中小企業に眠る「賃上げ力」、6%アップ相当 「利益の3割」投下で ― TDB試算
[24/03/27]
提供元:PRTIMES
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企業の「潜在賃上げ力」分析調査(2024年度)
2024年の春闘は、大手企業で「満額超え」の回答も出るなど記録的な「賃上げ」が相次いだ。背景には、人手不足に加え、過去最高益を更新する企業も出るなど「稼ぐ力」の向上が挙げられる。ただ、日本企業の労働分配率は2022年度に2年連続で低下するなど、これまで生み出した利益の多くが利益剰余金など内部留保として貯蓄され、賃上げなどで従業員への適切な配分がなされてこなかった可能性も指摘されている。企業の収益力に照らした「潜在的な」賃上げの実力が問われている。
帝国データバンクは、保有する企業データベースのうち2023年2月-24年2月間に決算を迎えた企業財務データ(約97万社・780万期収録)を対象に、企業が引き上げ可能な賃金水準について試算・分析を行った
<調査結果(要旨)>
企業が持つ潜在的な「賃上げ力」、「利益の3割」人件費への投下で6%アップ相当試算
「不動産業」「サービス業」が上位 価格転嫁が難しい「運輸・通信」などは低位
賃上げ原資の確保に向けた「利益創出」が課題 中小企業は価格転嫁が重要に
[注] 「賃金(人件費)」の定義は、現金給与(賞与含む)のほか、退職給付・法定福利費の合計。役員報酬等は除外している
分析にあたっての条件は、下記の通りと定義した
【分析企業】従業員(常時雇用)が10人以上の企業(全国、金融・保険業を除く全業種)。分析対象は約6万社
【用語定義】賃上げ力:利益剰余金(いわゆる内部留保)となる「当期純利益(純損失)」のうち一定割合を「人件費=賃金」に使用(投下)した場合、賃金(人件費)をどれだけ増加させることができるか、という試算。なお、すべての平均値には上下計10%のトリム平均値を使用した
※調査結果は下記HPにも公表している
https://www.tdb.co.jp/report/index.html
企業が持つ潜在的な「賃上げ力」、「利益の3割」人件費への投下で6%アップ相当 試算
[画像1: https://prtimes.jp/i/43465/837/resize/d43465-837-6d156d239b8029ced640-0.jpg ]
帝国データバンクでは、過去1年間に決算を迎えた企業で常時雇用の従業員(正社員)が10人以上の約6万社を対象に、売上高から人件費や原材料費、法人税等を差し引いた、最終的な利益(当期純利益)=企業の内部留保相当分を次年度の「賃上げ原資」と定義し、人件費の増加分=賃上げにどれだけ充てることができるかを試算した。試算にあたっては、従業員数が期中に変動しないものとし、金融・保険業を除く全国全業種を対象とした。また、すべてを賃上げ原資とすることはできないため、純利益のうち「10%」「30%」「50%」をそれぞれ人件費に充てた場合と仮定した。人件費の増加に伴う営業・経常利益、法人税減免等の影響は無視した。
[画像2: https://prtimes.jp/i/43465/837/resize/d43465-837-285909c49fabf315227e-0.jpg ]
この結果、当期純利益の30%分を人件費へ「投下」した場合、平均で6.31%分の賃上げ率に相当する試算となった。帝国データバンクの調査で判明した、企業が想定している賃上げ率(4.32%)を上回ったほか、政府の要求水準(5%以上)、連合が集計した組合要求水準(5.85%)のいずれも上回る数値となった。このうち、「中小企業」では平均5.90%の賃上げ率相当分に該当した。大企業では平均で18.93%相当の賃上げが可能だった。企業の内部留保とされる最終的な当期純利益の一部を人件費に分配した場合、組合要求を大きく上回る6%超の潜在的な「賃上げ力」が企業に眠っている可能性がある。
[画像3: https://prtimes.jp/i/43465/837/resize/d43465-837-25fd7916b6e9b746c40e-0.jpg ]
当期純利益の10%分のみを人件費へ投下した場合では、全国平均で2.10%の賃上げ率にとどまり、政府の要求水準を大きく下回った。大企業でも6.31%相当にとどまり、利益の多くを利益剰余金など内部留保に回した場合、大幅な賃上げは困難だった。当期純利益の50%分では、全国平均で10.52%の賃上げが可能で、中小企業は9.84%、大企業は30%を超える水準となった。
[画像4: https://prtimes.jp/i/43465/837/resize/d43465-837-85034536248c31860f09-0.jpg ]
ただ、賃上げ力の詳細を見ると、純利益のうち「10%」「30%」「50%」をそれぞれ人件費に充てた場合のいずれも賃上げ力が「ゼロ」の企業が17.1%を占め、収益力に乏しく賃上げができない=「無い袖は振れない」企業もみられた。
「不動産業」「サービス業」が上位 価格転嫁が厳しい「運輸・通信」「小売」は低位と二極化
[画像5: https://prtimes.jp/i/43465/837/resize/d43465-837-188c3c25d149bd9afda9-0.jpg ]
業種別の賃上げ力をみると、当期純利益の30%分を人件費へ「投下」した場合、最も賃上げ力が大きいのは「不動産業」で、21.08%分相当の賃上げが可能だった。不動産業では、特にディベロッパーなどの開発部門で不動産投資などによる収益回復から大幅な増益となった企業が多く、賃上げ力が他産業に比べて突出した大きさとなった。
2番目に賃上げ力が大きい業種は「サービス業」だった。平均8.37%の賃上げ力を有する試算となったものの、業種間によって賃上げ力には大きな差がみられた。サービス業で最も賃上げ力が大きいのは「自動車整備等」(11.24%)で、講師などの採用が進む学習塾など「専門サービス」(10.89%)でも10%を超える水準だった。一方で、地域医療を支える病院やクリニックなど「医療業」(2.02%)は2%台にとどまった。医療機関では、看護師など医療従事者の賃上げを目的として、2024年度の診療報酬がプラス改定となるなど、賃上げに向けた環境整備が進められている。ただ、医療材料費や電気ガス代など光熱費の高騰、入院設備を有する医療機関では食材費やリネン費などの高騰が経営を圧迫し、職員に対する賃上げ余力が乏しい状態もみられた。
[画像6: https://prtimes.jp/i/43465/837/resize/d43465-837-bed848102cdfd2bf38e0-0.jpg ]
全産業で、最も賃上げ力が小さい業種は「運輸・通信業」で2.64%にとどまった。純利益の50%を人件費へ配分しても4.40%分の賃上げ力にとどまった。運輸・通信業に続いて賃上げ力が小さい「小売業」(3.46%)とともに、全国平均(6.31%)を大きく下回った。小売業のうち、特に「飲食店」(1.89%)は全産業で唯一の1%台となったほか、「食料品小売(食品スーパー等)」(2.46%)など、賃上げ力に乏しい業種が多くみられた。運輸・通信業や小売業では、深刻な人手不足から賃金アップで人手確保を進めたい半面、燃料コストや仕入れコストの増加分を価格に転嫁できないことから、従業員に対して還元可能な利益を多く確保できない現状がみられる。
賃上げ原資の確保に向けた「利益創出」が課題 中小企業は価格転嫁が重要に
[画像7: https://prtimes.jp/i/43465/837/resize/d43465-837-b32e68e1f1a0c3cda4e2-0.jpg ]
企業における「稼ぐ力」は回復傾向にある。帝国データバンクが有する日本企業の財務統計では、2022年度における企業の粗利益率・当期純利益率各平均のいずれも前年を上回った。特に、当期純利益率は23年度に大幅な回復が想定され、過去10年でも高い水準に到達する可能性がある。「収益性が乏しく、賃上げ原資が確保できない」とする声も多い一方、企業全体では採算性が着実に改善傾向にある。こうしたなかで、内部留保へと回りやすい純利益の3割を人件費へ投下することで、政府要求や組合要求平均を大きく上回る、平均6%の賃上げ率に相当する「賃上げ力」が、日本企業に眠っている可能性がある。人手不足が深刻化するなか、利益に見合った十分な還元を従業員へ振り向ける「人的資源への投下」姿勢が定着するか注目される。
今後は、大幅な賃上げ表明が相次ぐ大企業から、日本企業の大部分を占める中小企業へと賃上げの動きが波及していくかが課題となる。中小企業が持続的な賃上げを行うためには、安定した賃上げ原資の確保、ひいてはコスト増分を取引価格へ上乗せできる価格転嫁力の向上が欠かせない。帝国データバンクの調査では、企業の価格転嫁率は24年2月時点で40%台にとどまり、価格転嫁は依然として低水準だった。ただ、2024年4月以降の賃金改定においては「ベースアップ」を検討する企業が5割を超えて過去最高水準となるなど、賃上げマインドは日本企業全体に定着しつつある。中小企業が「稼いだ利益」を賃上げ原資へと配分しやすい環境づくりが重要になる。
[画像8: https://prtimes.jp/i/43465/837/resize/d43465-837-54b7fab4c74ca85533d9-0.jpg ]
2024年の春闘は、大手企業で「満額超え」の回答も出るなど記録的な「賃上げ」が相次いだ。背景には、人手不足に加え、過去最高益を更新する企業も出るなど「稼ぐ力」の向上が挙げられる。ただ、日本企業の労働分配率は2022年度に2年連続で低下するなど、これまで生み出した利益の多くが利益剰余金など内部留保として貯蓄され、賃上げなどで従業員への適切な配分がなされてこなかった可能性も指摘されている。企業の収益力に照らした「潜在的な」賃上げの実力が問われている。
帝国データバンクは、保有する企業データベースのうち2023年2月-24年2月間に決算を迎えた企業財務データ(約97万社・780万期収録)を対象に、企業が引き上げ可能な賃金水準について試算・分析を行った
<調査結果(要旨)>
企業が持つ潜在的な「賃上げ力」、「利益の3割」人件費への投下で6%アップ相当試算
「不動産業」「サービス業」が上位 価格転嫁が難しい「運輸・通信」などは低位
賃上げ原資の確保に向けた「利益創出」が課題 中小企業は価格転嫁が重要に
[注] 「賃金(人件費)」の定義は、現金給与(賞与含む)のほか、退職給付・法定福利費の合計。役員報酬等は除外している
分析にあたっての条件は、下記の通りと定義した
【分析企業】従業員(常時雇用)が10人以上の企業(全国、金融・保険業を除く全業種)。分析対象は約6万社
【用語定義】賃上げ力:利益剰余金(いわゆる内部留保)となる「当期純利益(純損失)」のうち一定割合を「人件費=賃金」に使用(投下)した場合、賃金(人件費)をどれだけ増加させることができるか、という試算。なお、すべての平均値には上下計10%のトリム平均値を使用した
※調査結果は下記HPにも公表している
https://www.tdb.co.jp/report/index.html
企業が持つ潜在的な「賃上げ力」、「利益の3割」人件費への投下で6%アップ相当 試算
[画像1: https://prtimes.jp/i/43465/837/resize/d43465-837-6d156d239b8029ced640-0.jpg ]
帝国データバンクでは、過去1年間に決算を迎えた企業で常時雇用の従業員(正社員)が10人以上の約6万社を対象に、売上高から人件費や原材料費、法人税等を差し引いた、最終的な利益(当期純利益)=企業の内部留保相当分を次年度の「賃上げ原資」と定義し、人件費の増加分=賃上げにどれだけ充てることができるかを試算した。試算にあたっては、従業員数が期中に変動しないものとし、金融・保険業を除く全国全業種を対象とした。また、すべてを賃上げ原資とすることはできないため、純利益のうち「10%」「30%」「50%」をそれぞれ人件費に充てた場合と仮定した。人件費の増加に伴う営業・経常利益、法人税減免等の影響は無視した。
[画像2: https://prtimes.jp/i/43465/837/resize/d43465-837-285909c49fabf315227e-0.jpg ]
この結果、当期純利益の30%分を人件費へ「投下」した場合、平均で6.31%分の賃上げ率に相当する試算となった。帝国データバンクの調査で判明した、企業が想定している賃上げ率(4.32%)を上回ったほか、政府の要求水準(5%以上)、連合が集計した組合要求水準(5.85%)のいずれも上回る数値となった。このうち、「中小企業」では平均5.90%の賃上げ率相当分に該当した。大企業では平均で18.93%相当の賃上げが可能だった。企業の内部留保とされる最終的な当期純利益の一部を人件費に分配した場合、組合要求を大きく上回る6%超の潜在的な「賃上げ力」が企業に眠っている可能性がある。
[画像3: https://prtimes.jp/i/43465/837/resize/d43465-837-25fd7916b6e9b746c40e-0.jpg ]
当期純利益の10%分のみを人件費へ投下した場合では、全国平均で2.10%の賃上げ率にとどまり、政府の要求水準を大きく下回った。大企業でも6.31%相当にとどまり、利益の多くを利益剰余金など内部留保に回した場合、大幅な賃上げは困難だった。当期純利益の50%分では、全国平均で10.52%の賃上げが可能で、中小企業は9.84%、大企業は30%を超える水準となった。
[画像4: https://prtimes.jp/i/43465/837/resize/d43465-837-85034536248c31860f09-0.jpg ]
ただ、賃上げ力の詳細を見ると、純利益のうち「10%」「30%」「50%」をそれぞれ人件費に充てた場合のいずれも賃上げ力が「ゼロ」の企業が17.1%を占め、収益力に乏しく賃上げができない=「無い袖は振れない」企業もみられた。
「不動産業」「サービス業」が上位 価格転嫁が厳しい「運輸・通信」「小売」は低位と二極化
[画像5: https://prtimes.jp/i/43465/837/resize/d43465-837-188c3c25d149bd9afda9-0.jpg ]
業種別の賃上げ力をみると、当期純利益の30%分を人件費へ「投下」した場合、最も賃上げ力が大きいのは「不動産業」で、21.08%分相当の賃上げが可能だった。不動産業では、特にディベロッパーなどの開発部門で不動産投資などによる収益回復から大幅な増益となった企業が多く、賃上げ力が他産業に比べて突出した大きさとなった。
2番目に賃上げ力が大きい業種は「サービス業」だった。平均8.37%の賃上げ力を有する試算となったものの、業種間によって賃上げ力には大きな差がみられた。サービス業で最も賃上げ力が大きいのは「自動車整備等」(11.24%)で、講師などの採用が進む学習塾など「専門サービス」(10.89%)でも10%を超える水準だった。一方で、地域医療を支える病院やクリニックなど「医療業」(2.02%)は2%台にとどまった。医療機関では、看護師など医療従事者の賃上げを目的として、2024年度の診療報酬がプラス改定となるなど、賃上げに向けた環境整備が進められている。ただ、医療材料費や電気ガス代など光熱費の高騰、入院設備を有する医療機関では食材費やリネン費などの高騰が経営を圧迫し、職員に対する賃上げ余力が乏しい状態もみられた。
[画像6: https://prtimes.jp/i/43465/837/resize/d43465-837-bed848102cdfd2bf38e0-0.jpg ]
全産業で、最も賃上げ力が小さい業種は「運輸・通信業」で2.64%にとどまった。純利益の50%を人件費へ配分しても4.40%分の賃上げ力にとどまった。運輸・通信業に続いて賃上げ力が小さい「小売業」(3.46%)とともに、全国平均(6.31%)を大きく下回った。小売業のうち、特に「飲食店」(1.89%)は全産業で唯一の1%台となったほか、「食料品小売(食品スーパー等)」(2.46%)など、賃上げ力に乏しい業種が多くみられた。運輸・通信業や小売業では、深刻な人手不足から賃金アップで人手確保を進めたい半面、燃料コストや仕入れコストの増加分を価格に転嫁できないことから、従業員に対して還元可能な利益を多く確保できない現状がみられる。
賃上げ原資の確保に向けた「利益創出」が課題 中小企業は価格転嫁が重要に
[画像7: https://prtimes.jp/i/43465/837/resize/d43465-837-b32e68e1f1a0c3cda4e2-0.jpg ]
企業における「稼ぐ力」は回復傾向にある。帝国データバンクが有する日本企業の財務統計では、2022年度における企業の粗利益率・当期純利益率各平均のいずれも前年を上回った。特に、当期純利益率は23年度に大幅な回復が想定され、過去10年でも高い水準に到達する可能性がある。「収益性が乏しく、賃上げ原資が確保できない」とする声も多い一方、企業全体では採算性が着実に改善傾向にある。こうしたなかで、内部留保へと回りやすい純利益の3割を人件費へ投下することで、政府要求や組合要求平均を大きく上回る、平均6%の賃上げ率に相当する「賃上げ力」が、日本企業に眠っている可能性がある。人手不足が深刻化するなか、利益に見合った十分な還元を従業員へ振り向ける「人的資源への投下」姿勢が定着するか注目される。
今後は、大幅な賃上げ表明が相次ぐ大企業から、日本企業の大部分を占める中小企業へと賃上げの動きが波及していくかが課題となる。中小企業が持続的な賃上げを行うためには、安定した賃上げ原資の確保、ひいてはコスト増分を取引価格へ上乗せできる価格転嫁力の向上が欠かせない。帝国データバンクの調査では、企業の価格転嫁率は24年2月時点で40%台にとどまり、価格転嫁は依然として低水準だった。ただ、2024年4月以降の賃金改定においては「ベースアップ」を検討する企業が5割を超えて過去最高水準となるなど、賃上げマインドは日本企業全体に定着しつつある。中小企業が「稼いだ利益」を賃上げ原資へと配分しやすい環境づくりが重要になる。
[画像8: https://prtimes.jp/i/43465/837/resize/d43465-837-54b7fab4c74ca85533d9-0.jpg ]