ミトコンドリアの働きを高めるタンパク質が、マウスの寿命を延ばす!?〜脂肪組織の老化シグナルを抑制し、エネルギー産生と代謝を改善〜
[25/12/18]
提供元:PRTIMES
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千葉大学大学院医学研究院の田中 知明教授、埼玉医科大学医学部 池田 和博准教授、東京都健康長寿医療センター研究所 井上 聡研究部長らの研究グループは、細胞内でエネルギーを作るミトコンドリアの働きを助けるタンパク質「COX7RP」を増やすと、マウスの寿命が6.6%延びることを世界で初めて明らかにしました。COX7RPは、ミトコンドリア内でエネルギー酸性効率を高める “超複合体 (supercomplex) (注1)”の形成を促す役割を持っています。超複合体が増加するとエネルギー生産が安定し、健康状態の改善につながると考えられているため、今回の成果は「どうすれば健康に長生きできるか」という問いを理解することに役立つ可能性があります。
本研究成果は、2025年11月18日に国際科学誌Aging Cellにてオンライン公開されました。
■研究の背景
老化は、組織機能の低下や生活習慣病の発症リスクを増大させる生物学的プロセスです。その中心にあるのが、エネルギー産生を担うミトコンドリアの機能の低下です。近年、ミトコンドリア内で複数の呼吸鎖複合体が “超複合体” を形成することで、エネルギーを生み出す反応がより効率的に進み、活性酸素(ROS)(注2)が減り、エネルギー代謝が安定化することが示唆されていました(参考文献)。しかし、ミトコンドリア超複合体の増強が生物の寿命に影響するかについては、これまで明確な答えがありませんでした。
■研究の成果
本研究では、超複合体の形成を促進するタンパク質 COX7RPに着目し、その過剰発現がマウスの寿命および加齢性変化へ与える影響を解析しました。主な研究成果は以下の通りです。
1.COX7RP発現上昇によるマウス寿命延長(図1): 通常のマウス(野生型マウス)と、全身でCOX7RPの蛋白質の量を増やしたマウスを比べると、後者のマウスで寿命が6.6%長くなることを明らかにしました。
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/1091/15177-1091-4fe1b61bc3a676f9ce0e38ce93c55316-1006x445.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1:COX7RP発現上昇によるマウス寿命延長
2.シングルセル(一細胞) RNA-seq(注3)という最先端の技術などを駆使して、COX7RPの発現量を増やしたときに全身の臓器でどのような違いが生まれるのかを明らかにしました(図2)。
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/1091/15177-1091-1dc511493fd8d522f30a7e67b56d1641-922x385.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図2:全身代謝の改善・酸化ストレス軽減による健康寿命延長
以下は、COX7RPの発現量を増やすことでみられた違いです。
・まず、白色脂肪や筋肉で酸素がより多く消費され、ATP(注4)やNAD?(注5)といったエネルギー物質がたくさん作られていることが分かり、ミトコンドリアがよく働いてエネルギーを作り出している状態になっていると考えられました。
・その一方で、白色脂肪や筋肉で、SASP(注6)と呼ばれる老化に関わる物質が減少していました。また、老化の原因とされる活性酸素も減少していました。つまり、COX7RPの発現量が増加したことで、老化に関わる物質が減少していたのです。
・さらに、血糖値を下げるホルモンであるインスリン(注7)が肝臓などの臓器で「ききやすい」状態になっていることも分かりました。インスリンがききやすくなると、糖尿病や高脂血症の予防につながります。実際に、COX7RPの発現量を高めたマウスでは、血糖値やコレステロールの低下がみられました。
■今後の展望
本研究により、「ミトコンドリア超複合体を増やすこと」が寿命延伸の新しい戦略となり得ることが示されました。今後は、COX7RP 活性化薬の探索、老化関連疾患(糖尿病・サルコペニア・認知症)への応用、生命科学・抗加齢医療における新規介入の開発などへの展開が期待されます。
■用語解説
注1)ミトコンドリア超複合体(supercomplex):ミトコンドリア内で、電子伝達系を担う呼吸鎖複合体(I, III, IV など)が安定した集合体を形成した構造体。電子の受け渡しを効率化して、エネルギー産生効率や反応の制御に関与すると考えられている。
注2)活性酸素(ROS): ミトコンドリア活動の副産物として生じる酸化力の強い分子。過剰になると老化や炎症の原因になる。
注3)シングルセル(一細胞) RNA-seq(single-cell RNA sequencing):組織を構成する1つ1つの細胞ごとに遺伝子の働き(RNAの量)を調べる技術。細胞の種類や状態の違いを高精度に解析できる。
注4)ATP:細胞が活動するための主要なエネルギー源。生命活動の“エネルギー通貨”。
注5)NAD?:エネルギー産生に必須の補酵素。加齢と共に減少し、ミトコンドリア機能や老化に関わる。
注6)SASP(Senescence-Associated Secretory Phenotype):老化細胞が分泌する炎症性サイトカイン・プロテアーゼ群。組織老化を促進する。
注7)インスリン:血糖値を下げるホルモン。細胞に「糖を取り込み使うように」と指示する役割を持つ。
■論文情報
タイトル: Mitochondrial Respiratory Supercomplex Assembly Factor COX7RP Contributes to Lifespan Extension in Mice(ミトコンドリア呼吸超複合体組立因子COX7RPはマウスの寿命延長に寄与する)
著者:Kazuhiro Ikeda, Sachiko Shiba, Masataka Yokoyama, Masanori Fujimoto, Kuniko Horie, Tomoaki Tanaka, Satoshi Inoue
雑誌:Aging Cell
DOI: 10.1111/acel.70294
■参考文献
タイトル: Clarifying the supercomplex: the higher-order organization of the mitochondrial electron transport chain
雑誌:Nature Structural & Molecular Biology
DOI: 10.1038/nsmb.3460










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