マイクロ波磁界によるナノスケール磁性体の低電力磁化スイッチングに成功【産技助成Vol.74】
[08/11/25]
提供元:PRTIMES
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独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
九州大学大学院システム情報科学研究院
磁気メモリ、次世代ハードディスクの高性能化に道を拓く
スイッチング磁界(注1)の大幅低減技術を開発。
(注1)スイッチング磁界とは、強磁性体の磁化反転に必要な磁界。
【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、九州大学の准教授、能崎 幸雄氏は、磁気メモリ・次世代ハードディスクの高性能化に道を拓くスイッチング磁界(注1)の大幅低減技術の開発に成功しました。
強磁性体の磁化反転現象(注2)を利用した磁気メモリ(MRAM)は不揮発性と高速書込み特性を併せ持つ万能メモリとして有望視されています。このたび開発された技術は、この磁化反転を従来の1/10の磁界で実現できる「マイクロ波アシスト磁化反転」技術であり、MRAMや垂直記録ハードディスクドライブの飛躍的な消費電力低減や高記録密度化に道を拓くものです。
本技術は、記憶セルの微細化に伴って磁化反転が困難となる問題を強磁性共鳴(FMR)現象(注3)を用いて克服するものです。さらに、強磁性多層膜パターンの静磁気結合磁界を利用して記憶セルのFMR周波数を変調する新しい技術を確立し、機能周波数を書き換え可能なマイクロ波デバイスを開発しました。
(注2) 磁化反転現象とは、強磁性体の磁化が、外部磁界によって非可逆に向きを変える現象のこと。
(注3) 強磁性共鳴現象(FMR)とは、固有振動数に等しいマイクロ波磁界を与えることにより、強磁性体の磁気モーメント(電子スピン)が大きく歳差運動(首振り運動)する現象。
1.研究成果概要
強磁性体は、不揮発性と高速書込み特性を併せ持つ次世代メモリの記憶セル材料として注目されています。このような磁気記憶型の記録デバイスでは、記録密度の増大に伴い、記憶セルの微細化が必要です。ただし、セルを微細化すると磁化の熱揺らぎが顕在化するため、安定な記憶保持には強い磁気異方性が求められます。その結果、磁化反転には大きな磁界が必要となります。しかし、磁気記録ヘッドの書き込み磁界はすでに材料限界に達しており、これを打破するためには熱やマイクロ波などによるエネルギーアシストを利用した磁化スイッチングが不可欠となります。本研究では、微弱なマイクロ波磁界により電子スピンを大きく回転できる強磁性共鳴(FMR)現象を用いてスイッチング磁界を飛躍的に低減させる『マイクロ波アシスト磁化反転』を実験的に検証しました。その結果、
(1) 記憶セル固有のFMR周波数よりも低いマイクロ波磁界でスイッチング磁界低減効果が最大となること
(2) 記憶セルのFMRスペクトル線幅よりも広い周波数域でアシスト効果が見られること
(3) 磁化回転の均一性を増すことにより大きなアシスト効果が得られること
を明らかにしました。
2.競合技術への強み
(1) 低消費電力
直流磁界を用いる従来の方法に比べて1/10の磁界で磁化反転が可能となりました。
(2) 素子の発熱が少ない
記憶セルの温度上昇は、熱揺らぎによる磁化の不安定化を引き起こします。記憶セルに直接電流を流す従来のスピン注入磁化反転方式では、記憶セルが小さくなるほど発熱が大きくなる問題がありました。これに対し本技術は、記憶セルと独立した配線に書き込み電流を流すため、書込み時の記憶セルの発熱を抑えることができます。
(3) 読み出しの信頼性を確保
スピン注入磁化反転方式では、書き込み配線と読み出し配線が共通なため、読み出し電流が記憶セルの磁化に影響を及ぼす可能性があります。これに対し本技術は、書き込み配線と読み出し配線が独立なため、十分な読み出しの信頼性を確保することができます。
(4) 隣接セルへの干渉が少ない
本技術では、GHzオーダー(注4)のマイクロ波を用いて選択記憶セルのみを磁化反転可能な共鳴状態にできます。このため、直流電流による磁界印加方式に比べて隣接セルへの影響が少なく、記憶セルの高集積化に適していると考えられます。
(注4) GHzオーダー:強磁性体中の電子スピンの固有振動周波数に相当。
3.今後の展望
本研究では、『マイクロ波アシスト磁化反転』が面内磁化膜パターンのスイッチング磁界低減に有効であることが明らかとなりました。今後はハードディスクドライブ(HDD)用記録媒体の主流となっている垂直磁化膜に対するマイクロ波アシスト磁化反転の研究を進めていきます。
HDDは、面密度が1 Tb/in2以上(磁気ストレージ分野のロードマップによると2012年頃)に達すると、記録ヘッドが発生できる磁界強度の限界により、情報の書込みが困難になることが懸念されています。マイクロ波アシスト磁化反転に関する研究は、我々のグループを含めても世界でも少数のグループしか行っておらず、垂直磁化膜に関する研究はまだ報告されていません。本研究により得られたマイクロ波アシスト磁化反転に対する知見を生かし、世界に先駆けてマイクロ波アシスト記録方式の垂直磁化HDDの研究を行っていきます。
4.参考
成果プレスダイジェスト:九州大学准教授 能崎 幸雄氏
九州大学大学院システム情報科学研究院
磁気メモリ、次世代ハードディスクの高性能化に道を拓く
スイッチング磁界(注1)の大幅低減技術を開発。
(注1)スイッチング磁界とは、強磁性体の磁化反転に必要な磁界。
【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、九州大学の准教授、能崎 幸雄氏は、磁気メモリ・次世代ハードディスクの高性能化に道を拓くスイッチング磁界(注1)の大幅低減技術の開発に成功しました。
強磁性体の磁化反転現象(注2)を利用した磁気メモリ(MRAM)は不揮発性と高速書込み特性を併せ持つ万能メモリとして有望視されています。このたび開発された技術は、この磁化反転を従来の1/10の磁界で実現できる「マイクロ波アシスト磁化反転」技術であり、MRAMや垂直記録ハードディスクドライブの飛躍的な消費電力低減や高記録密度化に道を拓くものです。
本技術は、記憶セルの微細化に伴って磁化反転が困難となる問題を強磁性共鳴(FMR)現象(注3)を用いて克服するものです。さらに、強磁性多層膜パターンの静磁気結合磁界を利用して記憶セルのFMR周波数を変調する新しい技術を確立し、機能周波数を書き換え可能なマイクロ波デバイスを開発しました。
(注2) 磁化反転現象とは、強磁性体の磁化が、外部磁界によって非可逆に向きを変える現象のこと。
(注3) 強磁性共鳴現象(FMR)とは、固有振動数に等しいマイクロ波磁界を与えることにより、強磁性体の磁気モーメント(電子スピン)が大きく歳差運動(首振り運動)する現象。
1.研究成果概要
強磁性体は、不揮発性と高速書込み特性を併せ持つ次世代メモリの記憶セル材料として注目されています。このような磁気記憶型の記録デバイスでは、記録密度の増大に伴い、記憶セルの微細化が必要です。ただし、セルを微細化すると磁化の熱揺らぎが顕在化するため、安定な記憶保持には強い磁気異方性が求められます。その結果、磁化反転には大きな磁界が必要となります。しかし、磁気記録ヘッドの書き込み磁界はすでに材料限界に達しており、これを打破するためには熱やマイクロ波などによるエネルギーアシストを利用した磁化スイッチングが不可欠となります。本研究では、微弱なマイクロ波磁界により電子スピンを大きく回転できる強磁性共鳴(FMR)現象を用いてスイッチング磁界を飛躍的に低減させる『マイクロ波アシスト磁化反転』を実験的に検証しました。その結果、
(1) 記憶セル固有のFMR周波数よりも低いマイクロ波磁界でスイッチング磁界低減効果が最大となること
(2) 記憶セルのFMRスペクトル線幅よりも広い周波数域でアシスト効果が見られること
(3) 磁化回転の均一性を増すことにより大きなアシスト効果が得られること
を明らかにしました。
2.競合技術への強み
(1) 低消費電力
直流磁界を用いる従来の方法に比べて1/10の磁界で磁化反転が可能となりました。
(2) 素子の発熱が少ない
記憶セルの温度上昇は、熱揺らぎによる磁化の不安定化を引き起こします。記憶セルに直接電流を流す従来のスピン注入磁化反転方式では、記憶セルが小さくなるほど発熱が大きくなる問題がありました。これに対し本技術は、記憶セルと独立した配線に書き込み電流を流すため、書込み時の記憶セルの発熱を抑えることができます。
(3) 読み出しの信頼性を確保
スピン注入磁化反転方式では、書き込み配線と読み出し配線が共通なため、読み出し電流が記憶セルの磁化に影響を及ぼす可能性があります。これに対し本技術は、書き込み配線と読み出し配線が独立なため、十分な読み出しの信頼性を確保することができます。
(4) 隣接セルへの干渉が少ない
本技術では、GHzオーダー(注4)のマイクロ波を用いて選択記憶セルのみを磁化反転可能な共鳴状態にできます。このため、直流電流による磁界印加方式に比べて隣接セルへの影響が少なく、記憶セルの高集積化に適していると考えられます。
(注4) GHzオーダー:強磁性体中の電子スピンの固有振動周波数に相当。
3.今後の展望
本研究では、『マイクロ波アシスト磁化反転』が面内磁化膜パターンのスイッチング磁界低減に有効であることが明らかとなりました。今後はハードディスクドライブ(HDD)用記録媒体の主流となっている垂直磁化膜に対するマイクロ波アシスト磁化反転の研究を進めていきます。
HDDは、面密度が1 Tb/in2以上(磁気ストレージ分野のロードマップによると2012年頃)に達すると、記録ヘッドが発生できる磁界強度の限界により、情報の書込みが困難になることが懸念されています。マイクロ波アシスト磁化反転に関する研究は、我々のグループを含めても世界でも少数のグループしか行っておらず、垂直磁化膜に関する研究はまだ報告されていません。本研究により得られたマイクロ波アシスト磁化反転に対する知見を生かし、世界に先駆けてマイクロ波アシスト記録方式の垂直磁化HDDの研究を行っていきます。
4.参考
成果プレスダイジェスト:九州大学准教授 能崎 幸雄氏