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バイオミネラリゼーション技術を駆使した大腸菌へのバイオレメディエーション機能付加

独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
東北大学大学院工学研究科


バイオミネラリゼーション(注1)機能を持たせた大腸菌が汚染金属水を素早く浄化
さらに副生品として、高付加価値の金属をナノマテリアルとして回収する技術を開発

(注1):バイオミネラリゼーション:生物が無機鉱物をつくる作用(生体鉱物化作用)のことで、貝やウニ、真珠等の海洋生物での生体鉱物化作用が有名。それら生物内の鉱物イオンを捕まえる機能があるペプチド・タンパク質によって、海洋中に溶け込んでいる各種鉱物イオンを捕集、濃縮して、貝やトゲ、真珠等が作られる。


【新規発表事項】 
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、東北大学大学院工学研究科の准教授、梅津光央氏は、貝やウニ等の海洋生物が有する様々な無機材料に選択的に結合する生体鉱物化作用を利用して、本作用を起こすペプチド・抗体(注2と大腸菌を組み合わせることで、室温・中性水溶液中の条件で汚染金属水中の金属イオンからセラミックス(金属酸化物)を合成し、かつ合成物の形状をコントロールすることに成功しました。
本技術で開発した特殊なペプチドを室温・中性水溶液中に混合するだけで、セラミックなどの無機材料を基板上に固定化(バイオミネラリゼーション)でき、このペプチドにより大腸菌に本バイオミネラリゼーション機能を付加させると、金属イオン回収細菌が生成できます。
上記の細菌によって回収された金属イオンから、特定の結晶構造を持つ高付加価値のセラミックス(注3)が常温・中性水溶液中で低エネルギー負荷で取得できます。

(注2):ペプチドとは、約20種類のアミノ酸が様々な組み合わせで脱水縮合して結合してできたポリマーで、重合度は正確な定義はないが本研究ではアミノ酸が10残基程度重合したものを利用。ペプチドはアミノ酸がどのように配列して重合しているかによって様々な機能が生み出されるが、そのうちの一つの機能として、ある特定の物質に選択的に結合するという機能(基質特異性)がある。ペプチドの一種である抗体は、重合度が100〜200残基程度のポリペプチドで、ペプチドよりも特定の物質に選択的に結合する機能が優れている。
(注3):基本成分が金属酸化物で、一般的に高温での熱処理によって焼き固めて焼結体にすることで作られる。


1.研究成果概要
有機・無機を問わずにさまざまな領域で活用されているバイオテクノロジーは、昨今のナノ化技術と遺伝子・タンパク質工学技術の融合により、材料工学分野でも新たな展開を見せています。また、室温・中性水溶液中という穏やかな条件のもと、生物がナノレベルで行うバイオミネラリゼーションは熱や極限条件に弱い有機材料と無機材料のハイブリッド材料の創成が可能になるという点でも魅力的な機能です。
本研究では低温での無機材料合成を補助または触媒し、かつ合成される無機材料の構造制御も可能なペプチド・タンパク質を、コンビナトリアル的に探索(注4)し、最適なペプチドを作成する技術を開発しました。また「発育速度が非常に速い」「発育環境が幅広い」「タンパク質発現系の構築が容易(注5)かつ大量発現が可能」等の特徴を有する大腸菌にこのペプチド・タンパク質の遺伝子を導入することで、バイオミネラリゼーション機能を持つ大腸菌を作成しました。
今後、この大腸菌によって汚染金属水を迅速に浄化し、副生品として高付加価値なナノマテリアルの金属を回収するシステムを開発していきます。

(注4):多種類の物質を同時に少量ずつ合成し、最適な物質を探し出す材料探索法。
(注5):現在、目的蛋白質を発現させる際に使用できる細菌・細胞(宿主)は様々あるが、大腸菌はその発現系構築が最も簡単にできる宿主である。


2.競合技術への強み
1)バイオミネラリゼーションの利用:バイオミネラリゼーションとは、ウニや貝が堅い殻をつくるように、生物が水溶液中のイオン等から無機材料を合成することです。この機能の一部を、増殖速度が速く、環境適応力に優れた大腸菌に付加することに成功しました。
2)結合力の向上:材料とペプチド・タンパク質の結合力の強弱は、無機材料合成の際に材料の核成長速度に変化を与えるため合成される無機材料の構造及びサイズに影響する。具体的には結合力の強くなると、生成される無機材料のサイズが減少するとともに、特定の結晶面が成長した構造となる。本研究ではラクダ由来の抗体に着目し、ペプチドよりも数十倍強い結合活性を持つ抗体タンパク質を開発し、低温下で粒子径が小さいセラミック結晶や長さが制御されたロッド構造粒子(棒状の構造)を作ることに成功しました。
3)結合条件の緩和:これまで無機材料の合成は、低くても200〜300℃という高温かつ高圧という環境下でなければできませんでした。しかし本研究によって、室温・中性水溶液中という、非常に穏やかな環境下でも可能になりました。


3.今後の展望
バイオミネラリゼーション機能大腸菌作成をさらに進め、実際に各種汚染金属水へ適用してナノマテリアル材料の合成を行います。バイオミネラリゼーション機能を付加した大腸菌をカドミウムやユウロピウムなどの毒性の強い元素の回収に応用することにより、毒性の強い元素の浄化と同時に付加価値の高いナノ材料として回収し環境保護コスト面でのリスク軽減に貢献します。
 また、材料特異的接着機能を持つペプチドを用い、タンパク質を酸化亜鉛のような機能性半導体基板へパターニングした新規センサーの開発も目指します。またセラミックス合成機能を持つペプチドの応用として、半導体材料を導電性高分子層上に積層させる技術(有機・無機ハイブリッド材料の製造技術)として発展させていきたいと考えています。


4.参考
成果プレスダイジェスト:東北大学准教授 梅津 光央氏

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