シリア:南部の深刻な医療ニーズが明らかに――MSF独自調査
[17/12/22]
提供元:PRTIMES
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国境なき医師団(MSF)は、内戦続くシリアの南部、ダルアー県東部住民を対象に健康調査を実施し、その結果を2本の報告書で公表した。調査結果からは、同地域に暮らす人びとの深刻な医療ニーズ、人道援助の大幅な拡大の必要性が明らかになった。
報告書はダルアー県東部の町村、人口約20万人の地域で実施した2件の大規模地域健康調査(初回調査と第1次追跡調査)に基づいて作成した。調査はMSFによって2016年7月から2017年5月にかけて実施。それぞれの調査では、地域の保健担当者が無作為に選んだ4000人の個人を対象に、健康ニーズと生活の質について聞いた。
[画像: https://prtimes.jp/i/4782/391/resize/d4782-391-298060-0.jpg ]
内戦の影響を示すデータ
これら独自調査によって得たデータからは、7年近くに及ぶシリア内戦が住民を追い詰めている実態が見えてくる。繰り返される暴力によって地域住民の半数近くが避難を強いられ、家族の死因の半数は軍事行動に起因していることなどだ。また妊娠率は高く、家族計画策定率が低いことも明らかになった。地域の母子が直面する医療の欠如は危険レベルであり、母親は充分な産前ケアを受けられずに危険を伴う自宅での分娩を余儀なくされている。加えて、最大で60%の5歳未満児が、必要な予防接種を受けていないこともわかった。
調査が示しているのは、シリアにおける人道援助が、その量や援助団体が現地入りできているかという点で不充分であり、援助の大幅な拡充によって、膨らみ続ける医療ニーズに応えなければならないということである。
調査結果の主なポイント
約半数の調査対象世帯(初回調査で60.18%、追跡調査で47%)が2011年の内戦開始以降居住地を少なくとも1回は変えており、90%以上は暴力を避けるための転居であった。
調査対象世帯の7.88%(初回調査) から7.6%(追跡調査)では、聞き取り調査前の1年以内に少なくとも1人の家族構成員を失い、その死因の半数近く(同45.1%から同43%に推移)が軍事行動によるものだった。
初回調査時には公的医療機関で毎月医療を受けていた人はわずか21%にとどまった一方(医療機関を忌避している理由は、攻撃の的にされることを避けるためである)、追跡調査では47%となった。
初回調査では対象世帯の27%が一部欠落、または壊れた家屋に住み、雨風からは守られていなかった。追跡調査ではこの指標はわずかに下落したものの、18.7%と高い水準にとどまった。
5歳未満児の予防接種率はわずか40%にとどまっている。これは生後18ヵ月から5歳未満の子どもの間で、ワクチンで予防できる病気について必要な接種回数を受けた子どもの比率である。
女性の健康についても大変憂慮すべき数字が出ており、高い妊娠率、低い家族計画策定率、不充分な産前ケア、高い危険を伴う自宅での分娩率などが象徴的である。
国境や前線をまたぐ援助提供が不可欠
MSFの人道医療推進センター(ヨルダン・アンマン)で健康動向調査オペレーション・マネージャーを務めるガッサン・アジズ医師は、調査結果によって懸念すべき分野が複数存在していることが明らかになった一方で、MSFが同様の調査を実施できていないシリアの他地域の医療ニーズはさらに心配な状況にあると指摘する。
調査地域でみられた医療ニーズの高さを考えると、MSFは国連安保理決議2165号(現在では2393号)によって人道援助団体は紛争前線と国境通過地点をまたぐルートを使い続けてもよいという認識を持っている。
だが、国境をまたぐ枠組みが導入されているにもかかわらず、人道援助団体は援助を必要としている1310万人のシリア人に援助を届けるにも苦労している。また、このうち610万人は国内避難民で、そのさらに300万人は包囲地域に住んでいる。
シリア政府に対する再三の要請にもかかわらず、MSFは現在シリア国内の政府支配地域で活動できていない。MSFは次の3点について懸念している。1. 国境をまたいでの援助以外に選択肢がないこと、2. シリアの首都から前線をまたぐ形の人道援助提供はその内容も対象地域も限られたままであること。3. その一方で、ニーズは高いまま推移していること。
「国境をまたぐ援助提供は数百万人のシリア人にとって命綱であり、シリア南部のニーズに応えるためのMSFの活動に必須となっています」と、人道医療推進センターでMSFの中東ユニット長を務めるアイトル・サバワゴゲズィコワは話す。
「紛争被害を最も受けている人びとの元へ、独立した人道援助を制約なく届けることが引き続き求められています」
2016年中、MSFはシリア国内各地の直営病院と移動診療で合計37万2000件の外来診療、5300件の医療救援キット配布、2000件の分娩介助を行った。その他MSFが遠隔支援している医療施設では、合計220万人の外来診療、77万件の救急診療、22万5000件の外科手術を実施した。2016年のMSFのシリアでの活動予算は4000万ユーロ(約48億800万円)であった。
報告書はダルアー県東部の町村、人口約20万人の地域で実施した2件の大規模地域健康調査(初回調査と第1次追跡調査)に基づいて作成した。調査はMSFによって2016年7月から2017年5月にかけて実施。それぞれの調査では、地域の保健担当者が無作為に選んだ4000人の個人を対象に、健康ニーズと生活の質について聞いた。
[画像: https://prtimes.jp/i/4782/391/resize/d4782-391-298060-0.jpg ]
内戦の影響を示すデータ
これら独自調査によって得たデータからは、7年近くに及ぶシリア内戦が住民を追い詰めている実態が見えてくる。繰り返される暴力によって地域住民の半数近くが避難を強いられ、家族の死因の半数は軍事行動に起因していることなどだ。また妊娠率は高く、家族計画策定率が低いことも明らかになった。地域の母子が直面する医療の欠如は危険レベルであり、母親は充分な産前ケアを受けられずに危険を伴う自宅での分娩を余儀なくされている。加えて、最大で60%の5歳未満児が、必要な予防接種を受けていないこともわかった。
調査が示しているのは、シリアにおける人道援助が、その量や援助団体が現地入りできているかという点で不充分であり、援助の大幅な拡充によって、膨らみ続ける医療ニーズに応えなければならないということである。
調査結果の主なポイント
約半数の調査対象世帯(初回調査で60.18%、追跡調査で47%)が2011年の内戦開始以降居住地を少なくとも1回は変えており、90%以上は暴力を避けるための転居であった。
調査対象世帯の7.88%(初回調査) から7.6%(追跡調査)では、聞き取り調査前の1年以内に少なくとも1人の家族構成員を失い、その死因の半数近く(同45.1%から同43%に推移)が軍事行動によるものだった。
初回調査時には公的医療機関で毎月医療を受けていた人はわずか21%にとどまった一方(医療機関を忌避している理由は、攻撃の的にされることを避けるためである)、追跡調査では47%となった。
初回調査では対象世帯の27%が一部欠落、または壊れた家屋に住み、雨風からは守られていなかった。追跡調査ではこの指標はわずかに下落したものの、18.7%と高い水準にとどまった。
5歳未満児の予防接種率はわずか40%にとどまっている。これは生後18ヵ月から5歳未満の子どもの間で、ワクチンで予防できる病気について必要な接種回数を受けた子どもの比率である。
女性の健康についても大変憂慮すべき数字が出ており、高い妊娠率、低い家族計画策定率、不充分な産前ケア、高い危険を伴う自宅での分娩率などが象徴的である。
国境や前線をまたぐ援助提供が不可欠
MSFの人道医療推進センター(ヨルダン・アンマン)で健康動向調査オペレーション・マネージャーを務めるガッサン・アジズ医師は、調査結果によって懸念すべき分野が複数存在していることが明らかになった一方で、MSFが同様の調査を実施できていないシリアの他地域の医療ニーズはさらに心配な状況にあると指摘する。
調査地域でみられた医療ニーズの高さを考えると、MSFは国連安保理決議2165号(現在では2393号)によって人道援助団体は紛争前線と国境通過地点をまたぐルートを使い続けてもよいという認識を持っている。
だが、国境をまたぐ枠組みが導入されているにもかかわらず、人道援助団体は援助を必要としている1310万人のシリア人に援助を届けるにも苦労している。また、このうち610万人は国内避難民で、そのさらに300万人は包囲地域に住んでいる。
シリア政府に対する再三の要請にもかかわらず、MSFは現在シリア国内の政府支配地域で活動できていない。MSFは次の3点について懸念している。1. 国境をまたいでの援助以外に選択肢がないこと、2. シリアの首都から前線をまたぐ形の人道援助提供はその内容も対象地域も限られたままであること。3. その一方で、ニーズは高いまま推移していること。
「国境をまたぐ援助提供は数百万人のシリア人にとって命綱であり、シリア南部のニーズに応えるためのMSFの活動に必須となっています」と、人道医療推進センターでMSFの中東ユニット長を務めるアイトル・サバワゴゲズィコワは話す。
「紛争被害を最も受けている人びとの元へ、独立した人道援助を制約なく届けることが引き続き求められています」
2016年中、MSFはシリア国内各地の直営病院と移動診療で合計37万2000件の外来診療、5300件の医療救援キット配布、2000件の分娩介助を行った。その他MSFが遠隔支援している医療施設では、合計220万人の外来診療、77万件の救急診療、22万5000件の外科手術を実施した。2016年のMSFのシリアでの活動予算は4000万ユーロ(約48億800万円)であった。