北朝鮮の核放棄はあり得ない。焦点は核問題の解決から不安定化の管理へ
[09/11/24]
提供元:DreamNews
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ハト派、タカ派に関係なく、一般に核不拡散の専門家は北朝鮮に核を放棄させるのは難しいと考え、一方、外交重視派は交渉による核の段階的放棄を目的に掲げてきた。
だが、外交交渉を続けることについても賛否両論があった。少なくとも交渉期間中は核開発計画の進行を食い止められるという考えがある一方で、すでに確認されている核施設についての交渉を続けている間に未確認の核施設で北朝鮮は核開発を続けるかもしれないという懸念も表明された。
後者の立場に近く、外交交渉は手ぬるいと考える強硬派は、強硬な経済制裁の実施を求めた。だが、北朝鮮の崩壊で自国が大きな混乱に巻き込まれることを懸念する韓国と中国が、厳格な経済制裁には消極的なために、制裁は効果的なものはなり得ない。
また、より大枠でとらえれば、「悪事に報いていいのか」という道義的な問題もあった。「悪事にはペナルティを」という市民社会の枠組みから言えば、体制変革、軍事攻撃という選択肢も理屈上はあるが、安定と現状維持を重視する国際政治の場では、市民社会のような厳格なペナルティを科すのは難しいし、近隣国の反対に加えて、すでに核を開発している以上、現実には軍事攻撃は難しいというテクニカルな問題もあった。
その結果として、「悪事に報いないアメとムチのバランス」をめぐって、タカ派とハト派は際限のない論争をくり繰り広げ、その間に北朝鮮は16〜17発の核兵器を生産してしまった。
ざっとみると、北朝鮮問題の経緯をこうまとめることもできるかもしれない。
ロシア人の朝鮮半島問題研究者、アンドレイ・ランコフは、11月号の「北朝鮮を変化させるには」で、「北朝鮮に対処していく上で、アメリカとその同盟国が思うままに適用できる強制策など一つもない」とはっきりと述べている。(注1)
「交渉に入ることに合意し、段階的な譲歩に応じることで国際社会から援助を引き出し、その後、交渉から離脱して挑発行動をとり、より大きな見返りが期待できるようになってから、再び交渉テーブルに戻る。北朝鮮の指導者は15年にわたって、このやり方を繰り返してきた」。
国際社会に脅威を与え、その脅威を緩和させようとする大国から援助を引き出せる非常に重要なツールである核兵器と核開発プログラムを北朝鮮が放棄することはありえない、とランコフは述べている。
打つ手はあるのか。
ランコフはソビエト時代の自らの経験に照らして、外からの圧力ではなく、「内からの変化」を促すしかないと提言している。DVDであれ、ビデオであれ、韓国その他の外の世界の現実を北朝鮮民衆に与えることで「他の世界が苦しむなか、北朝鮮だけが幸せと繁栄の孤島である」という平壌のプロパガンダの大きな嘘を突き崩し、内からの変化が起きるのを待つしかない、と。
もちろん、このほかにも、権力移行問題に触発されて北朝鮮に大きな変化が起きる可能性もある。
間違いなく言えることが二つある。
一つは、多くの専門が指摘するように、北朝鮮の情報を取る上でも、交渉はいずれ再開され、その後も断続的に続けられる可能性が高いこと。(注2)
もう一つは、「北朝鮮の核問題を何としても解決する」という政治的意志と必要性を関係諸国が共有できないとすれば、「北朝鮮が不安定化した場合にどのように対応をとるか」についての国際的コンセンサスをまとめておく必要があるということだ。そうしない限り、北朝鮮の不安定化をきっかけに米中が対立することにもなりかねないという指摘する専門家もいる。この準備はすでに一部で進められている示唆する発言も聞かれる。(注3)
一方で、全く分からないのは、北朝鮮の体制が動揺し、不安定化しだすタイミングがいつになるかだ。
注1, アンドレイ・ランコフ、「北朝鮮を変化させるには」、フォーリン・アフェアーズ リポート 2009年11月号注2, ディパック・モルホトラ「交渉学からみた敵対勢力との交渉の問題点と可能性」 フォーリン・アフェアーズ リポート 2009年11月号注3, ポール・B・スターレス、スコット・A・スナイダー、「北朝鮮が権力継承に失敗すれば」 フォーリン・アフェアーズ リポート 2009年3月号
フォーリン・アフェアーズ(http://www.foreignaffairs.com)とは、世界的に有名なシンクタンク、米外交問題評議会(http://www.cfr.org)が発行する外交、軍事、経済・金融などの専門誌で、世界的な影響力を持つ雑誌とし広く知られる。現在、スペイン語版、ロシア語版、日本語版が国際エディション(http://www.foreignaffairs.com/international-editions)として出版されており、
国内ではフォーリン・アフェアーズ・リポート(http://www.foreignaffairsj.co.jp)として日本語版が出版されている。