安価な使い捨てタンパク質解析チップの試作に成功
[08/10/07]
提供元:PRTIMES
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独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
岡山大学大学院自然科学研究科
〜新薬の開発効率を向上させる新分析手法を開発〜
【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、岡山大学の紀和利彦講師と阪大レーザー研の共同チームは、数多くの薬の候補から適切な物質を見つけるスクリーニング作業を非常に効率的に行う新しい分析手法を開発し、それを実現する為のタンパク質の相互作用をテラヘルツ波(注1)と呼ぶ電磁波に変換する15mm角のテラヘルツ波センシングプレートチップの試作に成功しました。このチップ上には原理的に数万個のタンパク質試料を集積させることが可能です。また本チップは技術的に確立されたシリコン技術で作製可能なため、非常に安価であり、使い捨てが可能となります。このチップを用いた新しい分析手法はバイオ計測に必要な要求諸元を満足しつつ、非常に経済的です。医薬業界の新薬開発分野等、さまざまな生体関連の研究・開発の高効率化に貢献します。
(注1)周波数100 GHz〜10 THz (波長30 μm〜3 mm) 前後の電磁波。テラヘルツ波とは、1テラヘルツ(1012HZ)の電磁波という意味。
1.研究背景
薬は体内のタンパク質と相互作用を起こすことで薬効を発揮します。新薬の開発では、数多くの薬の候補から適切な物質を見つけるスクリーニング作業が必要となります。従来は、蛍光法などのタンパク質に標識を付ける方法が一般的でした。しかしながら、標識が結合しにくいタンパク質の分析が困難な点、標識を結合させる工程が必要である点などの問題点がありました。SPR(表面プラズモン共鳴:surface plasmon resonance)法はタンパク質の相互作用を測定する標識不要の技術として注目されていますが、光学系の厳密な調整や、装置の洗浄などの工程が煩雑であるという点で、スクリーニングにはほとんど用いられていません。
効率的でかつ経済的なスクリーニング手法を開発することは、新薬開発の高効率化に向けて、重要な課題でした。
2.特徴と競合技術への強み
このチップを用いた分析手法の特徴は以下の通りです。また競合技術は複数有りますが、表1はその中の1つSPR法について本技術と比較したものです。
(1)低コスト
チップは確立されたシリコン技術で作製可能なため、非常に安価な使い捨てチップを提供することが可能になります。
(2)簡便性
標識を必要としない簡単な手順での計測が可能になります。
(3)ナノスケールのチップで測定可能
ひとつのタンパク質試料を測定する面積を数十ナノメートル程度(近接場効果使用時)の小さい面積にすることが原理的に可能になります。
(4)同時計測が可能
タンパク質試料を集積化することで15mm角チップ上で数万種類の相互作用を同時計測することが可能になります。
(5)優れた空間分解能
本技術は、レーザー(波長:790nm)を測定光として使っているため、空間分解能が数10nm(近接場使用時)と優れています。
(6)使い捨てが可能
使い捨てチップとすることができるため、洗浄などの煩雑な工程を必要とせず、創薬候補物質等のスクリーニング検出の効率を飛躍的に向上できます。
図2は開発したテラヘルツ波センシングプレート(試作品)の構造図です。センシングプレートは、裏面を鏡面研磨したサファイア基板上にSi薄膜とSiO2薄膜を作製した構造となっており、Si薄膜とSiO2薄膜の膜厚はそれぞれ150 nmと275 nmです。レーザーをサファイア基板面よりSi薄膜へ入射すると、Si内部でテラヘルツ波が発生し、これをサファイア基板裏側より検出します。SiO2薄膜側(上面)は検出面となっており、測定対象であるタンパク質等を含む溶液に接触させるようになっています。
このチップ上面に予め測定したいタンパク質と反応させたい物質(例:創薬候補物質)を固定化しておき、様々な種類のタンパク質を含む溶液を接触させることで、タンパク質と創薬候補物質との反応を測定することができます。複数の物質をチップ上に固定化しておくことにより、複数の蛋白質を同時に計測することも可能となり、新薬開発でのスクリーニングに威力を発揮します。
測定時には、チップに裏側から極短レーザーパルスを照射することでテラヘルツ波が発生し、これを定常的に検出していますが、チップの上面で溶液中のタンパク質とチップとの間で電気的な相互作用によりチップ内の電子状態が変化すると、検出されるテラヘルツ波の強度が変化します。この強度変化を測定することで、タンパク質と創薬候補物質との相互作用の強さ(反応速度、結合の強さ)を分析することができます。
3.今後の展望
今後、チップの製品化に向けて、バイオ機器メーカーやその周辺部品メーカー等と連携してシステム化し、その上で製薬会社との共同研究によりチップの蛋白質解析能力の向上、機能充実を図る計画です。
4.その他
(1)研究者の略歴
平成15年4月-平成16年3月 日本学術振興会特別研究員(PD)、大阪大学超伝導フォトニクス研究センターで、レーザーテラヘルツ波顕微鏡(LTEM)の開発などテラヘルツ波システムの開発に従事、平成16年4月-平成17年3月 岡山大学工学部電気電子工学科・講師、平成17年3月現在 岡山大学大学院自然科学研究科・講師(改組)、新規な生体分析装置であるテラヘルツ波プレートリーダーシステムの開発に着手。
(2)受賞
第16回応用物理学会講演奨励賞(応用物理学会,2004年)、H19岡山工学振興会科学技術賞(岡山工学振興会)
5.参考
・技術提案資料 (http://www.nedo.go.jp/itd/teian/info/201007/index.html)
・詳細説明資料(PPT)掲載サイト(http://venturewatch.jp/privacy/20081008_tn.html)
※詳細説明資料(PPT)についてはNEDO技術開発機構より業務委託しているテクノアソシエーツの運営管理する「技術&事業インキュベーション・フォーラム」の問い合わせフォームからダウンロードすることができます。
岡山大学大学院自然科学研究科
〜新薬の開発効率を向上させる新分析手法を開発〜
【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、岡山大学の紀和利彦講師と阪大レーザー研の共同チームは、数多くの薬の候補から適切な物質を見つけるスクリーニング作業を非常に効率的に行う新しい分析手法を開発し、それを実現する為のタンパク質の相互作用をテラヘルツ波(注1)と呼ぶ電磁波に変換する15mm角のテラヘルツ波センシングプレートチップの試作に成功しました。このチップ上には原理的に数万個のタンパク質試料を集積させることが可能です。また本チップは技術的に確立されたシリコン技術で作製可能なため、非常に安価であり、使い捨てが可能となります。このチップを用いた新しい分析手法はバイオ計測に必要な要求諸元を満足しつつ、非常に経済的です。医薬業界の新薬開発分野等、さまざまな生体関連の研究・開発の高効率化に貢献します。
(注1)周波数100 GHz〜10 THz (波長30 μm〜3 mm) 前後の電磁波。テラヘルツ波とは、1テラヘルツ(1012HZ)の電磁波という意味。
1.研究背景
薬は体内のタンパク質と相互作用を起こすことで薬効を発揮します。新薬の開発では、数多くの薬の候補から適切な物質を見つけるスクリーニング作業が必要となります。従来は、蛍光法などのタンパク質に標識を付ける方法が一般的でした。しかしながら、標識が結合しにくいタンパク質の分析が困難な点、標識を結合させる工程が必要である点などの問題点がありました。SPR(表面プラズモン共鳴:surface plasmon resonance)法はタンパク質の相互作用を測定する標識不要の技術として注目されていますが、光学系の厳密な調整や、装置の洗浄などの工程が煩雑であるという点で、スクリーニングにはほとんど用いられていません。
効率的でかつ経済的なスクリーニング手法を開発することは、新薬開発の高効率化に向けて、重要な課題でした。
2.特徴と競合技術への強み
このチップを用いた分析手法の特徴は以下の通りです。また競合技術は複数有りますが、表1はその中の1つSPR法について本技術と比較したものです。
(1)低コスト
チップは確立されたシリコン技術で作製可能なため、非常に安価な使い捨てチップを提供することが可能になります。
(2)簡便性
標識を必要としない簡単な手順での計測が可能になります。
(3)ナノスケールのチップで測定可能
ひとつのタンパク質試料を測定する面積を数十ナノメートル程度(近接場効果使用時)の小さい面積にすることが原理的に可能になります。
(4)同時計測が可能
タンパク質試料を集積化することで15mm角チップ上で数万種類の相互作用を同時計測することが可能になります。
(5)優れた空間分解能
本技術は、レーザー(波長:790nm)を測定光として使っているため、空間分解能が数10nm(近接場使用時)と優れています。
(6)使い捨てが可能
使い捨てチップとすることができるため、洗浄などの煩雑な工程を必要とせず、創薬候補物質等のスクリーニング検出の効率を飛躍的に向上できます。
図2は開発したテラヘルツ波センシングプレート(試作品)の構造図です。センシングプレートは、裏面を鏡面研磨したサファイア基板上にSi薄膜とSiO2薄膜を作製した構造となっており、Si薄膜とSiO2薄膜の膜厚はそれぞれ150 nmと275 nmです。レーザーをサファイア基板面よりSi薄膜へ入射すると、Si内部でテラヘルツ波が発生し、これをサファイア基板裏側より検出します。SiO2薄膜側(上面)は検出面となっており、測定対象であるタンパク質等を含む溶液に接触させるようになっています。
このチップ上面に予め測定したいタンパク質と反応させたい物質(例:創薬候補物質)を固定化しておき、様々な種類のタンパク質を含む溶液を接触させることで、タンパク質と創薬候補物質との反応を測定することができます。複数の物質をチップ上に固定化しておくことにより、複数の蛋白質を同時に計測することも可能となり、新薬開発でのスクリーニングに威力を発揮します。
測定時には、チップに裏側から極短レーザーパルスを照射することでテラヘルツ波が発生し、これを定常的に検出していますが、チップの上面で溶液中のタンパク質とチップとの間で電気的な相互作用によりチップ内の電子状態が変化すると、検出されるテラヘルツ波の強度が変化します。この強度変化を測定することで、タンパク質と創薬候補物質との相互作用の強さ(反応速度、結合の強さ)を分析することができます。
3.今後の展望
今後、チップの製品化に向けて、バイオ機器メーカーやその周辺部品メーカー等と連携してシステム化し、その上で製薬会社との共同研究によりチップの蛋白質解析能力の向上、機能充実を図る計画です。
4.その他
(1)研究者の略歴
平成15年4月-平成16年3月 日本学術振興会特別研究員(PD)、大阪大学超伝導フォトニクス研究センターで、レーザーテラヘルツ波顕微鏡(LTEM)の開発などテラヘルツ波システムの開発に従事、平成16年4月-平成17年3月 岡山大学工学部電気電子工学科・講師、平成17年3月現在 岡山大学大学院自然科学研究科・講師(改組)、新規な生体分析装置であるテラヘルツ波プレートリーダーシステムの開発に着手。
(2)受賞
第16回応用物理学会講演奨励賞(応用物理学会,2004年)、H19岡山工学振興会科学技術賞(岡山工学振興会)
5.参考
・技術提案資料 (http://www.nedo.go.jp/itd/teian/info/201007/index.html)
・詳細説明資料(PPT)掲載サイト(http://venturewatch.jp/privacy/20081008_tn.html)
※詳細説明資料(PPT)についてはNEDO技術開発機構より業務委託しているテクノアソシエーツの運営管理する「技術&事業インキュベーション・フォーラム」の問い合わせフォームからダウンロードすることができます。