パソコン作業が続くオフィスワーカーに朗報!水素ガス産生飲料摂取がドライアイ予防に有効であることを確認
[19/12/20]
提供元:PRTIMES
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〜腸内細菌叢由来の水素の新機能〜
メイトーブランドの協同乳業株式会社(本社:東京都中央区/社長:後藤正純)の松本光晴主幹研究員らは、慶應義塾大学医学部眼科学教室の坪田一男教授、川島素子特任講師との共同研究で、腸内細菌を利用した水素ガス(H2)産生飲料の摂取がドライアイの予防に有効であることを確認しました。この研究成果は、国際眼科学専門誌The Ocular Surfaceに掲載されました。
≪ポイント≫
パソコンや携帯端末の普及に伴い、ドライアイの潜在的な患者数が急増している。ドライアイは、うつ病や睡眠障害との関わりも報告されており、軽視してはいけない症状である。
日常的にパソコン等の画面を長時間見続けている被験者を対象に、腸内細菌叢の水素ガス産生を誘導する飲料摂取(200ml/日×3週間)で、涙液安定性が向上し、ドライアイ予防効果が得られた。
涙液中の酸化ストレスが軽減しており、水素ガスによる抗酸化作用の関与が示唆された。
≪研究概要≫
【背景】
ドライアイは眼表面の乾燥による不快感だけでなく、視力障害、さらにはうつ病や睡眠障害にも繋がる可能性が高く軽視してはならない症状で、発症・悪化要因として酸化ストレスが知られています。水素ガス(H2)は、生体に悪影響を及ぼす活性酸素種を選択的に還元しラットにおける脳梗塞抑制効果が発表されて以来、様々な疾病への予防や軽減効果が報告され、新たな作用機序も提唱されています。我々は、H2の最大の供給源として腸内細菌叢に着目し、腸内細菌叢を利用して安定的にH2を産生する飲食品の研究を進めてきました。
【方法】
パソコン等の画面を長時間見続ける作業を日常的に行っているドライアイ予備軍と判定された健常人を対象に、乾燥が進みドライアイ症状が悪化しやすい11月〜12月に、H2産生飲料またはプラセボ摂取(200ml/日×3週間)による無作為化二重盲検並行群間比較試験を実施しました。摂取前後の涙液安定性(眼の表面に涙が留まる力)や涙液中の酸化ストレスマーカー等を測定しました。
【結果と考察】
涙液層破壊時間(涙液安定性)の変化量(試験後の値から試験前の値を引いた値)において、H2産生飲料群は、プラセボ群と比較して高値を示し(下図)、且つ、試験期間中にプラセボ群の涙液層破壊時間が低下したのに対し、H2産生飲料群はベースライン値を維持しており、晩秋から初冬の空気の乾燥に伴う涙液安定性の低下に対する抑制効果が認められました。この現象は女性に顕著で、特にパソコン等の画面を長時間見続ける作業を日常的に行っている比率が高い45歳未満の女性において、H2産生飲料群の涙液中の酸化ストレスマーカー(8-OHdG)濃度の変化量がプラセボ群と比較して低くなり、H2産生飲料摂取により涙液分泌系の酸化ストレスの抑制が確認されました。さらに、涙液中の酸化ストレスマーカーとH2産生量の間には負の相関が、涙液層破壊時間の変化量とH2産生量の間には正の相関が認められました。
以上より、H2産生飲料の摂取により腸内細菌叢が産生したH2が生体内へ移行し、涙液安定性を向上させることでドライアイ予防に有効であることが認められ、そのメカニズムは、涙液分泌系の酸化ストレスの抑制に起因することが示唆されました。
[画像1: https://prtimes.jp/i/33623/79/resize/d33623-79-306913-6.jpg ]
涙液層破壊時間を測定時の眼の様子
染色した涙の層が乱れるまでの時間を測定
[画像2: https://prtimes.jp/i/33623/79/resize/d33623-79-824339-7.jpg ]
H2産生飲料摂取による涙液安定性の変化
≪参考資料≫
■研究背景と目的
近年、パソコンやスマートフォンといった携帯端末の普及およびコンタクトレンズの使用者増加に伴い、ドライアイの潜在的な患者数が増加しており、その数は国内では2,000万人を超え、オフィスワーカーにおいては3人に1人がドライアイと考えられている。ドライアイは慢性的な目の不快感が生じるだけでなく、仕事の生産性低下や生活の質の低下を引き起こし、うつ病などを発症させる引き金になる可能性が示されており、放置しておくのは好ましくない。パソコンや携帯端末などのモニタ画面を長時間見続ける作業(Visual Display Terminals:VDT作業)が長い人ほどドライアイになりやすいことがわかっている。
ドライアイの要因のひとつである酸化ストレスは抗酸化物質により軽減し、涙液機能を改善することが報告されている。2007年に、水素ガス(H2)は生体に悪影響を及ぼす活性酸素種を選択的に還元することが報告されて以来、 H2の抗酸化作用が注目されており、眼科領域でも複数報告されている。また、腸内細菌が難消化性物質を分解し利用する過程でH2が発生することから、我々は、腸内細菌叢の個体差に関係なく、ほとんどの日本人の腸内でH2が産生できるH2産生飲料を開発し(J Functional Foods 35: 13-23, 2017)、その効果検証を行っている。
このような背景のもと、 H2産生飲料の抗酸化作用を介したドライアイ予防への効果を検証するべく、VDT作業を日常的に行っているドライアイ予備軍(健常成人)を対象に、ドライアイに関連する涙液安定性(眼の表面に涙が留まる力)に対するH2産生飲料摂取の効果を評価するヒト臨床試験を実施した。
■試験方法
VDT作業を日常的に行っている健常成人(20-60歳)を公募し、眼の乾燥自覚がある118名の中から2006年に提唱された日本のドライアイ診断基準に基づき「ドライアイ確定」と診断されなかったドライアイ予備軍54名の被験者を対象に実施した。被験者を無作為に2グループに分け、外気の乾燥が進みドライアイが増悪化しやすい11月〜12月にかけて、H2産生飲料またはプラセボ*1200mlを1日1回、3週間摂取する無作為化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験*2を実施した。摂取前と摂取3週目に、主要評価項目としてfTBUT検査*3、シルマーテスト*4、眼の症状に関するアンケート(DEQS*5, VAS*6)を左眼を対象に実施した。同日に、呼気、涙液、糞便を回収した。なお、fTBUT検査1時間前よりVDT作業を、検査10分前より読書を禁止し、試験期間中はサプリメントおよび試験飲料以外の牛乳や乳製品の摂取を禁止した。また、糞便回収の際は、食事内容がH2産生量に与える影響を排除するため、被験者が糞便提出日の当日に摂取する食事内容を統一した。本研究は大学病院医療情報ネットワーク臨床試験登録システム(UMIN-CTR) (http://www.umin.ac.jp/ctr/index-j.htm)にて試験ID:UMIN000029577として登録されている。
*1 プラセボ:有効成分を含まず、試験食と見分けがつかない試験用の食飲品。
*2 無作為化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験:被験者を試験食飲料摂取グループとプラセボ摂取グループに無作為に分け、同じ期間、それぞれの試験食飲料を摂取する試験。それぞれのグループで得られた結果を比較評価することで、試験食品の効果の有無を判断する。被験者および臨床試験実施に関わる全人物が、被験者がどちらのグループに属するかを一切知らずに実施し、全データ確定後に統計処理をする。
*3 fTBUT検査:目の表面を覆っている涙液が、乾燥し始めるまでの時間を測定し、涙の安定性を評価する検査。フルオレセインという色素を点眼し、まばたきを止め、目の表面が乾いて色素が消える部分が出現するまでの時間(涙液層破壊時間:Fluorescein tear break up time (fTBUT))を測定する。
*4 シルマーテスト:涙液の量を調べる検査。涙液分泌機能検査用試験紙を下まぶたの中央と耳側1/3位置の中間に引っ掛け、5分間で濾紙が濡れる長さを測定する。
*5 DEQS (Dry eye-related quality of life score):ドライアイの症状、日常生活への影響に関する15項目から成る質問票で、 総合的なQOL(生活の質)障害度がサマリースコア(0〜100)として算出される。
*6 VAS:Visual analog scale:「0」を「症状なし」状態、「100」を「考えられる最大の症状」状態として、現在の状態が100mmの直線状のどの位置にあるのかを被験者自身が示し、定量化する方法。
■結果および考察
【呼気中水素ガス濃度の変化】
両群共に、摂取期間前(水摂取時)には呼気中H2濃度が増加しないことが確認できた。 摂取3週目においてH2産生飲料摂取群ではプラセボ群と比較して、試験飲料摂取後に呼気中H2濃度が有意に(p < 0.001)増加した(図1-A)。また、試験飲料摂取3週目のH2産生飲料群の呼気中H2濃度の曲線下面積(AUC)は、 水摂取時および摂取3週間目のプラセボ群のAUCと比較して有意に(p < 0.001)高い値を示した(図1-B,C)。これらの結果は、H2産生飲料摂取により、ほぼ全ての被験者の呼気中H2濃度が増加したことを示している。
[画像3: https://prtimes.jp/i/33623/79/resize/d33623-79-658074-8.jpg ]
図1. H2産生飲料摂取によるH2産生量の変化
(A)摂取3週目における試験飲料摂取後0〜7時間の呼気中H2濃度の経時変化
†††p < 0.001 (H2産生飲料群とプラセボ摂取群の群間比較、Two-way repeated measures ANOVA(対応あり)後にestimated marginal means testおよびボンフェローニ補正)
(B) H2産生飲料摂取による呼気中H2濃度のAUC(5~7時間の曲線下面積)
箱ひげ図は、上線が最大値、下線が最小値、箱が四分位範囲、箱内の太線が中央値を示す
†††p < 0.001; n.s. 有意差なし(Two-way repeated measures ANOVA(対応あり)後に推定周辺平均検定)
(C)呼気中H2濃度AUCの群内比較
グラフの左側が水摂取時、右側が摂取3週目を示す
†††p < 0.001 (Wilcoxon signed-rank test)
【涙液層破壊時間(fTBUT)(=涙の安定性)の変化】
摂取3週目のfTBUT値から摂取前の値を引いたfTBUT変化量が、H2産生飲料摂取群(0.17 ± 1.45秒)ではプラセボ群(-0.69 ± 1.89秒)と比較して有意に高い値を示した。また、H2産生飲料摂取群は摂取前より摂取後で涙液安定性を維持していたのに対し、プラセボ群は、摂取前より摂取後で有意に(p < 0.05)低下、すなわち試験期間中に涙液安定性が悪化したことを示している。このことから、プラセボ群で観察された試験期間中の季節変動等による涙液安定性の悪化がH2産生飲料摂取により抑止され、ドライアイ予防・軽減への有効性が確認された。
また、fTBUTの変化量を性別によるサブグループ解析した結果、女性(n=25)では、 H2産生飲料摂取群
(-0.10±1.19秒)はプラセボ群(-1.79±2.11秒)と比較して有意に(p < 0.01)高い値を示し、改善されたことが認められた。一方、男性(n=26)では2群の間に有意差は認められなかった(図2)。涙液量の指標として用いたシルマースコアは実測値および変化量とも、群間差および各群の摂取前後変化いずれも有意差は認められなかった。これらのデータから、 H2産生飲料は、涙液量ではなく涙液の質を改善することが見出された。
[画像4: https://prtimes.jp/i/33623/79/resize/d33623-79-150675-12.jpg ]
図2. H2産生飲料摂取によるfTBUTの変化
横棒が平均値 ± 標準偏差、赤色のプロットがH2産生飲料群の被験者の値、黒色のプロットがプラセボ群の被験者の値を示す。
*p < 0.05, **p < 0.01 (Student’s t-test)
男女グループ解析は、 Student’s t-test後、Benjamin-Hochberg法で補正した。
【眼の自覚症状】
DEQSスコアは群間差および群内変化が認められなかった。しかしながら、摂取0週目のfTBUTあるいはシルマースコアが健常値であった被験者を除外した層別解析の結果、摂取1週目において、プラセボ群では変化が認められなかったのに対し、 H2産生飲料群では有意にスコアが減少し、改善が認められた(p < 0.01) 。
VAS試験においても、群間差および群内変化が認められなかったが、DEQSと同条件の層別解析の結果、 H2産生飲料摂取群でプラセボ群と比較して「目が赤い(摂取1週目)」の項目で、H2産生飲料群がプラセボ群と比較して有意に低い値を示し、改善が認められた(p < 0.05)。
【涙液中の酸化ストレスマーカー(8-OHdG:8-hydroxy-2'-deoxyguanosine)の変化】
fTBUT変化量で有意差が認められた女性に絞り、涙液安定性の低下を抑制したメカニズムを解明するために涙液中の酸化ストレスマーカー(8-OHdG)を測定した。8-OHdGの実測値および変化量共にH2産生飲料群とプラセボ群間で有意差は認められなかった(図3)。しかしながら、45歳未満と45歳以上のサブグループ解析したところ、45歳未満の女性ではH2産生飲料摂取群(中央値, -0.22; 四分位範囲(Interquartile range; IQR) -1.33 - 0.18 ng/mg protein)は、プラセボ群(中央値, 0.79; IQR 0.18 – 1.69 ng/mg protein)と比較して低い傾向を示した(p < 0.05, q = 0.088)。それに対し、45歳以上の女性では、 H2産生飲料群とプラセボ群との間に有意差は認めらなかった(図3)。厚生労働省の1日あたりの平均VDT作業時間別労働者割合の調査によると、若い人ほどVDT作業が多いことから、本試験で観察された45歳未満の女性の眼の酸化ストレスはVDT作業に起因する可能性が高く、H2産生飲料はVDT作業由来の酸化ストレス抑制に有効な可能性を示唆している。
[画像5: https://prtimes.jp/i/33623/79/resize/d33623-79-853979-10.jpg ]
図3.女性におけるH2産生飲料摂取による8-OHdGの変化
上線が最大値、下線が最小値、箱が四分位範囲、箱内の太線が中央値、赤色のプロットがH2産生飲料群の被験者の値、黒色のプロットがプラセボ群の被験者の値を示す。
*p < 0.05 (Wilcoxon rank-sum test)
45歳未満と45歳以上に分けた解析は、Wilcoxon rank-sum test後、Benjamin-Hochberg法を用いた。
【fTBUT変化量、8-OHdG変化量および水素ガス産生量間の相関関係】
涙液中の8-OHdG変化量で有意差が認められた45歳未満の女性に絞り、 H2産生飲料によるfTBUT変化量、H2産生量(摂取後の値から摂取前の値を引いた値)、涙液中8-OHdG濃度の変化量との相関性を調べた結果、fTBUT変化量とH2産生量の間には正の相関が認められた(p < 0.05, r = 0.49)(図4-A)。また、涙液中8-OHdG濃度の変化量とH2産生量の間には負の相関が認められた(p < 0.05, r = -0.52) (図4-B)。fTBUT変化量と涙液中8-OHdG濃度の変化量間には、有意差はないものの緩い負の相関が観察された(図4-C)。これは、腸内細菌由来のH2が、酸化ストレス発生を抑制し、涙液安定性を改善したことを示唆している。
[画像6: https://prtimes.jp/i/33623/79/resize/d33623-79-344128-11.jpg ]
図4. 45歳未満女性におけるfTBUT変化量、8-OHdG変化量およびH2産生量間の相関関係
赤色のプロットがH2産生飲料群の被験者の値、黒色のプロットがプラセボ群の被験者の値を示す
(A)fTBUT変化量とH2産生量間の相関関係
(B)8-OHdGとH2産生量間の相関関係
(C)fTBUT変化量と8-OHdG変化量間の相関関係 (Spearman’s rank correlation coefficient)
■まとめ
H2産生飲料摂取は涙液の安定性を向上し、ドライアイの予防に有効であることが確認された。そのメカニズムのひとつとして、腸内細菌由来のH2による酸化ストレスの低下が示唆された。ドライアイ患者に対する治療・軽減効果への発展に期待されると共に、抗酸化作用以外のメカニズムへの影響などを含めた病因学的アプローチが今後の課題である。
なお、本試験では、無作為に割付された全患者集団(ITT;Intention-to-treat)による解析とプロトコルに適合した集団(PPS;Per protocol set)による解析を実施したが、本リリースにはPPS解析の結果のみ記載している。
【論文】
ジャーナル:The Ocular Surface
巻(号),ページ:17(4), 714-721
タイトル:Hydrogen-producing milk to prevent reduction in tear stability in persons using visual displ ay terminals(日本語訳:水素ガス産生飲料はディスプレイ端末を使用している人の涙液安定性低下を防ぐ)
著者:Motoko Kawashima1, Saki Tsuno2, Mitsuharu Matsumoto2, Kazuo Tsubota1
1慶應義塾大学医学部眼科学教室, 2協同乳業株式会社研究所技術開発グループ
メイトーブランドの協同乳業株式会社(本社:東京都中央区/社長:後藤正純)の松本光晴主幹研究員らは、慶應義塾大学医学部眼科学教室の坪田一男教授、川島素子特任講師との共同研究で、腸内細菌を利用した水素ガス(H2)産生飲料の摂取がドライアイの予防に有効であることを確認しました。この研究成果は、国際眼科学専門誌The Ocular Surfaceに掲載されました。
≪ポイント≫
パソコンや携帯端末の普及に伴い、ドライアイの潜在的な患者数が急増している。ドライアイは、うつ病や睡眠障害との関わりも報告されており、軽視してはいけない症状である。
日常的にパソコン等の画面を長時間見続けている被験者を対象に、腸内細菌叢の水素ガス産生を誘導する飲料摂取(200ml/日×3週間)で、涙液安定性が向上し、ドライアイ予防効果が得られた。
涙液中の酸化ストレスが軽減しており、水素ガスによる抗酸化作用の関与が示唆された。
≪研究概要≫
【背景】
ドライアイは眼表面の乾燥による不快感だけでなく、視力障害、さらにはうつ病や睡眠障害にも繋がる可能性が高く軽視してはならない症状で、発症・悪化要因として酸化ストレスが知られています。水素ガス(H2)は、生体に悪影響を及ぼす活性酸素種を選択的に還元しラットにおける脳梗塞抑制効果が発表されて以来、様々な疾病への予防や軽減効果が報告され、新たな作用機序も提唱されています。我々は、H2の最大の供給源として腸内細菌叢に着目し、腸内細菌叢を利用して安定的にH2を産生する飲食品の研究を進めてきました。
【方法】
パソコン等の画面を長時間見続ける作業を日常的に行っているドライアイ予備軍と判定された健常人を対象に、乾燥が進みドライアイ症状が悪化しやすい11月〜12月に、H2産生飲料またはプラセボ摂取(200ml/日×3週間)による無作為化二重盲検並行群間比較試験を実施しました。摂取前後の涙液安定性(眼の表面に涙が留まる力)や涙液中の酸化ストレスマーカー等を測定しました。
【結果と考察】
涙液層破壊時間(涙液安定性)の変化量(試験後の値から試験前の値を引いた値)において、H2産生飲料群は、プラセボ群と比較して高値を示し(下図)、且つ、試験期間中にプラセボ群の涙液層破壊時間が低下したのに対し、H2産生飲料群はベースライン値を維持しており、晩秋から初冬の空気の乾燥に伴う涙液安定性の低下に対する抑制効果が認められました。この現象は女性に顕著で、特にパソコン等の画面を長時間見続ける作業を日常的に行っている比率が高い45歳未満の女性において、H2産生飲料群の涙液中の酸化ストレスマーカー(8-OHdG)濃度の変化量がプラセボ群と比較して低くなり、H2産生飲料摂取により涙液分泌系の酸化ストレスの抑制が確認されました。さらに、涙液中の酸化ストレスマーカーとH2産生量の間には負の相関が、涙液層破壊時間の変化量とH2産生量の間には正の相関が認められました。
以上より、H2産生飲料の摂取により腸内細菌叢が産生したH2が生体内へ移行し、涙液安定性を向上させることでドライアイ予防に有効であることが認められ、そのメカニズムは、涙液分泌系の酸化ストレスの抑制に起因することが示唆されました。
[画像1: https://prtimes.jp/i/33623/79/resize/d33623-79-306913-6.jpg ]
涙液層破壊時間を測定時の眼の様子
染色した涙の層が乱れるまでの時間を測定
[画像2: https://prtimes.jp/i/33623/79/resize/d33623-79-824339-7.jpg ]
H2産生飲料摂取による涙液安定性の変化
≪参考資料≫
■研究背景と目的
近年、パソコンやスマートフォンといった携帯端末の普及およびコンタクトレンズの使用者増加に伴い、ドライアイの潜在的な患者数が増加しており、その数は国内では2,000万人を超え、オフィスワーカーにおいては3人に1人がドライアイと考えられている。ドライアイは慢性的な目の不快感が生じるだけでなく、仕事の生産性低下や生活の質の低下を引き起こし、うつ病などを発症させる引き金になる可能性が示されており、放置しておくのは好ましくない。パソコンや携帯端末などのモニタ画面を長時間見続ける作業(Visual Display Terminals:VDT作業)が長い人ほどドライアイになりやすいことがわかっている。
ドライアイの要因のひとつである酸化ストレスは抗酸化物質により軽減し、涙液機能を改善することが報告されている。2007年に、水素ガス(H2)は生体に悪影響を及ぼす活性酸素種を選択的に還元することが報告されて以来、 H2の抗酸化作用が注目されており、眼科領域でも複数報告されている。また、腸内細菌が難消化性物質を分解し利用する過程でH2が発生することから、我々は、腸内細菌叢の個体差に関係なく、ほとんどの日本人の腸内でH2が産生できるH2産生飲料を開発し(J Functional Foods 35: 13-23, 2017)、その効果検証を行っている。
このような背景のもと、 H2産生飲料の抗酸化作用を介したドライアイ予防への効果を検証するべく、VDT作業を日常的に行っているドライアイ予備軍(健常成人)を対象に、ドライアイに関連する涙液安定性(眼の表面に涙が留まる力)に対するH2産生飲料摂取の効果を評価するヒト臨床試験を実施した。
■試験方法
VDT作業を日常的に行っている健常成人(20-60歳)を公募し、眼の乾燥自覚がある118名の中から2006年に提唱された日本のドライアイ診断基準に基づき「ドライアイ確定」と診断されなかったドライアイ予備軍54名の被験者を対象に実施した。被験者を無作為に2グループに分け、外気の乾燥が進みドライアイが増悪化しやすい11月〜12月にかけて、H2産生飲料またはプラセボ*1200mlを1日1回、3週間摂取する無作為化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験*2を実施した。摂取前と摂取3週目に、主要評価項目としてfTBUT検査*3、シルマーテスト*4、眼の症状に関するアンケート(DEQS*5, VAS*6)を左眼を対象に実施した。同日に、呼気、涙液、糞便を回収した。なお、fTBUT検査1時間前よりVDT作業を、検査10分前より読書を禁止し、試験期間中はサプリメントおよび試験飲料以外の牛乳や乳製品の摂取を禁止した。また、糞便回収の際は、食事内容がH2産生量に与える影響を排除するため、被験者が糞便提出日の当日に摂取する食事内容を統一した。本研究は大学病院医療情報ネットワーク臨床試験登録システム(UMIN-CTR) (http://www.umin.ac.jp/ctr/index-j.htm)にて試験ID:UMIN000029577として登録されている。
*1 プラセボ:有効成分を含まず、試験食と見分けがつかない試験用の食飲品。
*2 無作為化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験:被験者を試験食飲料摂取グループとプラセボ摂取グループに無作為に分け、同じ期間、それぞれの試験食飲料を摂取する試験。それぞれのグループで得られた結果を比較評価することで、試験食品の効果の有無を判断する。被験者および臨床試験実施に関わる全人物が、被験者がどちらのグループに属するかを一切知らずに実施し、全データ確定後に統計処理をする。
*3 fTBUT検査:目の表面を覆っている涙液が、乾燥し始めるまでの時間を測定し、涙の安定性を評価する検査。フルオレセインという色素を点眼し、まばたきを止め、目の表面が乾いて色素が消える部分が出現するまでの時間(涙液層破壊時間:Fluorescein tear break up time (fTBUT))を測定する。
*4 シルマーテスト:涙液の量を調べる検査。涙液分泌機能検査用試験紙を下まぶたの中央と耳側1/3位置の中間に引っ掛け、5分間で濾紙が濡れる長さを測定する。
*5 DEQS (Dry eye-related quality of life score):ドライアイの症状、日常生活への影響に関する15項目から成る質問票で、 総合的なQOL(生活の質)障害度がサマリースコア(0〜100)として算出される。
*6 VAS:Visual analog scale:「0」を「症状なし」状態、「100」を「考えられる最大の症状」状態として、現在の状態が100mmの直線状のどの位置にあるのかを被験者自身が示し、定量化する方法。
■結果および考察
【呼気中水素ガス濃度の変化】
両群共に、摂取期間前(水摂取時)には呼気中H2濃度が増加しないことが確認できた。 摂取3週目においてH2産生飲料摂取群ではプラセボ群と比較して、試験飲料摂取後に呼気中H2濃度が有意に(p < 0.001)増加した(図1-A)。また、試験飲料摂取3週目のH2産生飲料群の呼気中H2濃度の曲線下面積(AUC)は、 水摂取時および摂取3週間目のプラセボ群のAUCと比較して有意に(p < 0.001)高い値を示した(図1-B,C)。これらの結果は、H2産生飲料摂取により、ほぼ全ての被験者の呼気中H2濃度が増加したことを示している。
[画像3: https://prtimes.jp/i/33623/79/resize/d33623-79-658074-8.jpg ]
図1. H2産生飲料摂取によるH2産生量の変化
(A)摂取3週目における試験飲料摂取後0〜7時間の呼気中H2濃度の経時変化
†††p < 0.001 (H2産生飲料群とプラセボ摂取群の群間比較、Two-way repeated measures ANOVA(対応あり)後にestimated marginal means testおよびボンフェローニ補正)
(B) H2産生飲料摂取による呼気中H2濃度のAUC(5~7時間の曲線下面積)
箱ひげ図は、上線が最大値、下線が最小値、箱が四分位範囲、箱内の太線が中央値を示す
†††p < 0.001; n.s. 有意差なし(Two-way repeated measures ANOVA(対応あり)後に推定周辺平均検定)
(C)呼気中H2濃度AUCの群内比較
グラフの左側が水摂取時、右側が摂取3週目を示す
†††p < 0.001 (Wilcoxon signed-rank test)
【涙液層破壊時間(fTBUT)(=涙の安定性)の変化】
摂取3週目のfTBUT値から摂取前の値を引いたfTBUT変化量が、H2産生飲料摂取群(0.17 ± 1.45秒)ではプラセボ群(-0.69 ± 1.89秒)と比較して有意に高い値を示した。また、H2産生飲料摂取群は摂取前より摂取後で涙液安定性を維持していたのに対し、プラセボ群は、摂取前より摂取後で有意に(p < 0.05)低下、すなわち試験期間中に涙液安定性が悪化したことを示している。このことから、プラセボ群で観察された試験期間中の季節変動等による涙液安定性の悪化がH2産生飲料摂取により抑止され、ドライアイ予防・軽減への有効性が確認された。
また、fTBUTの変化量を性別によるサブグループ解析した結果、女性(n=25)では、 H2産生飲料摂取群
(-0.10±1.19秒)はプラセボ群(-1.79±2.11秒)と比較して有意に(p < 0.01)高い値を示し、改善されたことが認められた。一方、男性(n=26)では2群の間に有意差は認められなかった(図2)。涙液量の指標として用いたシルマースコアは実測値および変化量とも、群間差および各群の摂取前後変化いずれも有意差は認められなかった。これらのデータから、 H2産生飲料は、涙液量ではなく涙液の質を改善することが見出された。
[画像4: https://prtimes.jp/i/33623/79/resize/d33623-79-150675-12.jpg ]
図2. H2産生飲料摂取によるfTBUTの変化
横棒が平均値 ± 標準偏差、赤色のプロットがH2産生飲料群の被験者の値、黒色のプロットがプラセボ群の被験者の値を示す。
*p < 0.05, **p < 0.01 (Student’s t-test)
男女グループ解析は、 Student’s t-test後、Benjamin-Hochberg法で補正した。
【眼の自覚症状】
DEQSスコアは群間差および群内変化が認められなかった。しかしながら、摂取0週目のfTBUTあるいはシルマースコアが健常値であった被験者を除外した層別解析の結果、摂取1週目において、プラセボ群では変化が認められなかったのに対し、 H2産生飲料群では有意にスコアが減少し、改善が認められた(p < 0.01) 。
VAS試験においても、群間差および群内変化が認められなかったが、DEQSと同条件の層別解析の結果、 H2産生飲料摂取群でプラセボ群と比較して「目が赤い(摂取1週目)」の項目で、H2産生飲料群がプラセボ群と比較して有意に低い値を示し、改善が認められた(p < 0.05)。
【涙液中の酸化ストレスマーカー(8-OHdG:8-hydroxy-2'-deoxyguanosine)の変化】
fTBUT変化量で有意差が認められた女性に絞り、涙液安定性の低下を抑制したメカニズムを解明するために涙液中の酸化ストレスマーカー(8-OHdG)を測定した。8-OHdGの実測値および変化量共にH2産生飲料群とプラセボ群間で有意差は認められなかった(図3)。しかしながら、45歳未満と45歳以上のサブグループ解析したところ、45歳未満の女性ではH2産生飲料摂取群(中央値, -0.22; 四分位範囲(Interquartile range; IQR) -1.33 - 0.18 ng/mg protein)は、プラセボ群(中央値, 0.79; IQR 0.18 – 1.69 ng/mg protein)と比較して低い傾向を示した(p < 0.05, q = 0.088)。それに対し、45歳以上の女性では、 H2産生飲料群とプラセボ群との間に有意差は認めらなかった(図3)。厚生労働省の1日あたりの平均VDT作業時間別労働者割合の調査によると、若い人ほどVDT作業が多いことから、本試験で観察された45歳未満の女性の眼の酸化ストレスはVDT作業に起因する可能性が高く、H2産生飲料はVDT作業由来の酸化ストレス抑制に有効な可能性を示唆している。
[画像5: https://prtimes.jp/i/33623/79/resize/d33623-79-853979-10.jpg ]
図3.女性におけるH2産生飲料摂取による8-OHdGの変化
上線が最大値、下線が最小値、箱が四分位範囲、箱内の太線が中央値、赤色のプロットがH2産生飲料群の被験者の値、黒色のプロットがプラセボ群の被験者の値を示す。
*p < 0.05 (Wilcoxon rank-sum test)
45歳未満と45歳以上に分けた解析は、Wilcoxon rank-sum test後、Benjamin-Hochberg法を用いた。
【fTBUT変化量、8-OHdG変化量および水素ガス産生量間の相関関係】
涙液中の8-OHdG変化量で有意差が認められた45歳未満の女性に絞り、 H2産生飲料によるfTBUT変化量、H2産生量(摂取後の値から摂取前の値を引いた値)、涙液中8-OHdG濃度の変化量との相関性を調べた結果、fTBUT変化量とH2産生量の間には正の相関が認められた(p < 0.05, r = 0.49)(図4-A)。また、涙液中8-OHdG濃度の変化量とH2産生量の間には負の相関が認められた(p < 0.05, r = -0.52) (図4-B)。fTBUT変化量と涙液中8-OHdG濃度の変化量間には、有意差はないものの緩い負の相関が観察された(図4-C)。これは、腸内細菌由来のH2が、酸化ストレス発生を抑制し、涙液安定性を改善したことを示唆している。
[画像6: https://prtimes.jp/i/33623/79/resize/d33623-79-344128-11.jpg ]
図4. 45歳未満女性におけるfTBUT変化量、8-OHdG変化量およびH2産生量間の相関関係
赤色のプロットがH2産生飲料群の被験者の値、黒色のプロットがプラセボ群の被験者の値を示す
(A)fTBUT変化量とH2産生量間の相関関係
(B)8-OHdGとH2産生量間の相関関係
(C)fTBUT変化量と8-OHdG変化量間の相関関係 (Spearman’s rank correlation coefficient)
■まとめ
H2産生飲料摂取は涙液の安定性を向上し、ドライアイの予防に有効であることが確認された。そのメカニズムのひとつとして、腸内細菌由来のH2による酸化ストレスの低下が示唆された。ドライアイ患者に対する治療・軽減効果への発展に期待されると共に、抗酸化作用以外のメカニズムへの影響などを含めた病因学的アプローチが今後の課題である。
なお、本試験では、無作為に割付された全患者集団(ITT;Intention-to-treat)による解析とプロトコルに適合した集団(PPS;Per protocol set)による解析を実施したが、本リリースにはPPS解析の結果のみ記載している。
【論文】
ジャーナル:The Ocular Surface
巻(号),ページ:17(4), 714-721
タイトル:Hydrogen-producing milk to prevent reduction in tear stability in persons using visual displ ay terminals(日本語訳:水素ガス産生飲料はディスプレイ端末を使用している人の涙液安定性低下を防ぐ)
著者:Motoko Kawashima1, Saki Tsuno2, Mitsuharu Matsumoto2, Kazuo Tsubota1
1慶應義塾大学医学部眼科学教室, 2協同乳業株式会社研究所技術開発グループ