サステナビリティ実現にむけて生物多様性を「改善と回復」する技術とは? 〜増加する特許出願から見える改善・回復技術の規模と内容〜
[23/09/25]
提供元:PRTIMES
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アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は、サステナビリティな社会の実現において重要な「生物多様性の改善・回復」に関する技術領域において、弊社の所有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報)を網羅的に分析し、動向をレポートとしてまとめました。
[画像1: https://prtimes.jp/i/7141/389/resize/d7141-389-3240217b0fbd2b27e51f-0.jpg ]
はじめに
アスタミューゼでは、2023年6月に公開したレポート「生物多様性にかかわる水・土壌の測定技術は研究段階から実装段階に 〜TNFD、CSRDなどの動向、関連技術の特許とグラント〜」において、特許と競争的研究資金(グラント)のデータ分析をおこない、生物多様性にかかわる水・土壌の測定と数値化は研究段階から実用段階へ移行しつつあることを示しました
生物多様性にかかわる水・土壌の測定技術は研究段階から実装段階に 〜TNFD、CSRDなどの動向、関連技術の特許とグラント〜
https://www.astamuse.co.jp/report/2023/230622-water/
一方で、その数値を改善するための技術開発はどのようになっているでしょうか。生態系の回復と保護、土壌保水力の向上などにかかわるさまざまな研究が行われています。民間セクターから出願されることがメインの特許では、どのような生物多様性を「回復する技術」が出願されているのでしょうか? アスタミューゼの構築するデータベースから探ります。
「生物多様性の改善・回復」に関する特許
アスタミューゼは、グラント(科研費など競争的研究資金)、特許、ベンチャー企業など各種の技術情報を統合した世界最大級のデータベースを構築することで、世界中の無形資産・イノベーションを可視化しています。特許情報は、すでに開発された技術の動向や直近の技術開発事例、潜在的プレイヤーなどをうかがう指標として考えることができます。
図1は、生物多様性の改善・回復に関わる特許の出願数の年次推移を示します。「生物多様性」が明記されている特許のみを抽出しています。また、今回は、生物多様性の「改善と回復」に関する技術を対象にしているので、「モニタリングと評価」にとどまるものは除外しています。
[画像2: https://prtimes.jp/i/7141/389/resize/d7141-389-a1180ed261970754a539-1.png ]
「生物多様性の改善・回復」に限定した特許は、2001年以降の出願総数は800件程度となりました。出願数は右肩上がりで増加傾向にあります。
出願国は中国が圧倒的に多く、9割以上を占めています。これは中国語から英語に翻訳してデータベースに格納されるさいに“biodiversity”がふくまれる事例がおおい可能性も考えられますが、実際に抽出された特許の内容を確認したかぎりでは、おおむね「生物多様性の改善・回復」に関わる技術となっていました。
では、実際にどのような技術が、「生物多様性の改善・回復」の特許として出願されているのでしょうか。
図2は「生物多様性の改善・回復」に関する出願特許に紐づけられた技術分類の分布です。ここで示している技術分類IPC(International Patent Classification)は、全世界で使用されている特許の技術分類です。1つの特許に複数のIPCが付与されることも多いので、各分類の事例数の合計は出願数を上回ることには注意が必要です。
[画像3: https://prtimes.jp/i/7141/389/resize/d7141-389-5e4faf38398066134a07-2.png ]
もっとも多くの特許に付与されているのは農林業に関わるものでした。たとえば、ユーカリ林で golden camelia(金花茶)を栽培する方法などがふくまれます。
出願番号:CN201410445170A
出願日:2014/9/3
出願人:広西師範大学
タイトル:Method for cultivating golden camellia under eucalyptus forest
農林業に続いて、水質の浄化によって生物多様性をとりもどす技術、DX化で効率よく改善をすすめる技術が多く出願されています。「畜産;鳥,魚,昆虫の飼育;漁業;他に分類されない動物の飼育または繁殖;新規な動物」(A01K)に関わる特許としては、アメリカザリガニの防除にかかわるものがありました。これは中国の公的機関の技術ですが、外来生物に厳格に対処しているオーストラリアで出願されています。
出願番号:AU2021100800A
出願人:江蘇省農薬管理所
麗水市生態環境局竜泉分局
生態環境部南京環境科学研究所
タイトル:Prevention and control technology of Procambarus clarkii Girardbased on larval filtration method
図3は「生物多様性の改善・回復」に関する出願特許にふくまれる、おもなキーワードの増加率をまとめたものです。
[画像4: https://prtimes.jp/i/7141/389/resize/d7141-389-1cb27cffe9e0f4df1b51-3.png ]
すでに出願された特許では農業に関するものが多いのに対して、キーワード増加率では水辺の回復技術が高くなっています。たとえば、水辺の生態系に炭素をとりこむブルーカーボンなども今後注目される技術のひとつです。
まとめ
2023年6月のレポートでは、生物多様性にかかわる水・土壌の測定技術は研究段階から実装段階に入りつつあることがわかりました。今回、改善と回復に関わる技術についても特許出願が着実に増えていることが判明しました。今回の分析では、水質管理や土壌の除染など生物多様性の改善・回復に資する技術であっても、「生物多様性」が明記された特許だけを対象としています。改善・回復に必要な要素技術をきちんと定義することで、該当する特許を広くとらえることは可能です。
サステナブルな技術開発は、単に環境への配慮をアピールするにとどまらず、企業価値の向上にも結びつくとされています。生物多様性に積極的に言及する特許はいまだ少ない状況ですが、生物多様性を意識してR&D戦略を考えていくことは、企業の持続可能性を高めていくためにも重要な視点のひとつと考えられます。
著者:アスタミューゼ株式会社 源泰拓 博士(理学)
さらなる分析は……
アスタミューゼでは、「生物多様性」に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。
本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。
それら分析結果にもとづき、さまざまな時間軸とプレイヤーの視点から俯瞰的・複合的に組合せて深掘った分析をすることで、R&D戦略、M&A戦略、事業戦略を構築するために必要な、精度の高い中長期の将来予測や、それが自社にもたらす機会と脅威をバックキャストで把握する事が可能です。
また、各領域/テーマ単位で、技術単位や課題/価値単位の分析だけではなく、企業レベルでのプレイヤー分析、さらに具体的かつ現場で活用しやすいアウトプットとしてイノベータとしてのキーパーソン/Key Opinion Leader(KOL)をグローバルで分析・探索することも可能です。ご興味、関心を持っていただいたかたは、お問い合わせ下さい。
コーポレートサイト:https://www.astamuse.co.jp/
お問合せフォーム:https://www.astamuse.co.jp/contact/
お問合せメール:inquiry@astamuse.co.jp
[画像1: https://prtimes.jp/i/7141/389/resize/d7141-389-3240217b0fbd2b27e51f-0.jpg ]
はじめに
アスタミューゼでは、2023年6月に公開したレポート「生物多様性にかかわる水・土壌の測定技術は研究段階から実装段階に 〜TNFD、CSRDなどの動向、関連技術の特許とグラント〜」において、特許と競争的研究資金(グラント)のデータ分析をおこない、生物多様性にかかわる水・土壌の測定と数値化は研究段階から実用段階へ移行しつつあることを示しました
生物多様性にかかわる水・土壌の測定技術は研究段階から実装段階に 〜TNFD、CSRDなどの動向、関連技術の特許とグラント〜
https://www.astamuse.co.jp/report/2023/230622-water/
一方で、その数値を改善するための技術開発はどのようになっているでしょうか。生態系の回復と保護、土壌保水力の向上などにかかわるさまざまな研究が行われています。民間セクターから出願されることがメインの特許では、どのような生物多様性を「回復する技術」が出願されているのでしょうか? アスタミューゼの構築するデータベースから探ります。
「生物多様性の改善・回復」に関する特許
アスタミューゼは、グラント(科研費など競争的研究資金)、特許、ベンチャー企業など各種の技術情報を統合した世界最大級のデータベースを構築することで、世界中の無形資産・イノベーションを可視化しています。特許情報は、すでに開発された技術の動向や直近の技術開発事例、潜在的プレイヤーなどをうかがう指標として考えることができます。
図1は、生物多様性の改善・回復に関わる特許の出願数の年次推移を示します。「生物多様性」が明記されている特許のみを抽出しています。また、今回は、生物多様性の「改善と回復」に関する技術を対象にしているので、「モニタリングと評価」にとどまるものは除外しています。
[画像2: https://prtimes.jp/i/7141/389/resize/d7141-389-a1180ed261970754a539-1.png ]
「生物多様性の改善・回復」に限定した特許は、2001年以降の出願総数は800件程度となりました。出願数は右肩上がりで増加傾向にあります。
出願国は中国が圧倒的に多く、9割以上を占めています。これは中国語から英語に翻訳してデータベースに格納されるさいに“biodiversity”がふくまれる事例がおおい可能性も考えられますが、実際に抽出された特許の内容を確認したかぎりでは、おおむね「生物多様性の改善・回復」に関わる技術となっていました。
では、実際にどのような技術が、「生物多様性の改善・回復」の特許として出願されているのでしょうか。
図2は「生物多様性の改善・回復」に関する出願特許に紐づけられた技術分類の分布です。ここで示している技術分類IPC(International Patent Classification)は、全世界で使用されている特許の技術分類です。1つの特許に複数のIPCが付与されることも多いので、各分類の事例数の合計は出願数を上回ることには注意が必要です。
[画像3: https://prtimes.jp/i/7141/389/resize/d7141-389-5e4faf38398066134a07-2.png ]
もっとも多くの特許に付与されているのは農林業に関わるものでした。たとえば、ユーカリ林で golden camelia(金花茶)を栽培する方法などがふくまれます。
出願番号:CN201410445170A
出願日:2014/9/3
出願人:広西師範大学
タイトル:Method for cultivating golden camellia under eucalyptus forest
農林業に続いて、水質の浄化によって生物多様性をとりもどす技術、DX化で効率よく改善をすすめる技術が多く出願されています。「畜産;鳥,魚,昆虫の飼育;漁業;他に分類されない動物の飼育または繁殖;新規な動物」(A01K)に関わる特許としては、アメリカザリガニの防除にかかわるものがありました。これは中国の公的機関の技術ですが、外来生物に厳格に対処しているオーストラリアで出願されています。
出願番号:AU2021100800A
出願人:江蘇省農薬管理所
麗水市生態環境局竜泉分局
生態環境部南京環境科学研究所
タイトル:Prevention and control technology of Procambarus clarkii Girardbased on larval filtration method
図3は「生物多様性の改善・回復」に関する出願特許にふくまれる、おもなキーワードの増加率をまとめたものです。
[画像4: https://prtimes.jp/i/7141/389/resize/d7141-389-1cb27cffe9e0f4df1b51-3.png ]
すでに出願された特許では農業に関するものが多いのに対して、キーワード増加率では水辺の回復技術が高くなっています。たとえば、水辺の生態系に炭素をとりこむブルーカーボンなども今後注目される技術のひとつです。
まとめ
2023年6月のレポートでは、生物多様性にかかわる水・土壌の測定技術は研究段階から実装段階に入りつつあることがわかりました。今回、改善と回復に関わる技術についても特許出願が着実に増えていることが判明しました。今回の分析では、水質管理や土壌の除染など生物多様性の改善・回復に資する技術であっても、「生物多様性」が明記された特許だけを対象としています。改善・回復に必要な要素技術をきちんと定義することで、該当する特許を広くとらえることは可能です。
サステナブルな技術開発は、単に環境への配慮をアピールするにとどまらず、企業価値の向上にも結びつくとされています。生物多様性に積極的に言及する特許はいまだ少ない状況ですが、生物多様性を意識してR&D戦略を考えていくことは、企業の持続可能性を高めていくためにも重要な視点のひとつと考えられます。
著者:アスタミューゼ株式会社 源泰拓 博士(理学)
さらなる分析は……
アスタミューゼでは、「生物多様性」に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。
本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。
それら分析結果にもとづき、さまざまな時間軸とプレイヤーの視点から俯瞰的・複合的に組合せて深掘った分析をすることで、R&D戦略、M&A戦略、事業戦略を構築するために必要な、精度の高い中長期の将来予測や、それが自社にもたらす機会と脅威をバックキャストで把握する事が可能です。
また、各領域/テーマ単位で、技術単位や課題/価値単位の分析だけではなく、企業レベルでのプレイヤー分析、さらに具体的かつ現場で活用しやすいアウトプットとしてイノベータとしてのキーパーソン/Key Opinion Leader(KOL)をグローバルで分析・探索することも可能です。ご興味、関心を持っていただいたかたは、お問い合わせ下さい。
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