「ウィンブルドンは選手の戦略と技術に注目してもらえると、さらにテニスを楽しく見ることができる」(石黒賢)「錦織選手には戦法の変化が必要」「大坂選手はフリーな気持ちでウィンブルドンに挑める」(伊達公子)
[19/06/28]
提供元:PRTIMES
提供元:PRTIMES
「ウィンブルドンテニス」7月1日(月)〜14日(日)WOWOWで連日生中継!※7月7日(日)除く [第1日無料放送]
[画像1: https://prtimes.jp/i/1355/4989/resize/d1355-4989-197549-0.jpg ]
グランドスラムの中でも最も格式高いと評される、歴史と伝統を誇る「ウィンブルドンテニス」。日本のエース錦織圭、大坂なおみの戦いなど、WOWOWではミドルサンデーとなる7日(日)を除いて、7月1日(月)〜7月14日(日)、連日生中継でお届けする。(※第1日無料放送)
番組では、今年もスペシャルナビゲーターとして俳優・石黒賢が出演。WOWOWテニスアンバサダーの伊達公子も登場し、現地の感動と興奮をお届けする。
そんな二人が大会前に対談を行い、ウィンブルドンテニスの見どころを語った。
===============================
〈対談収録〉
■ウィンブルドンの魅力とは?
石黒:伊達さんは昨年、WOWOWテニスアンバサダーに就任し、今年で2年目になります。昨年は伊達公子さんにいろいろなことをやっていただきました。鷹とか行列とか…。特に印象に残っていることは何ですか?
伊達:選手時代には経験できなかったことだったので、どれも印象に残っているのですが、あえて1つ挙げるとすれば「ローンテニスミュージアム」ですね。
ウィンブルドンといえば、やはり伝統と歴史。それが凝縮されていて、そこに行けばウィンブルドンのすべてが見られるのです。あんなにじっくりとミュージアムを見ることはこれまでなかったので、本当に印象的でした。
石黒さんはスペシャルナビゲーターとして、今年で12年目のウィンブルドンですね。
石黒:そうです。振り返るともう12年目ですよ。
本当にいろいろなことがありましたが、最初の年が特にすごかったですよ、ナダルとフェデラーの男子決勝が。屋根が付く前のセンターコートで、薄暗くなるまで試合が行われ、5時間近いマラソンマッチになったんです。
昨年はセンターコートで伊達さんと一緒に試合を見させていただいたのですが、ウォーミングアップのときにはまだ会場がざわついていたのが、審判がプレーと言った瞬間に静まり返るんです。
あのサイレンスな感じがたまりませんでした。ボールの打つ音しか聞こえない。そして、決まると大きな拍手。“This is ウィンブルドン”という感じでしたね。
伊達:あそこまで極端に静かになるのは、ウィンブルドンならではですね。
■変わりゆくウィンブルドン
石黒:さて、ウィンブルドンといえば、歴史と格式。しかし、変わらないものもあれば、変わっていくものもあります。
まず、今年からルールが変わりました。ファイナルセットでゲーム数が12-12になってからは、7ポイント先取のタイブレーク制が導入されます。
伊達:これまでも(ジョン・)イズナーと(ニコラ・)マウの3日がかり、11時間以上に及ぶ試合がありました。昨年も(ケビン・)アンダーソンの6時間以上の試合がありました。あれだけ長くなると選手はかなり大変なので、やはりルールを変化する必要もあると思います。
ですから、タイブレークが導入されると、選手のフィジカルという面ではヘルプにはなると思います。
ただ、タイブレークになると、本当の勝負というよりも、運が大きく左右することになります。特に女子の試合は。
ビッグサーブを持っている男子のほうは、タイブレークという短い中で、いかに勝負していくのか、よりスリリングな展開が観られるのではないか思います。
男女で差が出るような気がします。
石黒:今年はNo1コートに屋根が付きますね。
伊達:私はNo1コートではプレーしたことはないのですが、見る側にとってはセンターコートと違った良さがあると思います。こじんまりとしていて、より一体感があると思います。
■今年の注目選手・男子は
石黒:さて、男子の注目選手についてはいかがでしょうか。
伊達:やはり8回優勝している(ロジャー・)フェデラーですね。ウィンブルドンといえば、今は何といってもフェデラーです。しなやかなストロークに、ネットプレー、絶妙なドロップショット。どれをとっても美しいですし、芝に合うプレーだと思います。
しかも、4年ぶりに今年は全仏オープンに挑戦し、しっかりとベスト4に入っているんです。(ラファエル・)ナダルに破れるまでは、クレーコートだと感じさせない、いいテニスをしていたと思います。
芝のコートになれば、きちんと調整をしてきて、クレー以上のクオリティでプレーをしてくれると思います。
石黒:そのナダルですが、全仏オープンでは本当に強かったです。ウィンブルドンでは2010年以来、優勝はないのですが。
伊達:クレーではまさにキングという感じがしますが、芝になると膝への負担が大きくなるので、クレーのような本来の動きができなくなると思います。
石黒:そして、(ノバク・)ジョコビッチです。全仏オープンではちょっと残念でしたが。彼は芝でも本当によく足がスライドしますよね。
伊達:あのスライドは私の時代だったら考えられないことですね(笑)。
ジョコビッチはプレーのムラがなく、どの大会でも彼の本来の力が出せるという安定感があります。そして、どのサーフェスでも対応できるバランスの良さもあると思います。やはり優勝候補のひとりだと思います。
石黒:フェデラー、ナダル、そしてジョコビッチ。このビッグ3の強みはどのあたりだと思いますか?
伊達:存在感の大きさは誰もが認めるところだと思います。対戦する選手は、センターコートに入った時点ですでに名前負けしていますね。
マイケル・チャンコーチが錦織選手に「フェデラーに憧れているようではだめ」と言ったことがありますが、同じ勝負にこだわるプレーヤーとしてコートに入っていかないといけないと思います。
選手もそれは頭では分かっていると思いますが、いざコートに入ると、オーラというかその存在感に圧倒されてしまうんですね。ファーストセットが終わったあたりでやっと試合に集中できるようになると思うのですが、そのときには“時すでにおそし”になっているのです。
石黒:でも、錦織選手はもうそんなレベルではないですよね。
伊達:そうですね。もうそんなことはないと思います。でも、やはり彼らが出すオーラというのは全然違うように感じていると思います。
あと、彼らはそう簡単にはポイントをくれないんです。そのレベルは他の選手とは大きく違っていますね。
石黒:若い選手も台頭してきています。(ドミニク・)ティーム、(アレクサンダー・)ズベレフ、そして(ステファノス・)チチパス。彼らの芝への適応力についてはいかがですか?
伊達:その3人の中では、私はズベレフがいいんじゃないかと思います。サーブもいいですし。
ティームはクレーのときのように後ろに下がっていると、芝ではちょっと難しいと思います。ナダルのように、先を読んだ動きはまだまだできていないと思います。
チチパスは、可能性は感じますが、体力面、メンタル面でもうちょっと時間がかかるように思います。グランドスラムは5セットで、2週目になってぐっとパフォーマンスを上げなければいけませんが、そのあたりがまだまだできていないように思います。
ビッグ3は、1週目は100の力のうち50も出さずに勝ち進んでいると思います。私もそのような感覚があったのですが、1週目はセーブして、2週目で徐々に力を出していくのだと思います。
■錦織選手について
石黒:夢のグランドスラム初優勝を目指す、錦織圭選手についてうかがっていきたいと思います。昨年はベスト8まで進み、ジョコビッチとセンターコートで対戦しました。その後もグランドスラムはすべてベスト8まで進んでいます。
先の全仏オープンをご覧になった伊達さんは、錦織選手の今の状態、そしてウィンブルドンでの活躍についてはどのように思っているのでしょうか?
伊達:毎回言っているのですが、グランドスラムの1週目をどう切り抜けるのかが一番の課題だと思います。
全仏オープンでは1週目で5セットの試合があったため、ギアを上げたい2週目でパフォーマンスが落ちてしまったのです。とてももったいないと思いました。
石黒:フォアハンドはかなり復調してきたと思うのですが。
伊達:すっかり自信を取り戻して、プレー自体はすごく良くなっていると思います。
錦織選手は一度、全米オープンでファイナリストになっているので、ベスト8というところで満足していないはずです。
もう一度決勝で戦いたと思うなら、フィジカルなのか、テクニックなのかは分かりませんが、何か変化が必要だと思います。
ただ、30歳になって、10代、20代前半に比べると疲労の回復は少しずつ遅くなっているはずです。これからは、いかに常に高いパフォーマンスを出せるのかということに向かい合わなくてはいけないと思います。
そのためにも、まずは5セットにならないテニスをしないといけないと思います。
一方で、サーブはすごく良くなってきたと思うので、サーブを活かした戦法的な変化は、体の負担を減らす意味でもあると思います。5セットにしないためにも、それは1つの方法かもしれませんね。
■今年の注目選手・女子は
石黒:さて、次は女子にいきたいと思います。
ナンバーワンの重圧というのがあったのでしょうか。大坂選手は、全仏オープンで残念な結果に終わってしまいました。今回の芝のコートでは、あのサーブはアドバンテージになるのでしょうか?
伊達:そうですね。アドバンテージがあることは間違いないと思います。
ただ、後半戦でトップ20、トップ10の選手と戦うときには、サーブだけでは勝ち切れないと思います。
ファーストサービスの確率が落ちたときや、なかなかブレイクできないときに、サーブ以外の部分を求められると思うのですが、彼女には優勝できるだけのものはまだ備わっていない気がします。まだ少し早いのかなと思います。
ただ、クレーでもフットワークが良くなっていますし、芝も年々良くなっていると思います。彼女はまだ成長している途中だということを忘れてはいけないと思います。
全仏オープンで負けたことによって、フリーな気持ちでウィンブルドンに挑めるのではないかと思います。
石黒:全仏オープンで優勝した(アシュリー・)バーティですが、実は彼女、ウィンブルドンのジュニアで優勝しているんですね。そして、伊達さんは昨年、彼女にインタビューしているのですね。
伊達:「芝は大好き」と彼女は言っていましたよ。
バーティはそんな上背があるほうではないのですが、パワーもありますし、スピーディーなプレーもできます。そして、なんと言ってもバックのスライスがいいんです。今の女子選手にはないスライスなんです。
インタビューでは、どうやってそのスライスを手に入れたのかを聞いてみたのですが、「若いときにコーチから、いろいろなバリエーションのショットを打てたほうがいいと言われたんです。そのショットの1つとして、バックハンドのスライスも身に付けたのです」と答えていました。
石黒:フェデラーのプレーを見ていると、芝では本当にスライスが有効ですよね。特に彼はいろいろなバリエーションのスライスを打つんです。芝の残っているところに、あえてめがけて打つような絶妙なショットを見せるんですよ。
伊達:その女子版がバーティだと思います。バックのスライスのクオリティはすごく高いと思います。
スライスには、攻撃的なものもあれば、時間を作るためのものなど、いろいろなショットがあります。フェデラーもバーティも、そのあたりを巧みに使い分けていますね。どこでボールがはずまないと相手が嫌がるのか、それを考えてスライスを打っているのです。
大坂選手も最近はちょっとスライスを打てるようになってきていると思います。プロの世界に入って、スライスの必要性を感じているから、少しずつ打っているのだと思いますね。
石黒:その他にも女子は10代の選手が台頭してきました。ウィンブルドンでは、どんな選手が活躍するのでしょうか。
また、優勝経験者ではセレナ(・ウイリアムズ)、ビーナス(・ウイリアムズ)、(ペトラ・)クビトバ、(ガルビネ・)ムグルッサ、(アンジェリック・)ケルバーなどがいますが、彼女たちはどうでしょうか。
伊達:やはりパワーは必要になってきますし、男子ほどではないにしろサーブ力がある選手が有利だと思います。それにレフティの強みを持ったクビトバ、ケルバーも有力だと思います。
バーティは、ビッグサーブもありますが、頭を使った戦略的なプレーをするんです。全仏オープンを勝ったことにより、パワーだけなく、男子のような戦略が求められようになってくると思います。
石黒:バーティが全仏で優勝したことによって、他の選手にもいい影響を与えたように思います。
伊達:2019年のツアー大会は、毎回違う選手が優勝しています。誰が勝つのか予想するのが難しい状況です。
大坂選手は全米、全豪とグランドスラムを連覇しましたが、一時期のセレナほどの絶対的な強さはまだありません。ですから、みんな「次は私が」と思って大会に挑んできています。
そんな中では、全仏で活躍した(マルケタ・)ボンドルソバや(アマンダ・)アニシモワ、そして私が密かに期待している(アーニャ・)サバレンカなどの若い選手に注目したいと思います。
[画像2: https://prtimes.jp/i/1355/4989/resize/d1355-4989-745200-1.jpg ]
〈インタビュー取材〉
―(対談を終えて)前回の対談から1年、その間、錦織選手はグランドスラム4大会連続ベスト8、大坂選手は全米、全豪の連続制覇がありました。この1年のテニス界を振り返って感じることは?
石黒:なおみちゃんが全米で優勝したことにより、「大坂、次の試合はどうだろうね」というように、街の人たちがテニスのことを話題にしてくれることが多くなったと実感しています。僕はテニスが日本のポピュラーなスポーツになってほしいと思っているのですが、その意味でもこの1年の彼らの活躍は大きかったですね。
伊達:大坂選手が日本人選手として初めてグランドスラムを優勝したのは、とても大きな出来事だったと思います。グランドスラム優勝はみんな夢見ていたことだと思うのですが、実現できるという確信はなかったと思います。それだけに彼女が優勝したことは本当に大きな出来事だったと思います。
その一方で、危機感も感じています。それは女子でいえば、大坂選手に続く若手が育っていないことが1つあります。
また、WOWOWのアンバサダーになったことにより、いろいろな国のテニス協会の会長ともお話しする機会があったのですが、錦織選手や大坂選手がこれだけ活躍していても、日本のテニスに環境はまだまだ整っていないことに気づかされました。
テニスが人気を集めるのはうれしいことですが、それに中身も伴っていかなければならないと感じています。
―石黒さんは今年で12年目になるそうですが、ウィンブルドンならでは魅力というのは?
石黒:どんなタイトルを取りたいかと選手に聞くと、やはりウィンブルドンを一番に挙げる人が非常に多いのです。
それは歴史もあるし、観客がテニスをすごく愛していて選手をリスペクトしている。そして、芝のコンディションを始めとして運営側が選手にいかに気持ちよくプレーをしてもらえるかに気を配っているんです。
三位一体というか、この3つが実にきっちりとはまっているんです。
ですから、見ていて心地いいですし、神様の贈り物のような信じられない瞬間も訪れるのだと思います。
伊達:論文のために選手に好きなサーフェスのアンケートを取ったことがあるのですが、芝を挙げる選手が意外と多かったのです。芝のシーズンは一番短いし、苦手にしている選手も多いと思っていたのですが、それはやはりウィンブルドンを特別な大会だと感じている選手が多いからだと思うのです。
―最後に、これからテニスを見ようと思っている人たちへ、どんな点に注目して試合を観ればよいかを教えてください。
伊達:錦織圭や大坂なおみ、そしてフェデラーといった選手の名前から入っていくというのも1つの方法だと思います。
しかし、彼らがいなくなってしまったときは困りますね。
別に深く考えなくてもいいので、サーブやストロークなどテニスのテクニックにも注目してほしいですね。そうすると、プレースタイルや戦術に興味を持ってもらえると思うので、ずっと長くテニスを楽しめるのではないかと思います。
入口は選手でもいいのですが、テニス自体をもっと楽しんで見てほしいと思います。
石黒:テニスは引き分けもないし、時間も決まっていない。試合は1ポイント1ポイントの積み重ねなんですが、終わってみると勝負の鍵はあのゲームのあのポイントだったと思うことがあるんです。
ですから、その勝負の鍵となるポイントを取るために、選手は詰め将棋のようにどのようにしてポイントを重ねていくかに集中しているんです。その戦略と技術に注目して観てもらえると、さらにテニスを楽しく見ることができると思います。
===============================
◆◆◆ WOWOW番組情報 ◆◆◆
★「ウィンブルドンテニス」
7月1日(月)〜14日(日)連日生中継 ※7月7日(日)除く [第1日無料放送]
WOWOWプライム、WOWOWライブ
〈関連番組〉
「ウィンブルドンテニス〜観戦のすゝめ〜 開幕直前!ドロー決定情報」
6月29日(土)午後3時55分、ほか WOWOWプライム、WOWOWライブ[無料放送]
「デイリーナビ!ウィンブルドンテニス」
7月2日(火)午後1時55分、ほか WOWOWプライム・WOWOWライブ[無料放送]
「ウィンブルドンテニス 車いす男女シングルス決勝」
7月15日(月・祝)夜6時 WOWOWライブ
「週刊テニスNAVI」
毎週月曜よる8時40分、ほか WOWOWライブ(7月1日、8日は休み)
※7月15日(月・祝)は夜11時、ほか ウィンブルドンテニス2019総集編スペシャルをWOWOWライブにて放送。
■詳しくはWOWOW テニスオフィシャルサイトをご覧ください!
https://www.wowow.co.jp/sports/tennis/
[画像1: https://prtimes.jp/i/1355/4989/resize/d1355-4989-197549-0.jpg ]
グランドスラムの中でも最も格式高いと評される、歴史と伝統を誇る「ウィンブルドンテニス」。日本のエース錦織圭、大坂なおみの戦いなど、WOWOWではミドルサンデーとなる7日(日)を除いて、7月1日(月)〜7月14日(日)、連日生中継でお届けする。(※第1日無料放送)
番組では、今年もスペシャルナビゲーターとして俳優・石黒賢が出演。WOWOWテニスアンバサダーの伊達公子も登場し、現地の感動と興奮をお届けする。
そんな二人が大会前に対談を行い、ウィンブルドンテニスの見どころを語った。
===============================
〈対談収録〉
■ウィンブルドンの魅力とは?
石黒:伊達さんは昨年、WOWOWテニスアンバサダーに就任し、今年で2年目になります。昨年は伊達公子さんにいろいろなことをやっていただきました。鷹とか行列とか…。特に印象に残っていることは何ですか?
伊達:選手時代には経験できなかったことだったので、どれも印象に残っているのですが、あえて1つ挙げるとすれば「ローンテニスミュージアム」ですね。
ウィンブルドンといえば、やはり伝統と歴史。それが凝縮されていて、そこに行けばウィンブルドンのすべてが見られるのです。あんなにじっくりとミュージアムを見ることはこれまでなかったので、本当に印象的でした。
石黒さんはスペシャルナビゲーターとして、今年で12年目のウィンブルドンですね。
石黒:そうです。振り返るともう12年目ですよ。
本当にいろいろなことがありましたが、最初の年が特にすごかったですよ、ナダルとフェデラーの男子決勝が。屋根が付く前のセンターコートで、薄暗くなるまで試合が行われ、5時間近いマラソンマッチになったんです。
昨年はセンターコートで伊達さんと一緒に試合を見させていただいたのですが、ウォーミングアップのときにはまだ会場がざわついていたのが、審判がプレーと言った瞬間に静まり返るんです。
あのサイレンスな感じがたまりませんでした。ボールの打つ音しか聞こえない。そして、決まると大きな拍手。“This is ウィンブルドン”という感じでしたね。
伊達:あそこまで極端に静かになるのは、ウィンブルドンならではですね。
■変わりゆくウィンブルドン
石黒:さて、ウィンブルドンといえば、歴史と格式。しかし、変わらないものもあれば、変わっていくものもあります。
まず、今年からルールが変わりました。ファイナルセットでゲーム数が12-12になってからは、7ポイント先取のタイブレーク制が導入されます。
伊達:これまでも(ジョン・)イズナーと(ニコラ・)マウの3日がかり、11時間以上に及ぶ試合がありました。昨年も(ケビン・)アンダーソンの6時間以上の試合がありました。あれだけ長くなると選手はかなり大変なので、やはりルールを変化する必要もあると思います。
ですから、タイブレークが導入されると、選手のフィジカルという面ではヘルプにはなると思います。
ただ、タイブレークになると、本当の勝負というよりも、運が大きく左右することになります。特に女子の試合は。
ビッグサーブを持っている男子のほうは、タイブレークという短い中で、いかに勝負していくのか、よりスリリングな展開が観られるのではないか思います。
男女で差が出るような気がします。
石黒:今年はNo1コートに屋根が付きますね。
伊達:私はNo1コートではプレーしたことはないのですが、見る側にとってはセンターコートと違った良さがあると思います。こじんまりとしていて、より一体感があると思います。
■今年の注目選手・男子は
石黒:さて、男子の注目選手についてはいかがでしょうか。
伊達:やはり8回優勝している(ロジャー・)フェデラーですね。ウィンブルドンといえば、今は何といってもフェデラーです。しなやかなストロークに、ネットプレー、絶妙なドロップショット。どれをとっても美しいですし、芝に合うプレーだと思います。
しかも、4年ぶりに今年は全仏オープンに挑戦し、しっかりとベスト4に入っているんです。(ラファエル・)ナダルに破れるまでは、クレーコートだと感じさせない、いいテニスをしていたと思います。
芝のコートになれば、きちんと調整をしてきて、クレー以上のクオリティでプレーをしてくれると思います。
石黒:そのナダルですが、全仏オープンでは本当に強かったです。ウィンブルドンでは2010年以来、優勝はないのですが。
伊達:クレーではまさにキングという感じがしますが、芝になると膝への負担が大きくなるので、クレーのような本来の動きができなくなると思います。
石黒:そして、(ノバク・)ジョコビッチです。全仏オープンではちょっと残念でしたが。彼は芝でも本当によく足がスライドしますよね。
伊達:あのスライドは私の時代だったら考えられないことですね(笑)。
ジョコビッチはプレーのムラがなく、どの大会でも彼の本来の力が出せるという安定感があります。そして、どのサーフェスでも対応できるバランスの良さもあると思います。やはり優勝候補のひとりだと思います。
石黒:フェデラー、ナダル、そしてジョコビッチ。このビッグ3の強みはどのあたりだと思いますか?
伊達:存在感の大きさは誰もが認めるところだと思います。対戦する選手は、センターコートに入った時点ですでに名前負けしていますね。
マイケル・チャンコーチが錦織選手に「フェデラーに憧れているようではだめ」と言ったことがありますが、同じ勝負にこだわるプレーヤーとしてコートに入っていかないといけないと思います。
選手もそれは頭では分かっていると思いますが、いざコートに入ると、オーラというかその存在感に圧倒されてしまうんですね。ファーストセットが終わったあたりでやっと試合に集中できるようになると思うのですが、そのときには“時すでにおそし”になっているのです。
石黒:でも、錦織選手はもうそんなレベルではないですよね。
伊達:そうですね。もうそんなことはないと思います。でも、やはり彼らが出すオーラというのは全然違うように感じていると思います。
あと、彼らはそう簡単にはポイントをくれないんです。そのレベルは他の選手とは大きく違っていますね。
石黒:若い選手も台頭してきています。(ドミニク・)ティーム、(アレクサンダー・)ズベレフ、そして(ステファノス・)チチパス。彼らの芝への適応力についてはいかがですか?
伊達:その3人の中では、私はズベレフがいいんじゃないかと思います。サーブもいいですし。
ティームはクレーのときのように後ろに下がっていると、芝ではちょっと難しいと思います。ナダルのように、先を読んだ動きはまだまだできていないと思います。
チチパスは、可能性は感じますが、体力面、メンタル面でもうちょっと時間がかかるように思います。グランドスラムは5セットで、2週目になってぐっとパフォーマンスを上げなければいけませんが、そのあたりがまだまだできていないように思います。
ビッグ3は、1週目は100の力のうち50も出さずに勝ち進んでいると思います。私もそのような感覚があったのですが、1週目はセーブして、2週目で徐々に力を出していくのだと思います。
■錦織選手について
石黒:夢のグランドスラム初優勝を目指す、錦織圭選手についてうかがっていきたいと思います。昨年はベスト8まで進み、ジョコビッチとセンターコートで対戦しました。その後もグランドスラムはすべてベスト8まで進んでいます。
先の全仏オープンをご覧になった伊達さんは、錦織選手の今の状態、そしてウィンブルドンでの活躍についてはどのように思っているのでしょうか?
伊達:毎回言っているのですが、グランドスラムの1週目をどう切り抜けるのかが一番の課題だと思います。
全仏オープンでは1週目で5セットの試合があったため、ギアを上げたい2週目でパフォーマンスが落ちてしまったのです。とてももったいないと思いました。
石黒:フォアハンドはかなり復調してきたと思うのですが。
伊達:すっかり自信を取り戻して、プレー自体はすごく良くなっていると思います。
錦織選手は一度、全米オープンでファイナリストになっているので、ベスト8というところで満足していないはずです。
もう一度決勝で戦いたと思うなら、フィジカルなのか、テクニックなのかは分かりませんが、何か変化が必要だと思います。
ただ、30歳になって、10代、20代前半に比べると疲労の回復は少しずつ遅くなっているはずです。これからは、いかに常に高いパフォーマンスを出せるのかということに向かい合わなくてはいけないと思います。
そのためにも、まずは5セットにならないテニスをしないといけないと思います。
一方で、サーブはすごく良くなってきたと思うので、サーブを活かした戦法的な変化は、体の負担を減らす意味でもあると思います。5セットにしないためにも、それは1つの方法かもしれませんね。
■今年の注目選手・女子は
石黒:さて、次は女子にいきたいと思います。
ナンバーワンの重圧というのがあったのでしょうか。大坂選手は、全仏オープンで残念な結果に終わってしまいました。今回の芝のコートでは、あのサーブはアドバンテージになるのでしょうか?
伊達:そうですね。アドバンテージがあることは間違いないと思います。
ただ、後半戦でトップ20、トップ10の選手と戦うときには、サーブだけでは勝ち切れないと思います。
ファーストサービスの確率が落ちたときや、なかなかブレイクできないときに、サーブ以外の部分を求められると思うのですが、彼女には優勝できるだけのものはまだ備わっていない気がします。まだ少し早いのかなと思います。
ただ、クレーでもフットワークが良くなっていますし、芝も年々良くなっていると思います。彼女はまだ成長している途中だということを忘れてはいけないと思います。
全仏オープンで負けたことによって、フリーな気持ちでウィンブルドンに挑めるのではないかと思います。
石黒:全仏オープンで優勝した(アシュリー・)バーティですが、実は彼女、ウィンブルドンのジュニアで優勝しているんですね。そして、伊達さんは昨年、彼女にインタビューしているのですね。
伊達:「芝は大好き」と彼女は言っていましたよ。
バーティはそんな上背があるほうではないのですが、パワーもありますし、スピーディーなプレーもできます。そして、なんと言ってもバックのスライスがいいんです。今の女子選手にはないスライスなんです。
インタビューでは、どうやってそのスライスを手に入れたのかを聞いてみたのですが、「若いときにコーチから、いろいろなバリエーションのショットを打てたほうがいいと言われたんです。そのショットの1つとして、バックハンドのスライスも身に付けたのです」と答えていました。
石黒:フェデラーのプレーを見ていると、芝では本当にスライスが有効ですよね。特に彼はいろいろなバリエーションのスライスを打つんです。芝の残っているところに、あえてめがけて打つような絶妙なショットを見せるんですよ。
伊達:その女子版がバーティだと思います。バックのスライスのクオリティはすごく高いと思います。
スライスには、攻撃的なものもあれば、時間を作るためのものなど、いろいろなショットがあります。フェデラーもバーティも、そのあたりを巧みに使い分けていますね。どこでボールがはずまないと相手が嫌がるのか、それを考えてスライスを打っているのです。
大坂選手も最近はちょっとスライスを打てるようになってきていると思います。プロの世界に入って、スライスの必要性を感じているから、少しずつ打っているのだと思いますね。
石黒:その他にも女子は10代の選手が台頭してきました。ウィンブルドンでは、どんな選手が活躍するのでしょうか。
また、優勝経験者ではセレナ(・ウイリアムズ)、ビーナス(・ウイリアムズ)、(ペトラ・)クビトバ、(ガルビネ・)ムグルッサ、(アンジェリック・)ケルバーなどがいますが、彼女たちはどうでしょうか。
伊達:やはりパワーは必要になってきますし、男子ほどではないにしろサーブ力がある選手が有利だと思います。それにレフティの強みを持ったクビトバ、ケルバーも有力だと思います。
バーティは、ビッグサーブもありますが、頭を使った戦略的なプレーをするんです。全仏オープンを勝ったことにより、パワーだけなく、男子のような戦略が求められようになってくると思います。
石黒:バーティが全仏で優勝したことによって、他の選手にもいい影響を与えたように思います。
伊達:2019年のツアー大会は、毎回違う選手が優勝しています。誰が勝つのか予想するのが難しい状況です。
大坂選手は全米、全豪とグランドスラムを連覇しましたが、一時期のセレナほどの絶対的な強さはまだありません。ですから、みんな「次は私が」と思って大会に挑んできています。
そんな中では、全仏で活躍した(マルケタ・)ボンドルソバや(アマンダ・)アニシモワ、そして私が密かに期待している(アーニャ・)サバレンカなどの若い選手に注目したいと思います。
[画像2: https://prtimes.jp/i/1355/4989/resize/d1355-4989-745200-1.jpg ]
〈インタビュー取材〉
―(対談を終えて)前回の対談から1年、その間、錦織選手はグランドスラム4大会連続ベスト8、大坂選手は全米、全豪の連続制覇がありました。この1年のテニス界を振り返って感じることは?
石黒:なおみちゃんが全米で優勝したことにより、「大坂、次の試合はどうだろうね」というように、街の人たちがテニスのことを話題にしてくれることが多くなったと実感しています。僕はテニスが日本のポピュラーなスポーツになってほしいと思っているのですが、その意味でもこの1年の彼らの活躍は大きかったですね。
伊達:大坂選手が日本人選手として初めてグランドスラムを優勝したのは、とても大きな出来事だったと思います。グランドスラム優勝はみんな夢見ていたことだと思うのですが、実現できるという確信はなかったと思います。それだけに彼女が優勝したことは本当に大きな出来事だったと思います。
その一方で、危機感も感じています。それは女子でいえば、大坂選手に続く若手が育っていないことが1つあります。
また、WOWOWのアンバサダーになったことにより、いろいろな国のテニス協会の会長ともお話しする機会があったのですが、錦織選手や大坂選手がこれだけ活躍していても、日本のテニスに環境はまだまだ整っていないことに気づかされました。
テニスが人気を集めるのはうれしいことですが、それに中身も伴っていかなければならないと感じています。
―石黒さんは今年で12年目になるそうですが、ウィンブルドンならでは魅力というのは?
石黒:どんなタイトルを取りたいかと選手に聞くと、やはりウィンブルドンを一番に挙げる人が非常に多いのです。
それは歴史もあるし、観客がテニスをすごく愛していて選手をリスペクトしている。そして、芝のコンディションを始めとして運営側が選手にいかに気持ちよくプレーをしてもらえるかに気を配っているんです。
三位一体というか、この3つが実にきっちりとはまっているんです。
ですから、見ていて心地いいですし、神様の贈り物のような信じられない瞬間も訪れるのだと思います。
伊達:論文のために選手に好きなサーフェスのアンケートを取ったことがあるのですが、芝を挙げる選手が意外と多かったのです。芝のシーズンは一番短いし、苦手にしている選手も多いと思っていたのですが、それはやはりウィンブルドンを特別な大会だと感じている選手が多いからだと思うのです。
―最後に、これからテニスを見ようと思っている人たちへ、どんな点に注目して試合を観ればよいかを教えてください。
伊達:錦織圭や大坂なおみ、そしてフェデラーといった選手の名前から入っていくというのも1つの方法だと思います。
しかし、彼らがいなくなってしまったときは困りますね。
別に深く考えなくてもいいので、サーブやストロークなどテニスのテクニックにも注目してほしいですね。そうすると、プレースタイルや戦術に興味を持ってもらえると思うので、ずっと長くテニスを楽しめるのではないかと思います。
入口は選手でもいいのですが、テニス自体をもっと楽しんで見てほしいと思います。
石黒:テニスは引き分けもないし、時間も決まっていない。試合は1ポイント1ポイントの積み重ねなんですが、終わってみると勝負の鍵はあのゲームのあのポイントだったと思うことがあるんです。
ですから、その勝負の鍵となるポイントを取るために、選手は詰め将棋のようにどのようにしてポイントを重ねていくかに集中しているんです。その戦略と技術に注目して観てもらえると、さらにテニスを楽しく見ることができると思います。
===============================
◆◆◆ WOWOW番組情報 ◆◆◆
★「ウィンブルドンテニス」
7月1日(月)〜14日(日)連日生中継 ※7月7日(日)除く [第1日無料放送]
WOWOWプライム、WOWOWライブ
〈関連番組〉
「ウィンブルドンテニス〜観戦のすゝめ〜 開幕直前!ドロー決定情報」
6月29日(土)午後3時55分、ほか WOWOWプライム、WOWOWライブ[無料放送]
「デイリーナビ!ウィンブルドンテニス」
7月2日(火)午後1時55分、ほか WOWOWプライム・WOWOWライブ[無料放送]
「ウィンブルドンテニス 車いす男女シングルス決勝」
7月15日(月・祝)夜6時 WOWOWライブ
「週刊テニスNAVI」
毎週月曜よる8時40分、ほか WOWOWライブ(7月1日、8日は休み)
※7月15日(月・祝)は夜11時、ほか ウィンブルドンテニス2019総集編スペシャルをWOWOWライブにて放送。
■詳しくはWOWOW テニスオフィシャルサイトをご覧ください!
https://www.wowow.co.jp/sports/tennis/