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国際的な薬物政策は、懲罰的アプローチから公衆衛生アプローチへ。「人権及び薬物政策に関する国際ガイドライン」の和訳を公表

長年、国際的な薬物政策では、3つの国際条約を基盤とする薬物統制システムと、国連エイズ合同プログラムの現場の声としての人権擁護システムがお互いの目的のために矛盾した取組みをしていました。前者は懲罰的アプローチ、後者は公衆衛生アプローチと呼ばれています。

しかし、2001年以降、国連システム内の決議や政治宣言で、人権擁護と健康対策に焦点を当てた公衆衛生アプローチに変化してきました。2016年の世界薬物特別総会(UNGASS2016)の成果文書を踏まえ、2018年には、国連システム事務局長調整委員会(CEB)にて、「効果的な国連機関間の連携を通じた国際薬物統制政策の実施を支援する国連システム共通の立場」を全会一致で支持し、この年に初めて国連全体で、実質的に人権擁護と健康対策に焦点を当てた公衆衛生アプローチが薬物政策の中心となりました。

日本臨床カンナビノイド学会(新垣実理事長)では、「人権及び薬物政策に関する国際ガイドライン」の和訳を2020年4月27日に公表しました。

この「人権及び薬物政策に関する国際ガイドライン」は、2019年3月にイギリスのエセックス大学国際人権・薬物政策センター、、国連開発計画(UNDP)、国連エイズ共同計画(UNAIDS)、世界保健機関(WHO)などの様々な関係者の協力によって制作されました。ガイドラインの「はじめに」は次のように記載されています。
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薬物使用や不法薬物取引に伴う危害への対応は、我々の今日の社会政策上の最大の課題の一つである。この課題のすべての側面は、人権に影響する。

この薬物問題は、2030年の持続可能な開発目標と複数のターゲット(SDGs)のためのアジェンダを横断している。この目標には薬物使用、HIV、その他の伝染性疾患の目標を掲げ、貧困の解消、不平等の削減、健康の改善などが含まれている。「目標16:平和と公正をすべての人々に」は特に重要であり、持続可能な開発目標全体にわたる人権に注意を払う必要がある。1990年代後半以降、国連総会決議は、「世界薬物問題への対応」が「すべての人権及び基本的自由」と「完全に一致して」実施されなければならないことを認めてきた。 これは、薬物統制に関する国連の主要な政治宣言の中で、国連麻薬委員会(CND)によって採択された複数の決議の中で再確認された。しかし、現実は必ずしもこの重要なコミットメントを守ってきたわけではない。

持続可能な薬物統制上の権利に基づく行動は、それから始まるべき共通の基準を必要とする。しかし、薬物の法律、政策、実践の観点から、どのような人権法が国家に求めているかについては、明確性に欠けている。人権及び薬物政策に関する国際ガイドラインは、このギャップに対処するために、3年間の協議を重ねてきた成果である。

ガイドラインは国際薬物条約、すなわち、1961年麻薬に関する単一条約(改正)、1971年向精神薬に関する条約、1988年麻薬及び向精神薬における不正取引の防止に関する国際連合条約に基づく同時義務を考慮しつつ、各国が自国の人権義務を遵守するために、各国が取るべき措置又は控えるべき措置があることを強調している。重要なことに、各国は新たな権利の発生はない。国際薬物条約の解釈と実施を含め、人権保護を最大化するために、薬物統制の法的・政策的文脈に既存の人権法を適用する。

本ガイドラインは、モデル薬物政策の「ツールキット」ではない。むしろ、適用される人権法に従って国家政策を決定するために、国家の多様性とその正当な権威を尊重する。国家は常に、国際法に基づいて規定された人権保護よりも、より有利な人権保護を適用する自由を保持している。したがって、ガイドラインは、国会議員、外交官、裁判官、政策決定者、市民社会団体、又は影響を受けるコミュニティであれ、地方、国、及び国際レベルで人権コンプライアンスを確保するために働く人々のための参考ツールである。
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報告書の内容(目次)

はじめに

I.基本的人権の原則
1.人間の尊厳、2.権利の普遍性及び相互依存性、3.平等及び非差別、4.意味のある参加、5.説明責任及び効果的な救済の権利

II.人権基準から生じる義務
1.到達可能な最高水準の健康を享受する権利、2.科学的進歩及びその応用から利益を得る権利、3.十分な生活水準への権利、4.社会保障を受ける権利、5.生命に対する権利、6.拷問及びその他の残虐な、非人道的な、人間の尊厳を傷つける処遇又は刑罰からの自由、7.恣意的な逮捕及び勾留からの自由、8.公正な裁判を受ける権利、9.プライバシーの権利、10.思想、良心及び宗教の自由、11.文化的生活を享受する権利12.意見・表現・情報の自由、13.結社・平和的集会の自由

III.特定グループの人権に起因する義務
1.小児、2.女性、3.自由を奪われた者、4.先住民族

IV.実施例
1.データ収集、2.人権審査・予算分析、3.国際協力・援助の義務

V.条約解釈の原則
1.人権上の義務の調和と同時遵守、2.権利制限の基準

附属書I:テーマ別参考資料: 開発、刑事司法及び健康
附属書II:方法論

【画像 https://www.dreamnews.jp/?action_Image=1&p=0000214281&id=bodyimage1

本学会は、大麻草およびカンナビノイドに関する専門学会ですが、国際的な薬物政策の影響が大きいテーマであるため、今後もこのような世界情勢についての有益な資料の和訳および紹介に努めていきます。

和文は、こちらのページよりPDFファイルでダウンロードできます。
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=103026

国連システムにおける薬物問題と人権問題の年表(ご参考)

2001年 国連特別総会「HIV/エイズに関するコミットメント宣言」
→薬物使用のハームリダクション(健康被害軽減)の確保について明記。

2008年 薬物と人権に関する国連麻薬委員会決議51/12
→国際薬物統制条約の実施における人権の促進と国連関連機関の協力について明記

2009年 第52会期麻薬委員会ウィーン政治宣言
→「関連支援サービス」の解釈を「ハームリダクション」を意味するとした。

2014年 国連総会決議69/201
→世界薬物問題は、国連憲章に完全に合致し、
すべての人権を完全に尊重して対処しなければならないことを再確認した。

2015年 世界の薬物問題が人権の享受に与える影響に関する研究
国連人権高等弁務官報告書
→健康、刑事司法、差別、児童、先住民などの点から調査し、翌年UNGASS2016へ提供された。

2016年 1998年以来の世界薬物特別総会(UNGASS2016)の成果文書
→従来の需要削減、供給削減、国際協力の3本柱に、健康、開発、人権、新たな脅威の4本柱を加えた。

2017年 12の国連機関による「保健医療の場で差別を解消するための国連機関共同声明」
→ 薬物使用および薬物所持の非犯罪化、懲罰的法律の廃止を求めた。

2018年 国連人権理事会決議37/42「人権に関する世界の薬物問題に効果的な取組み及び対策の ための共同コミットメントの実施への貢献」, 国連システム事務局長調整委員会(CEB)にて「効果的な国連機関間の連携を通じ た国際薬物統制政策の実施を支援する国連システム共通の立場」を全会一致で支持
→ この年に初めて国連全体で、実質的に人権擁護と健康対策に焦点を当てた
公衆衛生アプローチが薬物政策の中心となった。

2019年 第62会期国連麻薬委員会「世界薬物問題に対処する共同コミットメントの実施加速化の ための国内的,地域的,国際的あらゆるレベルでの活動強化にかかる」閣僚宣言, 国連エイズ共同計画(UNAIDS)世界保健機関(WHO)国連開発計画(UNDP)らが「人権及び薬物政策に関する国際ガイドライン」を発表, 国連薬物犯罪事務所(UNODC)が「薬物と持続可能な開発目標(SDGs)の市民社会ガイド」を発表, 国連薬物犯罪事務所(UNODC)と世界保健機関(WHO)が「刑事司法制度に接触する薬物使用障害者の治療とケア」を発表

日本臨床カンナビノイド学会
2015年9月に設立し、学会編著「カンナビノドの科学」(築地書館)を同時に刊行した。同年12月末には、一般社団法人化し、それ以降、毎年、春の学術セミナーと秋の学術集会の年2回の学会を開催している。2016年からは、国際カンナビノイド医療学会; International Association for Cannabinoid Medicines (IACM)の正式な日本支部となっている。2019年7月段階で、正会員(医療従事者、研究者)67名、賛助法人会員12名、 賛助個人会員23名、合計102名を有する。http://cannabis.kenkyuukai.jp/



配信元企業:一般社団法人日本臨床カンナビノイド学会
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