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実効的な難民保護を実現するために

グローバルコンパクトへのアムネスティの提言と日本政府への要請

来る9月19日、国連は、未曾有の難民危機に対応するための国連総会ハイレベル会議を開催します。同会議では、難民のための責任分担に関するグローバルコンパクト(以下グローバルコンパクト)が議論され、採択される予定です。アムネスティ・インターナショナル日本は、グローバルコンパクトが人権を基盤とし、難民の保護に真に寄与するものになるため、以下を日本政府に要請します。

はじめに

今年4月、国連事務総長は、9月の国連総会ハイレベル会議に向けた報告書“In Safety and Dignity: Addressing Large Movements of Refugees and Migrants(安全と尊厳のために:難民・移民の大規模な移動への対応)”を発表しました。アムネスティ・インターナショナルは同報告書を歓迎し、とりわけ、事務総長による難民のための責任分担に関するグローバルコンパクト(以下グローバルコンパクト)の提唱を支持します。

現在、世界で6千万人を超える人びとが紛争や迫害から逃れて難民や国内避難民となり、第二次世界大戦以来最多となっています。難民は1千950万人以上と推計されていますが、その約9割を途上国が受け入れています。その一方で、より豊かな国々での受け入れは依然として小規模にとどまっており、この現状は本質的に公平さを欠いていると言えます。グローバルコンパクトは、このような不均衡を解決しようとするものでなければなりません。

アムネスティは、国連において合意された適切な指標に基づいて、難民の危機に対応するよう国連加盟国に要請します。指標には国内総生産(GDP)や国民総所得(GNI)、人口、失業率、既存の難民受け入れ数、受理された難民認定申請数などが含まれるべきであり、こうした客観的指標が、各国ごとの貢献を明確で長期的に予測できるものにすると考えます。

アムネスティの5つの提言

アムネスティは、グローバルコンパクトには以下の5つの要素が含まれるべきと考えます。

1. 脆弱性が高い難民の再定住のための新たな仕組み。これによってすべての国に、各国の受け入れ能力を測る客観的指標に基づき、脆弱性の高い難民の相応の受け入れを求める。

国連事務総長は、「年間、世界の難民の少なくとも10パーセントを受け入れるための第三国定住または合法的な方法」を伴う解決策を呼びかけています。現状では、第三国定住は自発的でアドホックに実施されているにすぎません。その結果、第三国定住が必要な難民の数と、実際に申し出があった定住地の数に大きなギャップができています。現在、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、世界の難民総数の8から9パーセントに相当する約120万人が、女性や子ども、高齢者や病人など脆弱性が高く第三国定住を特に必要としている難民と推計しています。しかし、実際に年間提供できている第三国定住の受け入れ数は10万人にすぎません。

こうした状況を変えるためには、バラバラで不安定な第三国定住のプロセスではなく、脆弱性の高い難民のニーズにしっかりと応えることができる、新しいシステムが必要です。アムネスティは、女性や子ども、高齢者といった最も弱い立場にある難民すべてが再定住できるような公平なシステムを打ち立てるよう求めます。そして、UNHCRの第三国定住プログラムに現在参加している国だけでなく、すべての国が、客観的指標に基づき、その国の能力に応じて難民の再定住地や支援を提供すべきです。個別の問題を抱えた難民に適切な支援を提供する能力があるかどうかも、再定住で考慮すべき点です。例えば、紛争で手足を失った人びとには、受け入れ国にリハビリの適切な選択肢があるか、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インターセックス(LGBTI)の人びとには、その性的指向や性自認によって受け入れ国で危険に晒されることはないか、といったことが考慮されるべきでしょう。

2. 受け入れている難民の数が限界値に達している国から難民を移転させる新たなメカニズム

この提案は、脆弱性の高い難民の第三国定住とは別の追加的なものであり、ある特定の状況が起きた場合に発動されるメカニズムです。

大規模な難民の移動が起きた場合、脆弱性の高い難民の第三国定住は、難民の権利保障と難民保護のための責任分担の公平性という点からみて、不十分です。新たなメカニズムは、すでに合理的な対応能力を超えて難民を受け入れている国から別の国への定住を可能にするものでなければなりません。このメカニズムは、当該国の人口やGDP/GNIやその他の検証可能な指標に対して難民の受け入れ能力を超えたときに発動します。

移転メカニズムは、安全で合法的に入国する選択肢を提供しなければなりません。例えば、適正な入国手続きの確保、家族統合、就労や留学ビザもその選択肢に含まれます。ここで重要なのは、合意された適切な基準に基づいて、ある一定数の難民を各国が受け入れる、という点です。移転メカニズムは、難民の権利を保護するセーフガードを伴うべきです。例えば、難民の地位と関係ないビザ(留学ビザなど)で移転した難民にも、受け入れ国で庇護を求める権利が与えられて然るべきです。

3. 十分かつ柔軟で予測可能な難民保護のための資金拠出と、すでに多くの難民を受け入れている国々への十分な財政支援

難民保護と支援を含む人道活動のための資金については、国連諸機関が各国に要請していますが、恒常的に厳しい状況が続いています。シリア周辺地域・難民・回復計画は計画の27パーセントしか資金が集まっておらず、2016年のイエメン人道対応計画もたった17パーセントにとどまっています。その結果、受け入れ国は、難民のための基本物資を自前で提供せざるをえません。各国は拠出する資金を増額し、毎年、支援額を公表すべきです。

大量の難民を受け入れている国々に対しては、十分なシェルター、食糧、医療の提供などを確保する資金や技術などの二国間支援も行うべきです。こうした二国間支援の内容について、政府は毎年公表しなければなりません。

責任分担には柔軟なアプローチがあり、各国はそれぞれの方法で貢献することが認められるべきです。しかし、大量の難民や庇護希望者を受け入れている諸国への財政支援が、第三国定住や国境での庇護希望者の受け入れや保護の責任を免除されるということにはなりません。

4. 難民認定の強化と、「一応の(prima facie)」難民としての認定

国連事務総長は、「庇護を求める人びとは、領域内に入ること、国際保護の必要性の認定について公正かつ効率的な集団または個々人の手続きを必要としている」と報告書の中で述べています(p.18/29 72)。各国の当局またはUNHCRによって行われる難民認定は、国際的な保護を必要とする個人をそのように認定し、保護しなければなりません。

各国は、難民を保護するための制度を持つべきです。それによって、庇護を求める人びとが領域内に入ることを認め、実効的で迅速な認定手続きやノン・ルフールマンの国際義務を遵守するための強いセーフガードを確保する必要があります。

国際的な保護を求める人びとが大量に、また継続的に到着するところでは、個々の難民認定は実行不可能で非効果的になります。集団で到着したほとんどの人びとが、出身国の状況に関する客観的な情報に基づいて難民と見なすことができる場合、各国は、特定の集団に対して「一応の(prima facie)」基準によって難民の地位を認めるべきです。

5. 難民の実効的保護と基本ニーズを満たすことを確保する方針や制度の確立

この要素は、国連事務総長の提唱(「基本的サービス、特に医療、教育を提供し、また難民と受け入れる地域の人びとの生活手段の支援」(p27/29 114(e) )を補完するものです。

難民と庇護希望者への十分なシェルター、食糧、水、電気、医療や教育といった基本ニーズを満たすには、財源がまったく足りていません。このような難民と庇護希望者の権利を実現するために、責任分担は不可欠です。

しかし、多くの途上国において財政的困難があるとしても、少なくとも最小限の基本ニーズを難民に保障するという国際法上の義務が免除されるわけではありません。各国は、緊急的措置が長期に及ばないようにすべきです。例えば、難民キャンプは緊急的な措置であり、難民を孤立させたり移動の自由を制限したりするものであってはなりません。各国は緊急的支援から、難民が尊厳を持って生きることができる長期計画を持つべきです。例えば、難民や庇護希望者が地域社会の中で暮らし、仕事を持つことができるようにすることなどが挙げられます。

未曾有の難民危機に対応するには、これまでにない大胆な責任分担が不可欠です。日本政府が上記5つの要素を十分に考慮し、難民保護の国際的義務を認識し、強い内容のグローバルコンパクト採択に向けてイニシアチブをとるよう、アムネスティ日本は強く要請いたします。

2016年7月13日

公益社団法人 アムネスティ・インターナショナル日本
事務局長 若林秀樹

内閣総理大臣 安倍晋三 殿
外務大臣 岸田文雄 殿
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