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光触媒で二酸化炭素を燃料化する仕組みの謎を解明!

〜表面酸素欠陥とニッケルとの役割連携が鍵〜

千葉大学大学院融合理工学府博士後期課程2年の原 慶輔氏、博士前期課程2年の平山瑠海子氏、大学院理学研究院の二木かおり助教、泉 康雄教授らの研究グループは、酸化ジルコニウム(ZrO2)とニッケル(Ni)からなる光触媒を用いたCO2光還元反応の機構を検討しました。
その結果、ZrO2表面で酸素原子を失ったサイト(以下□と表す)が二酸化炭素(CO2)を捕らえ、紫外可視光の力で一酸化炭素(CO)に変え、COをNiに受け渡してメタン(CH4)を生成することを明らかにしました。この結果を基に、新たなカーボンニュートラルサイクルが実用化され、持続可能社会につながることが期待されます。
本研究成果は、2023年1月19日に、米国化学会The Journal of Physical Chemistry C誌にて電子出版され、2023年2月2日号(2023年4号)の表紙にも掲載されます。





研究の背景

化石燃料の消費により地球上でのCO2濃度が高くなってきていますが、CO2を燃料に戻すことができればこの問題の解決に近づきます。いわゆるカーボンニュートラルサイクルですが、燃料に戻す反応には再生可能エネルギーを用いることと、反応で用いる試薬や装備はなるべく安価であることが求められます。
太陽光から地球に届く光エネルギーは1時間あたりで、人類が1年間に消費する全エネルギーに相当するため、光エネルギーは再生可能エネルギーとして大いに期待できますが、CO2による環境問題に活用するためには、光反応システム(注1)(図1)の効率化が最大の鍵となります。本研究グループは先行研究(参考論文情報参照)において、ZrO2とNiとを組み合わせた光触媒がCO2から光触媒1グラムあたり毎時0.98ミリモルのメタンを生成する、世界最高レベルの触媒活性を報告していますが、なぜZrO2を用いたときだけ、CO2からCH4が選択的に得られ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化銅(TiO2、ZnO、CuxO (x = 1, 2))を用いたときには不純物からのCH4が多く見られるのか、大きな謎でした。
[画像1: https://prtimes.jp/i/15177/686/resize/d15177-686-cf37894511c486f98895-1.png ]



研究の成果

本研究ではまず、CO2を捕らえる役割をもつ、ZrO2表面の□サイトの濃度を求めました。同位体標識(注2)した13CO2の光還元反応試験後、真空にし、12CO2を入れることで□サイトに吸着(注3)した13CO2が脱離(注3)するのを見ました。脱離する速度は非常に遅く、□サイトの濃度は1ナノメートル(10億分の1メートル)四方当たり0.96個と求められました。
次に、□サイトに吸着したCO2がどのように反応するか、コンピューターを使って調べました。光触媒やCO2に含まれる電子のエネルギーや分布についての式をコンピューターで解きました。
その結果、図2(a)のようにCO2はまず□サイト上に捕らえられ、次に水素(H)原子と反応しOCOH(b)となり、四角形状に形を変え(c)、さらに□サイトに水酸基(OH)が入り込むと同時にCOを生成することが分かりました(d)。このCOがZrO2表面の□サイトから近くのニッケルに移る(e)ことで、メチン(g)、メチル(h)を経てメタンを生成します。
触媒として進むためには、図2(d)から(a)の□サイトが再生されて、図2の反応サイクルが繰り返されることが必要です。(d)のO原子がH2Oとして抜けるには5.6エレクトロンボルト(eV)(注4)必要ですが、ZrO2の□サイトにCO2が吸着する際に3.9 eVの熱を出してくれるため、差し引き5.6 – 3.9 = 1.7 eV与えるだけで□サイトが再生されることが分かりました。TiO2, ZnO, CuxO (x = 1, 2)では1.7 eVよりずっと大きなエネルギー供給が必要です。まとめると、ZrO2のみでCO2光燃料化が進む鍵は、この3.9 eVのエネルギー供給により□サイトが再生されるためである、ことが初めて明らかになりました。


[画像2: https://prtimes.jp/i/15177/686/resize/d15177-686-c491d19ed49f0f684423-2.png ]

※アニメーションはこちらのURLからもご覧いただけます。
  https://www.chiba-u.ac.jp/others/topics/info/co2.html



今後の展望

解明された反応経路や有効なサイトの情報を基にさらに有効なCO2光燃料化、あるいはCO2光資源化(光エチレンや光プロピレン)反応設計が可能になり、再生可能社会への実用化が期待できます。


用語解説

(注1)光反応システム:光触媒に紫外可視光を照射して反応させる装置で、ここではCO2を含む反応ガスを入れて、メタンガスを得る。
(注2)同位体標識:原子核に含まれる陽子の数で元素の種類が決まるが、陽子の数が同じで中性子の数が異なる原子同士を同位体と呼ぶ。同位体原子を含む分子を同位体標識、という。たとえば13Cは陽子6個、中性子7個含む同位体で、通常の12Cは陽子6個、中性子6個含むため、13CO2は13C標識されている。
(注3)吸着、脱離:分子が固体表面に結合すること。逆に、結合した分子が、固体表面から離れて自由になること。
(注4)エレクトロンボルト:電子が1Vの電位差を通過するときに得るエネルギーで、96 kJ/molに相当。

研究プロジェクトについて

本研究は、科学研究費助成事業 基盤研究B「合金ナノ粒子–超薄層半導体複合表面でのCO2光多電子還元と同位体標識種時分割追跡」(20H02834)の支援を受けて行われました。


論文情報

タイトル:Adsorbed CO2-Mediated CO2 Photoconversion Cycle into Solar Fuel at the O Vacancy Site of Zirconium Oxide
著者:Keisuke Hara, Misa Nozaki, Rumiko Hirayama, Rento Ishii, Kaori Niki, and Yasuo Izumi
雑誌名:The Journal of Physical Chemistry C
DOI:https://doi.org/10.1021/acs.jpcc.2c06048

参考論文情報

タイトル:Efficient and Selective Interplay Revealed: CO2 Reduction to CO over ZrO2 by Light with Further Reduction to Methane over Ni0 by Heat Converted from Light
著者:Hongwei Zhang, Takaomi Itoi, Takehisa Konishi, and Yasuo Izumi
雑誌名:Angewandte Chemie International Edition
DOI:https://doi.org/10.1002/anie.202016346
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