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血糖値センサーをがん診断用センサーに変える新規DNAアダプターの開発【産技助成Vol.64】

独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
東京農工大学大学院工学府


糖尿病の自己診断に利用されているグルコースを測定する血糖値センサーで
ガンをはじめとする様々な疾病の一次スクリーニングが
自宅で10数分で可能となる腫瘍マーカー(アプタマー酵素サブユニット:AES(注1))を開発



【新規発表事項】 
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、東京農工大学の准教授、池袋一典氏は、血糖値センサーをがん診断用センサーに変える新規DNAアダプターの開発をしました。
本研究は、糖尿病の自己診断用として利用されているグルコースセンサーの使い捨てのチップに、開発したAESを組み込むことで、一回当たりわずか150円程度でガンの検診を受けることができます。日本人の約三分の一が生涯に一度は罹患するといわれる、ガンの早期発見・早期治療の可能性が飛躍的にアップする技術です。
既に日常生活で広く利用されているグルコースセンサーを、ガンだけでなく測定したい標的分子検出用センサーに変えることが可能な技術であり、グルコースセンサーは個人による血液成分比や濃度の違いや、病気による血液の状態なども研究し尽くして商品化されているので、優れた安全性・信頼性を有しています。

(注1)酵素の機能を制御する役割を持つ。酵素と特異的かつ強固に結合し、標的分子が結合すると、このアプタマーの構造が変化することで、酵素活性を変化させることができる(標的分子の存在有無により、酵素を機能制御できる)。


1.研究成果概要
血糖値センサーのメカニズムは、グルコースをグルコノラクトンへと変化させる、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)という酵素が使われており、これによりグルコースが血液中にある場合はグルコノラクトンへと変化する化学反応が起き、その際に電子の移動が起こるため、これを計測することで血糖値の数値化を行っています。
 このメカニズムを応用した本研究ですが、まず初期条件として、測定する血液中に多量のグルコースが含まれるようにしておきます。本研究で開発したAESは、ガンマーカー(注2)に結合する物質と、GDHの活性を阻害する物質をつなげた構造をとっているので、もしも血液中に標的分子のガンマーカーが存在すれば、これがガンマーカー結合部分に結合しその部分の構造が変わり、それがGDHの活性を阻害する物質の構造の変化も引き起こします。こうしてAESの構造が変わるとGDHの活性阻害がなくなるのでそれまで活性が押さえられていたGDHが活性化し始め(図)、グルコース→グルコノラクトンへの変化が起こる。それを測定することによって、血液中にガンマーカーが存在していることを検知します。

(注2)ガンマーカーとしては一般に特定のタンパク質が使われている。特定のガン疾患を有する場合、血液中に存在する。


2.競合技術への強み
1)迅速に結果が判明:従来の方法では結果が判明するのに数日間以上が必要でしたが、本研究では十数分と格段に時間が短縮されました。
2)自宅で簡単に検査を:本研究の最大のポイントは、自宅で自分で検査を行い、その場で結果が得られるという点です。自分で採血して宅配便を利用して検査機関へ送る従来法のA社診断キットも簡単に行えていましたが、本研究ではさらに進んだ自己完結型の検査が行えるようになりました。
3)圧倒的なコスト低減:既に広く一般に利用されている血糖値を測定するためのグルコースセンサー(約1〜3万円)を改良するだけで測定機は作製できます。一枚数百円のガン専用のチップを使って測定するので、一度測定機を購入すれば安価で行えます。



3.今後の展望
すでに先進国で巨大市場を構築していて、その問題点・改良点に関する膨大な知見がある血糖値測定用グルコースセンサー。それを用いて極微量の血液で疾病診断ができれば、予防医療や早期治療には極めて有効であり、その社会的・産業的波及効果は計りしれません。実用化のためには、現状のナノモラー(1リットル中あたり10億分の1モルの濃度)の1000分の1にあたる、ピコモラーレベルでの疾病マーカータンパク質を数分間以内に測定することが必要で、さらにアプタマーの分子認識機能と、AESの分子認識に伴なう信号発信能力を更に向上させる必要があります。
研究代表者が有する独創技術の「コンピューター内進化」等を用いて、実用化に向けた改良を行っていきます。


4.参考
成果プレスダイジェスト:東京農工大学准教授  池袋 一典氏


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