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スピン四量体で初めてマグノンのボース−アインシュタイン凝縮を発見 -スキルミオン物質に潜む未知の超強磁場物性を明らかに -




静岡大学理学部の野村肇宏講師の研究グループは、Loughborough大学のIoannis Rousochatzakis博士、IFWドレスデンのOleg Janson博士、東京大学先端科学技術研究センターの関真一郎教授(当時 同大学大学院工学系研究科教授)、東京大学物性研究所の厳正輝助教・周旭光リサーチフェロー(当時)・石井裕人助教・小濱芳允准教授・松田康弘教授と共同で、スキルミオン物質として知られるCu2OSeO3が超強磁場領域でマグノンのボース−アインシュタイン凝縮(BEC)を示すことを発見しました。

【研究のポイント】

・Cu2OSeO3は絶縁体で最初に磁気スキルミオンが発見された物質
・これまで数多くの研究が弱磁場領域で行われてきたが、強磁場領域の物性は未知だった
・磁化飽和直前という超強磁場領域で、新しいマグノン凝縮相を発見


本研究では、絶縁体で最初に磁気スキルミオンが発見されたCu2OSeO3という物質に着目しました。磁気スキルミオンは数ミリテスラという弱磁場で出現するため、これまで大半の研究者が弱磁場領域での研究を行ってきました。研究グループは東京大学物性研究所の破壊型超強磁場発生装置を用いて、Cu2OSeO3の磁化が飽和するまでの過程を調べました。その結果、磁化が飽和する直前でドーム状の異常が観測され、これがマグノンのBECに対応することを理論チームと共同で明らかにしました。

マグノンのBECはこれまでスピン二量体を持つ物質群で研究が行われてきました。対して、Cu2OSeO3では4つの銅イオンが結合したスピン四量体がBECの舞台になっています。今回の発見はマグノンのBECという概念の普遍性を示唆しており、今後新たな物質群での研究を発展させる可能性があります。

なお、本研究成果は、2026年2月19日に、アメリカ物理学会の発行する国際雑誌「Physical Review Letters」に掲載され、注目論文としてEditors’Suggestionに選ばれました。

【研究者コメント】


静岡大学理学部 講師・野村肇宏

極限環境は未知の物性の宝庫です。超強磁場では研究者が予想もしなかったような現象が起こります。今回の実験結果も予測していたものではなく、解釈に3年の月日を要し、ようやく謎が解明しました。


[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/96787/117/96787-117-4e0050618588616d8a7bb710a7d16ccd-748x449.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


【研究概要】

磁気スキルミオンで知られるCu2OSeO3という化合物の磁化過程を東京大学物性研究所の超強磁場発生装置を用いて調べました。飽和磁場直前の未踏の超強磁場領域で、マグノンが凝縮した新しい量子相を発見しました。

【研究背景】

近年、磁気スキルミオンという渦状の磁気構造が発見され、情報担体への応用やトポロジカル物性の観点から注目されています。中でもCu2OSeO3は絶縁体で磁気スキルミオンが最初に発見された物質です。絶縁体中の磁気スキルミオンは電場で動かすことができるため、原理的にジュール発熱による損失なく情報を輸送することができます。そんな夢の技術への期待から、Cu2OSeO3の基礎物性について数多くの研究が行われてきました。これらの研究は磁気スキルミオンが現れる1テスラ以下の弱磁場領域で行われており、それよりも強磁場領域で何が起こるかについては注目されていませんでした。

図1(a)に本研究で得られたCu2OSeO3の理論的な磁場−温度相図を示します。この物質の磁性は4つの銅イオンが結合した、スピン四量体が担います。弱磁場領域では四量体の合計スピンがS = 1の状態を取り、それらがヘリカル、コニカル、磁気スキルミオンといった多彩な磁気構造を示します。ここで強調したいのは四量体の合計スピンは最大でS = 2であり、S = 1の状態は磁化飽和値の半分に過ぎないという点です。ただし、S = 1の状態は極めて安定であり、これを壊してS = 2の状態を実現するためには超強磁場が必要になります。
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/96787/117/96787-117-65418c24f2bfbb6630ac9bd1bbce4dab-1500x500.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1 (a) Cu2OSeO3の理論相図。枠内はスピン模型。 (b)ファラデー回転角の磁場依存性と磁気構造。

【研究の成果】

研究グループは東京大学物性研究所の電磁濃縮法*注1を用いて、Cu2OSeO3の磁化が飽和するまでの過程を調べました。ファラデー回転*注2の測定から得られた磁化曲線を図1(b)に示します。1−180テスラという広い磁場領域で、磁化が飽和値の1/2で一定となる、磁化プラトーと呼ばれる状態をとります。それよりも強磁場の領域では励起状態として存在していたS = 2の状態が徐々に安定化し、最終的に300テスラで磁化が飽和します。注目すべきは飽和に至る途中の180-300テスラの領域です。ファラデー回転角にドーム状の異常が観測されており、この異常がマグノンのボース―アインシュタイン凝縮(BEC)*注3に対応することを理論的に明らかにしました。また、BEC状態ではスピン同士がお互いに傾いた配列をとることに由来して電気分極が生じていることも明らかになりました。

【今後の展望と波及効果】

マグノンのBECはこれまでスピン二量体を有する物質を中心に研究が行われてきました。本研究はスピン四量体を舞台としたマグノンBECを実証するとともに、BECという物理現象の普遍性を示唆するものです。今後、より広範な物質群においてマグノンの凝縮相に関する研究が進展することが期待されます。

【論文情報】

掲載誌名: Physical Review Letters


論文タイトル: Quintuplet Condensation in the Skyrmionic Insulator Cu2OSeO3 at Ultrahigh
Magnetic Fields


著者: T. Nomura, I. Rousochatzakis, O. Janson, M. Gen, X.-G. Zhou, Y. Ishii, S. Seki,
Y. Kohama, and Y. H. Matsuda


DOI: 10.1103/b6gt-w5xy

【研究助成】

本研究はJSPS科研費(JP20K14403,JP21H04990,JP22H04965,JP23H04859,JP23H04861,JP 24H02235,JP25H00611)、JST CREST(JPMJCR23O4)、旭硝子財団、村田学術振興・教育財団、Engineering and Physical Sciences Research Council (EP/V038281/1)、Deutsche Forschungsgemeinschaft (SFB 1143)による助成を受けたものです。

【用語説明】

注1 電磁濃縮法
東京大学物性研究所に設置されている世界最強の磁場発生装置。電磁応力で金属円筒を収縮させ、その内側に磁束を閉じ込めることで最大1200テスラの超強磁場を発生させる。

注2 ファラデー回転
物質中に直線偏光を入射した際、磁化の大きさに応じて偏光角が回転する現象。回転角を測定することで磁化の大きさを逆算することができる。


注3 マグノンのボース―アインシュタイン凝縮(BEC)
磁性体中でスピンの集団運動として現れる準粒子「マグノン」が、極低温や強磁場などの条件下で同一の量子状態に集団的に凝縮する現象。
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