身近な雑草に見える故郷の面影 ―日本の春の花はヨーロッパ原産、秋の花は北米原産が多い―
[23/11/28]
提供元:PRTIMES
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東京大学大学院農学生命科学研究科の丸山紀子大学院生(当時)、内田圭助教、河鰭実之教授、安永円理子准教授、東大農場・演習林の存続を願う会の宮崎啓子代表、千葉大学大学院園芸学研究院の深野祐也准教授らによる研究グループは、身近に生えている雑草数百種の開花スケジュールが、その雑草の『原産地域』に大きく影響を受けていることを発見しました。春に咲く雑草はほとんどがヨーロッパ原産である一方、秋に咲く雑草は日本在来と北米原産が多かったことを明らかにしました(図1)。このパターンは、1.国内の外来雑草537種を網羅した図鑑データベース、2.1年間9地点、延べ234回にわたる現地調査(3,112記録)、そして3.市民ボランティア(東大農場・演習林の存続を願う会)が25年間毎月行った植物調査(5,982記録)の3つの独立したデータで、一貫して観察された堅固なものでした。この研究は、外来生物の侵略性や管理を考える際に、原産地域の情報を考慮することが重要である可能性を示しています。本研究はBiological Invasionsで2023年11日2日(米国時間)に出版されました。
[画像1: https://prtimes.jp/i/15177/781/resize/d15177-781-b1e54332fda1a0d2ab73-0.png ]
研究の背景
グローバルな物や人の移動などによって、生物が意図的・非意図的に他の地域に侵入する機会が増加しました。外来生物は、農林水産業や在来生態系に被害を与えることがあるため、それらの定着や分布拡大の要因を探る研究が行われてきました。ある地域の外来生物群集は、元々それぞれの原産地域の環境に適応してきた生物の集まりです。それゆえ、侵入地である日本においても、原産地域の形質(生物の形および性質)をそのまま引き継いでいるかもしれません。しかし、外来生物は、侵入の過程で環境に適応した種が生き残ると一般的に考えられており、形質を原産地域と結び付ける考え方はほとんど検証されてきませんでした。
そこで、研究グループは、日本の外来雑草の開花時期に着目して「原産地域が形質パターンに影響を与えている」というアイデアを検証しました。日本は穀物の輸入などを通じてヨーロッパや北米をはじめさまざまな大陸から多くの雑草が侵入しているため(図2)、原産地域の効果を検証しやすいと考えました。開花時期に注目したのは、外来雑草が適切な時期に花を咲かせて種子を残すことは繁殖の成功につながり、在来生態系にも影響する重要な形質だからです。
[画像2: https://prtimes.jp/i/15177/781/resize/d15177-781-d8393962f26b768b2a98-1.png ]
研究成果
まず、1.国内の外来雑草537種を網羅した図鑑データベース、2.丸山氏による1年間9地点延べ234回にわたる現地調査(3,112記録)、そして3.市民ボランティア(東大農場・演習林の存続を願う会)が25年間毎月行った植物調査(5,982記録)の3つの方法で開花時期のデータを集めました。そして、それぞれのデータで、種ごとの開花時期を説明する要因を分析しました。すると、1.〜3.どのデータセットでも、原産地域ごとに開花時期は異なる傾向があると分かりました(図3)。具体的には、日本に生育する外来雑草は、春咲き(3月〜5月)はヨーロッパ原産、秋咲き(9月〜11月)は北米原産が多くなっていました。この傾向は、開花時期を決定する要因として知られている他の要因、例えば植物の分類群(科)や生活型(一年生、二年生、多年生)を考慮しても見出せました。つまり、同じ科であっても原産地域によって開花時期が明確に異なりました。例えば、同じキク科でも、春に咲くセイヨウタンポポやブタナはヨーロッパ原産で、秋に咲くオオブタクサやハルシャギクは北米原産です。また、虫媒花の多いキク科でも風媒花だけのイネ科でも、同様のパターンが見られました。
[画像3: https://prtimes.jp/i/15177/781/resize/d15177-781-715109b236a2cb4be06f-2.png ]
では、なぜこのような不思議なパターンが見られるのでしょうか。私たちは、原産地域(ヨーロッパや北米)の時点で開花時期がそもそも異なっていて、その開花期が侵入地(日本)でも変化していないのではないかと考えました。この仮説を検証するために、ヨーロッパと北米の農耕地や都市部の在来雑草の開花時期を文献で調査しました。すると、仮説を裏付ける結果が得られました。ヨーロッパでも在来雑草は春咲き、北米でも在来雑草は秋咲きが多い傾向があったのです(図4)。つまり、ヨーロッパと北米ではそもそも雑草の開花時期が違っており、日本に侵入しても原産地域による開花特性を維持していたと言えます。
[画像4: https://prtimes.jp/i/15177/781/resize/d15177-781-9f087b757cee22ebffd7-3.png ]
今後の展望
植物の開花時期を含めた外来生物の持つ形質を、侵入起源である原産地域と結び付ける考え方はこれまでほとんどありませんでした。外来生物の形質は、在来種との競合関係など在来生態系への影響を知る上で重要です。したがって、原産地域の情報を知ることは、日本に侵入してくる生物の予測や評価など、外来生物の適切な管理に役立つ可能性があります。今後、原産地域と形質の相互作用をさらに検証することで、世界中で問題となっている外来生物の生態のさらなる解明が期待されます。
研究者からのコメント
身近な雑草の花を見て、その故郷が想像できるのはロマンを感じませんか?
論文情報
タイトル:Effects of biogeographical origin on the flowering phenology of exotic plant communities
著者:Noriko Maruyama, Kei Uchida, Saneyuki Kawabata, Eriko Yasunaga, Keiko Miyazaki, Yuya Fukano
雑誌名:Biological Invasions
DOI:https://doi.org/10.1007/s10530-023-03193-2
[画像1: https://prtimes.jp/i/15177/781/resize/d15177-781-b1e54332fda1a0d2ab73-0.png ]
研究の背景
グローバルな物や人の移動などによって、生物が意図的・非意図的に他の地域に侵入する機会が増加しました。外来生物は、農林水産業や在来生態系に被害を与えることがあるため、それらの定着や分布拡大の要因を探る研究が行われてきました。ある地域の外来生物群集は、元々それぞれの原産地域の環境に適応してきた生物の集まりです。それゆえ、侵入地である日本においても、原産地域の形質(生物の形および性質)をそのまま引き継いでいるかもしれません。しかし、外来生物は、侵入の過程で環境に適応した種が生き残ると一般的に考えられており、形質を原産地域と結び付ける考え方はほとんど検証されてきませんでした。
そこで、研究グループは、日本の外来雑草の開花時期に着目して「原産地域が形質パターンに影響を与えている」というアイデアを検証しました。日本は穀物の輸入などを通じてヨーロッパや北米をはじめさまざまな大陸から多くの雑草が侵入しているため(図2)、原産地域の効果を検証しやすいと考えました。開花時期に注目したのは、外来雑草が適切な時期に花を咲かせて種子を残すことは繁殖の成功につながり、在来生態系にも影響する重要な形質だからです。
[画像2: https://prtimes.jp/i/15177/781/resize/d15177-781-d8393962f26b768b2a98-1.png ]
研究成果
まず、1.国内の外来雑草537種を網羅した図鑑データベース、2.丸山氏による1年間9地点延べ234回にわたる現地調査(3,112記録)、そして3.市民ボランティア(東大農場・演習林の存続を願う会)が25年間毎月行った植物調査(5,982記録)の3つの方法で開花時期のデータを集めました。そして、それぞれのデータで、種ごとの開花時期を説明する要因を分析しました。すると、1.〜3.どのデータセットでも、原産地域ごとに開花時期は異なる傾向があると分かりました(図3)。具体的には、日本に生育する外来雑草は、春咲き(3月〜5月)はヨーロッパ原産、秋咲き(9月〜11月)は北米原産が多くなっていました。この傾向は、開花時期を決定する要因として知られている他の要因、例えば植物の分類群(科)や生活型(一年生、二年生、多年生)を考慮しても見出せました。つまり、同じ科であっても原産地域によって開花時期が明確に異なりました。例えば、同じキク科でも、春に咲くセイヨウタンポポやブタナはヨーロッパ原産で、秋に咲くオオブタクサやハルシャギクは北米原産です。また、虫媒花の多いキク科でも風媒花だけのイネ科でも、同様のパターンが見られました。
[画像3: https://prtimes.jp/i/15177/781/resize/d15177-781-715109b236a2cb4be06f-2.png ]
では、なぜこのような不思議なパターンが見られるのでしょうか。私たちは、原産地域(ヨーロッパや北米)の時点で開花時期がそもそも異なっていて、その開花期が侵入地(日本)でも変化していないのではないかと考えました。この仮説を検証するために、ヨーロッパと北米の農耕地や都市部の在来雑草の開花時期を文献で調査しました。すると、仮説を裏付ける結果が得られました。ヨーロッパでも在来雑草は春咲き、北米でも在来雑草は秋咲きが多い傾向があったのです(図4)。つまり、ヨーロッパと北米ではそもそも雑草の開花時期が違っており、日本に侵入しても原産地域による開花特性を維持していたと言えます。
[画像4: https://prtimes.jp/i/15177/781/resize/d15177-781-9f087b757cee22ebffd7-3.png ]
今後の展望
植物の開花時期を含めた外来生物の持つ形質を、侵入起源である原産地域と結び付ける考え方はこれまでほとんどありませんでした。外来生物の形質は、在来種との競合関係など在来生態系への影響を知る上で重要です。したがって、原産地域の情報を知ることは、日本に侵入してくる生物の予測や評価など、外来生物の適切な管理に役立つ可能性があります。今後、原産地域と形質の相互作用をさらに検証することで、世界中で問題となっている外来生物の生態のさらなる解明が期待されます。
研究者からのコメント
身近な雑草の花を見て、その故郷が想像できるのはロマンを感じませんか?
論文情報
タイトル:Effects of biogeographical origin on the flowering phenology of exotic plant communities
著者:Noriko Maruyama, Kei Uchida, Saneyuki Kawabata, Eriko Yasunaga, Keiko Miyazaki, Yuya Fukano
雑誌名:Biological Invasions
DOI:https://doi.org/10.1007/s10530-023-03193-2