ガラス、プラスチック表面に直接実装可能なレーザーを開発【産技助成Vol.55】
[08/10/30]
提供元:PRTIMES
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独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
九州大学大学院システム情報科学研究院
〜狭部・任意曲面にも対応、ランニングコストは1/100を実現〜
【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、九州大学の准教授 興雄司氏は、ガラスやプラスチックに直接実装できる光励起分布帰還型(DFB)レーザーを開発しました。この技術は、ペン描画的に“印刷する”技法によりレーザーを表面に作りこむため、これまで難しいとされていた10mm2程度の狭い平面や複雑な曲面形状に対しても自由に実装できます。レーザー媒質(注1)には安価なメタクリル酸(注2)系高分子等と光機能色素分子を組み合わせた有機材料を使用することで、従来波長が決まってしまっていたレーザーを利用対象に応じてその場で波長変換すること、または複数の組み合わせへ展開・変換することで、従来の無機半導体レーザーと比べて利用波長追加コスト(ランニングコスト)を1/100以下に抑えることを可能にしました。
使い捨てが可能となるほどに低価格な組み込みシステムとなるため、試料汚染の危険性から再利用できないラボオンチップ(注3)への適用が可能になると考えています。その他、食品のDNAレベルの検査キットや高度な健康度モニターキット等、幅広い分析・計測システムの基盤技術としての展開に期待されます。
(注1)レーザー発振の元となる物質のこと。
(注2)低分子のカルボン酸の一種で、例えばメタクリル酸メチルは透明アクリルプラスチック素材として有名である。透明性が高く硬度も高いので微細な光学システムの材料として使われる。
(注3)MEMS技術を用いて、チップ上に微小な流路や反応室、混合室を設け、一つのチップもしくはデバイスで血液やDNAをはじめさまざまな液体や気体を分析する生化学分析デバイスのこと。マイクロTASとも呼ばれる。
1.背景及び研究概要
レーザーを利用した分析・計測システムは、レーザーによる特定波長の単色光源性や可干渉性、高集光性を利用しています。しかし従来の無機固体結晶・セラミック・半導体レーザーはネオジウム(Nd)やインジウム(In)等の高価な希少金属を材料とし、更に利用波長を大きく変える場合にはレーザー媒質自体の構成を変えなければならず、多彩な波長を使う場合には、非常に高価なシステムになっているのが課題となっていました。また、真空炉や高温融解あるいはガスプロセスで作製する必要があるため既存のプラスチック上やガラス上に“直接”実装するのは不可能でした。
そこで、九州大学の興研究グループでは、長年研究してきた有機色素レーザーの研究を応用して、「有機材料」+「光励起分布帰還型(DFB)レーザー導波路」によるプリンタブルレーザーシステムを開発しました。このレーザー導波路は、mWオーダーの準連続出力(注4)と0.1nm波長幅の単色性、400〜1100nmの波長選択性、kWオーダーの高ピークパワー、ふらつき0.1%以下の出力安定性などを兼ね備えています。1波長当たり1円以下のコストで数Jから数10Jのトータルエネルギーを取り出すことが可能です。実装する表面は、原理的には固体であればどのよう面にもフィルムを貼り付ける感覚で実装することができます。また、これまでに10種類以上の任意波長の組み合わせを表面実装することが可能なことも実証済みです。
(注4)100〜1kHzでのパルス繰り返し動作による出力。
2.競合技術への強み
今回開発した光励起分布帰還型(DFB)レーザーの主な特徴は以下の通りです。
(1)従来の無機半導体レーザーでは不可能であったガラスやプラスチックの表面に実装可能。
(2)10mm2程度の狭い平面や複雑な曲面形状に対しても自由に実装可能。
(3)レーザーを用途に応じて任意の波長、またはそれら複数の組み合わせに変換することが可能。
(4)ランニングコスト(利用波長追加コスト)を大幅に削減。従来の無機半導体レーザーと比べて利用波長追加コスト(ランニングコスト)が1/100以下。
3.今後の展望
現在、アプリケーションサイドからの様々な要求に応えるための準備として、NEDOによる研究助成において「印刷技法で作製したレーザーの高機能化」「青色を含む短波長波長部の性能改善」「光検出器の同レベルでのシステム組み込み」を進めています。更に、融合可能なプレート・チップ・チューブ・フィルム・光ファイバーといった基板を前提に、実際に組み合わせ可能なアプリケーションを探索するための融合要素技術の提案をしていきます。例えば、簡単な電気泳動構造と組み合わせることで多元波長蛍光分析と組み合わせる等、各種要素技術との融合により多彩なアプリケーションが可能と考えています。
4.その他
(1)研究者の略歴
平成3年 九州大学工学部助手、平成7年 九州大学システム情報科学研究院助教授、平成12年 アリゾナ大学光科学センター 訪問研究員、平成19年 九州大学システム情報科学研究院助教授、平成19年 九州大学システム情報科学研究院准教授
(2)受賞
1999年 レーザー学会大会講演会優秀論文発表賞、2003年 レーザー学会奨励賞、2008年 レーザー歯学会学術大会優秀発表賞
5.参考
・ 詳細説明資料(PPT)掲載サイト(http://venturewatch.jp/privacy/20081031_nr.html)
※詳細説明資料(PPT)についてはNEDO技術開発機構より業務委託しているテクノアソシエーツの運営管理する「技術&事業インキュベーション・フォーラム」の問い合わせフォームからダウンロードすることができます。
九州大学大学院システム情報科学研究院
〜狭部・任意曲面にも対応、ランニングコストは1/100を実現〜
【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、九州大学の准教授 興雄司氏は、ガラスやプラスチックに直接実装できる光励起分布帰還型(DFB)レーザーを開発しました。この技術は、ペン描画的に“印刷する”技法によりレーザーを表面に作りこむため、これまで難しいとされていた10mm2程度の狭い平面や複雑な曲面形状に対しても自由に実装できます。レーザー媒質(注1)には安価なメタクリル酸(注2)系高分子等と光機能色素分子を組み合わせた有機材料を使用することで、従来波長が決まってしまっていたレーザーを利用対象に応じてその場で波長変換すること、または複数の組み合わせへ展開・変換することで、従来の無機半導体レーザーと比べて利用波長追加コスト(ランニングコスト)を1/100以下に抑えることを可能にしました。
使い捨てが可能となるほどに低価格な組み込みシステムとなるため、試料汚染の危険性から再利用できないラボオンチップ(注3)への適用が可能になると考えています。その他、食品のDNAレベルの検査キットや高度な健康度モニターキット等、幅広い分析・計測システムの基盤技術としての展開に期待されます。
(注1)レーザー発振の元となる物質のこと。
(注2)低分子のカルボン酸の一種で、例えばメタクリル酸メチルは透明アクリルプラスチック素材として有名である。透明性が高く硬度も高いので微細な光学システムの材料として使われる。
(注3)MEMS技術を用いて、チップ上に微小な流路や反応室、混合室を設け、一つのチップもしくはデバイスで血液やDNAをはじめさまざまな液体や気体を分析する生化学分析デバイスのこと。マイクロTASとも呼ばれる。
1.背景及び研究概要
レーザーを利用した分析・計測システムは、レーザーによる特定波長の単色光源性や可干渉性、高集光性を利用しています。しかし従来の無機固体結晶・セラミック・半導体レーザーはネオジウム(Nd)やインジウム(In)等の高価な希少金属を材料とし、更に利用波長を大きく変える場合にはレーザー媒質自体の構成を変えなければならず、多彩な波長を使う場合には、非常に高価なシステムになっているのが課題となっていました。また、真空炉や高温融解あるいはガスプロセスで作製する必要があるため既存のプラスチック上やガラス上に“直接”実装するのは不可能でした。
そこで、九州大学の興研究グループでは、長年研究してきた有機色素レーザーの研究を応用して、「有機材料」+「光励起分布帰還型(DFB)レーザー導波路」によるプリンタブルレーザーシステムを開発しました。このレーザー導波路は、mWオーダーの準連続出力(注4)と0.1nm波長幅の単色性、400〜1100nmの波長選択性、kWオーダーの高ピークパワー、ふらつき0.1%以下の出力安定性などを兼ね備えています。1波長当たり1円以下のコストで数Jから数10Jのトータルエネルギーを取り出すことが可能です。実装する表面は、原理的には固体であればどのよう面にもフィルムを貼り付ける感覚で実装することができます。また、これまでに10種類以上の任意波長の組み合わせを表面実装することが可能なことも実証済みです。
(注4)100〜1kHzでのパルス繰り返し動作による出力。
2.競合技術への強み
今回開発した光励起分布帰還型(DFB)レーザーの主な特徴は以下の通りです。
(1)従来の無機半導体レーザーでは不可能であったガラスやプラスチックの表面に実装可能。
(2)10mm2程度の狭い平面や複雑な曲面形状に対しても自由に実装可能。
(3)レーザーを用途に応じて任意の波長、またはそれら複数の組み合わせに変換することが可能。
(4)ランニングコスト(利用波長追加コスト)を大幅に削減。従来の無機半導体レーザーと比べて利用波長追加コスト(ランニングコスト)が1/100以下。
3.今後の展望
現在、アプリケーションサイドからの様々な要求に応えるための準備として、NEDOによる研究助成において「印刷技法で作製したレーザーの高機能化」「青色を含む短波長波長部の性能改善」「光検出器の同レベルでのシステム組み込み」を進めています。更に、融合可能なプレート・チップ・チューブ・フィルム・光ファイバーといった基板を前提に、実際に組み合わせ可能なアプリケーションを探索するための融合要素技術の提案をしていきます。例えば、簡単な電気泳動構造と組み合わせることで多元波長蛍光分析と組み合わせる等、各種要素技術との融合により多彩なアプリケーションが可能と考えています。
4.その他
(1)研究者の略歴
平成3年 九州大学工学部助手、平成7年 九州大学システム情報科学研究院助教授、平成12年 アリゾナ大学光科学センター 訪問研究員、平成19年 九州大学システム情報科学研究院助教授、平成19年 九州大学システム情報科学研究院准教授
(2)受賞
1999年 レーザー学会大会講演会優秀論文発表賞、2003年 レーザー学会奨励賞、2008年 レーザー歯学会学術大会優秀発表賞
5.参考
・ 詳細説明資料(PPT)掲載サイト(http://venturewatch.jp/privacy/20081031_nr.html)
※詳細説明資料(PPT)についてはNEDO技術開発機構より業務委託しているテクノアソシエーツの運営管理する「技術&事業インキュベーション・フォーラム」の問い合わせフォームからダウンロードすることができます。