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【新国立劇場】『ロビー・ヒーロー』公演チラシができるまで 後編




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新国立劇場が力を入れて取り組む公演チラシの創作。前編(https://www.nntt.jac.go.jp/play/lobby_hero/leaf/)では、5月上演の『ロビー・ヒーロー』のチラシデザインの発案から完成までに密着。デザインや印刷のプロセスを追いながら、創作に携わる人々のこだわりと技をレポートした。完成したチラシはチラシ束やポスターとなり、『ロビー・ヒーロー』終幕のその日まで多くの人の目に触れることになる。後編では、一枚のチラシが誰かの手に渡る時、その出会いの瞬間までを追いたい。

04 完成したチラシが劇場に到着
観客が公演を知るきっかけは、チラシという形だけにとどまらない。例えば、劇場に貼られたポスターをきっかけにその存在を知る人もいるのではないだろうか。そんな思いを背に、新国立劇場はチラシと並行して同デザインのポスターやバナーの制作にも精力的に取り組んでいる。


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それらは公演前だけでなく、観劇当日に私たち観客を真っ先に出迎えてくれるアイテムでもある。デザインによって彩られた空間で、まさにこれから目撃する演劇への期待に胸を膨らませること。デザインは時にチラシの枠を飛び越え、多くの人へと届いていくのだ。

05 チラシ束となり、より多くの人の手へ
もう一つ、劇場で受け取るものがある。それは、私たちが公演チラシを手にする機会として最も多い「チラシ束」だ。ロビーや客席に置かれているチラシ束を手に取りめくりながら、上演までの待ち時間を過ごす人々。「次は何観よう」「来月はこんな舞台があるのか」。そんな風に来る公演や新たに知る団体へ期待を馳せること。そんな風景は、劇場と公演、そして観客と作品を繋ぐ一つの象徴的なシーンではないだろうか。

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そんなチラシ束の作成にも、多くの人による手仕事と工夫がある。四角い顔のキャラクターにCaution!という文字。この表紙に見覚えがある人も多いだろう。今回は、創業より約20年にわたってチラシ束を作り続けるネビュラエンタープライズ様の全面協力の元、チラシ束制作のプロセスも取材した。

1.チラシの管理

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全国の公演チラシが一堂に会すのが、ネビュラエンタープライズの社屋にある、このチラシ保管スペース。フロアー一帯にあらゆる公演チラシが所狭しと積まれている。この様子だけを見ると『ロビー・ヒーロー』のチラシがどこにあるか探すのも一苦労、と思うかもしれない。

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しかし、チラシの保管場所は独自のシステムによって管理されているため、一目瞭然。いつ、どの公演に何枚折り込むか、現状何枚の在庫があるか。そんな情報も都度更新と共有がされている。

2.折り込み作業へ

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指定の枚数分のチラシを開封したら、いよいよ折り込み作業へ。ここで使用するのが丁合機。様々な紙質・大きさ・厚みの紙を順番に重ねて1つの束へと仕上げるコンベア式の機械だ。一度に最大4台の丁合機が稼働し、各2〜3人のチーム制で作業が行われる。効率的かつ正確に作業を行うべくスタッフ間が話し合う場面も印象的だった。

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大量のチラシを効率良く束ねるだけでなく、崩れにくく、手に取りやすいチラシ束に仕上げること。そんなクオリティはこの丁合機によって叶えられる。しかし、「機械に任せておけばもう安心」とは決していかないのもまた事実だ。1分で約60束が製造されるため、チラシを補充し続けなければならない。また、ハイスピードだからこそ、セクション毎に人の目や手による確認や調整が欠かせない。同じチラシが2枚入っていないか、表紙がずれていないか。何重もの丁寧な確認作業を繰り返しながら、ようやく全てのチラシ束が完成する。

3.劇場へ納品

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完成されたチラシ束は、配送会社を介するのではなく、劇場の希望する配送形態や保管仕様などを熟知した社内スタッフによって直接届けられる。荷台いっぱいに積み込まれたコンテナ。この日に積まれたチラシ束の数は2500冊。その束の一つ一つが誰かの手へと渡っていくのである。

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コロナ禍下であっても、チラシ束は公演を盛り上げる重要なアイテム。そんな想いから、ロビー付近のチラシ束コーナーには専用の掲示を設置。劇場とネビュラエンタープライズが連携を取りながら、多くの人の手に渡るよう工夫がされている。

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一度目を通した後に不要になったチラシは、付近に置かれた回収ボックスに入れることで、リサイクル業者へと渡る仕組みになっている。作品と観客を繋ぐチラシ束には多くの仕組みや工夫があり、どのセクションでも携わる人々の真摯な仕事に触れることができた。

一枚のチラシに携わる人々、その想い
チラシが出来上がり、チラシ束が人々の手に渡り、あとは『ロビー・ヒーロー』の開幕を心待ちにするのみとなった。一枚のチラシが、一つの作品が世の中に生まれ、誰かへと届くまで。そこには、「よりよい形で届ける」ための多くの人の想像やアイデアや工夫、そして想いがある。まだ見ぬ作品への期待を膨らませたり、観終わった後の余韻に浸ったり。チラシを眺めるそんな時間もまた、作品と過ごす豊かな時間であるのかもしれない。
それぞれの持ち場から見つめる一枚の可能性、そして演劇のチラシを通して描く少し先の未来について。最後に、そんな現場の人々の声を本レポートの締めくくりとして届けたいと思う。
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コードデザインスタジオ デザイナー 鶴貝好弘さん

幼い頃からテーマパークのチラシや地図、ゲームソフトの説明書が好きで、寝床に持ち込んでフニャフニャになるまで弄り回したものでした。大人になってからも予想を書き込んでヨレヨレになった競馬新聞に奇妙な愛着を感じて中々捨てられなかったり。兎に角、印刷を施された紙がだんだん蕩けて行く様子に何とも言えない魅力を感じてしまうのです。印刷物って本当にいいものですよね。やや話がそれましたが、演劇のチラシが人の目に触れる時間は、とても長いケースで半年。書籍などの“商品”と比べるとチラシが活躍する時間は圧倒的に短いのです。短いからこそ、心に引っかかる仕掛けをしていきたいし、出会いの門戸を広げられる様な役割ができたらと意識しています。これからも、人となりが感じられるチラシ作りを心がけたいです。

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ネビュラエンタープライズ専務取締役 永滝陽子さん

観客と公演団体や作品との新しい出会いを作りたい。私たちはそんな願いのもとチラシ束を作り、お配りしています。機械を使って作成するチラシ束には、最大で22枚のチラシが折り込まれています。それはすなわち22個の出会いがあるということ。その中にはこれまで観たことのなかった作品、あるいは知らなかった団体との思いがけない出会いもあります。意外性や多様性のある出会いによって、心が動かされること。そんな体験は、舞台で演劇に出会うときの喜びにそのまま精通していると感じています。これからも誰かの心に届く一枚を、チラシの数、束の数だけある出会いを作り、お届けしていきたいと思います。

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東京リスマチック株式会社 人見健一さん

印刷会社で働く僕たちはいつも、『どうすればデザイナーさんの頭の中を一枚の上で表現できるか』ということを考え続けています。共有するイメージに齟齬が生まれないよう、確認や共有を重ねることが欠かせません。やりがいのある楽しい仕事であると同時に、妥協の許されない仕事でもあること。そういう気持ちを忘れずに、「こういうものが作りたかった!」というベストな結果を今後も目指していきたいと思っています。

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新国立劇場 宣伝担当

1枚のチラシを完成させるにあたり、多くのプロフェッショナルの方々が携わっくださっていること。そして、みなさんの手で触れ、実際の目で見極めるというその繊細な作業は想像以上のものでした。チラシは公演同様にたくさんの人の情熱や能力に支えられたものであり、同時に上演する作品の第一歩。「こんな素敵なチラシができました」という言葉には、「こんな素敵な公演にします」という意味が込められているように感じます。これからも新国立劇場の公演チラシが、舞台を創る方にとっても観る方にとってもモチベーションの上がるものであればと願っています。

取材・文=丘田ミイ子
写真(提供写真を除く)=塚田史香
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