持続可能な開発のための2030アジェンダに対応した薬物政策「ハームリダクション(健康被害の削減)」。日本の法務省も引用した国連薬物犯罪事務所(UNODC)による最新報告書の全和訳を公表
[21/01/18]
提供元:DreamNews
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刑事司法制度と連携した薬物使用障害者の治療及びケア-有罪判決又は刑罰の代替手段
この報告書は、世界保健機関(WHO)及び国連薬物犯罪事務所(UNODC)が2019年10月に発行した“Treatment and care for people with drug use disorders in contact with the criminal justice system; Alternatives to Conviction or Punishment”の仮訳版です。日本臨床カンナビノイド学会(新垣実理事長)は、当学会WEBサイトにて、1月18日付けで公表した。持続可能な開発のための2030アジェンダ「目標3:すべての人に健康と福祉を、目標16:平和と公正をすべての人に」の基準となる基礎資料として利用することができます。
序文(一部抜粋)
国連薬物犯罪事務所(UNODC)と世界保健機関(WHO)は、2016年の第59回国連麻薬委員会(CND)において、「刑事司法制度と連携した薬物使用障害者の治療及びケア:有罪判決又は刑罰の代替手段」というイニシアティブを開始した。このイニシアティブは、有罪判決又は刑罰に代わる手段の知識、理解、範囲、可能性を高めることを目的としている。国際薬物統制条約や人権条約、国連の防犯・刑事司法の基準や規範など、国際薬物統制に沿って、刑事司法制度に関連する薬物使用障害者の治療に転用する選択肢を探求している。
その目的の1つは、刑事司法当事者が、治療がどのように機能するかを理解するのを助け、治療当事者が、刑事司法制度がどのように機能するかを理解するのを助けることである。最も重要なことは、薬物使用障害治療と刑事司法体制を整合させる機会を説明し、読者がその協力に関する複数の可能な視点を理解するのを助けることである。
タイトル:刑事司法制度と連携した薬物使用障害者の治療及びケア-有罪判決又は刑罰の代替手段
内容(目次から抜粋)
第1章 有罪判決又は刑罰の代替手段としての問題の範囲及び治療の提供を検討する理由
有罪判決又は刑罰の代替手段として治療する理由
理論1:薬物使用障害者の多くは、刑事司法制度と接しており、その多くの人々は薬物使用及び薬物使用障害の病歴を有している。
理論2:有罪判決又は刑罰の代替手段として、薬物依存治療を提供することは、効果的な公衆衛生戦略である。
理論3:薬物依存治療を必要とする者に有罪判決又は刑罰の代替手段を適用することは、効果的な刑事司法戦略である。
理論4:有罪判決又は刑罰の代替手段としての治療は、公衆衛生及び公衆安全に統合的に寄与する。
理論5:有罪判決又は刑罰の代替手段としての治療は、国際的な法的枠組みに沿ったものである。
第2章 国際的な法的枠組みに沿った治療及びケアの選択
刑事司法制度と接する薬物使用障害者の治療に関する国際的な法的枠組みに定められた基本原則
原則1:薬物使用障害は、公衆衛生上の問題であり、健康面を中心とした対応が必要である。個人は、薬物使用障害のために罰されるべきではなく、適切な治療を受けるべきである。
原則2:薬物使用障害を持つ犯罪者に対する刑事司法制度の全ての段階で、有罪判決又は刑罰の代替手段が奨励されるべきである。
原則3:プロセスのすべての段階で比例性が要求される。
原則4:治療の変更は、対象者のインフォームド・コンセントを得て行われるべきである。
原則5:有罪判決又は刑罰の実施の代替案の実施は、法的及び手続保障を尊重する必要がある。
原則6:特別な集団が差別されることなく、有罪判決又は刑罰に代わる治療へのアクセスができる。
原則7:薬物使用障害を持つ被収容者は、健康に対する権利を奪われることなく、一般市民と同じレベルの治療を受ける権利がある。
第3章 薬物使用障害のある犯罪者の治療及びケア
薬物使用障害の分類
刑事司法制度と接する薬物使用障害者の健康審査と評価
薬物使用障害の治療
第4章 有罪判決又は刑罰に代わる治療の選択肢
刑事司法制度には幅広い転用の選択肢がある
刑事制裁に代わる行政処分
公判前段階
裁判/判決段階
特別裁判所・訴訟書類
裁判後の段階
第5章 結論
a. 健康パラダイムを採用:薬物使用障害は健康志向の枠組みで治療できる
b. 刑事司法制度を治療のゲートウェイとして利用する:刑事司法制度は薬物関連介入の重要な場面である
c. 薬物使用障害からの回復がプロセスであることを受け入れる:薬物使用障害は再発性の症状である
d. 治療の多様化:薬物使用障害のあるすべての犯罪者が同じ強度の治療を必要とするわけではない
e. 有罪判決又は刑罰の代替は、国際的な法的枠組みに沿ったものである。
f. 転用機会への注力
g. 協力関係を構築する。すなわち、刑事司法制度及び治療サービスは、相互の原則を尊重しつつ、適切な役割の定義を考慮しつつ、協働することができ、また、協働すべきである。
h. 刺激的な環境を提供する
【画像 https://www.dreamnews.jp/?action_Image=1&p=0000229657&id=bodyimage1】
この分野については、日本の法務省法務総合研究所研究部 研究部報告62 2020年3月
薬物事犯者に関する研究において、諸外国における薬物事犯者処遇(第4章):有罪判決や刑罰(司法モデル)ではなく治療等の代替手段によること(医療モデル)を紹介しています。
http://www.moj.go.jp/housouken/housouken03_00025.html
「刑事司法制度と連携した薬物使用障害者の治療及びケア-有罪判決又は刑罰の代替手段」報告書
和訳版のダウンロードはこちら。
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=109437
コメント
本学会は、大麻草およびカンナビノイド医療に関する専門学会ですが、国際的な薬物政策の影響が大きいテーマであるため、今後もこのような世界情勢についての有益な資料の和訳および紹介に努めていきます。
日本臨床カンナビノイド学会
2015年9月に設立し、学会編著「カンナビノドの科学」(築地書館)を同時に刊行した。同年12月末には、一般社団法人化し、それ以降、毎年、春の学術セミナーと秋の学術集会の年2回の学会を開催している。2016年からは、国際カンナビノイド医療学会; International Association for Cannabinoid Medicines (IACM)の正式な日本支部となっている。2020年10月段階で、正会員(医療従事者、研究者)74名、賛助法人会員10名、 賛助個人会員19名、合計103名を有する。http://cannabis.kenkyuukai.jp/
日本の大麻取締法
我が国における大麻は、昭和5年(1930年)に施行された旧麻薬取締規則において、印度大麻草が≪麻薬≫として規制されてきた。第二次世界大戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)により印度大麻草と国内の大麻草は同一だと指摘を受け、一旦は、大麻草の栽培等の全面禁止が命じられた。ところが、当時の漁網や縄などの生活資材に必要不可欠であり、国内の農家を保護するために大麻取締法(1948年7月10日制定、法律第124号)を制定した。医師の取り扱う麻薬は、麻薬取締法(1948年7月10日制定、法律第123号)となり、農家が扱う大麻は、大麻取締法の管轄となった。その後、化学繊維の普及と生活様式の変化により、大麻繊維の需要が激減し、1950年代に3万人いた栽培者が1970年代に1000人まで激減した。欧米のヒッピー文化が流入し、マリファナ事犯が1970年代に1000人を超えると、それらを取り締まるための法律へと性格が変わった。つまり、戦後、70年間で農家保護のための法律から、マリファナ規制のための法律へと変貌した。2018年の時点で、全国作付面積11.2ha、大麻栽培者35名、大麻研究者401名。この法律では、大麻植物の花と葉が規制対象であり、茎(繊維)と種子は、取締の対象外である。栽培には、都道府県知事の免許が必要となるが、マリファナ事犯の増加傾向の中、新規の栽培免許はほとんど交付されていない。また、医療用大麻については、法律制定当初から医師が施用することも、患者が交付を受けることも両方で禁止されたままである。
配信元企業:一般社団法人日本臨床カンナビノイド学会
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この報告書は、世界保健機関(WHO)及び国連薬物犯罪事務所(UNODC)が2019年10月に発行した“Treatment and care for people with drug use disorders in contact with the criminal justice system; Alternatives to Conviction or Punishment”の仮訳版です。日本臨床カンナビノイド学会(新垣実理事長)は、当学会WEBサイトにて、1月18日付けで公表した。持続可能な開発のための2030アジェンダ「目標3:すべての人に健康と福祉を、目標16:平和と公正をすべての人に」の基準となる基礎資料として利用することができます。
序文(一部抜粋)
国連薬物犯罪事務所(UNODC)と世界保健機関(WHO)は、2016年の第59回国連麻薬委員会(CND)において、「刑事司法制度と連携した薬物使用障害者の治療及びケア:有罪判決又は刑罰の代替手段」というイニシアティブを開始した。このイニシアティブは、有罪判決又は刑罰に代わる手段の知識、理解、範囲、可能性を高めることを目的としている。国際薬物統制条約や人権条約、国連の防犯・刑事司法の基準や規範など、国際薬物統制に沿って、刑事司法制度に関連する薬物使用障害者の治療に転用する選択肢を探求している。
その目的の1つは、刑事司法当事者が、治療がどのように機能するかを理解するのを助け、治療当事者が、刑事司法制度がどのように機能するかを理解するのを助けることである。最も重要なことは、薬物使用障害治療と刑事司法体制を整合させる機会を説明し、読者がその協力に関する複数の可能な視点を理解するのを助けることである。
タイトル:刑事司法制度と連携した薬物使用障害者の治療及びケア-有罪判決又は刑罰の代替手段
内容(目次から抜粋)
第1章 有罪判決又は刑罰の代替手段としての問題の範囲及び治療の提供を検討する理由
有罪判決又は刑罰の代替手段として治療する理由
理論1:薬物使用障害者の多くは、刑事司法制度と接しており、その多くの人々は薬物使用及び薬物使用障害の病歴を有している。
理論2:有罪判決又は刑罰の代替手段として、薬物依存治療を提供することは、効果的な公衆衛生戦略である。
理論3:薬物依存治療を必要とする者に有罪判決又は刑罰の代替手段を適用することは、効果的な刑事司法戦略である。
理論4:有罪判決又は刑罰の代替手段としての治療は、公衆衛生及び公衆安全に統合的に寄与する。
理論5:有罪判決又は刑罰の代替手段としての治療は、国際的な法的枠組みに沿ったものである。
第2章 国際的な法的枠組みに沿った治療及びケアの選択
刑事司法制度と接する薬物使用障害者の治療に関する国際的な法的枠組みに定められた基本原則
原則1:薬物使用障害は、公衆衛生上の問題であり、健康面を中心とした対応が必要である。個人は、薬物使用障害のために罰されるべきではなく、適切な治療を受けるべきである。
原則2:薬物使用障害を持つ犯罪者に対する刑事司法制度の全ての段階で、有罪判決又は刑罰の代替手段が奨励されるべきである。
原則3:プロセスのすべての段階で比例性が要求される。
原則4:治療の変更は、対象者のインフォームド・コンセントを得て行われるべきである。
原則5:有罪判決又は刑罰の実施の代替案の実施は、法的及び手続保障を尊重する必要がある。
原則6:特別な集団が差別されることなく、有罪判決又は刑罰に代わる治療へのアクセスができる。
原則7:薬物使用障害を持つ被収容者は、健康に対する権利を奪われることなく、一般市民と同じレベルの治療を受ける権利がある。
第3章 薬物使用障害のある犯罪者の治療及びケア
薬物使用障害の分類
刑事司法制度と接する薬物使用障害者の健康審査と評価
薬物使用障害の治療
第4章 有罪判決又は刑罰に代わる治療の選択肢
刑事司法制度には幅広い転用の選択肢がある
刑事制裁に代わる行政処分
公判前段階
裁判/判決段階
特別裁判所・訴訟書類
裁判後の段階
第5章 結論
a. 健康パラダイムを採用:薬物使用障害は健康志向の枠組みで治療できる
b. 刑事司法制度を治療のゲートウェイとして利用する:刑事司法制度は薬物関連介入の重要な場面である
c. 薬物使用障害からの回復がプロセスであることを受け入れる:薬物使用障害は再発性の症状である
d. 治療の多様化:薬物使用障害のあるすべての犯罪者が同じ強度の治療を必要とするわけではない
e. 有罪判決又は刑罰の代替は、国際的な法的枠組みに沿ったものである。
f. 転用機会への注力
g. 協力関係を構築する。すなわち、刑事司法制度及び治療サービスは、相互の原則を尊重しつつ、適切な役割の定義を考慮しつつ、協働することができ、また、協働すべきである。
h. 刺激的な環境を提供する
【画像 https://www.dreamnews.jp/?action_Image=1&p=0000229657&id=bodyimage1】
この分野については、日本の法務省法務総合研究所研究部 研究部報告62 2020年3月
薬物事犯者に関する研究において、諸外国における薬物事犯者処遇(第4章):有罪判決や刑罰(司法モデル)ではなく治療等の代替手段によること(医療モデル)を紹介しています。
http://www.moj.go.jp/housouken/housouken03_00025.html
「刑事司法制度と連携した薬物使用障害者の治療及びケア-有罪判決又は刑罰の代替手段」報告書
和訳版のダウンロードはこちら。
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=109437
コメント
本学会は、大麻草およびカンナビノイド医療に関する専門学会ですが、国際的な薬物政策の影響が大きいテーマであるため、今後もこのような世界情勢についての有益な資料の和訳および紹介に努めていきます。
日本臨床カンナビノイド学会
2015年9月に設立し、学会編著「カンナビノドの科学」(築地書館)を同時に刊行した。同年12月末には、一般社団法人化し、それ以降、毎年、春の学術セミナーと秋の学術集会の年2回の学会を開催している。2016年からは、国際カンナビノイド医療学会; International Association for Cannabinoid Medicines (IACM)の正式な日本支部となっている。2020年10月段階で、正会員(医療従事者、研究者)74名、賛助法人会員10名、 賛助個人会員19名、合計103名を有する。http://cannabis.kenkyuukai.jp/
日本の大麻取締法
我が国における大麻は、昭和5年(1930年)に施行された旧麻薬取締規則において、印度大麻草が≪麻薬≫として規制されてきた。第二次世界大戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)により印度大麻草と国内の大麻草は同一だと指摘を受け、一旦は、大麻草の栽培等の全面禁止が命じられた。ところが、当時の漁網や縄などの生活資材に必要不可欠であり、国内の農家を保護するために大麻取締法(1948年7月10日制定、法律第124号)を制定した。医師の取り扱う麻薬は、麻薬取締法(1948年7月10日制定、法律第123号)となり、農家が扱う大麻は、大麻取締法の管轄となった。その後、化学繊維の普及と生活様式の変化により、大麻繊維の需要が激減し、1950年代に3万人いた栽培者が1970年代に1000人まで激減した。欧米のヒッピー文化が流入し、マリファナ事犯が1970年代に1000人を超えると、それらを取り締まるための法律へと性格が変わった。つまり、戦後、70年間で農家保護のための法律から、マリファナ規制のための法律へと変貌した。2018年の時点で、全国作付面積11.2ha、大麻栽培者35名、大麻研究者401名。この法律では、大麻植物の花と葉が規制対象であり、茎(繊維)と種子は、取締の対象外である。栽培には、都道府県知事の免許が必要となるが、マリファナ事犯の増加傾向の中、新規の栽培免許はほとんど交付されていない。また、医療用大麻については、法律制定当初から医師が施用することも、患者が交付を受けることも両方で禁止されたままである。
配信元企業:一般社団法人日本臨床カンナビノイド学会
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