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【死刑執行に対する抗議声明】

政権発足後わずか4カ月で5人の死刑執行

アムネスティ・インターナショナル日本は、本日、東京拘置所の宮城吉英さんと濱崎勝次さんの2人に死刑が執行されたことに対して抗議する。安倍政権誕生の2カ月後に3人の死刑執行を行い、そのまた2カ月後に再び執行、政権発足後わずか4カ月で5人の死刑執行を行ったことは、国際社会の要請に完全に背を向け、大量処刑への道を開こうとする政府と法務省の意思表示といえるものであり、強く非難する。




谷垣法相は、2月21日、前回の執行後の大臣就任会見で死刑制度について、国際的動向より、「極めて大きな内政上の問題であることの方がより重要ではないかと思っている。一国の治安の維持、あるいは一国の国民感情、国民の安心・安全をどう確保していくか、そういった観点をまずしっかり考えるべき(中略)」と述べ、死刑執行は、国民の支持を背景に、国内問題であると述べた。

しかし国連は、長年にわたり、加盟国に対して死刑廃止に向けた取り組みを要請している。そして多くの国は、死刑廃止への取り組みを着実に進めてきた。日本は自由権規約を留保なく批准しているが、国連の自由権規約委員会は、2008年、「世論の動向にかかわりなく、締約国は死刑の廃止を考慮すべき」とした。さらに2012年10月に行われた国連人権理事会における普遍的定期審査(UPR)においては、20カ国以上が日本に対し死刑廃止または停止を求める勧告を出したが、政府はその勧告の受け入れを拒否した。日本政府は、死刑廃止に向けた努力をすることなく、国際社会からの要請を無視し続けているのである。

また谷垣法相は同会見で、「一国の治安の維持、あるいは一国の国民感情、国民の安心・安全をどう確保していくか、そういった観点をまずしっかり考えるべきではないかと思っている」と、死刑制度は国民から支持され、制度の維持は犯罪の抑止に役立っている旨の発言をした。本来、人権問題は多数決なり、国民感情で決めるべきものではない。また抑止力の観点では、死刑が犯罪を抑止するという、説得力のある科学的証拠は一貫して得られておらず、犯罪抑止力に結びついていないことは、今日の世界的な共通認識となっている。

世界では7割に当たる140カ国が法律上または事実上死刑を廃止している。近年の死刑執行国は20カ国前後で推移しているが、2012年、日本は1年8カ月ぶりに、その内の1カ国として名を連ねた。昨年12月には、国連総会で全世界の死刑執行停止を求める総会決議が採択され、過去最多の111カ国が賛成した。G8で死刑執行を行っているのは日本と米国だけであり、その米国でも、去る3月15日にメリーランド州にて死刑廃止法案が州議会を通過し、法律で死刑を廃止する18番目の州となることが確実となった。2012年度に同国で死刑を執行したのは、9州のみとなっている。米国も死刑廃止に向かっており、日本は世界の死刑廃止の潮流に背を向け、ますます孤立しつつある。

近年、相次いで冤罪事件が明らかになり、代用監獄や取り調べ中の自白強要など、日本の刑事司法における人権侵害が多数報告されている。新たな科学鑑定により冤罪の可能性が高まっている袴田事件や奥西事件、飯塚事件など、死刑事件における再審請求も数多く提起されており、日本の刑事司法制度の見直しが強く要請されている。

死刑は国家権力による暴力の一つの極限的なあらわれである。人為的に生命を奪う権利は、何人にも、どのような理由によってもありえない。アムネスティは、あらゆる死刑に例外なく反対する。死刑は生きる権利の侵害であり、残虐で非人道的かつ品位を傷つける刑罰である。

日本政府は、国際人権諸条約の締約国として、死刑にたよらない刑事司法制度を構築する国際的な義務を負っている。アムネスティは日本政府に対し、死刑廃止への第一歩として公式に死刑の執行停止措置を導入し、全社会的な議論を速やかに開始すべきである。


2013年4月26日
公益社団法人 アムネスティ・インターナショナル日本


【背景情報】

▼▼死刑に関する世界の潮流▼▼

http://www.amnesty.or.jp/human-rights/topic/death_penalty/statistics.html


日本は、国際社会の責任ある一員として、死刑廃止に向かう世界の情勢も十分に考慮しなければならない。現在、全世界の7割に当たる140カ国が、法律上または事実上、死刑を廃止している。アジア太平洋地域においても41カ国のうち28カ国が、法律上または事実上、死刑を廃止している。東アジアでは、韓国が2008年に事実上の死刑廃止国となり、現在まで14年間、執行を停止している。さらに、昨年はモンゴルとベナンが、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」の第2選択議定書(いわゆる死刑廃止国際条約)に公式に加入した。死刑廃止へと進んだこれらの国々の多くで、世論の多数が死刑の存置を容認していたことを踏まえると、いかに死刑廃止に向けて人々に働きかける政治的リーダーシップが重要であるかがわかる。

G8諸国で日本以外の死刑存置国は米国だけであるが、その米国では、現在、全50州のうち17州とコロンビア特別区が死刑を廃止しており、死刑廃止州の割合はついに3分の1を超えた。2011年に実際に死刑を執行したのは13州、2012年は9州に減少している。一昨年11月22日にはオレゴン州知事が任期中の執行停止を表明。昨年4月25日には、コネチカット州で死刑が廃止された。本年3月15日、メリーランド州下院でも死刑廃止法案の可決し、18番目の州となることが確実となった。

また昨年12月20日、国連総会で、2007年以降で4度目となる死刑執行停止決議が、前回より4カ国多い、過去最多の111カ国の賛成で可決された。決議は、廃止を視野に死刑の執行を停止することや、死刑を適用する罪名を減らすことなどを求めている。

死刑に特別な犯罪の抑止効果はない、ということも今日の世界的な共通認識となっている。死刑と殺人発生率の関係に関する研究が1988年に国連からの委託で実施され、最新の調査では「死刑が終身刑よりも大きな抑止力を持つことを科学的に裏付ける研究はない。抑止力仮説を積極的に支持する証拠は見つかっていない」との結論が出されている。

内閣府が行っている死刑世論調査は、回収率が低いうえに設問が誘導的で、「国民の8割以上は、死刑制度を容認している」との一般化には疑問がある。特に設問については、幅広い意見が反映されるようなものに変更することが求められる。内閣府のサブ・クエスチョン(追加質問)やその他の団体で行われたいくつかの調査では、明確に死刑制度を維持すべきと思っている人は5割前後という結果も出ている。

アムネスティは、死刑判決を受けた者が犯した罪について、これを過小評価したり、許したりしようとするものではない。しかし、被害者とその遺族の人権の保障は、死刑により加害者の命を奪うことによってではなく、国家が経済的、心理的な支援を通じ、苦しみを緩和するためのシステムを構築すること等によって、成し遂げられるべきであると考える。
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