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カナダ政府が調査委託した「リスク低減のための大麻使用ガイドライン(LRCUG)」最新版の和訳を公表

日本臨床カンナビノイド学会(事務局:東京都品川区)は、「リスク低減のための大麻使用ガイドライン(LRCUG)」最新版の仮訳を本日WEBサイトに公表しました。

2018年10月に嗜好用大麻を合法化したカナダでは、エビデンス(科学的根拠)に基づいたガイドラインを「リスク低減のための大麻使用ガイドライン(LRCUG)」としてまとめています。このダイジェスト版であるカナダ保健省のQ&Aの仮訳は、本学会ですでに公表しています(※1)。

「リスク低減のための大麻使用ガイドライン(LRCUG)」は、健康行動変容の概念と、公衆衛生の他の分野(例えば、低リスク飲酒ガイドライン、性の健康ガイドラン、栄養ガイドラン)で実施されているものと同様の位置づけです。

今回は、科学的根拠となった2011年及び2017年のLRCUG論文が、最新のエビデンスを評価して2021年8月にアップデートしたので、その仮訳を行いました。「リスク低減のための大麻使用ガイドライン(LRCUG)」は、12個の推奨事項と3つの注意事項から構成されています(※2)。

●論文の概要

背景 大麻の使用は、特に若年層において一般的であり、様々な健康被害のリスクと関連している。最近では、公衆衛生上の目的から合法規制に移行している地域もある。大麻に関連する健康被害の修正可能なリスク因子を低減するために、エビデンスに基づく「リスク低減のための大麻使用ガイドライン」(Lower Risk Cannabis Use Guidelines:LRCUG)と推奨事項が以前に作成されたが、その後、関連するエビデンスが大きく進展した。我々は、新しい科学的根拠を検討し、このエビデンスに基づいて、推奨事項を含む包括的な最新のLRCUGを作成することを目的とした。

方法 使用者個人が修正可能な大麻関連の健康被害の主なリスク因子に関する文献(2016年以降)を対象に検索した。話題性のある分野は、LRCUGの過去のコンテンツから情報を得て、現在のエビデンスに基づいて展開した。検索では、システマティックレビューを優先し、主要な個別研究を補足した。レビュー結果は、エビデンスに基づいて評価され、トピックごとに整理され、叙述的に要約された。推奨事項は、科学的な専門家の合意を得るための反復的なプロセスを通じて作成された。

結果 大麻使用に関連する健康被害の修正可能なリスク因子が、様々なエビデンスの質で特定された。12の実質的な推奨事項と3つの予防的な声明が作成された。一般的に、現在のエビデンスでは、大麻の使用開始を青年期以降に遅らせ、高濃度(THC)の大麻製品の使用や高頻度の使用を避け、喫煙経路での摂取を控えれば、有害な健康被害のリスクを大幅に低減できることが示唆されている。若者は大麻に関連した害に対して特に脆弱であるが、他のサブグループ(例えば、妊娠中の女性、運転者、高齢者、合併症を持つ人)は、使用に関連したリスクに特に注意を払うことが推奨される。合法規制された大麻製品を可能な限り使用すべきである。

結論 大麻の使用は、主にリスクの高い使用をしているサブグループにおいて、健康に悪影響を及ぼす可能性がある。特定されたリスク因子を減らすことは、使用による健康被害を減らすのに役立つ。LRCUGは、大麻使用に関する包括的な公衆衛生アプローチの中で、ターゲットを絞った介入要素を提供するものである。LRCUGは、効果的な対象者の調整と普及、新しいエビデンスの入手に伴う定期的な更新が必要であり、その影響を評価する必要がある。

●カナダのリスク低減のための大麻使用ガイドライン(LRCUG)

一般的な注意事項A:
大麻使用者(PWUC)は、大麻の使用の普遍的に安全なレベルがないことを知る必要があります。

推奨事項1:大麻使用の開始は、害に対する発達関連の脆弱性を減らすために、青年期後期または青年期完了後まで遅らせるべきです。
注:青年期(11〜20歳)、初期(11〜14歳)、中期(14〜17歳)、後期(17〜20歳)

推奨事項2:大麻使用者(PWUC)は「低濃度」の大麻製品、つまり、理想的には総THC含有量が低い、または高CBD/THC比率の大麻製品を使用すべきです(注3)。

推奨事項3:すべての主要な利用可能な摂取経路は、害のリスクを伴います。

推奨事項4:吸入による使用の場合、大麻使用者(PWUC)は、「深い吸気」、長時間の息止め、または同様の吸気方法を避けるべきです。

推奨事項5:大麻使用者(PWUC)は、頻繁(例えば、毎日またはほぼ毎日)または集中的な(例えば、酒類ような一気飲み)大麻の使用を控え、代わりに時々使用、またはたまに使用に自分自身を制限する必要があります。

推奨事項6:状況が許す限り、大麻使用者(PWUC)は、品質管理された合法的な大麻製品や使用器具を使用してください。

推奨事項7: 認知機能の低下を経験した大麻使用者(PWUC)は、大麻の使用を一時的に中止するか、強度(例:頻度や濃度)を大幅に減らすことを検討すべきです。

推奨事項8:大麻使用者(PWUC)は、急性障害と傷害や死亡を含む事故関与のリスクが高いため、大麻の影響下にある間、自動車や機械を運転しないようにする必要があります。

推奨事項9: 妊娠中や授乳中の女性が大麻を使用しないようにすることで、生殖や子孫への健康被害のリスクを軽減することができます

推奨事項10:大麻使用者(PWUC)は、他の精神活性物質と大麻を併用する際に一般的な注意をすべきです。

推奨事項11:特定グループの人々は、生物学的素因や併存疾患のために、大麻使用に関連する健康問題のリスクが高い。これらの人々は、必要に応じて(場合によっては医師の助言を得て)大麻の使用を避けるか、調整する必要があります。

推奨事項12:大麻使用による健康への悪影響のリスク因子の組み合わせは、深刻な害を経験する可能性をさらに高めるため、回避すべきです。

一般的な注意事項B:頻繁な大麻の使用、特に長期にわたる集中的な使用は、「大麻使用障害」(CUD)または大麻依存につながる可能性があり、治療が必要になる場合があります。

一般的な注意事項C:大麻使用者(PWUC)は他者に害を及ぼす可能性のある大麻使用を避けるために、社会的配慮と責任を果たすべきです。

※1 カナダのリスク低減のための大麻使用ガイドライン及びよくある質問(FAQ)の和訳を公表
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=99627

※2 Lower-Risk Cannabis Use Guidelines (LRCUG) for reducing health harms from non-medical cannabis use: A comprehensive evidence and recommendations update(2021)
https://doi.org/10.1016/j.drugpo.2021.103381

注3 THCの低濃度と高濃度の定義
この論文では、事例として低用量10mg、高用量25〜50mg、低濃度10〜15%、高濃度20%または70〜90%含有のものを意味している。低用量は、カナダの合法化している嗜好用大麻のカテゴリーである食用大麻(エディブル)基準などの上限値に相当しています。

エディブル(食用大麻):1包装当り10mg
大麻抽出物(経口):1単位(カプセル等)当りTHC10mg、1包装ごとにTHC1000mgまで
大麻抽出物(吸入):1包装ごとにTHC10mgまで
大麻外用剤(皮膚等):1包装ごとにTHC1000mgまで
注:10mg=0.01g 1000mg=1.0g

本学会は、大麻草およびカンナビノイドに関する専門学会ですが、国際的な薬物政策の影響が大きいテーマであるため、今後もこのような世界情勢についての有益な資料の和訳および紹介に努めていきます。なお、本学会が提供するすべての翻訳情報の内容は、学会としての意見表明ではありません。

【画像 https://www.dreamnews.jp/?action_Image=1&p=0000250860&id=bodyimage1

図1 依存性薬物の政策的な着地点

詳しいガイドラインは、下記WEBサイトからダウンロードできます。http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=121280


<用語解説>

Δ9-THC:
デルタ9−テトラヒドロカンナビノール。THCとも表記される。144種類ある大麻草の独自成分カンナビノイドのうち、最も向精神作用のある成分。いわゆるマリファナの主成分として知られている。痛みの緩和、吐き気の抑制、けいれん抑制、食欲増進、アルツハイマー病への薬効があることが知られている。

CBD:
カンナビジオール。144種類ある大麻草の独自成分カンナビノイドのうち、向精神作用のない成分で、てんかんの他に、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、神経性疼痛、統合失調症、社会不安、抑うつ、抗がん、吐き気抑制、炎症性疾患、関節リウマチ、感染症、クローン病、心血管疾患、糖尿病合併症などの治療効果を有する可能性があると報告されている。2018年6月に行われたWHO/ECDD(依存性薬物専門家委員会)の批判的審査では、純粋なCBDは国際薬物規制の対象外であると勧告された。

ヘンプ(産業用大麻)
大麻草に含まれ、向精神作用のあるTHC濃度が1%未満の品種を栽培し、そこから衣類、食品、化粧品、建材、製紙、飼料、敷料、自動車用品などの産業用途に使用すること。嗜好用や医療用の大麻と区別するために、ヘンプ(Hemp)と呼ばれている。

日本臨床カンナビノイド学会
2015年9月に設立し、学会編著「カンナビノドの科学」(築地書館)を同時に刊行した。同年12月末には、一般社団法人化し、それ以降、毎年、春の学術セミナーと秋の学術集会の年2回の学会を開催している。2016年からは、国際カンナビノイド医療学会; International Association for Cannabinoid Medicines (IACM)の正式な日本支部となっている。2021年4月段階で、正会員(医療従事者、研究者)101名、賛助法人会員14名、 賛助個人会員27名、合計142名を有する。http://cannabis.kenkyuukai.jp/

日本の大麻取締法
我が国における大麻は、昭和5年(1930年)に施行された旧麻薬取締規則において、印度大麻草が≪麻薬≫として規制されてきた。第二次世界大戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)により印度大麻草と国内の大麻草は同一だと指摘を受け、一旦は、大麻草の栽培等の全面禁止が命じられた。ところが、当時の漁網や縄などの生活資材に必要不可欠であり、国内の農家を保護するために大麻取締法(1948年7月10日制定、法律第124号)を制定した。医師の取り扱う麻薬は、麻薬取締法(1948年7月10日制定、法律第123号)となり、農家が扱う大麻は、大麻取締法の管轄となった。その後、化学繊維の普及と生活様式の変化により、大麻繊維の需要が激減し、1950年代に3万人いた栽培者が1970年代に1000人まで激減した。欧米のヒッピー文化が流入し、マリファナ事犯が1970年代に1000人を超えると、それらを取り締まるための法律へと性格が変わった。つまり、戦後、70年間で農家保護のための法律から、マリファナ規制のための法律へと変貌した。2018年の時点で、全国作付面積11.2ha、大麻栽培者35名、大麻研究者401名。この法律では、大麻植物の花と葉が規制対象であり、茎(繊維)と種子は、取締の対象外である。栽培には、都道府県知事の免許が必要となるが、マリファナ事犯の増加傾向の中、新規の栽培免許はほとんど交付されていない。また、医療用大麻については、法律制定当初から医師が施用することも、患者が交付を受けることも両方で禁止されたままである。



配信元企業:一般社団法人日本臨床カンナビノイド学会
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