腎疾患における糸球体障害の形態変化の全過程を明らかに
[19/01/28]
提供元:PRTIMES
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〜糸球体足細胞の形は“足裏”を見ると良く分かる〜
順天堂大学大学院医学研究科 解剖学・生体構造科学の市村浩一郎 准教授、坂井建雄 教授らの研究グループは、複雑な突起構造をもつ糸球体足細胞(ポドサイト)*1 が腎疾患の際に突起構造を消失させる現象(突起消失*2)の全過程を明らかにしました。本研究では、FIB/SEM*3 という電子顕微鏡で撮影した糸球体足細胞の連続断面像から高精細な立体再構築像を作製することにより、従来見えなかったうら面からの観察を可能とし、突起消失過程に2つの形態変化の様式があることを発見しました。この成果により、糸球体疾患の病理診断におけるFIB/SEMの有用性が示されました。本研究は米国腎臓学会の学術誌 Journal of the American Society of Nephrology (JASN) の2019年1月号に掲載されました。
【研究成果のポイント】
FIB/SEM を活用し、糸球体足細胞の高精細な立体再構築像の作製に成功
糸球体足細胞の再構築像を “足裏” 方向から観察し、突起消失過程に2つの形態変化の様式があることを発見
糸球体疾患の病理診断における FIB/SEM の有用性を提示
【背景】
腎臓の糸球体にある糸球体足細胞(以下:足細胞と表記)は複雑な突起構造を持ちますが、腎疾患になると足細胞は突起構造を失い、扁平な形状に変化します。この足細胞の突起消失は糸球体疾患の診断指標として利用されていますが、突起がどのように消失するのか、その過程はほとんど分かっていませんでした。
しかし、最近、 FIB/SEMで撮影した連続断面像を重ね合わせることで、高精細な立体構築像を任意に再現することができるようになってきました。そこで、研究グループは、足細胞の突起消失過程を明らかにすることを目的に、ヒトの微小変化型ネフローゼ症候群*4 のモデル動物であるピューロマイシン腎症ラット*5 の足細胞を FIB/SEMを用いて解析しました。
【内容】
今回、腎疾患モデルのラットの足細胞をFIB/SEMで撮影し、高精細立体再構築像を作製しました(図1)。
[画像1: https://prtimes.jp/i/21495/93/resize/d21495-93-318787-3.png ]
従来の走査型電子顕微鏡(SEM)では、足細胞の腔側面(おもて面)の立体構造はよく分かりますが、基底面(うら面)の構造は全く分りませんでした(図2、下段)。そこで、FIB/SEMで撮影した連続断面像をもとに足細胞の立体再構築を行ったところ、高精細な再構築像を作製することに成功し、同一細胞のおもて面とうら面の両方を観察できるようになりました(図2、上段)。
[画像2: https://prtimes.jp/i/21495/93/resize/d21495-93-636310-1.jpg ]
特にうら面からの観察により、足細胞の突起構造が明瞭に観察できました。
次に、FIB/SEMと立体再構築技術を用いて、ピューロマイシン腎症ラットにおいて、足細胞の再構築像をうら面から観察したところ、突起の消失過程には少なくとも2つの様式があることが分かりました(図3)。
[画像3: https://prtimes.jp/i/21495/93/resize/d21495-93-176606-2.jpg ]
1型過程は突起の太さが不均一になりつつ短くなっていく様式で、足細胞の全体に広く認められます。一方、2型過程は突起が全長にわたって均一に細くなりつつ短縮していきます。このことは、突起の芯を形成するアクチン細胞骨格の変性過程に2つの様式があることを示しています。
さらに、突起消失に伴い、足細胞にこれまで知られていなかった現象(自己細胞間結合や断片化)が生じることが分かりました。足細胞は通常、隣の細胞と結合していますが、病態時に自己の突起同士で結合を生じることがあります。このように疾患の際に一端形成された自己細胞間結合が疾患からの回復時に足細胞の正常構造への回復を妨げている可能性があります。
【今後の展開】
本研究ではFIB/SEMを活用することにより、従来の電子顕微鏡では十分に分からなかった足細胞の突起消失過程を詳細に明らかにすることができました。これは、このアプローチがヒトの糸球体疾患の病理診断にも有用であることを示しています。ヒトの糸球体疾患においても病理解析にFIB/SEMと立体再構築法を応用することで、従来よりも詳細な病態の評価を行うことが可能になります。
今後は、本研究成果をもとに、足細胞のアクチン細胞骨格の変性に関与すると予想されるいくつかのアクチン結合タンパク質の動態を検討し、突起消失の分子メカニズムを明らかにしたいと考えています。
【用語解説】
*1 糸球体足細胞(ポドサイト)
腎臓の糸球体で血液を濾過し、尿を生成する過程で濾紙の役割を果たす細胞。足細胞の濾過機能が破綻すると、血液中のタンパク質が尿中に漏れ出し、様々な症状を引き起こす。
*2 突起消失
足細胞が傷害を受けている際にみられる病理形態。様々な糸球体疾患に共通してみられ、糸球体疾患の診断指標として利用されている。
*3 FIB/SEM
標本の切削と撮影を自動で行い、細胞の断面像を連続して得ることができる集束イオンビーム(FIB)走査型電子顕微鏡(SEM)。連続断面像から特定の構造を抽出して立体的な再構築像を作製できる。
*4 微小変化型ネフローゼ症候群
主に小児に見られる糸球体疾患で、足細胞の傷害により、大量のタンパク尿を生じる。足突起消失が糸球体の広範囲に起こる。
*5 ピューロマイシン腎症ラット
微小変化型ネフローゼ症候群のモデル。ラットにピューロマイシン誘導体の一種を投与して作製する。
【原著論文】
本研究は Journal of the American Society of Nephrology の2019年1月号に掲載されました。
タイトル: Morphological processes of foot process effacement in puromycin aminonucleoside nephrosis revealed by FIB/SEM tomography
タイトル(日本語訳):「FIB/SEMにより明らかにした足突起消失の形態的変化過程-ピューロマイシン腎症における解析」
著者: Ichimura K, Miyaki T, Kawasaki Y, Kinoshita M, Kakuta S, Sakai T.
著者(日本語表記): 市村浩一郎1,2、宮木貴之1、川崎優人1、木之下夢衣1、角田宗一郎2、坂井建雄1
所属: 順天堂大学大学院医学研究科 解剖学・生体構造科学1、順天堂大学大学院医学研究科研究基盤センター形態解析イメージング研究室2
DOI : 10.1681/ASN.2018020139
リンク先: https://jasn.asnjournals.org/content/early/2018/12/03/ASN.2018020139
本研究は、文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業、文部科学省科学研究費補助金(JSPS科研費 JP15K18960, JP17K08521)の支援を受け実施されました。
順天堂大学大学院医学研究科 解剖学・生体構造科学の市村浩一郎 准教授、坂井建雄 教授らの研究グループは、複雑な突起構造をもつ糸球体足細胞(ポドサイト)*1 が腎疾患の際に突起構造を消失させる現象(突起消失*2)の全過程を明らかにしました。本研究では、FIB/SEM*3 という電子顕微鏡で撮影した糸球体足細胞の連続断面像から高精細な立体再構築像を作製することにより、従来見えなかったうら面からの観察を可能とし、突起消失過程に2つの形態変化の様式があることを発見しました。この成果により、糸球体疾患の病理診断におけるFIB/SEMの有用性が示されました。本研究は米国腎臓学会の学術誌 Journal of the American Society of Nephrology (JASN) の2019年1月号に掲載されました。
【研究成果のポイント】
FIB/SEM を活用し、糸球体足細胞の高精細な立体再構築像の作製に成功
糸球体足細胞の再構築像を “足裏” 方向から観察し、突起消失過程に2つの形態変化の様式があることを発見
糸球体疾患の病理診断における FIB/SEM の有用性を提示
【背景】
腎臓の糸球体にある糸球体足細胞(以下:足細胞と表記)は複雑な突起構造を持ちますが、腎疾患になると足細胞は突起構造を失い、扁平な形状に変化します。この足細胞の突起消失は糸球体疾患の診断指標として利用されていますが、突起がどのように消失するのか、その過程はほとんど分かっていませんでした。
しかし、最近、 FIB/SEMで撮影した連続断面像を重ね合わせることで、高精細な立体構築像を任意に再現することができるようになってきました。そこで、研究グループは、足細胞の突起消失過程を明らかにすることを目的に、ヒトの微小変化型ネフローゼ症候群*4 のモデル動物であるピューロマイシン腎症ラット*5 の足細胞を FIB/SEMを用いて解析しました。
【内容】
今回、腎疾患モデルのラットの足細胞をFIB/SEMで撮影し、高精細立体再構築像を作製しました(図1)。
[画像1: https://prtimes.jp/i/21495/93/resize/d21495-93-318787-3.png ]
従来の走査型電子顕微鏡(SEM)では、足細胞の腔側面(おもて面)の立体構造はよく分かりますが、基底面(うら面)の構造は全く分りませんでした(図2、下段)。そこで、FIB/SEMで撮影した連続断面像をもとに足細胞の立体再構築を行ったところ、高精細な再構築像を作製することに成功し、同一細胞のおもて面とうら面の両方を観察できるようになりました(図2、上段)。
[画像2: https://prtimes.jp/i/21495/93/resize/d21495-93-636310-1.jpg ]
特にうら面からの観察により、足細胞の突起構造が明瞭に観察できました。
次に、FIB/SEMと立体再構築技術を用いて、ピューロマイシン腎症ラットにおいて、足細胞の再構築像をうら面から観察したところ、突起の消失過程には少なくとも2つの様式があることが分かりました(図3)。
[画像3: https://prtimes.jp/i/21495/93/resize/d21495-93-176606-2.jpg ]
1型過程は突起の太さが不均一になりつつ短くなっていく様式で、足細胞の全体に広く認められます。一方、2型過程は突起が全長にわたって均一に細くなりつつ短縮していきます。このことは、突起の芯を形成するアクチン細胞骨格の変性過程に2つの様式があることを示しています。
さらに、突起消失に伴い、足細胞にこれまで知られていなかった現象(自己細胞間結合や断片化)が生じることが分かりました。足細胞は通常、隣の細胞と結合していますが、病態時に自己の突起同士で結合を生じることがあります。このように疾患の際に一端形成された自己細胞間結合が疾患からの回復時に足細胞の正常構造への回復を妨げている可能性があります。
【今後の展開】
本研究ではFIB/SEMを活用することにより、従来の電子顕微鏡では十分に分からなかった足細胞の突起消失過程を詳細に明らかにすることができました。これは、このアプローチがヒトの糸球体疾患の病理診断にも有用であることを示しています。ヒトの糸球体疾患においても病理解析にFIB/SEMと立体再構築法を応用することで、従来よりも詳細な病態の評価を行うことが可能になります。
今後は、本研究成果をもとに、足細胞のアクチン細胞骨格の変性に関与すると予想されるいくつかのアクチン結合タンパク質の動態を検討し、突起消失の分子メカニズムを明らかにしたいと考えています。
【用語解説】
*1 糸球体足細胞(ポドサイト)
腎臓の糸球体で血液を濾過し、尿を生成する過程で濾紙の役割を果たす細胞。足細胞の濾過機能が破綻すると、血液中のタンパク質が尿中に漏れ出し、様々な症状を引き起こす。
*2 突起消失
足細胞が傷害を受けている際にみられる病理形態。様々な糸球体疾患に共通してみられ、糸球体疾患の診断指標として利用されている。
*3 FIB/SEM
標本の切削と撮影を自動で行い、細胞の断面像を連続して得ることができる集束イオンビーム(FIB)走査型電子顕微鏡(SEM)。連続断面像から特定の構造を抽出して立体的な再構築像を作製できる。
*4 微小変化型ネフローゼ症候群
主に小児に見られる糸球体疾患で、足細胞の傷害により、大量のタンパク尿を生じる。足突起消失が糸球体の広範囲に起こる。
*5 ピューロマイシン腎症ラット
微小変化型ネフローゼ症候群のモデル。ラットにピューロマイシン誘導体の一種を投与して作製する。
【原著論文】
本研究は Journal of the American Society of Nephrology の2019年1月号に掲載されました。
タイトル: Morphological processes of foot process effacement in puromycin aminonucleoside nephrosis revealed by FIB/SEM tomography
タイトル(日本語訳):「FIB/SEMにより明らかにした足突起消失の形態的変化過程-ピューロマイシン腎症における解析」
著者: Ichimura K, Miyaki T, Kawasaki Y, Kinoshita M, Kakuta S, Sakai T.
著者(日本語表記): 市村浩一郎1,2、宮木貴之1、川崎優人1、木之下夢衣1、角田宗一郎2、坂井建雄1
所属: 順天堂大学大学院医学研究科 解剖学・生体構造科学1、順天堂大学大学院医学研究科研究基盤センター形態解析イメージング研究室2
DOI : 10.1681/ASN.2018020139
リンク先: https://jasn.asnjournals.org/content/early/2018/12/03/ASN.2018020139
本研究は、文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業、文部科学省科学研究費補助金(JSPS科研費 JP15K18960, JP17K08521)の支援を受け実施されました。