第15回光州ビエンナーレ日本パビリオンの開催について
[24/07/20]
提供元:PRTIMES
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第15回光州ビエンナーレ日本パビリオン「私たちには(まだ)記憶すべきことがある」キュレーター、アーティスト紹介
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/48792/134/48792-134-b2f4ebf1acecb109918d5b3745403ef2-2700x2060.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
福岡市では、2024年9月7日(土)から12月1日(日)まで韓国・光州市で開催される「第15回光州ビエンナーレ」に日本パビリオンとして参加いたします。(2024.6.27プレスリリース参照)
この度、日本パビリオンのキュレーターである批評家・文化研究者の山本浩貴及び、福岡市を拠点に国内外で活躍するアーティストの内海昭子と山内光枝の作品についてご紹介をさせていただきます。
キュレーターステートメント
私たちには(まだ)記憶すべきことがある
戦後、冷戦の最中、朝鮮半島の人々は数々の苦難を経験した。1980年代の光州抗争をはじめ、光州は権力と格闘する民衆の抵抗の舞台となり、それゆえ、この土地で幾多の尊い命が失われた。この抗争に関して言えば、市民を虐殺した冷戦期の米国拡張政策や韓国軍事独裁は、戦時期の日本植民地主義と地続きの連鎖をなしていることを忘れてはならない。こうした歴史的背景にも由来して、光州には時の勢力に対し、けっして黙さない気風が受け継がれてきた。だが、沈黙を破って発せられた人々の声は、しばしば権威により抑圧された。そして、そうした声の大部分は歴史のなかで周縁化され、再びの沈黙を強いられた。
声を奪われた声、沈黙の牢獄に閉じ込められた沈黙。たくさんの声、たくさんの沈黙。朝鮮の伝統文化を形成する「恨」は、日本語で同じ漢字を用いる「恨み」ではなく、「声にならない声」を表す概念である。声と沈黙の不可視的な存在を捉える感性――現代の世界に生きる私たちは、そうした感性を育む必要がある。光州抗争の忘却に抗議して焼身自殺を図った弟の遺志を継いだ朴來郡は、権力と格闘して命を落とした人々を主役に据え、『私たちには記憶すべきことがある』を執筆した。この本は、韓国研究を専門とする真鍋祐子の手で翻訳され、広く日本でも読まれるようになった。
内海昭子と山内光枝を招聘し、本パビリオンは「(複数の)声と沈黙の想起」をテーマに構成される。芸術制作を通して光州の地に歴史的に埋め込まれた無数の声と沈黙に耳を傾けながら、その一方、現在進行形で生起しているグローバルな事象に接続する回路を開くことも目指す。今も世界中で暴力の連鎖が継続され、かき消されている小さな声がある。さらにナショナルな歴史、その絡み合いが構成するトランス・ナショナルな歴史の忘却に抗うと同時に、芸術的な想像力が喚起するポスト・ナショナルな未来の展望――「暗闇のなかの希望」(レベッカ・ソルニット)――も示そうと試みる。
インスタレーションの手法を用いて、内海昭子は時間性を内包するイメージの空間を生成してきた。内海は作品を通して鑑賞者の知覚や経験に緩やかに介入し、現在と接合された過去や未来の時間を想起することを促す風景を創出する。
本パビリオンで内海は「音」と「連鎖」に焦点を当て、長短様々な金属棒が回転し、連鎖的に触れ合うことで空間に鳴り響く音が紡ぎ出されるインスタレーションを制作する。古来、朝鮮では訴えの際に楽器などを使って音を発し、自らの声に人々の意識を向かせたという。そうした声は時間と空間を超越して集合的な連なりを形成することで、時に大きな物事を動かす原動力となった。その一方、聴き取られなかった無数の声は暴力の連鎖の只中でかき消され、「恨」の連鎖となって歴史の地層のなかにひっそりと堆積した。本作を通して内海が表象するのは、歴史における「音」と「連鎖」の両義的で、簡単には言い表すことのできない側面である。
山内光枝の芸術実践は、ある場所やそこに暮らす人々と「共にいる」ことを不可欠な要素として含む。そうした場所や人々の固有性を起点として、山内は作家独自の目線を通して浮かび上がる世界を主に映像を使って表現する。しばしば山内は特定の主題を事前に想定せずに制作の過程を始め、自身がある種の「うつわ」となることによって、その土地を流れる特異な、しかし不可視化された気配を取り込む。本パビリオンにおいて山内が捉えようとするのは、沈黙という名の声なき声である。山内は沈黙に言葉を与える代わりに、作品のなかで沈黙を沈黙のままに存在させることを試みる。「光州」と同じく、自身の名に「光」の字が含まれていることに奇妙な縁を感じていると山内は語る。本作で山内は声なき声で語る生命に耳を傾け、表裏一体で地続きとなっている光と闇の揺らぎと反転、それらのあいだにある境界の消失を前景化しようとしている。
ナショナルな、トランス・ナショナルな、ポスト・ナショナルな歴史と、そのなかで生起する過去の、現在の、未来の出来事――まだ、私たちには記憶しなくてはならないことが残されている。
日本パビリオン・キュレーター
山本浩貴
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/48792/134/48792-134-3418e927f4e7385e7d909af85b30b89d-960x960.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
山本 浩貴(やまもと ひろき)
1986年千葉県生まれ。文化研究者。実践女子大学准教授。2010年一橋大学社会学部卒業、2013年ロンドン芸術大学チェルシー・カレッジ・オブ・アート修士課程修了。2018年、ロンドン芸術大学博士課程修了。アジア・カルチャー・センター(光州)リサーチ・フェロー、香港理工大学ポストドクトラル・フェロー、東京芸術大学大学院助教、金沢美術工芸大学講師などを経て現職。単著に『現代美術史――欧米、日本、トランスナショナル』(中央公論新社、2019年)、『ポスト人新世の芸術』(美術出版社、2022年)。共編著に『この国(近代日本)の芸術――〈日本美術史〉を脱帝国主義化する』(小田原のどかとの共編、月曜社、2023年)。
アーティスト/作品
内海 昭子
The sounds ringing here now will echo sometime, somewhere
[画像3: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/48792/134/48792-134-a2751e52b8b71a100309c290a232648c-2008x1339.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
The sounds ringing here now will echo sometime, somewhere / 2024 / 15th Gwangju Biennale Japan Pavilion / stainless steel, brass / photo: Shunta Inaguchi
このパビリオンでは、音を鳴らして王に直訴をするという韓国の伝統的な風習があったこと、また日本と韓国の長い歴史の因果に意識を向け、「音」と「連鎖」に焦点を当てたインスタレーションを制作する。空間全体を静かに鳴らす音は、長短様々な金属棒が回転し、連鎖的に触れ合うことで紡ぎ出される。様々な歴史や想いが複雑に絡み連鎖し事象として現れ、人々の声が過去から今、未来に繋がっていく様を表現する。
会場|Culture Hotel LAAM(大韓民国 光州市東区西石路89)
開催時間|10:00〜18:00(最終入場17:30) 休館日|月曜日
[画像4: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/48792/134/48792-134-d4ae3b6ff617d7f7bdfb8a0b07bfad9f-689x689.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
内海 昭子 (うつみ あきこ)
1979年兵庫県生まれ。映像の概念をベースに、風景を再構築し、時間の連続性を表出させるインスタレーション、映像、写真などを制作する。2003年 武蔵野美術大学映像学科卒業、2011年 東京藝術大学美術研究科博士後期課程修了。主な展覧会に越後妻有アートトリエンナーレ(新潟、2006/2009)、“Melting Point” Sema Nanji Residency(ソウル、2017)、 ”cryptophasia”Ku?nstlerhaus Bethanien(ベルリン、2017)、”Making Current” A4 Art Museum(成都、2019)など。ポーラ美術振興財団若手芸術家在外研修助成、吉野石膏美術振興財団若手芸術家在外研修助成にてドイツに滞在。現在は福岡市を拠点に活動している。
[画像5: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/48792/134/48792-134-fc0e1236943830aa0ea50d2a215f24fb-1173x782.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
Making Current/A4 Art Museum (成都)/2019/砂、ガラス、真鍮、モーター
[画像6: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/48792/134/48792-134-176b826c4a63e5b94fbe0f2006072870-1173x1471.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
Placing Time/Bank Art NYK (横浜)/2011/砂、FRP、アクリル、モーター/(C) 高田泰運
山内 光枝
Surrender
[画像7: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/48792/134/48792-134-919b2f8c57a42e3dd7f942aa3b91308d-917x1222.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
Research in Gwangju/Photo: Yangjah
[画像8: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/48792/134/48792-134-2c9913aac5523889f7bc9da0065fa45e-1072x603.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
Visual sketch for Surrender, 2024
[画像9: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/48792/134/48792-134-f2ed4814ea9dc6e99b9512afd0ddfefa-1072x603.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
Study of light, May Mothers House, Gwangju
山内光枝は、ある土地とそこに暮らす人々と直に時空を共にする丁寧なリサーチを通して、そこに息づく歴史や記憶を現在の生へと接続する映像インスタレーションで知られる。最近の作品として、日帝占領下の釜山に内地人植民者として暮らした自身の家族史に向き合い、日本の植民地主義と地続きの土壌を生きる自身の現在を問い直していく映像作品『信号波』がある。
本パビリオンでは、「光の里」ともいわれる現地での滞在を重ねながら、この地とそこに生きてきた人々との直接的な出会いのなかで、発せられる声なき声を待つ。その沈黙のなかに見えぬとも触れえぬとも今日まで人間を生かしつづけてきた光源を感知し、今を生きる者それぞれの現在と未来を照らし出すような作品を、主に映像表現を用いて見出していく。
会場|Gallery Hyeyum( 大韓民国 光州市東区長洞路1-6)
開催時間|10:00〜18:00 (最終入場17:30) 休館日|月曜日
[画像10: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/48792/134/48792-134-8aadf0567364f32bb42d3835bbcb5b74-700x700.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
山内 光枝(やまうち てるえ)
1982年、福岡県生まれ。映像、写真、ドローイング、インスタレーションによる作品を手掛ける。2006年ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ(イギリス)BA ファインアートを卒業。2013年には済州ハンスプル海女学校(済州島・韓国)を卒業後、2015年に文化庁新進芸術家海外研究員として、2016年に国際交流基金のアジアセンター・フェローとしてフィリピンに滞在。初の長編映像作品が東京ドキュメンタリー映画祭2019で奨励賞を受賞。最近作「信号波」(2023)は日本統治下の釜山に暮らした自身の家族史に向き合うセルフドキュメンタリー。主な展覧会に、「水のアジア」福岡アジア美術館、福岡(2023)、「Spinning East Asia SeriesII :A Net (Dis)entangled」Center for Heritage Arts & Textile: CHAT、香港(2022)。
[画像11: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/48792/134/48792-134-5b973751da6c9548a40b6dd2addf101a-1173x660.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
信号波/シングルチャンネル映像/2023/31分
[画像12: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/48792/134/48792-134-0e218ee924a64fa2cd2f1afa5c0237b1-1173x660.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
信号波/シングルチャンネル映像/2023/31分
光州ビエンナーレ概要
会期|2024年9月7日(土)から12月1日(日)
会場|光州ビエンナーレ展示ホール、ヤンニムドン
公式ウェブサイト|https://www.gwangjubiennale.org/en/index.do
光州ビエンナーレについて
2年に1度、韓国・光州で開催されるアジア地域を代表する現代アートの国際美術展「光州ビエンナーレ」。今年、30周年を迎えた第15回光州ビエンナーレは30ヵ国から73組のアーティストが参加し、「パンソリ- 21世紀のサウンドスケープ(Pansori a soundscape of
the 21st century)」をテーマに過去最大規模で開催されます。アーティスティック・ディレクターを務めるのは、「関係性の美学」で知られるキュレーターで美術批評家のニコラ・ブリオー。
「パンソリ」とは、17世紀に韓国南西部でシャーマンの儀式に合わせて生まれた伝統的な口踊芸能のことで、パン(空間や場)・ソリ(音や歌)と、韓国語では文字通り「公共の場からの音」のことを指し、言い換えれば「庶民の声」を意味しており、市内のさまざまな場所をビエンナーレの会場としてその精神の再構成が図られます。
[画像13: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/48792/134/48792-134-ab0f27719d1e89c1495ff98661a8ead0-520x735.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
パビリオンについて
本ビエンナーレは、2018年から国際美術展と並行してパビリオンが立ち上がっており、年々規模が拡大しています。第14回では9ヵ国が参加、30周年を迎える第15回では過去最大規模となる、約30の国や都市などのパビリオンの設置が予定されています。日本パビリオンの設置は今回が初となり、福岡アジア美術館(1999年)開館以来、アジアを中心に交流を行ってきた歴史を持つ福岡が記念すべき初回の日本パビリオンとして参加することとなりました。
https://www.gwangjubiennale.org/gb/exhibition/biennale/pavilion.do
[画像14: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/48792/134/48792-134-d9d418ef8c0ad03b24e4239c34a1e3e4-656x656.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
その他イベント
光州ビエンナーレ開催期間中、韓国国内でさまざまなアートイベントが開催されています。この機会にぜひ他のイベントにも足を運び、韓国のアートシーン全体を堪能してみてはいかがでしょうか。
1. フリーズ・ソウル 2024
3回目となる今回の「フリーズ・ソウル」では、世界30の国と地域から110以上のギャラリーが参加する。
会期|2024年9月4日〜7日
会場|COEX
https://www.frieze.com/fairs/frieze-seoul
2. Kiaf SEOUL 2024
韓国を代表するアートフェア「韓国国際アートフェア」(Korea International Art Fair SEOUL)、通称Kiaf SEOULが、昨年同様にフリーズ・ソウルと会場を同じくし、同時開催となる。今年は世界中から206のギャラリーが集まる。
会期|2024年9月4日〜9月8日
会場|COEX
https://kiaf.org/
3. 釜山ビエンナーレ2024
展覧会案およびアーティスティック・ディレクターの公募制を採用している釜山ビエンナーレでは初となる、共同アーティスティック・ディレクター体制で展覧会制作を行なう。
会期|2024年8月17日〜10月20日
会場|釜山現代美術館、釜山近現代歴史館ほか
http://www.busanbiennale.org/BBOCen/
第15回光州ビエンナーレ 日本パビリオン
「私たちには(まだ)記憶すべきことがある」
主催|オーガナイザー:福岡市 / Fukuoka Art Next(FaN)
ホスト:光州ビエンナーレ財団、光州市役所
キュレーター|山本浩貴
アーティスト|内海昭子、山内光枝
事務局: Fukuoka Art Next(FaN)、Artist Cafe Fukuoka(CCC)、
Yamaide Art Office Inc.、Offsociety Inc.
展覧会制作: ArtTank Ltd.
会場設営: MIYATA ART CONSTRUCTION
広報デザイン: 後藤哲也 (Out Of Office)、Noi Moue (4:00 AM)
助成| 公益財団法人 野村財団、公益財団法人 小笠原敏晶記念財団
本リリース紙面版はこちらからダウンロードください。
d48792-134-045fbe51b82a0b4708298699735426af.pdf
《プレスお問い合わせ》
株式会社いろいろ:市川
メールアドレス:press@iroiroiroiro.jp
《光州ビエンナーレ日本パビリオンお問い合わせ》
光州ビエンナーレ日本パビリオン 事務局
[福岡市経済観光文化局アートのまちづくり推進担当/Fukuoka Art Next (FaN) ]
メールアドレス:f.art.next.g@gmail.com
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/48792/134/48792-134-b2f4ebf1acecb109918d5b3745403ef2-2700x2060.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
福岡市では、2024年9月7日(土)から12月1日(日)まで韓国・光州市で開催される「第15回光州ビエンナーレ」に日本パビリオンとして参加いたします。(2024.6.27プレスリリース参照)
この度、日本パビリオンのキュレーターである批評家・文化研究者の山本浩貴及び、福岡市を拠点に国内外で活躍するアーティストの内海昭子と山内光枝の作品についてご紹介をさせていただきます。
キュレーターステートメント
私たちには(まだ)記憶すべきことがある
戦後、冷戦の最中、朝鮮半島の人々は数々の苦難を経験した。1980年代の光州抗争をはじめ、光州は権力と格闘する民衆の抵抗の舞台となり、それゆえ、この土地で幾多の尊い命が失われた。この抗争に関して言えば、市民を虐殺した冷戦期の米国拡張政策や韓国軍事独裁は、戦時期の日本植民地主義と地続きの連鎖をなしていることを忘れてはならない。こうした歴史的背景にも由来して、光州には時の勢力に対し、けっして黙さない気風が受け継がれてきた。だが、沈黙を破って発せられた人々の声は、しばしば権威により抑圧された。そして、そうした声の大部分は歴史のなかで周縁化され、再びの沈黙を強いられた。
声を奪われた声、沈黙の牢獄に閉じ込められた沈黙。たくさんの声、たくさんの沈黙。朝鮮の伝統文化を形成する「恨」は、日本語で同じ漢字を用いる「恨み」ではなく、「声にならない声」を表す概念である。声と沈黙の不可視的な存在を捉える感性――現代の世界に生きる私たちは、そうした感性を育む必要がある。光州抗争の忘却に抗議して焼身自殺を図った弟の遺志を継いだ朴來郡は、権力と格闘して命を落とした人々を主役に据え、『私たちには記憶すべきことがある』を執筆した。この本は、韓国研究を専門とする真鍋祐子の手で翻訳され、広く日本でも読まれるようになった。
内海昭子と山内光枝を招聘し、本パビリオンは「(複数の)声と沈黙の想起」をテーマに構成される。芸術制作を通して光州の地に歴史的に埋め込まれた無数の声と沈黙に耳を傾けながら、その一方、現在進行形で生起しているグローバルな事象に接続する回路を開くことも目指す。今も世界中で暴力の連鎖が継続され、かき消されている小さな声がある。さらにナショナルな歴史、その絡み合いが構成するトランス・ナショナルな歴史の忘却に抗うと同時に、芸術的な想像力が喚起するポスト・ナショナルな未来の展望――「暗闇のなかの希望」(レベッカ・ソルニット)――も示そうと試みる。
インスタレーションの手法を用いて、内海昭子は時間性を内包するイメージの空間を生成してきた。内海は作品を通して鑑賞者の知覚や経験に緩やかに介入し、現在と接合された過去や未来の時間を想起することを促す風景を創出する。
本パビリオンで内海は「音」と「連鎖」に焦点を当て、長短様々な金属棒が回転し、連鎖的に触れ合うことで空間に鳴り響く音が紡ぎ出されるインスタレーションを制作する。古来、朝鮮では訴えの際に楽器などを使って音を発し、自らの声に人々の意識を向かせたという。そうした声は時間と空間を超越して集合的な連なりを形成することで、時に大きな物事を動かす原動力となった。その一方、聴き取られなかった無数の声は暴力の連鎖の只中でかき消され、「恨」の連鎖となって歴史の地層のなかにひっそりと堆積した。本作を通して内海が表象するのは、歴史における「音」と「連鎖」の両義的で、簡単には言い表すことのできない側面である。
山内光枝の芸術実践は、ある場所やそこに暮らす人々と「共にいる」ことを不可欠な要素として含む。そうした場所や人々の固有性を起点として、山内は作家独自の目線を通して浮かび上がる世界を主に映像を使って表現する。しばしば山内は特定の主題を事前に想定せずに制作の過程を始め、自身がある種の「うつわ」となることによって、その土地を流れる特異な、しかし不可視化された気配を取り込む。本パビリオンにおいて山内が捉えようとするのは、沈黙という名の声なき声である。山内は沈黙に言葉を与える代わりに、作品のなかで沈黙を沈黙のままに存在させることを試みる。「光州」と同じく、自身の名に「光」の字が含まれていることに奇妙な縁を感じていると山内は語る。本作で山内は声なき声で語る生命に耳を傾け、表裏一体で地続きとなっている光と闇の揺らぎと反転、それらのあいだにある境界の消失を前景化しようとしている。
ナショナルな、トランス・ナショナルな、ポスト・ナショナルな歴史と、そのなかで生起する過去の、現在の、未来の出来事――まだ、私たちには記憶しなくてはならないことが残されている。
日本パビリオン・キュレーター
山本浩貴
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山本 浩貴(やまもと ひろき)
1986年千葉県生まれ。文化研究者。実践女子大学准教授。2010年一橋大学社会学部卒業、2013年ロンドン芸術大学チェルシー・カレッジ・オブ・アート修士課程修了。2018年、ロンドン芸術大学博士課程修了。アジア・カルチャー・センター(光州)リサーチ・フェロー、香港理工大学ポストドクトラル・フェロー、東京芸術大学大学院助教、金沢美術工芸大学講師などを経て現職。単著に『現代美術史――欧米、日本、トランスナショナル』(中央公論新社、2019年)、『ポスト人新世の芸術』(美術出版社、2022年)。共編著に『この国(近代日本)の芸術――〈日本美術史〉を脱帝国主義化する』(小田原のどかとの共編、月曜社、2023年)。
アーティスト/作品
内海 昭子
The sounds ringing here now will echo sometime, somewhere
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The sounds ringing here now will echo sometime, somewhere / 2024 / 15th Gwangju Biennale Japan Pavilion / stainless steel, brass / photo: Shunta Inaguchi
このパビリオンでは、音を鳴らして王に直訴をするという韓国の伝統的な風習があったこと、また日本と韓国の長い歴史の因果に意識を向け、「音」と「連鎖」に焦点を当てたインスタレーションを制作する。空間全体を静かに鳴らす音は、長短様々な金属棒が回転し、連鎖的に触れ合うことで紡ぎ出される。様々な歴史や想いが複雑に絡み連鎖し事象として現れ、人々の声が過去から今、未来に繋がっていく様を表現する。
会場|Culture Hotel LAAM(大韓民国 光州市東区西石路89)
開催時間|10:00〜18:00(最終入場17:30) 休館日|月曜日
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内海 昭子 (うつみ あきこ)
1979年兵庫県生まれ。映像の概念をベースに、風景を再構築し、時間の連続性を表出させるインスタレーション、映像、写真などを制作する。2003年 武蔵野美術大学映像学科卒業、2011年 東京藝術大学美術研究科博士後期課程修了。主な展覧会に越後妻有アートトリエンナーレ(新潟、2006/2009)、“Melting Point” Sema Nanji Residency(ソウル、2017)、 ”cryptophasia”Ku?nstlerhaus Bethanien(ベルリン、2017)、”Making Current” A4 Art Museum(成都、2019)など。ポーラ美術振興財団若手芸術家在外研修助成、吉野石膏美術振興財団若手芸術家在外研修助成にてドイツに滞在。現在は福岡市を拠点に活動している。
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Making Current/A4 Art Museum (成都)/2019/砂、ガラス、真鍮、モーター
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Placing Time/Bank Art NYK (横浜)/2011/砂、FRP、アクリル、モーター/(C) 高田泰運
山内 光枝
Surrender
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Research in Gwangju/Photo: Yangjah
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Visual sketch for Surrender, 2024
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Study of light, May Mothers House, Gwangju
山内光枝は、ある土地とそこに暮らす人々と直に時空を共にする丁寧なリサーチを通して、そこに息づく歴史や記憶を現在の生へと接続する映像インスタレーションで知られる。最近の作品として、日帝占領下の釜山に内地人植民者として暮らした自身の家族史に向き合い、日本の植民地主義と地続きの土壌を生きる自身の現在を問い直していく映像作品『信号波』がある。
本パビリオンでは、「光の里」ともいわれる現地での滞在を重ねながら、この地とそこに生きてきた人々との直接的な出会いのなかで、発せられる声なき声を待つ。その沈黙のなかに見えぬとも触れえぬとも今日まで人間を生かしつづけてきた光源を感知し、今を生きる者それぞれの現在と未来を照らし出すような作品を、主に映像表現を用いて見出していく。
会場|Gallery Hyeyum( 大韓民国 光州市東区長洞路1-6)
開催時間|10:00〜18:00 (最終入場17:30) 休館日|月曜日
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山内 光枝(やまうち てるえ)
1982年、福岡県生まれ。映像、写真、ドローイング、インスタレーションによる作品を手掛ける。2006年ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ(イギリス)BA ファインアートを卒業。2013年には済州ハンスプル海女学校(済州島・韓国)を卒業後、2015年に文化庁新進芸術家海外研究員として、2016年に国際交流基金のアジアセンター・フェローとしてフィリピンに滞在。初の長編映像作品が東京ドキュメンタリー映画祭2019で奨励賞を受賞。最近作「信号波」(2023)は日本統治下の釜山に暮らした自身の家族史に向き合うセルフドキュメンタリー。主な展覧会に、「水のアジア」福岡アジア美術館、福岡(2023)、「Spinning East Asia SeriesII :A Net (Dis)entangled」Center for Heritage Arts & Textile: CHAT、香港(2022)。
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信号波/シングルチャンネル映像/2023/31分
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信号波/シングルチャンネル映像/2023/31分
光州ビエンナーレ概要
会期|2024年9月7日(土)から12月1日(日)
会場|光州ビエンナーレ展示ホール、ヤンニムドン
公式ウェブサイト|https://www.gwangjubiennale.org/en/index.do
光州ビエンナーレについて
2年に1度、韓国・光州で開催されるアジア地域を代表する現代アートの国際美術展「光州ビエンナーレ」。今年、30周年を迎えた第15回光州ビエンナーレは30ヵ国から73組のアーティストが参加し、「パンソリ- 21世紀のサウンドスケープ(Pansori a soundscape of
the 21st century)」をテーマに過去最大規模で開催されます。アーティスティック・ディレクターを務めるのは、「関係性の美学」で知られるキュレーターで美術批評家のニコラ・ブリオー。
「パンソリ」とは、17世紀に韓国南西部でシャーマンの儀式に合わせて生まれた伝統的な口踊芸能のことで、パン(空間や場)・ソリ(音や歌)と、韓国語では文字通り「公共の場からの音」のことを指し、言い換えれば「庶民の声」を意味しており、市内のさまざまな場所をビエンナーレの会場としてその精神の再構成が図られます。
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パビリオンについて
本ビエンナーレは、2018年から国際美術展と並行してパビリオンが立ち上がっており、年々規模が拡大しています。第14回では9ヵ国が参加、30周年を迎える第15回では過去最大規模となる、約30の国や都市などのパビリオンの設置が予定されています。日本パビリオンの設置は今回が初となり、福岡アジア美術館(1999年)開館以来、アジアを中心に交流を行ってきた歴史を持つ福岡が記念すべき初回の日本パビリオンとして参加することとなりました。
https://www.gwangjubiennale.org/gb/exhibition/biennale/pavilion.do
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その他イベント
光州ビエンナーレ開催期間中、韓国国内でさまざまなアートイベントが開催されています。この機会にぜひ他のイベントにも足を運び、韓国のアートシーン全体を堪能してみてはいかがでしょうか。
1. フリーズ・ソウル 2024
3回目となる今回の「フリーズ・ソウル」では、世界30の国と地域から110以上のギャラリーが参加する。
会期|2024年9月4日〜7日
会場|COEX
https://www.frieze.com/fairs/frieze-seoul
2. Kiaf SEOUL 2024
韓国を代表するアートフェア「韓国国際アートフェア」(Korea International Art Fair SEOUL)、通称Kiaf SEOULが、昨年同様にフリーズ・ソウルと会場を同じくし、同時開催となる。今年は世界中から206のギャラリーが集まる。
会期|2024年9月4日〜9月8日
会場|COEX
https://kiaf.org/
3. 釜山ビエンナーレ2024
展覧会案およびアーティスティック・ディレクターの公募制を採用している釜山ビエンナーレでは初となる、共同アーティスティック・ディレクター体制で展覧会制作を行なう。
会期|2024年8月17日〜10月20日
会場|釜山現代美術館、釜山近現代歴史館ほか
http://www.busanbiennale.org/BBOCen/
第15回光州ビエンナーレ 日本パビリオン
「私たちには(まだ)記憶すべきことがある」
主催|オーガナイザー:福岡市 / Fukuoka Art Next(FaN)
ホスト:光州ビエンナーレ財団、光州市役所
キュレーター|山本浩貴
アーティスト|内海昭子、山内光枝
事務局: Fukuoka Art Next(FaN)、Artist Cafe Fukuoka(CCC)、
Yamaide Art Office Inc.、Offsociety Inc.
展覧会制作: ArtTank Ltd.
会場設営: MIYATA ART CONSTRUCTION
広報デザイン: 後藤哲也 (Out Of Office)、Noi Moue (4:00 AM)
助成| 公益財団法人 野村財団、公益財団法人 小笠原敏晶記念財団
本リリース紙面版はこちらからダウンロードください。
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《プレスお問い合わせ》
株式会社いろいろ:市川
メールアドレス:press@iroiroiroiro.jp
《光州ビエンナーレ日本パビリオンお問い合わせ》
光州ビエンナーレ日本パビリオン 事務局
[福岡市経済観光文化局アートのまちづくり推進担当/Fukuoka Art Next (FaN) ]
メールアドレス:f.art.next.g@gmail.com