に ラクトバチルス カゼイとクロストリジウム コッコイデス グループの菌数は非摂取群と比較して有意に増加していました。また、ラクトバチルス カゼイ 以外の善玉菌であるラクトバチルス ガセリとラクトバチルス ロイテリも摂取前と摂取16週後の比較で有意に増加しました。
そして、腸内から血液中へ移行した菌数は投与8週後において摂取群と非摂取群で差は認めませんでしたが、16週後において血液中の総菌数は摂取群で有意に低下していました。具体的には、非摂取群では血液1mLあたり6個の細菌が検出されたのに対し、投与群では1.8個と減少していました(図2)。
[画像2: https://prtimes.jp/i/21495/38/resize/d21495-38-477011-1.jpg ]


今回の研究で、ラクトバチルス カゼイ シロタ株を含有するプロバイオティクス飲料の摂取後に増加したラクトバチルス カゼイ、ラクトバチルス ガセリ、ラクトバチルス ロイテリはいずれも腸管の上皮細胞間の接着を強化させる作用があることがわかっています。このことから、プロバイオティクス飲料の継続摂取は、腸内フローラの変化を介して腸管バリア機能を強化することで血中への腸内細菌の移行を抑制する効果があることが考えられます。

【今後の展開】
腸内細菌の血中への移行は宿主であるヒトにゆるやかな慢性炎症を引き起こす可能性があり、糖尿病の病態を悪化させることが懸念されます。今回の研究結果は、プロバイオティクス飲料の継続摂取が2型糖尿病患者の腸内フローラに変化を与え、腸内細菌の血中への移行を抑制することを初めて明らかにしたもので、2型糖尿病のさらなる病態解明や、腸管バリア機能の強化による慢性炎症抑制をターゲットにした糖尿病の新薬開発につながる可能性があります。
ただ、今回検討した炎症に関連する血液中の腫瘍壊死因子-α、インターロイキン-6および高感度C反応性タンパクには変動を認めなかったため、今後は慢性炎症の指標(炎症マーカ値など)を低下させ、実際に糖尿病の病態を改善しうるより効果的な介入方法を検討しようと考えています。

【用語解説】
*1 プロバイオティクス
プロバイオティクスの定義としては「腸内フローラのバランスを改善することにより人に有益な作用をもたらす生きた微生物」が広く受け入れられています。その代表的なものに乳酸菌やビフィズス菌があります。

*2 腸管バリア機能
腸管上皮細胞がもつ腸内細菌の侵入を防ぐバリア機能のことです。腸管上皮細胞はお互い強固に接着することで、細菌に対する物理的なバリアとして機能するのみならず、分厚い粘液層の形成や抗菌タンパクの分泌などを介して、宿主防御の役割を果たしています。

*3 バクテリアルトランスロケーション(BT:Bacterial Translocation)
腸管粘膜を介して生きた腸内細菌が腸管内から粘膜固有層、さらには腸管リンパ節や他の臓器に移行し感染を引き起こすことをバクテリアルトランスロケーション(BT)と呼んでいます。BTを引き起こす主な原因としては、1) 腸管内における細菌の異常増殖、2) 腸管バリア機能の障害、 3) 侵襲してくる細菌に対する生体防御機構の破綻と考えられています。

原著論文:
本研究は、Nature Publishing Groupの電子版雑誌「Scientific Reports」(http://www.nature.com/srep/)で2017年9月21日に公開されました。
論文タイトル:
Probiotic reduces bacterial translocation in type 2 diabetes mellitus:
A randomised controlled study
筆者:Junko Sato, Akio Kanazawa, Kosuke Azuma, Fuki Ikeda, Hiromasa Goto, Koji Komiya, Rei Kanno, Yoshifumi Tamura, Takashi Asahara, Takuya Takahashi, Koji Nomoto, Yuichiro Yamashiro, Hirotaka Watada
掲載誌:Sci. Rep. 7, Article number: 12115 (2017) doi:10.1038/s41598-017-12535-9

なお、本研究はJSPS科学研究費基盤研究C (JP26350871)の助成を受け、株式会社ヤクルト本社との共同研究により実施されました。
また、本研究に協力頂きました患者さんのご厚意に深謝いたします。
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