治験薬BIBF 1120*が特発性肺線維症(IPF)患者の肺機能低下に対する抑制傾向を示す臨床試験結果が、New England Journal of Medicine誌に発表
[11/10/03]
提供元:PRTIMES
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特発性肺線維症(IPF)におけるBIBF 1120*の有効性と安全性を検討した第2相臨床試験(TOMORROW試験)の結果は2011年欧州呼吸器学会(ERS)年次総会でも発表
この資料は、ドイツのベーリンガーインゲルハイム(Boehringer Ingelheim GmbH)が9月22日に発表したプレスリリースを日本語に翻訳したものです。尚、日本の法規制などの観点から一部、削除、改変または追記している部分があります。この資料の内容および解釈についてはオリジナルが優先することをご了承ください。
2011年9月22日、ドイツ/インゲルハイム
ベーリンガーインゲルハイムが開発中のチロシンキナーゼ阻害薬BIBF 1120*が特発性肺線維症(IPF)患者さんの肺機能低下に対して抑制傾向を示した第2相臨床試験の結果がNew England Journal of Medicine誌に発表されました1。特発性肺線維症(IPF)は、慢性かつ進行性の経過をたどる重度の肺線維化疾患で、死亡率が高いうえ、治療選択肢も限られています2。
TOMORROW(To Improve Pulmonary Fibrosis with BIBF 1120)と呼ばれる本試験では、BIBF 1120* 150 mg 1日2回投与群において、プラセボ投与群と比較して、努力肺活量(FVC)低下として68%の抑制がみられました(BIBF 1120* 150 mg 1日2回投与群 0.06リットル/年 vs. プラセボ投与群 0.19リットル/年)1。努力肺活量(FVC)とは、最大量の吸入を行った後に一気に吐き出すことのできる空気の最大量を指します。努力肺活量(FVC)低下に関する検査は、特発性肺線維症(IPF)患者に対して通常行われる肺機能検査のひとつです3。肺機能は、特発性肺線維症(IPF)患者に対する治療効果の指標として科学的に認められています3。BIBF 1120* 150 mg 1日2回投与群では、プラセボ投与群と比較して、急性増悪(臨床状態の突然の悪化)発現率の低下も認められました1。急性増悪は、急速な疾患の進行、突発的な努力肺活量(FVC)の著しい低下、高い死亡率と関連しています2,4,5。
更に、プラセボ投与群ではSGRQ(St George’s Respiratory Questionnaire)スコアに増加がみられたのに対し、BIBF 1120* 150 mg 1日2回投与群では若干の低下がみられました(5.46 vs. -0.66、p= 0.007)1,6。SGRQスコアは健康関連QOL(Quality Of Life = 生活の質)への影響を評価する指標です。スコアが高くなるほど(スコアが増加するほど)、健康関連QOLが低下していることを意味します1。
消化器系症状および肝トランスアミナーゼの上昇は、プラセボ投与群よりもBIBF 1120* 150 mg 1日2回投与群で高頻度にみられ、投与中止に至った有害事象の大半は、下痢、吐き気、嘔吐でした1。
主任研究者でありモデナ・レッジオエミリア大学希少肺疾患研究センター(イタリア/モデナ)所長のMD/PhD ルカ・リケルディは次のように述べています。「特発性肺線維症(IPF)患者さんは、肺機能を維持するために安全かつ効果的な治療薬を本当に必要としています。肺機能が維持できれば、身体活動も継続可能であり、自立への悪影響もできるだけ長期間抑えることができます。BIBF 1120* は、長期にわたる肺機能低下の抑制、急性増悪発現率の低下、健康関連QOLの改善がみられたことは、本適応症の概念実証(Proof of Concept:POC)が示されたと言えるでしょう」。
BIBF 1120* は、2011年6月に米国FDAから、2011年9月に日本の厚生労働省から、希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)の指定を受けており、BIBF 1120*に対して医療上の必要性が高いこと、開発の可能性が高いことが認められています。
ベーリンガーインゲルハイム医薬開発担当上級副社長のProf. クラウス・デュギは次のように述べています。「特発性肺線維症(IPF)におけるBIBF1120*での第2相臨床試験の有望な結果から、引き続き私たちは自信をもって、BIBF 1120*の臨床試験を進めることができます。第3相臨床試験では、この深刻な状態にある多くの特発性肺線維症(IPF)患者さんのQOL改善を目指しBIBF 1120*の有用性について評価しています。
ベーリンガーインゲルハイムは、呼吸器内科領域におけるこれまでの長い開発・研究の歴史を生かし、特発性肺線維症(IPF)に対する安全かつ効果的な治療法を特定することで、この予後不良の肺疾患に罹患する多くの患者さんに対して、治療貢献できるよう、今後も取り組んでいく所存です」。
現在、20ヵ国にて970人の患者が参加する2つの重要な第3相臨床試験が進行中です3,7。患者登録はそれぞれ、2011年4月および5月に開始しました3,7。これらの第3相臨床試験の詳細については、clinicaltrials.gov (ID: NCT01335464 、NCT01335477)をご参照ください3,7。
* BIBF 1120は治験開発中の化合物です。安全性および有効性についてはまだ完全には立証されていません。
詳細情報:
TOMORROW試験について
第2相TOMORROW試験は、世界25ヵ国92施設で実施された12ヵ月間の無作為化、二重盲検、プラセボ比較試験です1。この試験では、米国胸部学会(ATS)/欧州呼吸器学会(ERS)基準を用いて診断された432名の特発性肺線維症(IPF)患者を対象に、経口BIBF 1120*の安全性および有効性を4用量にて評価しました1,2。なお、日本からの本試験への参加はありません。
TOMORROW試験の主要評価項目は、努力肺活量(FVC)の年間低下率でした1。副次評価項目は、急性増悪、SGRQスコアによって評価する健康関連QOL(Quality Of Life = 生活の質)、全肺気量でした1,6。プラセボ投与群では年間0.19リットルの努力肺活量(FVC)低下が認められたのに対し、BIBF 1120* 150 mg 1日2回投与群では年間0.06リットルの努力肺活量(FVC)低下が認められました1。この他にも、BIBF1120* 150 mg 1日2回投与群では、プラセボ投与群と比較して、急性増悪発現率の低下も認められました(100患者・年あたり 2.4人 vs. 15.7人、p= 0.02)1。SGRQによって評価された健康関連QOLの低下は、プラセボ投与群よりもBIBF 1120*投与群で抑制された結果となりました。
もっとも高頻度にみられた有害事象は、下痢、吐き気、嘔吐であり、これによってBIBF 1120* 150 mg 1日2回投与群ではプラセボ投与群よりも多くの投与中止例がみられ(それぞれの投与中止率は11.8% vs. 0%、4.7% vs. 0%、2.4% vs. 1.2%)、肝トランスアミナーゼ上昇はプラセボ投与群よりもBIBF 1120* 150 mg 1日2回投与群に高頻度にみられました1。
全体的な有害事象発現率はいずれの投与群でも同程度で、重度または重篤な有害事象および入院を要した有害事象を発現した患者の数も同程度でした1。重篤な有害事象を発現した患者の割合は、プラセボ投与群で30.6%、BIBF 1120* 150 mg 1日2回投与群で27.1%という結果となりました1。
2011年ERS年次総会におけるTOMORROW試験データ
NEJM初稿論文は、2011年9月26日(月曜日)に開催される2011年欧州呼吸器学会(ERS)年次総会にて発表されます。TOMORROW試験の追加的結果は、9月25日(日)の欧州呼吸器学会(ERS)での口頭セッション時、および9月26日(月)のベーリンガーインゲルハイム主催シンポジウムにて発表されます。
・ 9月25日(日) 08:30〜08:45: TOMORROW試験の結果:
特発性肺線維症(IPF)患者におけるBIBF* 1120の有効性は用量依存性
・ 9月25日(日) 08:45〜09:00: TOMORROW試験の結果:
BIBF 1120による肺機能維持に対するベースライン努力肺活量(FVC)への影響
・ 9月26日(月)13:18〜13:36: NEJM掲載 TOMORROW論文のプレゼンテーション”Late Breaking Research Session”:
特発性肺線維症(IPF)に対するチロシンキナーゼ阻害薬の有効性(ERS/NEJM)
・ 9月26日(月) 17:15〜19:15: サテライトシンポジウム:
特発性肺線維症(IPF):診断および治療における進化
BIBF 1120について
BIBF 1120*はベーリンガーインゲルハイムが開発する、特発性肺線維症(IPF)を治療するためのチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)です1。BIBF1120*が標的とするのは、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)という3つの受容体です1,8。これらの受容体は、肺線維症の病理学的機序に関与している可能性が示されています。線維形成過程に関与するこれらのシグナル経路を遮断することにより、BIBF 1120*は疾患進行を抑制する、つまり、肺機能低下を遅延させる可能性があると考えられています1,8。なお、BIBF1120*は現在のところ、何れの国においても承認されていません。
特発性肺線維症(IPF)について
特発性肺線維症(IPF)は、慢性かつ進行性の経過をたどり、最終的には死に至る重度の肺線維化疾患ですが、現時点で利用できる治療選択肢はほとんどありません2。特発性肺線維症(IPF)の発症率はさまざまですが、10万人あたり14〜43人と推定され、患者人口は増加しているというエビデンスもあります2。世界全体では約500万人が特発性肺線維症(IPF)に罹患していると考えられています11。特発性肺線維症(IPF)は、経時的な肺組織の炎症および瘢痕化や肺機能低下を特徴とします2,12,13。瘢痕化組織の発生を線維化といいます13。瘢痕化によって徐々に肺組織が硬化していくと、肺は酸素を取り込んで血流中に移行させる機能を消失するため、生命維持に必要な臓器が十分な酸素を得られなくなります13。その結果、特発性肺線維症(IPF)患者は息切れを経験し、日常の身体活動が困難になることもたびたび出てきます14。
日本においては、近年の疫学調査(北海道study)にて、全国に約1万数千人の特発性肺線維症(IPF)患者さんが存在すると推定されており、発症時平均年齢は68.2歳15、生存期間(中央値)は初診時を起点として61ヵ月と報告されています16。
ベーリンガーインゲルハイム:呼吸器疾患治療を前進させるために
COPD治療は数十年にわたってベーリンガーインゲルハイムの主要な焦点領域となっており、この領域の研究にかなりの力を注いでいます。最近になってベーリンガーインゲルハイムは、喘息、肺がん、特発性肺線維症などの呼吸器適応症を含むその他の気道疾患の治療選択肢へも開発範囲を拡大しました。
ベーリンガーインゲルハイムについて
ベーリンガーインゲルハイムグループは、世界でトップ20の製薬企業のひとつです。ドイツのインゲルハイムを本拠とし、世界で145の関連会社と42,000人以上の社員が、事業を展開しています。1885年の設立以来、株式公開をしない企業形態の特色を生かしながら、臨床的価値の高いヒト用医薬品および動物薬の研究開発、製造、販売に注力してきました。
2010年度は126億ユーロの売上を示しました。革新的な医薬品を世に送り出すべく、医療用医薬品事業の売上の約24%相当額を研究開発に投資しました。
日本ではベーリンガーインゲルハイム ジャパン株式会社が持ち株会社として、その傘下にある完全子会社の日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社(医療用医薬品)、エスエス製薬株式会社(一般用医薬品)、ベーリンガーインゲルハイム ベトメディカ ジャパン株式会社(動物用医薬品)、ベーリンガーインゲルハイム製薬株式会社(医薬品製造)の4つの事業会社を統括しています。日本のグループ全体で約3,000人の社員が、革新的な医薬品の研究、開発、製造、販売に従事しています。
日本ベーリンガーインゲルハイムは、呼吸器、循環器、中枢神経などの疾患領域で革新的な医療用医薬品を提供しています。また、グローバルな研究・開発の一翼を担う医薬研究所を神戸に擁しています。
詳細は下記をご参照ください。
www.boehringer-ingelheim.co.jp
References:
1. Richeldi L, Costabel U., Selman M, et al. Efficacy of a tyrosine kinase inhibitor in idiopathic pulmonary fibrosis. New England Journal of Medicine September 22, 2011; 365: 1079-1087.
2. Raghu G, Collard H, Egan J, et al. An Official ATS/ERS/JRS/ALAT Statement: Idiopathic Pulmonary Fibrosis: Evidence-based Guidelines for Diagnosis and Management. Am J Respir Crit Care Med 2011; 183: 788-824, 2011.
3. Safety and Efficacy of BIBF 1120 at High Dose in Idiopathic Pulmonary Fibrosis Patients. Available at: http://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT01335464?term=BIBF+1120&rank=13. Accessed September 2011.
4. Hyzy R, Huang S, Myers J, et al. Acute exacerbation of idiopathic pulmonary fibrosis. Chest 2007; 132(5):1652-1658.
5. Martinez FJ, Safrin S, Weycker D, et al. The clinical course of patients with idiopathic pulmonary fibrosis. Ann Intern Med 2005; 142(12 Pt 1):963-967.
6. Jones PW, Quirk FH, Baveystock CM. The St George's Respiratory Questionnaire. Respir Med September 1991; 85(Suppl B):25-31; discussion 33-7.
7. Safety and Efficacy of BIBF 1120 at High Dose in Idiopathic Pulmonary Fibrosis Patients II. Available at: http://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT01335477?term=BIBF+1120&recr=Open&rank=3. Accessed September 2011.
8. Hilberg F, Roth GJ, Krssak M, et al. BIBF 1120: triple angiokinase inhibitor with sustained recptor blockade and good antitumor efficacy. Cancer Res 2008; 68(12):4774-4782.
9. U.S. National Institutes of Health. Clinicaltrials.gov BIBF 1120. Available at: http://clinicaltrials.gov/ct2/results?term=BIBF+1120.
10. Raghu G, Weycker D, Edelsberg J, et al. Incidence and prevalence of idiopathic pulmonary fibrosis. Am J Respir Crit Care Med 2006; 174:810-816.
11. Meltzer EB & Noble PW. Idiopathic pulmonary fibrosis. Orphanet Journal of Rare Diseases 2008; 3:8.
12. Bergeron A, Soler P, et al. Cytokine profiles in idiopathic pulmonary fibrosis suggest an important role for TGF-b and IL-10. Eur Respir J 2003; 22:69-76.
13. Pulmonary Fibrosis Foundation. What is IPF. 2011. Available at: http://www.pulmonaryfibrosis.org/ipf. Accessed August 2011.
14. Pulmonary Fibrosis Foundation. Symptoms. 2011. Available at: http://www.pulmonaryfibrosis.org/Symptoms. Accessed August 2011
15. 千葉弘文 林伸好 高橋弘毅:北海道における臨床調査個人票に基づく特発性間質性肺炎の疫学調査、厚生労働科学研究難治性疾患克服研究事業びまん性肺疾患に関する研究班平成20年度報告書, 2009; 39-46
16. 千葉弘文 夏井坂元基 白鳥正典 高橋弘毅:北海道における臨床調査個人票に基づく特発性間質性肺炎の疫学調査(北海道study)、厚生労働科学研究難治性疾患克服研究事業びまん性肺疾患に関する研究班平成21年度報告書, 2010; 59-67.
この資料は、ドイツのベーリンガーインゲルハイム(Boehringer Ingelheim GmbH)が9月22日に発表したプレスリリースを日本語に翻訳したものです。尚、日本の法規制などの観点から一部、削除、改変または追記している部分があります。この資料の内容および解釈についてはオリジナルが優先することをご了承ください。
2011年9月22日、ドイツ/インゲルハイム
ベーリンガーインゲルハイムが開発中のチロシンキナーゼ阻害薬BIBF 1120*が特発性肺線維症(IPF)患者さんの肺機能低下に対して抑制傾向を示した第2相臨床試験の結果がNew England Journal of Medicine誌に発表されました1。特発性肺線維症(IPF)は、慢性かつ進行性の経過をたどる重度の肺線維化疾患で、死亡率が高いうえ、治療選択肢も限られています2。
TOMORROW(To Improve Pulmonary Fibrosis with BIBF 1120)と呼ばれる本試験では、BIBF 1120* 150 mg 1日2回投与群において、プラセボ投与群と比較して、努力肺活量(FVC)低下として68%の抑制がみられました(BIBF 1120* 150 mg 1日2回投与群 0.06リットル/年 vs. プラセボ投与群 0.19リットル/年)1。努力肺活量(FVC)とは、最大量の吸入を行った後に一気に吐き出すことのできる空気の最大量を指します。努力肺活量(FVC)低下に関する検査は、特発性肺線維症(IPF)患者に対して通常行われる肺機能検査のひとつです3。肺機能は、特発性肺線維症(IPF)患者に対する治療効果の指標として科学的に認められています3。BIBF 1120* 150 mg 1日2回投与群では、プラセボ投与群と比較して、急性増悪(臨床状態の突然の悪化)発現率の低下も認められました1。急性増悪は、急速な疾患の進行、突発的な努力肺活量(FVC)の著しい低下、高い死亡率と関連しています2,4,5。
更に、プラセボ投与群ではSGRQ(St George’s Respiratory Questionnaire)スコアに増加がみられたのに対し、BIBF 1120* 150 mg 1日2回投与群では若干の低下がみられました(5.46 vs. -0.66、p= 0.007)1,6。SGRQスコアは健康関連QOL(Quality Of Life = 生活の質)への影響を評価する指標です。スコアが高くなるほど(スコアが増加するほど)、健康関連QOLが低下していることを意味します1。
消化器系症状および肝トランスアミナーゼの上昇は、プラセボ投与群よりもBIBF 1120* 150 mg 1日2回投与群で高頻度にみられ、投与中止に至った有害事象の大半は、下痢、吐き気、嘔吐でした1。
主任研究者でありモデナ・レッジオエミリア大学希少肺疾患研究センター(イタリア/モデナ)所長のMD/PhD ルカ・リケルディは次のように述べています。「特発性肺線維症(IPF)患者さんは、肺機能を維持するために安全かつ効果的な治療薬を本当に必要としています。肺機能が維持できれば、身体活動も継続可能であり、自立への悪影響もできるだけ長期間抑えることができます。BIBF 1120* は、長期にわたる肺機能低下の抑制、急性増悪発現率の低下、健康関連QOLの改善がみられたことは、本適応症の概念実証(Proof of Concept:POC)が示されたと言えるでしょう」。
BIBF 1120* は、2011年6月に米国FDAから、2011年9月に日本の厚生労働省から、希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)の指定を受けており、BIBF 1120*に対して医療上の必要性が高いこと、開発の可能性が高いことが認められています。
ベーリンガーインゲルハイム医薬開発担当上級副社長のProf. クラウス・デュギは次のように述べています。「特発性肺線維症(IPF)におけるBIBF1120*での第2相臨床試験の有望な結果から、引き続き私たちは自信をもって、BIBF 1120*の臨床試験を進めることができます。第3相臨床試験では、この深刻な状態にある多くの特発性肺線維症(IPF)患者さんのQOL改善を目指しBIBF 1120*の有用性について評価しています。
ベーリンガーインゲルハイムは、呼吸器内科領域におけるこれまでの長い開発・研究の歴史を生かし、特発性肺線維症(IPF)に対する安全かつ効果的な治療法を特定することで、この予後不良の肺疾患に罹患する多くの患者さんに対して、治療貢献できるよう、今後も取り組んでいく所存です」。
現在、20ヵ国にて970人の患者が参加する2つの重要な第3相臨床試験が進行中です3,7。患者登録はそれぞれ、2011年4月および5月に開始しました3,7。これらの第3相臨床試験の詳細については、clinicaltrials.gov (ID: NCT01335464 、NCT01335477)をご参照ください3,7。
* BIBF 1120は治験開発中の化合物です。安全性および有効性についてはまだ完全には立証されていません。
詳細情報:
TOMORROW試験について
第2相TOMORROW試験は、世界25ヵ国92施設で実施された12ヵ月間の無作為化、二重盲検、プラセボ比較試験です1。この試験では、米国胸部学会(ATS)/欧州呼吸器学会(ERS)基準を用いて診断された432名の特発性肺線維症(IPF)患者を対象に、経口BIBF 1120*の安全性および有効性を4用量にて評価しました1,2。なお、日本からの本試験への参加はありません。
TOMORROW試験の主要評価項目は、努力肺活量(FVC)の年間低下率でした1。副次評価項目は、急性増悪、SGRQスコアによって評価する健康関連QOL(Quality Of Life = 生活の質)、全肺気量でした1,6。プラセボ投与群では年間0.19リットルの努力肺活量(FVC)低下が認められたのに対し、BIBF 1120* 150 mg 1日2回投与群では年間0.06リットルの努力肺活量(FVC)低下が認められました1。この他にも、BIBF1120* 150 mg 1日2回投与群では、プラセボ投与群と比較して、急性増悪発現率の低下も認められました(100患者・年あたり 2.4人 vs. 15.7人、p= 0.02)1。SGRQによって評価された健康関連QOLの低下は、プラセボ投与群よりもBIBF 1120*投与群で抑制された結果となりました。
もっとも高頻度にみられた有害事象は、下痢、吐き気、嘔吐であり、これによってBIBF 1120* 150 mg 1日2回投与群ではプラセボ投与群よりも多くの投与中止例がみられ(それぞれの投与中止率は11.8% vs. 0%、4.7% vs. 0%、2.4% vs. 1.2%)、肝トランスアミナーゼ上昇はプラセボ投与群よりもBIBF 1120* 150 mg 1日2回投与群に高頻度にみられました1。
全体的な有害事象発現率はいずれの投与群でも同程度で、重度または重篤な有害事象および入院を要した有害事象を発現した患者の数も同程度でした1。重篤な有害事象を発現した患者の割合は、プラセボ投与群で30.6%、BIBF 1120* 150 mg 1日2回投与群で27.1%という結果となりました1。
2011年ERS年次総会におけるTOMORROW試験データ
NEJM初稿論文は、2011年9月26日(月曜日)に開催される2011年欧州呼吸器学会(ERS)年次総会にて発表されます。TOMORROW試験の追加的結果は、9月25日(日)の欧州呼吸器学会(ERS)での口頭セッション時、および9月26日(月)のベーリンガーインゲルハイム主催シンポジウムにて発表されます。
・ 9月25日(日) 08:30〜08:45: TOMORROW試験の結果:
特発性肺線維症(IPF)患者におけるBIBF* 1120の有効性は用量依存性
・ 9月25日(日) 08:45〜09:00: TOMORROW試験の結果:
BIBF 1120による肺機能維持に対するベースライン努力肺活量(FVC)への影響
・ 9月26日(月)13:18〜13:36: NEJM掲載 TOMORROW論文のプレゼンテーション”Late Breaking Research Session”:
特発性肺線維症(IPF)に対するチロシンキナーゼ阻害薬の有効性(ERS/NEJM)
・ 9月26日(月) 17:15〜19:15: サテライトシンポジウム:
特発性肺線維症(IPF):診断および治療における進化
BIBF 1120について
BIBF 1120*はベーリンガーインゲルハイムが開発する、特発性肺線維症(IPF)を治療するためのチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)です1。BIBF1120*が標的とするのは、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)という3つの受容体です1,8。これらの受容体は、肺線維症の病理学的機序に関与している可能性が示されています。線維形成過程に関与するこれらのシグナル経路を遮断することにより、BIBF 1120*は疾患進行を抑制する、つまり、肺機能低下を遅延させる可能性があると考えられています1,8。なお、BIBF1120*は現在のところ、何れの国においても承認されていません。
特発性肺線維症(IPF)について
特発性肺線維症(IPF)は、慢性かつ進行性の経過をたどり、最終的には死に至る重度の肺線維化疾患ですが、現時点で利用できる治療選択肢はほとんどありません2。特発性肺線維症(IPF)の発症率はさまざまですが、10万人あたり14〜43人と推定され、患者人口は増加しているというエビデンスもあります2。世界全体では約500万人が特発性肺線維症(IPF)に罹患していると考えられています11。特発性肺線維症(IPF)は、経時的な肺組織の炎症および瘢痕化や肺機能低下を特徴とします2,12,13。瘢痕化組織の発生を線維化といいます13。瘢痕化によって徐々に肺組織が硬化していくと、肺は酸素を取り込んで血流中に移行させる機能を消失するため、生命維持に必要な臓器が十分な酸素を得られなくなります13。その結果、特発性肺線維症(IPF)患者は息切れを経験し、日常の身体活動が困難になることもたびたび出てきます14。
日本においては、近年の疫学調査(北海道study)にて、全国に約1万数千人の特発性肺線維症(IPF)患者さんが存在すると推定されており、発症時平均年齢は68.2歳15、生存期間(中央値)は初診時を起点として61ヵ月と報告されています16。
ベーリンガーインゲルハイム:呼吸器疾患治療を前進させるために
COPD治療は数十年にわたってベーリンガーインゲルハイムの主要な焦点領域となっており、この領域の研究にかなりの力を注いでいます。最近になってベーリンガーインゲルハイムは、喘息、肺がん、特発性肺線維症などの呼吸器適応症を含むその他の気道疾患の治療選択肢へも開発範囲を拡大しました。
ベーリンガーインゲルハイムについて
ベーリンガーインゲルハイムグループは、世界でトップ20の製薬企業のひとつです。ドイツのインゲルハイムを本拠とし、世界で145の関連会社と42,000人以上の社員が、事業を展開しています。1885年の設立以来、株式公開をしない企業形態の特色を生かしながら、臨床的価値の高いヒト用医薬品および動物薬の研究開発、製造、販売に注力してきました。
2010年度は126億ユーロの売上を示しました。革新的な医薬品を世に送り出すべく、医療用医薬品事業の売上の約24%相当額を研究開発に投資しました。
日本ではベーリンガーインゲルハイム ジャパン株式会社が持ち株会社として、その傘下にある完全子会社の日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社(医療用医薬品)、エスエス製薬株式会社(一般用医薬品)、ベーリンガーインゲルハイム ベトメディカ ジャパン株式会社(動物用医薬品)、ベーリンガーインゲルハイム製薬株式会社(医薬品製造)の4つの事業会社を統括しています。日本のグループ全体で約3,000人の社員が、革新的な医薬品の研究、開発、製造、販売に従事しています。
日本ベーリンガーインゲルハイムは、呼吸器、循環器、中枢神経などの疾患領域で革新的な医療用医薬品を提供しています。また、グローバルな研究・開発の一翼を担う医薬研究所を神戸に擁しています。
詳細は下記をご参照ください。
www.boehringer-ingelheim.co.jp
References:
1. Richeldi L, Costabel U., Selman M, et al. Efficacy of a tyrosine kinase inhibitor in idiopathic pulmonary fibrosis. New England Journal of Medicine September 22, 2011; 365: 1079-1087.
2. Raghu G, Collard H, Egan J, et al. An Official ATS/ERS/JRS/ALAT Statement: Idiopathic Pulmonary Fibrosis: Evidence-based Guidelines for Diagnosis and Management. Am J Respir Crit Care Med 2011; 183: 788-824, 2011.
3. Safety and Efficacy of BIBF 1120 at High Dose in Idiopathic Pulmonary Fibrosis Patients. Available at: http://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT01335464?term=BIBF+1120&rank=13. Accessed September 2011.
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