今からでも遅くない!各産業のゲームチェンジャーとなりえる量子技術の導入・R&D投資は最新萌芽技術の選択が決め手5.(全8回)〜世界の研究開発動向と有望技術解説〜
[20/08/19]
提供元:PRTIMES
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第5回 量子通信で実現するハッキング不可能な暗号通信
[表1: https://prtimes.jp/data/corp/7141/table/122_1.jpg ]
量子通信・量子暗号・量子中継・量子ネットワークによるハッキング不可能な暗号通信とは
「量子ネットワーク」で扱われる主な課題は従来の通信技術と同様、「いかに安全に情報を伝送するか?」と「いかに多くの情報を伝送するか?」の二点です。一般的には前者を「量子暗号」、後者を「量子通信」と称します。量子通信の研究のはじまりはレーザーの発明とほぼ同時期の1960年代で、量子暗号については最初のプロトコルが発表されたのが1984年です。その後1994年に米国の研究者ピーター・ショアが「量子コンピュータが実現されると、主な暗号は全て破られてしまう」という理論を発表し、それ以降、量子暗号・量子通信は世界中で国家戦略として位置づけられ、研究が進められてきました。
量子暗号とは量子力学の基本的性質を利用した、「絶対に解読が不可能な暗号技術」と言われています。その特徴として、「安全性が量子力学により保証され解読されない」点と、「通信中に不正なデータの盗聴があった場合、即座に検知可能である」点があります。この盗聴への耐性を付与するために、量子暗号では「秘匿性増強」を行います。「盗聴者に漏れている可能性のあるデータ分を、適当に混ぜて打ち消す」イメージの処理を施します。現在普及している暗号化技術は、計算量的な手法により安全性が保たれます。例えば、RSA方式等の暗号方式では、「素因数分解が効率的に短い時間で実行できない」という仮定で、通信の安全性が保障されています。従って、例えば量子コンピュータの出現などによりこの仮定が崩れると、安全性が覆る可能性があります。一方、量子暗号の安全性は量子力学という物理法則に根幹があり、暗号鍵(乱数)を光量子に乗せて光ファイバーや空間を通して送受信します。もし、光が途中で盗聴された場合、量子の性質に変化が起こり盗聴を瞬時に検出できます。
量子通信とは、実装や実験技術という意味においては、量子暗号とほぼ等価の意味とも言えますが、一般に「量子シャノン理論」なる理論的予言を実験によって検証し、通信容量において新しいパラダイムへ発展させる研究を指します。例えば通常の通信におけるデータ圧縮では、0と1からなる情報を扱いますが、量子により0と1の重ね合わせ状態でデータを圧縮して、大量のデータを同時に転送することができます。この原理は、上記の量子暗号や前回までにお伝えした量子コンピュータの基礎理論と同様の考え方に基づき、安全性と通信速度の観点から従来の通信を凌駕する技術として注目されています。
量子通信・量子暗号・量子中継・量子ネットワーク領域における主要な国の研究開発費とロードマップ
[画像1: https://prtimes.jp/i/7141/122/resize/d7141-122-880826-0.png ]
量子通信・量子暗号・量子中継・量子ネットワーク領域への未来技術開発に対する投資額として国費からの支出である世界の研究費(グラント)の2009年以降の推移を示しました。
量子ネットワークに関する研究は、大きく「地上通信」「衛星通信」「要素技術」の3分野に大別されます。量子暗号通信の研究は、量子コンピュータの進展と強く関わっており、量子コンピュータの実現で現代のインターネットセキュリティを支える公開鍵暗号技術が解読される可能性が生じ、各国の安全保障に大きく関わるため、量子コンピュータによる暗号解読に対抗する形で研究が進められており、地上通信については、QKDの実装、およびその高速化・長距離化を目指した研究が直近で進みつつ、いずれは量子コンピュータとの融合に向かうと考えられています。
量子通信については、D-Waveが量子アニーリングマシンを発表した2011年以降、中国が大規模な投資を行ってきており、2017年には世界に先駆けて人工衛星「墨子号」による大規模量子暗号通信の実証実験に成功しています。これ以降米国でも研究開発投資が一気に拡充され、現在では最も大きな研究資金を投入しています。日本でも同年にNICT(情報通信研究機構)が低軌道衛星と地上局間での実証実験に成功し、2030年を目途に、衛星網と地上網の統合、および量子セキュリティインフラのグローバル化へ向けた研究開発が進められています。また、量子ネットワーク技術の根幹となる量子中継技術(量子メモリ・量子もつれ等)については、長距離伝送の実証や多重化・集積化・大規模化等が課題であり、長期的視点での研究開発が進行中です。
国別グラント額推移(2009-2018:USD換算)
[画像2: https://prtimes.jp/i/7141/122/resize/d7141-122-583068-1.png ]
[表2: https://prtimes.jp/data/corp/7141/table/122_2.jpg ]
各国の研究投資動向
世界における量子通信・量子暗号・量子中継・量子ネットワーク関連技術に対するグラントの国別推計では、直近10年において世界全体で総額US$ 5.0 Bilが国からの研究費として支出されています。主要国の国別の額を見てみると、最も金額が大きいのは英国、次いで中国が先行して研究開発投資を行っており、米国は近年遅れて参入した傾向で3位に甘んじています。また、オーストラリアは2015年に長期計画の大型投資を行っており、日本は一時期米国をしのぐ投資を行っていますが近年では伸び悩み、スイスは微増ではあるが着実に研究開発投資が伸びてきています。
量子コンピュータで優位の米国を抑えて、英国と中国が世界1,2位の座にあり、英国は2014年の主要大学への集中的な量子技術の大型投資など、量子ネットワークのみならず、量子コンピュータ、量子センサー等を含め、国として広く研究開発資金を投入しています。中国は量子情報技術の中でも特に量子ネットワーク・量子暗号・量子通信の領域に資金投下している状況で、中でも中国科技大が中心にあります。日本でもこの量子通信分野の領域への研究開発投資は積極的で、NICT が量子通信・暗号送受信装置の開発を進め、都市圏テストベッド「Tokyo QKD Network」で世界最長期間の運用実績を有するなど、積極的に世界をリードしようとする姿勢が伺えますが、2015年以降では、諸外国に比べると投資額では劣る傾向にあります。
世界グラント推計ランキング
[画像3: https://prtimes.jp/i/7141/122/resize/d7141-122-164833-2.png ]
各国が競い合う“標準化”への道
最大のグラント拠出国である英国においては、York大学が「量子ネットワーク」関連のHubである「Quantum Communications Hub」を牽引しており、同大学ではネットワーク上でのQKDの実証や、従来の通信との融合、および量子通信の新たな方向性の探求に関する研究開発が進められています。またOxford大を中心とした「UK Quantum Technology Hub」においても、20以上のスピンオフ企業を生じており、技術領域もハッカー防止の通信システムや超高感度の医療・軍事用センサーから高解像度の画像処理システムまで多岐にわたります。上位8位までが全て英国の大学となっており、この領域への大型研究費の集中的投入の状況が見えます。英国では「UK National Quantum Technology Hubs」のみならず、国防科学技術研究所(Dstl)がデモンストレーター装置プログラムに別途3000万ポンドを投資しました。主要参画機関は、Innovation UKやEPSRC、国防科学技術研究所(Dstl)、国立物理学研究所等で量子技術の研究ネットワークには国内の17の大学と132の企業が参画しています。
中国では科学技術基本政策「国家中長期科学技術発展計画綱要2006〜2020年」において、重大科学研究4項目の一つとして「量子制御」が位置づけられ、「科学技術イノベーション第13次五カ年計画(2016年)」の重点分野として、量子通信と量子コンピュータを重大科学技術プロジェクト、量子制御と量子情報を基礎研究の強化に位置づけられました。中国科技大からのスピンオフ企業が中心となって、総距離2000km のQKD ネットワークを現在構築中であり、この大規模量子暗号ネットワークを基にした標準化戦略を推進される恐れがあります。量子通信については、実用上根幹となる量子中継を実現する基盤技術として量子もつれスワッピングがありますが、実現化が進められている物質系の中でも、情報を数秒以上保持できる量子メモリであって、かつ極低温を必要としないと期待されるダイヤモンドNV センタに関する研究開発が進められ、注目されています。
米国では国家科学技術会議(NSTC)が「A Federal Vision for Quantum Information Science」を公表し、次いで全米科学財団(NSF)が「量子情報科学における学際的研究プログラム」を設置しました。プロジェクトタイトルに”quantum information science”を含む案件が6件あります。但し、当該プログラムの目的が「量子コンピュータの可能性の模索と他分野への影響の検討」および「同分野に置ける米国人研究者の増加」にあることから「量子コンピュータ」が最大の関心事と推察されますが、トランプ政権下で量子通信についての投資も加速させつつあります。
日本の科研費における、グラント額のトップは大阪大学で量子暗号や量子ネットワークをファイバー網で実現する量子通信の長距離化に向けた量子中継技術や、量子暗号の実装に必要な単一光子源の実現のため人工ダイヤモンドデバイスなどの開発を行っています。東京大学では量子通信の中継器への応用研究や、光子対の量子もつれ相関を光子と電子スピンの対への転写を実証する研究などに取り組んでいます。量子中継技術(量子メモリ・量子もつれ等)は、大阪大学や NTT、NICT 等が冷却原子量子メモリと光子の間の量子もつれや、全光量子中継方式等の原理実証で世界を先導しています。暗号送受信装置については、NICT と国内メーカが欧州電気通信標準化機構(ETSI)や国際電気通信連合(ITU)において標準化活動を推進し世界を先導しています。
量子通信・量子暗号・量子中継・量子ネットワーク」グラント資金流入額上位10機関(世界)
[画像4: https://prtimes.jp/i/7141/122/resize/d7141-122-557805-3.png ]
「量子通信・量子暗号・量子中継・量子ネットワーク」グラント(科研費)資金流入額上位7機関(日本)
[画像5: https://prtimes.jp/i/7141/122/resize/d7141-122-361750-4.png ]
あらゆる分野のデジタル化に伴い必要不可欠となる量子暗号と量子通信
以上、量子暗号・量子通信技術は、国及び国民の安全・安心の確保、産業競争力の強化等の観点と直接的な関連を有する領域であり、重要デジタル情報を安全に保管する手段として機密性・完全性等を実現し、かつ市場化を見据えた研究開発の推進が重要です。また量子暗号・量子通信・量子ネットワーク技術は、地上網のみならず衛星通信含めた無線ネットワークとの統合に向けた研究開発が進展しており、また量子コンピュータ等他の量子情報技術との関連も強いことから、グローバルなインフラ整備や他量子情報技術分野との連携等、高い視座、広い視野を伴った研究開発力・社会実装力強化が望まれます。
(アスタミューゼ(株) テクノロジーインテリジェンス部 川口伸明、米谷真人、*千葉英利)
【本件に対する問い合わせ】
アスタミューゼ社 経営企画室 広報担当 E-Mail: press@astamuse.co.jp
[表1: https://prtimes.jp/data/corp/7141/table/122_1.jpg ]
量子通信・量子暗号・量子中継・量子ネットワークによるハッキング不可能な暗号通信とは
「量子ネットワーク」で扱われる主な課題は従来の通信技術と同様、「いかに安全に情報を伝送するか?」と「いかに多くの情報を伝送するか?」の二点です。一般的には前者を「量子暗号」、後者を「量子通信」と称します。量子通信の研究のはじまりはレーザーの発明とほぼ同時期の1960年代で、量子暗号については最初のプロトコルが発表されたのが1984年です。その後1994年に米国の研究者ピーター・ショアが「量子コンピュータが実現されると、主な暗号は全て破られてしまう」という理論を発表し、それ以降、量子暗号・量子通信は世界中で国家戦略として位置づけられ、研究が進められてきました。
量子暗号とは量子力学の基本的性質を利用した、「絶対に解読が不可能な暗号技術」と言われています。その特徴として、「安全性が量子力学により保証され解読されない」点と、「通信中に不正なデータの盗聴があった場合、即座に検知可能である」点があります。この盗聴への耐性を付与するために、量子暗号では「秘匿性増強」を行います。「盗聴者に漏れている可能性のあるデータ分を、適当に混ぜて打ち消す」イメージの処理を施します。現在普及している暗号化技術は、計算量的な手法により安全性が保たれます。例えば、RSA方式等の暗号方式では、「素因数分解が効率的に短い時間で実行できない」という仮定で、通信の安全性が保障されています。従って、例えば量子コンピュータの出現などによりこの仮定が崩れると、安全性が覆る可能性があります。一方、量子暗号の安全性は量子力学という物理法則に根幹があり、暗号鍵(乱数)を光量子に乗せて光ファイバーや空間を通して送受信します。もし、光が途中で盗聴された場合、量子の性質に変化が起こり盗聴を瞬時に検出できます。
量子通信とは、実装や実験技術という意味においては、量子暗号とほぼ等価の意味とも言えますが、一般に「量子シャノン理論」なる理論的予言を実験によって検証し、通信容量において新しいパラダイムへ発展させる研究を指します。例えば通常の通信におけるデータ圧縮では、0と1からなる情報を扱いますが、量子により0と1の重ね合わせ状態でデータを圧縮して、大量のデータを同時に転送することができます。この原理は、上記の量子暗号や前回までにお伝えした量子コンピュータの基礎理論と同様の考え方に基づき、安全性と通信速度の観点から従来の通信を凌駕する技術として注目されています。
量子通信・量子暗号・量子中継・量子ネットワーク領域における主要な国の研究開発費とロードマップ
[画像1: https://prtimes.jp/i/7141/122/resize/d7141-122-880826-0.png ]
量子通信・量子暗号・量子中継・量子ネットワーク領域への未来技術開発に対する投資額として国費からの支出である世界の研究費(グラント)の2009年以降の推移を示しました。
量子ネットワークに関する研究は、大きく「地上通信」「衛星通信」「要素技術」の3分野に大別されます。量子暗号通信の研究は、量子コンピュータの進展と強く関わっており、量子コンピュータの実現で現代のインターネットセキュリティを支える公開鍵暗号技術が解読される可能性が生じ、各国の安全保障に大きく関わるため、量子コンピュータによる暗号解読に対抗する形で研究が進められており、地上通信については、QKDの実装、およびその高速化・長距離化を目指した研究が直近で進みつつ、いずれは量子コンピュータとの融合に向かうと考えられています。
量子通信については、D-Waveが量子アニーリングマシンを発表した2011年以降、中国が大規模な投資を行ってきており、2017年には世界に先駆けて人工衛星「墨子号」による大規模量子暗号通信の実証実験に成功しています。これ以降米国でも研究開発投資が一気に拡充され、現在では最も大きな研究資金を投入しています。日本でも同年にNICT(情報通信研究機構)が低軌道衛星と地上局間での実証実験に成功し、2030年を目途に、衛星網と地上網の統合、および量子セキュリティインフラのグローバル化へ向けた研究開発が進められています。また、量子ネットワーク技術の根幹となる量子中継技術(量子メモリ・量子もつれ等)については、長距離伝送の実証や多重化・集積化・大規模化等が課題であり、長期的視点での研究開発が進行中です。
国別グラント額推移(2009-2018:USD換算)
[画像2: https://prtimes.jp/i/7141/122/resize/d7141-122-583068-1.png ]
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各国の研究投資動向
世界における量子通信・量子暗号・量子中継・量子ネットワーク関連技術に対するグラントの国別推計では、直近10年において世界全体で総額US$ 5.0 Bilが国からの研究費として支出されています。主要国の国別の額を見てみると、最も金額が大きいのは英国、次いで中国が先行して研究開発投資を行っており、米国は近年遅れて参入した傾向で3位に甘んじています。また、オーストラリアは2015年に長期計画の大型投資を行っており、日本は一時期米国をしのぐ投資を行っていますが近年では伸び悩み、スイスは微増ではあるが着実に研究開発投資が伸びてきています。
量子コンピュータで優位の米国を抑えて、英国と中国が世界1,2位の座にあり、英国は2014年の主要大学への集中的な量子技術の大型投資など、量子ネットワークのみならず、量子コンピュータ、量子センサー等を含め、国として広く研究開発資金を投入しています。中国は量子情報技術の中でも特に量子ネットワーク・量子暗号・量子通信の領域に資金投下している状況で、中でも中国科技大が中心にあります。日本でもこの量子通信分野の領域への研究開発投資は積極的で、NICT が量子通信・暗号送受信装置の開発を進め、都市圏テストベッド「Tokyo QKD Network」で世界最長期間の運用実績を有するなど、積極的に世界をリードしようとする姿勢が伺えますが、2015年以降では、諸外国に比べると投資額では劣る傾向にあります。
世界グラント推計ランキング
[画像3: https://prtimes.jp/i/7141/122/resize/d7141-122-164833-2.png ]
各国が競い合う“標準化”への道
最大のグラント拠出国である英国においては、York大学が「量子ネットワーク」関連のHubである「Quantum Communications Hub」を牽引しており、同大学ではネットワーク上でのQKDの実証や、従来の通信との融合、および量子通信の新たな方向性の探求に関する研究開発が進められています。またOxford大を中心とした「UK Quantum Technology Hub」においても、20以上のスピンオフ企業を生じており、技術領域もハッカー防止の通信システムや超高感度の医療・軍事用センサーから高解像度の画像処理システムまで多岐にわたります。上位8位までが全て英国の大学となっており、この領域への大型研究費の集中的投入の状況が見えます。英国では「UK National Quantum Technology Hubs」のみならず、国防科学技術研究所(Dstl)がデモンストレーター装置プログラムに別途3000万ポンドを投資しました。主要参画機関は、Innovation UKやEPSRC、国防科学技術研究所(Dstl)、国立物理学研究所等で量子技術の研究ネットワークには国内の17の大学と132の企業が参画しています。
中国では科学技術基本政策「国家中長期科学技術発展計画綱要2006〜2020年」において、重大科学研究4項目の一つとして「量子制御」が位置づけられ、「科学技術イノベーション第13次五カ年計画(2016年)」の重点分野として、量子通信と量子コンピュータを重大科学技術プロジェクト、量子制御と量子情報を基礎研究の強化に位置づけられました。中国科技大からのスピンオフ企業が中心となって、総距離2000km のQKD ネットワークを現在構築中であり、この大規模量子暗号ネットワークを基にした標準化戦略を推進される恐れがあります。量子通信については、実用上根幹となる量子中継を実現する基盤技術として量子もつれスワッピングがありますが、実現化が進められている物質系の中でも、情報を数秒以上保持できる量子メモリであって、かつ極低温を必要としないと期待されるダイヤモンドNV センタに関する研究開発が進められ、注目されています。
米国では国家科学技術会議(NSTC)が「A Federal Vision for Quantum Information Science」を公表し、次いで全米科学財団(NSF)が「量子情報科学における学際的研究プログラム」を設置しました。プロジェクトタイトルに”quantum information science”を含む案件が6件あります。但し、当該プログラムの目的が「量子コンピュータの可能性の模索と他分野への影響の検討」および「同分野に置ける米国人研究者の増加」にあることから「量子コンピュータ」が最大の関心事と推察されますが、トランプ政権下で量子通信についての投資も加速させつつあります。
日本の科研費における、グラント額のトップは大阪大学で量子暗号や量子ネットワークをファイバー網で実現する量子通信の長距離化に向けた量子中継技術や、量子暗号の実装に必要な単一光子源の実現のため人工ダイヤモンドデバイスなどの開発を行っています。東京大学では量子通信の中継器への応用研究や、光子対の量子もつれ相関を光子と電子スピンの対への転写を実証する研究などに取り組んでいます。量子中継技術(量子メモリ・量子もつれ等)は、大阪大学や NTT、NICT 等が冷却原子量子メモリと光子の間の量子もつれや、全光量子中継方式等の原理実証で世界を先導しています。暗号送受信装置については、NICT と国内メーカが欧州電気通信標準化機構(ETSI)や国際電気通信連合(ITU)において標準化活動を推進し世界を先導しています。
量子通信・量子暗号・量子中継・量子ネットワーク」グラント資金流入額上位10機関(世界)
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「量子通信・量子暗号・量子中継・量子ネットワーク」グラント(科研費)資金流入額上位7機関(日本)
[画像5: https://prtimes.jp/i/7141/122/resize/d7141-122-361750-4.png ]
あらゆる分野のデジタル化に伴い必要不可欠となる量子暗号と量子通信
以上、量子暗号・量子通信技術は、国及び国民の安全・安心の確保、産業競争力の強化等の観点と直接的な関連を有する領域であり、重要デジタル情報を安全に保管する手段として機密性・完全性等を実現し、かつ市場化を見据えた研究開発の推進が重要です。また量子暗号・量子通信・量子ネットワーク技術は、地上網のみならず衛星通信含めた無線ネットワークとの統合に向けた研究開発が進展しており、また量子コンピュータ等他の量子情報技術との関連も強いことから、グローバルなインフラ整備や他量子情報技術分野との連携等、高い視座、広い視野を伴った研究開発力・社会実装力強化が望まれます。
(アスタミューゼ(株) テクノロジーインテリジェンス部 川口伸明、米谷真人、*千葉英利)
【本件に対する問い合わせ】
アスタミューゼ社 経営企画室 広報担当 E-Mail: press@astamuse.co.jp