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「水素経済」は脱炭素化への有望な道筋: ブルームバーグNEF(BNEF)

再エネ由来のクリーン水素により2050年までに世界の温室効果ガス排出削減が最も難しいセクターにおいて3分の1減に寄与。実現にはネットゼロエミッション目標の設定と政策の整備が必須。

シドニーおよびロンドン(2020年3月30日)-風力と太陽光から水素を製造する際のコストは低下し続けており、経済活動で最も化石燃料に依存する鉄鋼、大型車、海運、セメントなどの産業セクターでは、水素は二酸化炭素排出削減を実現する有望な手段となる。




リサーチ機関ブルームバーグNEF(BNEF)が新たに発表した世界的な独自調査報告書で、今後数十年の間に、再エネ由来のクリーン水素を用いることで、化石燃料と産業界からの温室効果ガス排出量が最大34%削減できることが明らかになった。しかも、その実現に要するコストは莫大なものではない。ただし、その実現には技術革新を促し、コストを削減するための政策の整備が必要だ。

本報告書の調査結果として、2050年までに世界のほとんどの地域で、再生エネ由来のクリーン水素が1キロ当たり0.8-1.6ドルのコストで製造できるようになる可能性が示唆された。これは、ガス価格6-12ドル(100万英国熱量単位(MMBtu)当たり)に相当し、エネルギー等価ベースで、ブラジル、中国、インド、ドイツ、スカンジナビア諸国の現在の天然ガス価格と価格競争力を持つことになる。貯蔵とパイプラインインフラのコストを含め、中国、インド、および西欧での再エネ由来のクリーン水素の引渡コストは、2030年には1キロ当たり約2ドル(15ドル/MMBtu)、2050年には1ドル(7.4ドル/MMBtu)まで下がる可能性がある。 日本は2030年には1キロ当たり約2.85ドル(28.19円/Nm3)、2050年には1.74ドル(17.35円/Nm3)まで下がると見込まれる(1kg=11.12Nm3、1ドル=108.44円とした場合)。

同調査報告書の執筆責任者であるBNEF産業脱炭素化チームヘッドKobad Bhavnagriの見解:「水素は、クリーンエコノミーの中心的燃料となる可能性がある。ここ何年かのうちに、風力と太陽光発電から水素を低コストで製造し、数カ月地下に貯蔵し、需要に応じて取り出し、船から製鉄所まであらゆる用途で電力を供給することが可能になる。」

水素はクリーン燃焼分子であり、石炭、石油、ガスの代替として非常に多くの用途での使用が可能だ。しかし、水素の使用で環境上のメリットを得るには、水素製造で現在通常用いられる手法、すなわち化石燃料を用いる手法ではなく、クリーンな資源から生産する必要がある。

再エネ由来のクリーン水素は、風力発電または太陽光発電による低コストな電力を使用し、水を水素と酸素に分解する方法で製造できる。この電解層技術のコストは、過去5年間で40%低下しており、当技術の利用が増えれば今後もコストが下がり続ける可能性が高い。二酸化炭素が回収・貯留されている場合、化石燃料を使用してクリーンな水素を製造することもできるが、より高価になる可能性が高いと当報告書は指摘している。

水素の貯蔵と移動は難しい。水素が今日の天然ガスと同じように普通(ユビキタス)に利用可能なエネルギーとなるには、インフラの改善と建設のために関連機関が協調して進める大規模なプログラムが必要だ。例えば、天然ガスと同レベルのエネルギーセキュリティを確保するには、2050年までに6,370億ドルのコストで3-4倍の水素貯蔵インフラを構築する必要がある。しかし一方で、大規模かつコスト効率の高い選択肢も存在し、産業用でのクリーンなガス供給に利用可能だ。「クリーン水素産業が規模を拡大できれば、脱炭素化が困難とみなされるセクターの多くでも、驚くほど低コストで水素を使用した脱炭素化が図れるだろう」とBhavnagri氏は述べている。

同調査報告書では、炭素価格がCO2排出量(tCO2)当たり50ドルで、2050年までに製鋼業で石炭から再エネ由来のクリーン水素への切り替えが実現できると結論付けている。同様に、セメント製造における熱利用では60ドル/tCO2、アンモニアなどの化学品製造では78ドル/tCO2、クリーン燃料を使用する船舶では145ドル/tCO2までそれぞれ上がれば水素への切り替えが実現可能という。計算では、水素コストが1キロ当たり1ドルまで下がったことを前提にしている。水素は大型トラックの燃料としても、2031年までにディーゼルよりも安くなる可能性がある。ただし、自動車やバス、小型トラックの場合は、バッテリー(電気自動車)のほうが安価な状況は変わらない。

図1:水素経済の経済性サマリー


[画像: https://prtimes.jp/i/12467/75/resize/d12467-75-785513-0.png ]



水素利用の促進には、政策の整備が必須だ。「現在、クリーンな水素産業の規模は小さく、コストが高い。コスト削減の可能性は高いものの、水素利用の拡大と、供給インフラネットワークの構築が必要だ」とBhavnagri氏は述べている。「これには、政府全体での政策の調整や民間投資の枠組みのほか、今後10年間で約1,500億ドルの補助金支出が必要となろう」と同氏は語る。「これは気が遠くなる話かもしれないが、実際にはそれほど大きな仕事ではないはずだ。なにしろ、世界中の政府は現在、化石燃料の消費に対する補助金に毎年の2倍以上を費やしているのだ」

しかし現状、水素経済の見通しはまだ不透明であり、その理由として、投資の促進と水素製造の規模を拡大するための政策の整備が不十分な点がある、とBNEFの調査報告書は説明している。仮に水素経済が実現したとしても、水素は万能というわけではない。特に石炭とガスが非常に安い場所では、水素利用を促進するために、炭素価格と排出に関する政策の整備が依然として不可欠となろう。コスト削減の可能性があっても、水素は依然として製造が必要な燃料であるため、相対的に高価なエネルギーという現実は変わらない可能性が高い。各種産業が自動的に水素に切り替えることはないため、ネットゼロエミッションへのコミットメントが必要となろう。

Bhavnagri氏の見解:「水素が有望かつ有力なエネルギー源といえるのは、非常に多くの用途に使用できるからだ。再生可能エネルギーは、二酸化炭素を排出しない電気への道を開いたが、ネットゼロエミッション目標を達成するには、その電気を超え、カーボンフリー燃料の使用が必要となり、それを担うのが水素となろう。」

同調査報告書の主要ポイントを論じた資料は、次のリンクから入手可能。https://data.bloomberglp.com/professional/sites/24/BNEF-Hydrogen-Economy-Outlook-_Key-Messages.pdf

ブルームバーグNEFについて

ブルームバーグNEF(BNEF)は、クリーンエネルギー、次世代交通システム、デジタル産業技術、先端材料、およびコモディティに関する不可欠な情報を提供する、有数な研究機関です。世界6大陸の拠点に調査・分析スタッフを配置し、世界中で最も精巧に洗練されたデータセットを活かして、BNEFは明確な見解や詳細な予想を導き出し、変貌する業界の傾向や技術の金融・経済・政策を解説します。BNEFのコンテンツは、ブルームバーグの世界176拠点19,000人のスタッフにより、1日5000本のニュース記事の配信とともに、オンライン、モバイル、およびブルームバーグ ターミナルにて提供されています。詳細は、 https://about.bnef.com/またはrequest more informationをご参照ください。

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