光伝播のスローモーション動画記録技術の55万倍高速シミュレーションに成功
[21/11/25]
提供元:PRTIMES
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〜散乱媒質深部における光の振る舞いの可視化への第一歩〜
千葉大学大学院工学研究院 角江崇助教、下馬場朋禄教授、伊藤智義教授、京都工芸繊維大学電気電子工学系 粟辻安浩教授、同大学院工芸科学研究科博士後期課程 井上智好氏らの研究グループは、光の伝播をスローモーション動画で記録できる技術を、従来と比較して55万倍高速にコンピューターシミュレーション可能な計算アルゴリズムの開発に成功しました。
この成果により、当該技術において大きな課題となっていたスローモーション動画に含まれる時空間歪み(注1)を除去し、光の振る舞いを忠実に再現可能にする見通しが立ちました。光の伝播をスローモーション動画で記録できる技術は、生体細胞などの散乱(注2)媒質内を伝播する光の振る舞いの可視化を可能にするため、本成果は、散乱により乱された光の情報を復元し、媒質の内部状態や媒質と光との相互作用を明らかにすることを目指す「散乱透視学」の実現へ向けた第一歩であると期待できます。
この研究成果は、2021年11月〇日に、米国光学会(Optica)が刊行する科学論文雑誌の「Journal of the Optical Society of America A」に掲載されました。
[画像1: https://prtimes.jp/i/15177/544/resize/d15177-544-fac8acdd377dc309bc3f-0.png ]
図1 計算時間の計測結果。いずれも10回計測した際の平均値を表す。グラフの横軸は光の情報を画像として表現した場合の一辺あたりの画素数、縦軸は計算時間。緑のひし形の点が従来の計算アルゴリズム、青の丸の点が開発した計算アルゴリズムによる計算時間の測定結果を表す。赤の矢印上に書かれている数値は、従来の計算アルゴリズムに対して開発した計算アルゴリズムが計算時間を何倍高速化できているかを表す。
研究の背景
超短パルスレーザー(注3)を利用する最先端技術のさらなる発展のためには、レーザーから発せられた光が伝播する様子を精緻に観察、評価できる技術の確立が求められています。一方、アインシュタインの相対性理論では光はこの世の中で最も速く、真空中を毎秒30万kmの速さで伝播します。光の高速性は世界最高速級の高速度カメラの性能をはるかに凌駕しており、光の振る舞いを捉えることは極めて困難です。
研究グループは、3次元画像技術であるホログラフィー(注4)と超短パルスレーザーを組み合わせた、光の伝播をスローモーション動画で記録できる技術に関する研究を行ってきました。どのような時空間歪みが生じているかについては、従来の計算アルゴリズムによるコンピューターシミュレーションですでに明らかにされています。
しかし、光の伝播を精緻に表現するには、光の時間的な振る舞いと空間的な振る舞いの双方を逐次的かつ精密に計算する必要があります。これまでの技術では、スローモーション動画から再現される光の振る舞いに時空間歪みが含まれており、光の伝播の様子を忠実に再現できていませんでした。また、高性能なコンピューターを用いたとしても膨大な計算時間を要するため、この技術のコンピューターシミュレーションはほとんどなされておらず、時空間歪みなく光の振る舞いを再現することには至っていませんでした。
さらに、従来の計算アルゴリズムでは、光の回折(注5)を数値計算する際に必要な足し合わせの計算を直接行っており、その計算量は、光の情報を画像として表現する場合、画像を構成する画素の数に比例していたため、莫大な時間を要していました。通常の光の回折を数値計算する際に必要な足し合わせの計算は、高速フーリエ変換(注6)を利用して高速で処理可能であることが知られていましたが、この手法は、光の伝播をスローモーション動画で記録できる技術における光の回折の数値計算には利用できないと考えられていました。
研究の内容と成果
本研究で開発した計算アルゴリズムに基づいて、光の伝播をスローモーション動画で記録できる技術のコンピューターシミュレーションを行いました。計算効率の観点から開発した計算アルゴリズムの有効性を示すため、シミュレーションに要する時間を計測し、従来の計算アルゴリズムにおける結果と比較しました(図1)。その結果、光の情報を4,096×4,096画素の画像で表現した場合において、従来の計算アルゴリズムでは約19,000秒(約5.3時間)を要していたのに対し、開発した計算アルゴリズムではわずか0.034秒しか必要としませんでした。つまり、開発した計算アルゴリズムにより、従来の約55万倍の高速化を達成できました。グラフからは、一辺あたりの画素数が増えるほど、高速化の割合も高くなることが分かりました。従来の計算アルゴリズムでは一辺当たりの画素数をさらに多くすると一日単位で時間を要するため、一辺あたり4,096画素よりも多い条件で比較はできていませんが、グラフの傾向からは高速化の割合を55万倍以上に高められることが予想できます。
さらに本研究では、開発した計算アルゴリズムに基づくコンピューターシミュレーションで得られたスローモーション動画(図2-a)を、光学実験により得られたもの(図2-b)と比較しました。拡散板(注7)上を伝播する超短光パルスを記録対象とし、光が伝播する様子を分かりやすくするために、拡散板には解像力テストチャート(図2-c)のパターンを貼り付けました。光学実験、コンピューターシミュレーションのいずれの結果においても、弓状の形をした超短光パルスの像が再生されています。これは、再生される動画に時空間歪みが発生している影響によるものです。この時空間歪みも含めて、コンピューターシミュレーションによる結果は光学実験による結果とよく一致しており、今回開発した計算アルゴリズムが有効であることが示されました。
本研究では、光が通る経路の長さ(光路長)に基づいて計算条件を決定することで、光の回折を高速フーリエ変換に基づいて数値計算する手法を、光の伝播をスローモーション動画で記録できる技術へ適用できることを新たに見いだしました。光路長を考慮することは光の時間的な振る舞いを取り扱うこととも言えます。つまり、今回見いだした計算アルゴリズムは、光の時間的な情報を考慮する点と高速な数値計算を可能にする点の両方を同時に満たすことを初めて可能にしました。
[画像2: https://prtimes.jp/i/15177/544/resize/d15177-544-4e5c4858f13af8c58f93-1.png ]
図2 拡散板上を伝播する超短光パルスのスローモーション動画。
(a) コンピューターシミュレーションで生成したホログラム画像から再生される動画の一部。超短光パルスの形状は直線状であるが、動画においては時空間歪みの影響により弓状に歪んで再生される。
(b) 光学実験で得られたホログラム画像から再生される動画の一部。
(c) 超短光パルスが伝播する様子の模式図。超短光パルスは向かって左から右へ伝播する。
今後の展望
本研究で提案した計算アルゴリズムにより、光の伝播をスローモーション動画で記録できる技術を高速でコンピューターシミュレーションできるようになりました。この成果は、実験で得られたスローモーション動画の解析、評価を従来よりも格段に効率化できるだけでなく、スローモーション動画に生じている時空間歪みの影響を除去するアルゴリズムの開発へもつながります。
本成果を発展させ、より複雑な状況における光の伝播のコンピューターシミュレーションを可能にして、将来的には生体細胞に代表される散乱媒質内の深部を伝播する光の時空間的な振る舞いを精緻に捉え、媒質の内部状態や媒質と光との相互作用を明らかにする未踏技術の確立を目指します。
研究プロジェクトについて
本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS) 学術変革領域研究(A)20H05887、特別研究員奨励費20J23542、公益財団法人 高柳健次郎財団、公益財団法人 島津科学技術振興財団の支援により遂行されました。
用語解説
(注1)時空間歪み:スローモーション動画に含まれる時間的な誤差と、その誤差によって超短光パルスの像に生じる空間的な歪みを表します。これらの誤差や歪みにより、スローモーション動画では実際の光の振る舞いとは異なる様子が再現されてしまいます。通常の動画撮影に例えるなら、実際に目で見た様子に対して、撮影した動画では対象がブレたり形状が歪んだりして、元の様子を正しく把握できなくなってしまうことに相当します。
(注2)散乱:光がなんらかの物質中を伝播する際、その物質によって光の進行方向が様々な方向へと変化させられる現象です。
(注3) 超短パルスレーザー:発光時間の極めて短い光を放つレーザーです。一般的なレーザーは光を持続的に放ち続けるのに対して、パルスレーザーは細かい時間間隔で途切れ途切れに光を放ちます。パルスレーザーの中でも10兆分の1秒程度以下の時間だけ光を放つことができるものは超短パルスレーザーと呼ばれ、フェムト秒パルスレーザーなどがあります。超高速現象の誘起や材料の微細加工に用いられます。フェムトという接頭辞は1000兆分の1を表します。2018年にノーベル物理学賞を受賞し、最先端の情報通信、微細加工、医療など幅広い分野で利用されています。
(注4) ホログラフィー:光の干渉と回折を利用して、物体からやってくる光のすべての情報を記録、再生できる3次元画像技術です。私たちが物体を見るときに認識している、物体を透過または物体で反射した光を物体光と呼びます。物体光と基準となる光(参照光)とを干渉させ、干渉で生じる光の明るさ分布(干渉縞)を感光材料やイメージセンサーで画像として記録します。干渉縞の画像が記録されている媒体がホログラムです。記録に用いた参照光と同じ光をホログラムに照射すると、ホログラムに記録されている干渉縞により光が回折して物体光が再生され、奥行きの情報を含む物体の3次元像を観察できます。
(注5) 光の回折:光が伝播する際、光の直進性を考慮すると本来は到達不可能である領域、例えば障害物の背後などへも回り込む現象のことです。
(注6)フーリエ変換:数学的変換の一つであり、データ解析手法として工学をはじめとした様々な分野において広く用いられています。高速フーリエ変換は、フーリエ変換をコンピューター上で高速に処理するためのアルゴリズムです。
(注7)拡散板:光を様々な方向へと散乱させる機能を持つ板状の材料です。拡散板の身近な例としてすりガラスがあげられます。
論文情報
・論文タイトル:FFT-based simulation of hologram-recording process for light-in-flight recording by holography
・著者:Takashi Kakue, Tomoyoshi Inoue, Tomoyoshi Shimobaba, Tomoyoshi Ito, and Yasuhiro Awatsuji
・掲載誌:Journal of the Optical Society of America A
・DOI:https://doi.org/10.1364/JOSAA.441585
千葉大学大学院工学研究院 角江崇助教、下馬場朋禄教授、伊藤智義教授、京都工芸繊維大学電気電子工学系 粟辻安浩教授、同大学院工芸科学研究科博士後期課程 井上智好氏らの研究グループは、光の伝播をスローモーション動画で記録できる技術を、従来と比較して55万倍高速にコンピューターシミュレーション可能な計算アルゴリズムの開発に成功しました。
この成果により、当該技術において大きな課題となっていたスローモーション動画に含まれる時空間歪み(注1)を除去し、光の振る舞いを忠実に再現可能にする見通しが立ちました。光の伝播をスローモーション動画で記録できる技術は、生体細胞などの散乱(注2)媒質内を伝播する光の振る舞いの可視化を可能にするため、本成果は、散乱により乱された光の情報を復元し、媒質の内部状態や媒質と光との相互作用を明らかにすることを目指す「散乱透視学」の実現へ向けた第一歩であると期待できます。
この研究成果は、2021年11月〇日に、米国光学会(Optica)が刊行する科学論文雑誌の「Journal of the Optical Society of America A」に掲載されました。
[画像1: https://prtimes.jp/i/15177/544/resize/d15177-544-fac8acdd377dc309bc3f-0.png ]
図1 計算時間の計測結果。いずれも10回計測した際の平均値を表す。グラフの横軸は光の情報を画像として表現した場合の一辺あたりの画素数、縦軸は計算時間。緑のひし形の点が従来の計算アルゴリズム、青の丸の点が開発した計算アルゴリズムによる計算時間の測定結果を表す。赤の矢印上に書かれている数値は、従来の計算アルゴリズムに対して開発した計算アルゴリズムが計算時間を何倍高速化できているかを表す。
研究の背景
超短パルスレーザー(注3)を利用する最先端技術のさらなる発展のためには、レーザーから発せられた光が伝播する様子を精緻に観察、評価できる技術の確立が求められています。一方、アインシュタインの相対性理論では光はこの世の中で最も速く、真空中を毎秒30万kmの速さで伝播します。光の高速性は世界最高速級の高速度カメラの性能をはるかに凌駕しており、光の振る舞いを捉えることは極めて困難です。
研究グループは、3次元画像技術であるホログラフィー(注4)と超短パルスレーザーを組み合わせた、光の伝播をスローモーション動画で記録できる技術に関する研究を行ってきました。どのような時空間歪みが生じているかについては、従来の計算アルゴリズムによるコンピューターシミュレーションですでに明らかにされています。
しかし、光の伝播を精緻に表現するには、光の時間的な振る舞いと空間的な振る舞いの双方を逐次的かつ精密に計算する必要があります。これまでの技術では、スローモーション動画から再現される光の振る舞いに時空間歪みが含まれており、光の伝播の様子を忠実に再現できていませんでした。また、高性能なコンピューターを用いたとしても膨大な計算時間を要するため、この技術のコンピューターシミュレーションはほとんどなされておらず、時空間歪みなく光の振る舞いを再現することには至っていませんでした。
さらに、従来の計算アルゴリズムでは、光の回折(注5)を数値計算する際に必要な足し合わせの計算を直接行っており、その計算量は、光の情報を画像として表現する場合、画像を構成する画素の数に比例していたため、莫大な時間を要していました。通常の光の回折を数値計算する際に必要な足し合わせの計算は、高速フーリエ変換(注6)を利用して高速で処理可能であることが知られていましたが、この手法は、光の伝播をスローモーション動画で記録できる技術における光の回折の数値計算には利用できないと考えられていました。
研究の内容と成果
本研究で開発した計算アルゴリズムに基づいて、光の伝播をスローモーション動画で記録できる技術のコンピューターシミュレーションを行いました。計算効率の観点から開発した計算アルゴリズムの有効性を示すため、シミュレーションに要する時間を計測し、従来の計算アルゴリズムにおける結果と比較しました(図1)。その結果、光の情報を4,096×4,096画素の画像で表現した場合において、従来の計算アルゴリズムでは約19,000秒(約5.3時間)を要していたのに対し、開発した計算アルゴリズムではわずか0.034秒しか必要としませんでした。つまり、開発した計算アルゴリズムにより、従来の約55万倍の高速化を達成できました。グラフからは、一辺あたりの画素数が増えるほど、高速化の割合も高くなることが分かりました。従来の計算アルゴリズムでは一辺当たりの画素数をさらに多くすると一日単位で時間を要するため、一辺あたり4,096画素よりも多い条件で比較はできていませんが、グラフの傾向からは高速化の割合を55万倍以上に高められることが予想できます。
さらに本研究では、開発した計算アルゴリズムに基づくコンピューターシミュレーションで得られたスローモーション動画(図2-a)を、光学実験により得られたもの(図2-b)と比較しました。拡散板(注7)上を伝播する超短光パルスを記録対象とし、光が伝播する様子を分かりやすくするために、拡散板には解像力テストチャート(図2-c)のパターンを貼り付けました。光学実験、コンピューターシミュレーションのいずれの結果においても、弓状の形をした超短光パルスの像が再生されています。これは、再生される動画に時空間歪みが発生している影響によるものです。この時空間歪みも含めて、コンピューターシミュレーションによる結果は光学実験による結果とよく一致しており、今回開発した計算アルゴリズムが有効であることが示されました。
本研究では、光が通る経路の長さ(光路長)に基づいて計算条件を決定することで、光の回折を高速フーリエ変換に基づいて数値計算する手法を、光の伝播をスローモーション動画で記録できる技術へ適用できることを新たに見いだしました。光路長を考慮することは光の時間的な振る舞いを取り扱うこととも言えます。つまり、今回見いだした計算アルゴリズムは、光の時間的な情報を考慮する点と高速な数値計算を可能にする点の両方を同時に満たすことを初めて可能にしました。
[画像2: https://prtimes.jp/i/15177/544/resize/d15177-544-4e5c4858f13af8c58f93-1.png ]
図2 拡散板上を伝播する超短光パルスのスローモーション動画。
(a) コンピューターシミュレーションで生成したホログラム画像から再生される動画の一部。超短光パルスの形状は直線状であるが、動画においては時空間歪みの影響により弓状に歪んで再生される。
(b) 光学実験で得られたホログラム画像から再生される動画の一部。
(c) 超短光パルスが伝播する様子の模式図。超短光パルスは向かって左から右へ伝播する。
今後の展望
本研究で提案した計算アルゴリズムにより、光の伝播をスローモーション動画で記録できる技術を高速でコンピューターシミュレーションできるようになりました。この成果は、実験で得られたスローモーション動画の解析、評価を従来よりも格段に効率化できるだけでなく、スローモーション動画に生じている時空間歪みの影響を除去するアルゴリズムの開発へもつながります。
本成果を発展させ、より複雑な状況における光の伝播のコンピューターシミュレーションを可能にして、将来的には生体細胞に代表される散乱媒質内の深部を伝播する光の時空間的な振る舞いを精緻に捉え、媒質の内部状態や媒質と光との相互作用を明らかにする未踏技術の確立を目指します。
研究プロジェクトについて
本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS) 学術変革領域研究(A)20H05887、特別研究員奨励費20J23542、公益財団法人 高柳健次郎財団、公益財団法人 島津科学技術振興財団の支援により遂行されました。
用語解説
(注1)時空間歪み:スローモーション動画に含まれる時間的な誤差と、その誤差によって超短光パルスの像に生じる空間的な歪みを表します。これらの誤差や歪みにより、スローモーション動画では実際の光の振る舞いとは異なる様子が再現されてしまいます。通常の動画撮影に例えるなら、実際に目で見た様子に対して、撮影した動画では対象がブレたり形状が歪んだりして、元の様子を正しく把握できなくなってしまうことに相当します。
(注2)散乱:光がなんらかの物質中を伝播する際、その物質によって光の進行方向が様々な方向へと変化させられる現象です。
(注3) 超短パルスレーザー:発光時間の極めて短い光を放つレーザーです。一般的なレーザーは光を持続的に放ち続けるのに対して、パルスレーザーは細かい時間間隔で途切れ途切れに光を放ちます。パルスレーザーの中でも10兆分の1秒程度以下の時間だけ光を放つことができるものは超短パルスレーザーと呼ばれ、フェムト秒パルスレーザーなどがあります。超高速現象の誘起や材料の微細加工に用いられます。フェムトという接頭辞は1000兆分の1を表します。2018年にノーベル物理学賞を受賞し、最先端の情報通信、微細加工、医療など幅広い分野で利用されています。
(注4) ホログラフィー:光の干渉と回折を利用して、物体からやってくる光のすべての情報を記録、再生できる3次元画像技術です。私たちが物体を見るときに認識している、物体を透過または物体で反射した光を物体光と呼びます。物体光と基準となる光(参照光)とを干渉させ、干渉で生じる光の明るさ分布(干渉縞)を感光材料やイメージセンサーで画像として記録します。干渉縞の画像が記録されている媒体がホログラムです。記録に用いた参照光と同じ光をホログラムに照射すると、ホログラムに記録されている干渉縞により光が回折して物体光が再生され、奥行きの情報を含む物体の3次元像を観察できます。
(注5) 光の回折:光が伝播する際、光の直進性を考慮すると本来は到達不可能である領域、例えば障害物の背後などへも回り込む現象のことです。
(注6)フーリエ変換:数学的変換の一つであり、データ解析手法として工学をはじめとした様々な分野において広く用いられています。高速フーリエ変換は、フーリエ変換をコンピューター上で高速に処理するためのアルゴリズムです。
(注7)拡散板:光を様々な方向へと散乱させる機能を持つ板状の材料です。拡散板の身近な例としてすりガラスがあげられます。
論文情報
・論文タイトル:FFT-based simulation of hologram-recording process for light-in-flight recording by holography
・著者:Takashi Kakue, Tomoyoshi Inoue, Tomoyoshi Shimobaba, Tomoyoshi Ito, and Yasuhiro Awatsuji
・掲載誌:Journal of the Optical Society of America A
・DOI:https://doi.org/10.1364/JOSAA.441585